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46. ローランの決断

ローランが目覚めたのは3日後。


「貴方を失って得た地位でわたくしが喜ぶと思うのですか!!」

「この大馬鹿者が!!!」


ティアとオスカーから泣きながら怒られたローランは、訳が分からずベッドに横になったまま二人が落ち着くまで謝罪を繰り返す羽目になった。


そして散々怒られた後、ローランが意識を失ってからの事を説明してくれた。


あの日犠牲になったのは魔力を暴走させたイーサン一人。それ以外はオスカーの父親含め全員無事だった。

しかし前フランドル公爵は投獄。その他汚職や不正が明らかになった貴族や役人も漏れなく全員投獄したと告げられ、オスカーの手腕にローランは舌を巻く。

そんなオスカーは父親の罪に対し最後まで爵位の返上を願うが、ティアは許可せず、ネヴァン公爵もティアの意志を尊重。反対派の筆頭である辺境伯もティアに服従の意を示した結果、オスカーは今フランドル公爵と名を改めている。


そしてローランの生命を救ったのはシリルだと告げられた。

ティア達はローランが目覚めるまでいて欲しいと願ったが「全て終わったらお土産を持ってくるように」と、謎の指示を出して消えてしまったそうだ。


(土産って…)


ローランはシリルの意味に気付き溜息をついた。


「ああそうだ。お前に伝えたい事がある」


オスカーは思い出したように言うが、恐らく嘘だ。

タイミングを見計らっていたに違いないとローランは確信する。

だがオスカーの隣に座っているティアも初耳のようで、驚いた目をしてオスカーを見た。


(ティアも随分表情豊かになったな)


そう喜びながらも、ティアが見つめるオスカーに軽い嫉妬心を覚えたローランは、ベッドから身を起こすとティアの手をとり自分の腕の中に引きずり込む。

ティアはまたパニックを起こすが、ローランはティア頭に顔を寄せるとティアから漏れる甘い匂いを堪能した。


「全く、俺の前でもイチャイチャしやがって」


ティアの前ではあったが、オスカーは顔をしかめながら素の言葉で文句を言う。

腕の中にいるティアの頭を押さえてオスカーを見えないようにしてから、ローランはオスカーに勝ち誇った顔で笑いかけた。


「〜っ!!お前な!その嫉妬心をどうにかしろよ!」

「他の男を見るのも嫌だと、普通思うだろ」

「お待のそれは異常だよ。俺にまで嫉妬してどうする」


当たり前のように言ってからローランはティアの黄金色の髪を自分の指に巻き付けて遊び始めた。

ティアはローランの腕の中で耳まで真っ赤になり固まっている。

オスカーは大きな溜息をつくと「まあこれなら大丈夫だな」と頭を掻いてから、ローランを見た。




「貴方をセウェルス聖王陛下の王配に迎えたい」




言葉を正し真剣な瞳でローランを見つめると、オスカーは頭を下げた。


「オスカー…。貴方…」


オスカーの言葉でローランの力が緩んだ隙をみて、ティアが顔を上げて心底驚いた顔をしてオスカーを見る。

オスカーは頭をあげると「何も今思いついた話ではない」そう言って


「ローランを知り、俺はセウェルス聖王の王配に相応しいと確信した。そして中央会議でより強く願うようになった。幸いネヴァン公爵はお前をクルドヴルムの人間だと知った上で認めてくれた。辺境伯も武人だ。カラドボルグを所有するお前を認めない訳が無い。公爵派は俺が何とかすれば良い」


今までの心境を、周りの状況を説明した。

それを聞いたティアは歓喜の瞳でローランを見上げるが、



ティアの瞳に映るのは、ティアを見つめるローランの哀しげな瞳。



「俺を認めてくれて嬉しいよ」と呟くように言うと、視線をオスカーへ移す。







「だが俺は王配にはなれない」






予想外の言葉にオスカーは思わず腰をあげ、ローランへ詰めよった。


「何を迷う事がある、ローラン。陛下のお側に居られるんだぞ。お前の事は俺が全力で支える。安心してこれからずっと陛下を側で御守りすれば良い」


オスカーの深緑の瞳が熱く燃えている。心の底から望んでくれている事を知り、ローランは胸が熱くなる。

ティアは勿論だが、オスカーもローランにとっては兄のようであり、大切な友人だ。


「ティアとオスカーが護るのは何だ?」


だからこそローランは静かな口調で尋ねた。

「ローラン?」と、オスカーは怪訝な顔をするが、構わず続ける。


「国民の気持ちを無視して俺を迎え入れるのか?二人が護りたいのはセウェルスだろう」


ティアは黙ったままローランの横顔を見つめている。

オスカーはローランの言いたい事に気付いたのか、迷うように目を逸らした。


「前フランドル公爵の件はあるが、オスカーが王配になっても大きな問題は起こらないだろう。勿論派閥間の問題もだ。…だが俺は違う。長く争ってきたクルドヴルムの人間を簡単に受け入れられると思うか?」


ローランの言っている事は正論だ。貴族は抑えられても、何も知らない国民の反発は大きいだろう。それでもローランの人柄を知ればいつか必ず認めてくれるとオスカーは確信している。


「俺を迎え入れる事はセウェルスを立て直す以上に必要な事か?」


「ローラン!それでも俺はお前を求める!!お前だって陛下の側に…」

「分かってるよ!!」


ローランが叫びティアを抱きしめる腕に力を込めた。


「俺だってティアと共に生きたいよ!ティアと離れるかと思うと心が千切れそうだ!!オスカーがティアに触れると思うだけで殴り殺してやりたくなる!!!」


だけど…と、ローランの瞳から一筋の涙が伝った。


「まだ早いんだ…。俺達が一緒になるには早過ぎるんだ…」



「ローラン…」



オスカーは茫然とローランの名を読んだ。

最後の頼みと、オスカーはティアを見る。

オスカーの視線に気付いたティアは、涙を流すローランの顔に触れ、






「わかったわ」






…静かにそう告げた。

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