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今日は高校の入学式。
昨日は遅くまで【輪入道】と【片輪車】の封印を手伝っていたから、寝不足です。
「理子大丈夫?昨日はよく眠れなかったの?」
お母さんが心配そうに声を掛けてくる。
もちろん昨日の事は内緒だから、言えない。
「大丈夫よ。ちょっと緊張して、よく眠れなかっただけだから。
ほら、高校だと地元の子だけじゃないでしょ?」
「そうねー、町の外からもいろんな人が来るし。
大丈夫よ!理子はコミュニケーション能力バッチリだから!」
「そうかな?ありがとう。お母さんのおかげで緊張がほぐれたよ。」
さて…さっそくクラス分け表を見に行って来よう。
「て…ウソ!なんで薫ちゃんと坂野君が同じクラスなの?話しが違うじゃない!」
「あら?薫ちゃんと同じクラスになりたかったんじゃなかったの?」
「う…うん。(タヌキなんか信じるんじゃなかった…… ) 」
「何か言った?」
「べ…別に… 1-5かぁ。じゃあ私、教室に行くね。」
「お母さん達は講堂に行ってるから、後でね。」
お母さん達を見送った後、私は教室に向かいながら昨日の豆狸達との契約を思い出していた。
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「今後も同じ様な事が増える可能性がある。
坊と一緒に【あやかし退治】の助手のアルバイトをせんか?」
と言うもの。《あやかし退治》の助手かぁ……
「もちろん無料とは言わん。ワシらの神通力で加護を授けてやろう。」
「加護ってどんな?」
「そうじゃのぅ。怪我をしても軽く済む。相手の力がワシらより弱ければ、呪いがかからない。」
「それだけ?」
「それだけではないぞ!運が良くなるんじゃ!クジを引けば狙った物はだいたい当たる。流石に大金やあまり高い物は無理じゃが、現金換算で10万円以下なら確率10割じゃ!」
「坊はこの前《図書カード》を大量に手に入れておったぞ。それで『大学で使う本』を買うとった。」
なるほど…その浮いたお金でこの前【フルムーンパレス】のコーヒー奢ってくれたのね。
「もちろん運が良くなるだけじゃから、コンクールなんかの実力勝負の物は無理じゃぞ。」
「そこまで期待してないし、そんな事したら応募してる人に失礼じゃない。
どうせ手伝わないといけない雰囲気だし、良いわよ。」
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と言う約束で【あやかし退治】の助手のアルバイトをする事になったのに……
なんであの2人と同じクラスなのよ!?
帰ったら文句を言ってやるんだから!
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか教室の近くまで来ていた。
それにしても、4階まで上がるのは辛い……
「あっ!山根さん!!良かった。あなたが一緒で!
このクラス、松中の出身者少なくて…… 」
教室の前でいきなり声を掛けて来た、この人こそ噂の寛現寺の薫ちゃん事、勝屋薫。
小柄で肩までで切り揃えた髪に、大きな瞳。
見た目だけなら、近辺で1番の美少女と言われている。
実際は厨二病のオタク少女。
悪い子では無いけど、彼女と付き会おうという男子は地元にはいない。
『松中』というのは、私達が卒業した《松画中学校》の略称。
「それでね…坂野君も参加してくれる事になったの!山根さんも良いわよね?」
しまった……
考え事をしてて、全然話しを聞いて無かった!
「それで、山根さんどうする?」
『参加』って何に『参加』なのかしら?
たぶん、クラスの松中出身者の集まりかなんかよね?
とりあえず『参加』で良いかな。
「良いけど…… 」
私が返事をすると、薫ちゃんは凄く嬉しそうにこう言った。
「ありがとう!コレで3人目。同好会メンバーが集まったから申請出来るわ!」
「えっ!?同好会って?」
「やだ!ちゃんと聞いて無かったの?
【オカルト研究同好会】に決まってるじゃない!入学式終わったらさっそく申請書を提出しなきゃ!」
そう言って、薫ちゃんは嬉しそうに走って行った。
ええっ!?聞いて無いわよ!!
「よう、山根。どうやらお前も巻き込まれたみたいだな?」
突然後ろから、坊主頭の知らない子に声を掛けられた。向こうは私を知ってるみたいだけど……
「えっと…どちら様?」
「俺だよ、俺!坂野だよ!!」
「ええっ!?あんた、あの金髪どうしたの?」
坂野君はこの町じゃ顔が知られてて、『店じゃ染めてくれないから!』と春休み中…態々県外に行ってまで染めて来たのに、それを坊主にして来るなんて!?
「この前兄貴達のグループが事故ったろ?それで兄貴も大怪我して入院してたんだ。それなのに『仲間の仇を討つ!』とか言って昨日病院抜け出して、誰かのバイク借りて例の【謎の暴走族】と対決したんだ。」
うん…知ってる。
「それでさぁ…なんかソイツら凄え怖いお化けだったらしくてさ。
すっかりビビッちまって、『もう猛火漢は、解散する!』って言って頭から布団被って震えてるんだ。そんなの見てたら、真面目に勉強した方がいいと思ってさぁ。朝早くに佐々木のおばちゃんとこ行って坊主にしてもらったんだ。」
因みに《佐々木のおばちゃん》とは、近くで美容室をしていた元美容師さんで、今でも頼まれれば格安でカットくらいならやってくれる人です。
「それで、どうして坂野君まで同好会メンバーになってるの?」
「ああ、今朝なんとなく勝屋に兄貴が言ってたお化けの事を聞いたら、いつの間にかそういう話しになってて…… 」
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「と言う訳で【オカルト研究同好会】に入る事になっちゃったんだけど、どういう事か説明してくれる?」
「そがぁな大声出さんでくれ……
二日酔いで頭が痛いんじゃ。」
うっ……そう言えば満月、酒臭い。
「豆狸が二日酔いって?」
「昨日、お嬢が帰った後、坊に約束通り『美味い#物』を貰ったんじゃ。檀家から貰うた越後の《ぶらんでーけーき》いうのを……
ええ匂いもするし、殆ど徳とワシで喰うたんじゃ。
そしたら、今朝んなって二日酔いで気持ち悪うてどうしようもなぃんじゃ。」
それはちょっと可哀想かも……
クラスの話は後日にでもしよう。
「そうなんだ。お大事に……
後で二日酔いに効くっていうシジミ汁持って来てあげるわ。インスタントのだけど…… 」
「すまんのぅ…… 」
そう言って、満月タヌキは巣穴に戻って行った。
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後日……
「一緒のクラスに成りなくなかった寛現寺の娘と坂野の坊主の弟がいる?」
「そうよ!運が良くなるんじゃなかったの?」
「そりぁ加護とは関係無いのぅ。お嬢とワシらが加護の契約をしたんは、入学式の前の夜じゃから契約時間外じゃな。」
「くっ!確かに……でも【オカルト研究同好会】の方は!?」
そう私が尋ねると、満月タヌキは呆れた声で答えた。
「そりぁお嬢が人の話をうんてらがんで聞いとるからじゃろ。
じゃあワシ…コレからバイトじゃけえ、お嬢は頑張って学校にいってきんさい。」
そう言って満月タヌキは、人間の満月に化けて店の中に入って行った。
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♪♪砂月ちゃんの広島弁ミニ講座!♪♪
※1
【うんてらがん】
共通語に訳すと《いいかげん》《適当》という意味です。
第1章完結です。




