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7.修行初日

翌日、ティアは動き易いパンツスタイルで庭に姿を見せた。


「おはよう、ティア」


昨日魔王から命じられた素振り1000回を丁度終えた俺はティアに声をかけた。


「おはよう…ございます」


挨拶を返そうとこちらを向いたティアがまた固まり顔を赤く染めた。

何なんだ?今日はまだ何もしていないが…。

ティアが固まる理由が分からず首を傾げる。


「…あの…」


真っ赤なり俯きながら俺に向かって指差した。

だから何なんだ?と、ティアが指差す方…俺の上半身に視線を移し考える事数秒。

俺は上半身裸で素振りをしていたのだった。


「ふふっ。早速ボコボコにされたいのかな?」


気配無くティアの後ろから姿を現した師匠。

黒いオーラを纏いながらニコニコ笑う魔王がそこに居る。


「不可抗力だっ!!ティアすまん、失念していた」


急いで上着を取り着用する。男所帯が長く細かい事をすっかり失念していた。とはいえ素振りは汗をかくからな…。今後はティアが居ないところでしようと固く心に誓う。


「いえ、こちらこそ気を遣わせてしまい申し訳ございません」


ペコリとティアは頭を下げたが、耳はまだ赤い。

貴族令嬢には刺激が強すぎたよなぁと、俺は頭上に広がる青空を見上げて溜息をついた。


「さてローラン。今日からティアの修行が始まります。貴方の協力が不可欠ですのでよろしくお願いしますね」


師匠の言葉に俺は頷いた。師匠も満足気に頷くと、ティアに向かって「魔法でローランと戦いなさい」と、とんでもない事を言った。


「師匠、俺ほとんど魔法使えないですけど」

「ローラン!魔法を使えるのですか⁈」


ティアはクルドヴルム人の俺が魔法を使える事に驚いたようだ。目を丸くしている。

…可愛いな…っと、そんな場合じゃない。


確かに俺も驚いた。クルドヴルムに魔法使いはうまれない筈なのに、師匠は俺にも使えると言った。

『この世界の魔力に違いはありません。適性はあるでしょうが、ローランは魔法も扱えますよ』

と、当たり前のように言った師匠を最初は信じていなかった。


「師匠に師事してから覚えたんだ。低位魔法だから使えるとも言えないが」

「それでも凄いです!」


うん。ティアに褒めて貰えるのは嬉しいけど、今『戦え』って言われてるからな、俺達。


「ティアは使える魔法全て使いローランに挑みなさい。ローランは魔法のみ許可します。ああ、剣で捌くくらいは許してあげますよ」


昨日の逆恨みか?

ティアの実力は知らないが、貴族なら最低でも中位魔法くらい使えるだろ。妹弟子に、よりにもよってティアの修行初日に負けるのかよ。

師匠を見るがあれはもう何を言っても無駄だ、と俺は溜息をついた。


「あ〜…ティア。そんな訳だから始めようか」


ティアは緊張した顔で頷くと、俺達は一定の距離をとって向かいあう。

先に両手を俺に向けて詠唱を始めたのはティアだった。


「風よ。我が望みに応え我が力となれ」


両手から魔法陣が出現する。ヤバい!と俺は唯一使える土魔法を詠唱した。


「我が紡ぐは風の牙『切断魔法(ヴォンカッター)』!!!」

「土よ!壁となれ!!」


ティアの放った『切断魔法(ヴォンカッター)』は、俺の土魔法小さな壁(ペティットウォール)に阻まれ、俺の元には届かなかった。


「…嘘…」


俺に向けられた両手はだらりと垂れ下がり、ティアは愕然とした顔をしている。


「ティア?」

「なぜ…土魔法の詠唱はそんなに短くない。それに術名を詠唱しないで魔法を発動するなんて…」


信じられないものを見たかのようにティアは呟いた。

何故驚くのか、いつも無詠唱で魔法を発動する師匠を見ているから俺には理解出来なかった。


「そこまで!」


パァン!!と両手を打ち鳴らす音がし、俺とティアは音がした方…師匠に向き直った。

まだお互い一発目でだぞ、早すぎないか⁈

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、師匠はティアに向けて静かな声で語り始めた。


「ティア。本来魔法に詠唱は必要ありません。魔法に必要なのはイメージする事です」


ティアはまた驚愕した様子だったが、俺も驚いた。

師匠が見本を見せてくれた後、同じものが発動出来るようイメージした上で、具現化する手段として適当な言葉に当てはめただけだ。「出でよ、壁」でも発動出来る自信はある。


「ローランの詠唱が短いのは、ローランが()()()()()()()()()()()()()からです」


魔法ついては学んだが、使う事が出来ないと思っていたから、詠唱文まで学んでいない。


ガクリと膝から崩れ落ちたティアに俺は慌てて駆け寄った。

今まで学んできた事を根底から覆されたティアは、自分を抱きしめるようにして震えている。

師匠はゆっくりとティアに歩みよると、ティアの前で自らも膝をつき、ティアの肩に手をおいた。


「詠唱はね、ティア。セウェルスが持つ選民意識の末にうまれた負の遺産です。ですが今はもうそれが常識となってしまった。私の言う『イメージ』の意味を伝えたところでセウェルスの民には難しい事かも知れません」


そう言って、師匠は哀しげに目を伏せた。


「今迄の常識は捨てなさい。それが出来ないと貴女の『手段』は手に入りませんよ」



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