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1.兄弟子ローランと妹弟子ティア

「ローラン、今日から貴方の妹弟子になるティアです。兄弟子として色々教えてあげて下さいね」



師匠である賢者シリルは、隣に立つ少女の肩に片手を置きながら俺に向かって微笑んだ。


賢者シリル、年齢不詳な俺の師匠。

腰まである癖のない白銀色の髪、色素の薄い肌、端麗な顔立ちをしている。

何より鮮やかな紫が、光の加減で青にも赤にも見える瞳が特徴的だ。

容姿も相まって神秘的なその姿は、長身なのに男には見えない。

まるで妖精と見まごうばかりに美しい…と、言ったら絶対ボコボコにされるから決して口には出さないが。


師匠の隣に少し緊張した面持ちで立っているのはティアと紹介された栗毛色の髪と瞳をもつ美少女。

俺よりひとつ下の16歳だと師匠から聞いている。

師匠と並ぶと小さく見えるが、身長は一般女性並みだと思う。


「はじめまして!よろしくお願いします!!」


元気は良いが緊張しているようだ。

俺も初日はそうだったなと、懐かしくなりながら右手を差し出した。


「ローランだ。よろしくな!」


出来るだけ緊張を解せるようにと、俺はあえて明るく笑う。

俺の笑顔が不自然だったのか、握手を求めたのが悪かったのか、ティアの顔がうっすら赤く染まっている。

ティアは戸惑うように自分の右手を見てから、意を決したような表情をしたあと、俺の手をギュッと握った。

想像より小さく華奢な手は、握り返すと折れてしまいそうで俺は細心の注意を払いながら握り返した。


俺とティアのやり取りを見ていた師匠は満足気に微笑むと両手を鳴らし「ではティアの部屋掃除から始めましょう!」と俺達に号令をかけた。


………ん?ティアの部屋掃除?


「って、師匠!ちょっと待って下さい。ティアは通いではないのですか?」


当たり前のように師匠が言うものだから流されかけたが、師匠の家(わがや)は男所帯で師匠と俺しか居ない。

そんなところに若い娘が一緒に住む事をティアの家族は承知してるのだろうか。


「私が師匠(せんせい)に教えを請えるのが1ヶ月しか無いため我儘を言わせていただきました。

私が居てはローランさんのご迷惑になるでしょうか?」


ティアは先程の緊張した面持ちから打って変わり凛とした表情で俺を見つめる。

多分説明したところで引く気は無いのだろう、俺は頭をかきながらハァ…と溜息をついた。


「ローランでいい。男所帯だから至らない事が多いと思う。

注意はするが、ティア…でいいか?ティアも何かあれば遠慮なく言ってくれ」


俺の言葉にティアは安心したように表情を緩めた。

俺達のやり取りを見ていた師匠もふわりと広角を上げ、柔らかく微笑む。


「一緒に住む事は私が許可したんだ。

ローゼの時もそうだったから失念していたよ」


師匠の言葉で俺はローゼ(あねうえ)の事を思い起こす。

…あの女傑なら筋肉命の暑苦しい騎士団の中に放り込んでも全く問題ないだろう。

そもそも性別こそ女性だが中身は男だから、師匠が失念するのも理解できる。


「ローランは姉君がいらっしゃるのですか?」

「ああ。今は国に戻ってるが、俺の前に弟子入りしてたんだ」

「私には兄がひとりいますが、姉はいないので少しだけ憧れてしまいます」


そう言ってティアは憂いを帯びた笑みを浮かべる。


「たまに顔を出すからティアの修行期間中に合えば紹介するよ。

ただ期待し過ぎないでくれよ。俺の姉はちょっと普通と違うから」


とりあえずティアの姉像と一緒にしないよう釘をさしておく。

中身が男だから俺は兄が欲しいと思った事はない。

代わりに、幼い頃欲しいものを聞かれ『普通の姉が欲しい』と両親を困らせた。


「さあティア。貴女のお部屋を案内するついでに、我が家の案内もしましょうね」


師匠は自然な動作でティアの手をとると「ここがリビングですよ。天井は高く、陽が差し込むように窓を大きくしたのがポイントです」と、どうでもいい細かいところまで説明を始めた。

ティアはティアで師匠の説明をひとつひとつ真摯に聞いては「師匠(せんせい)、あちらは照明でしょうか?素材は?」と質問をしている。

その様子は側から見れば仲良し兄妹…姉妹のようだ。


それにしても…俺は顎に手を添えて首を傾げる。


先程から何となく感じている違和感。

一般市民が着る服を纏ってはいるが、ところどころ言葉遣いや所作が平民とは違う気がする。

貴族か裕福な商家の令嬢なら腑に落ちるが…。


だが令嬢が修行?しかもたったの1ヶ月??

師匠が許すって、余程の理由があるのか?


考えれば考えるだけ頭に疑問符が浮かんだ。

俺は少し特殊だが、通常弟子は各々の目的があって門をたたく。

そして師匠が認めて、はじめて弟子入り出来るのだ。

そこには王侯貴族や平民…国の垣根も無い。


俺の姿形を見ても悪意は感じないし気にするだけ無駄か、と俺はふたりの後を追った。

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