Act 4
カームシティはゴールドラッシュによってできた都市だと聞いた。いつの時代でも、黄金は人を惹きつける。欲に目のくらんだ人間たちが集まり、人間が集まればそれにぶら下がる産業が生まれる。しかし金鉱脈が掘り尽くされると、あっという間に寂れていく。あとにはスラムが残るのみ。そのスラムも早晩姿を消すだろう。
こんなところに魔法術師が潜伏しているとはな──。
クルマの外で、アルンの入っていった集合住宅を見上げつつ、ゲイスンは成果を待っている。同じLSHロボットでも、アルンよりも少し体格がいい。やや過酷な現場用の軍用LSHロボットだった。
その眼前にそびえる無秩序を絵に描いたような集合住宅は、今にも崩壊しそうで頼りない。こんなスラムに自分たちの夢をかなえてくれる魔法術師が住んでいるとは信じがたいが、人の目を避けるように生きる魔法術師は意外な場所に居を構えていたから、可能性はあるのかもな、と思う。
廃材をかきあつめたて取り付けたとおぼしき錆びた外壁に覆われた、何階建てなのかも判然としないそれを見上げ、果たして今回はどうなのか──また大はずれなのか、それとも今度こそ当たりなのか、とアルンの返事に期待していると──。
「ゲイスン、ワシェンゴ。こちらアルン」
ダイレクト通信で通話が入った。公共回線を経由しない、LSHロボット同士の直接通信は、人間でいうところの「大声の届く範囲」よりやや広い領域で通じた。
「おう、首尾はどうだった?」
「マネーカードを確認してくれ」
思っていたのとは違う返事がきた。
車内の運転席シートに収まりじっと彫像のように動かなかったもう一体のLSHロボット──ワシェンゴが、脇においたポーチを取り上げると、なかを開けて確認する。ゲイスンよりも武骨なフォルムの屋外作業用LSHロボットは、ポーチから顔をあげて、
「マネーカードがなくなっているぞ」
「なんだと!」
ゲイスンは車内を振り向く。
「ワシェンゴ、本当になくなってるのか? アルン、いったいどういうわけなんだ?」
なにしろ三百万MQRもの大金だ。それを手に入れるためにどれだけ苦労したかを思い返せば、気安く構えてはいられない。
「魔法術師の仕業だ。やつに盗られた」
「ばかな。いくら魔法術でも、どこにあるかわからんものを盗み出すなんて無理だろう。まさか、おまえさんがマネーカードをだれがどこに隠し持ってるか話すわけもないだろうし」
「盗られたなら、取り戻すまでだ」
狼狽えるゲイスンに対して、ワシェンゴは冷静に言うと、ステアリングの裏側のスイッチを押し込んだ。
突然、コンパクトカーの車体が起き上がる。
「いきなり変形させるなよ」
不意をつかれて文句を言うゲイスンが数歩離れて見守るうちに、クルマは人型へと変貌する。身長三メートル半ほどのロボットができあがった。
そのなかにはワシェンゴが乗っており、コンパクトカーロボを操作する。それはロボットがロボットを操縦するとういうより、電子脳がカーロボットに接続されたことでワシェンゴの身体が拡大した、といったイメージであった。
巨体の拡張マシンは、装甲を施し戦闘力を備えた威圧的なフォルムで立ち上がる。
「魔法術師はどこだ」
目に相当するライトが鋭く光る。
そこへアルンが現れた。しかし建物から出てきたのは一人ではなかった。アルンの傍らに、小柄な汎用LSHロボットがいた。