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5.兄弟子ローランの希望

「殿下が王族だとは気付いていたのですが、私から口に出すのは憚られまして…」


カップに残る紅茶を飲み干してようやく落ち着きを取り戻したティアはカップを手に持ったまま言った。


「ローランだ、ティア。ここでは殿下と呼ばないでくれ」

「失礼いたしました、ローラン」

「言わなかったのは俺だから謝る必要もない。かえって気を遣わせてしまって済まなかった」


そう言って俺は頭を下げる。


「ティアも全て明かせとは言わないが、色々隠しきれてないから無理するな」


ティアは驚いたのだろう、カップを持ったまま固まっていた。


「ティアは貴族だろう。平民を装う必要はない」

「え⁈」

「あとさ、平民を装う必要はないが、貴族として在る(ある)必要もない」


表情に大きな変化は無いが、ティアのカップを持つ手が僅かに震えている。


「楽しい時は大声で笑いたいだろうし、悲しい時も大声出して泣きたくないか?…常に品位を保ち優雅にあるべき…は、間違っては無いが、ここに居る間だけでも全て忘れてもいいんじゃないか?」


ティアの細い指から力が抜けてカップが離れる。

カップはティアのスカートがクッションとなり、今はティアの膝の上にあるが、その事にも気付かないようだった。


「優雅なティアも綺麗だけど、さっき召喚を見た時のキラキラした瞳とか、いちいち赤くなるティアを、もっと俺は見たいよ」


ティアの目が大きく見開かれ栗毛色の瞳が揺れた。


「構わないのですか?」

「勿論だ!最初は難しいかもな。沢山のティアが見たいのは本当だが、無理はしなくていい。」


俺はニッと歯を見せて笑う。

クルドヴルムは比較的緩いが、セウェルスは礼儀作法が厳格だと聞いている。貴族令嬢の笑いは囀る小鳥の様に、涙は声をあげず静かに…正直俺には無理だと思う。

正直貴族令嬢は苦手だが、日々努力している様は尊敬に値する。


「ふふっ、ありがとうローラン」


ティアは肩から力を抜くと、困ったように眉を下げてからふにゃりと笑う。

ティアの気の抜けた笑顔を見て、俺は心が温かくなるのを感じた。

ティアに駆け寄り抱きしめて頭を撫でてやりたい。そう思ったが、師匠に見られている今は自殺行為だ。

俺は師匠に顔を向けながら視線だけをティアに送る。


「師匠の修行は厳しいから我慢し過ぎると死ぬぞ」


師匠は心外だったのか盛大に眉を顰めたが、俺は気にせずティアに向かい笑顔をみせた。

ティアは驚いた顔をして師匠を見る。


死ぬのは嘘だが、死にそうになるのは本当だ。

無理といっても女神のような悪魔の微笑みを浮かべて終わらせてはくれない。

素直に無理と言ってもそうだから、我慢なんてしたらヤバい。



「…失礼な。ああ、そろそろティアの部屋も仕上がりそうですね」


眉をを顰めたまま師匠が高い天井を見上げた。


「まだ1時間も経っていないのにですか?」

「今回呼び出されたブラウニーの数が多かったからな。その分だけ早く終わったんだろう」


ブラウニー…とティアは考えこむように握り拳を口元にあて呟く。


「クルドヴルムでは家事全般を任せる精霊として重宝されているんだ。模様替えや大工仕事もこなしてくれる。俺は使役していないから呼び出すには都度契約が必要だが、使役すれば名を呼ぶだけで召喚できるんだ。国民の多くはブラウニーを使役して日常生活の助けとしてる」


ティアは俺の説明を頷きながら聞いてから、少し考える様子をみせたあと、ポケットの中から小さな青い石を取り出した。

青い石には魔力が込められているのか、薄く光を発している。


「セウェルスでいう魔石のようなものでしょうか。生き物ではありませんが、それぞれの作業に応じた魔法を込めて発動する事の出来る…」

「それに近いかもな。師匠の家も所々魔石が使われているから、便利なのは身に染みて感じているよ」


何せ俺はブラウニーを使役していないから、家事労働の際に毎回呼び出す事は出来ない。というかあの詠唱を毎回するのは大いにめんどくさい。

その点魔石は本当に便利な代物だ。出来る事ならクルドヴルムにも導入したい。


その時、俺の頭の中に小さくベルの音が鳴った。

ブラウニーの作業が終了したらしい。


「私はここで待っていますよ。ローランの考えた部屋を喜んでいるティアを見るのは悔しいですからね!」


まだティアの淹れたお茶も残ってますしと、理由はそっちだろう師匠。


師匠が居ない方が俺にとってもありがたい。

俺は立ち上がり目の前に座るティアの手を取った。


「さあティア!ティアの部屋を見に行こう!」


ティアは耳まで赤くなった後、振り切るように首を振ると、楽しそうに笑った。

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