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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
8章 彼らが何もできない状態から行動を開始する行進譚
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95話 使命か抵抗

 美羽は菫に事件のことを、病院に怪我人のことをそれぞれ伝えた。

   *



 美羽みうは、「この()()をお願いします」と、駆けつけた救急隊員に告げた。目線を逸らし、表情を悟らせないように。

 階段に座りながら、運ばれていく二人の様子を見た。


 白虎びゃっこの息は弱々しく、今にも途絶えてしまいそうだった。

 一方、芽衣めいも触手の影響で肌の色に生気がない。


 双方ともに、命の危機を迎えていた。

 しかし、今の美羽には彼らの無事を祈れる程の心の余裕がなかった。



「このままじゃ、ダメなんだ。でもそんなこと分かってるよ……」


 思わず独り言をこぼす。ブルーシートを引くなどして、警察官が捜査の準備をしているのを横目で見ていた。



「気にかける、大丈夫?」


 その口調と幼さの抜けない声で、振り返らずとも美羽はすぐに彼がしょうだと理解した。

 心配させてしまったことを自省しながら、美羽は彼の方に笑顔で振り返る。



「──大丈夫だよ! というより、むしろ芽衣ちゃんが大丈夫かどうか心配だよ……」


 感情の起伏が少ない、まるで取りつくろったような言葉だった。

 それに気がついた翔は何か言いたげな表情を浮かべる。



「どうしたの?」

「っ……白虎の傷痕は美羽の茨星スタッズでできたものだよね?」


 口癖を言わなかった彼は、まるで言葉を選んでいるような、そんなたどたどしい話し方だった。



「私にもよく分からないよ。突然、ノアっていうRDBのボスが出てきて、その人が白虎を……」

「──そうか。質問する、じゃあ美羽がしたわけではないんだね?」

「それは……いや、私も少しだけ刺したよ」


 翔は美羽の隣にそっと腰掛ける。まるで、美羽の話をもっと長く聞くように。


 その行動に感化された美羽は、そこから翔に事の顛末てんまつを伝えた。



   *



「納得した。美羽は、白虎が芽衣を攻撃したと勘違いして攻撃したんだね。それで手の甲、脇腹、そして太ももに刺したのか」


 美羽は当時のことを思い出して、また少し顔を暗くした。



「っ……でも美羽、最近の君は焦りすぎてるよ。何が君をそこまでにさせてるの?」

「私が──焦ってる?」

「君が取締班に来たときとは大違いだよ。僕の知っていた美羽は、人を傷つけないような人だった。でも今の美羽は、人が傷ついてると知ると事情を問わずに攻撃する。それなのに、手加減をしてしまうようだね」


 『手加減』という言葉に、美羽は反芻はんすうするように「手加減?」と聞き直す。



「っ……さっき、白虎を見てきたと言ったでしょ? その時、右手の甲と左脇腹、左太ももの刺傷がやけに浅く見えたんだ。他の傷と相対的に比べてね」

「……ノアっていう人の刺傷が全部深かっただけじゃないの?」

「っ……それもあるだろうけど、それ以上に美羽はもっと深く刺せたはずだよ。つまるところ、投げる速度や持ち方をわざと悪くなるように調整したのかな?」


 美羽は口を真一文字に結んだ。まるでそこにいたかのような発言に、図星と虚をつかれた。



「正直に言う、中途半端だ。美羽の気持ちがどっちなのか分からない。人を傷つけて人を守るのか、人を傷つけずに人を守るのか」

「そんなこと、分かってるよっ! 分かってるけどっ……!」


 美羽は声を震わせる。翔を、一層輝いた目で凝視する。

 心配そうな表情の彼を見て、一度出た感情を抑えることができず、そのまま口から流れ始める。



優貴ゆうきくんが居なくなったのは、私が不甲斐なかったからなのかなって考えちゃうんだよ。初めて白虎と接敵したときもすぐに怪我を負ったり、プロ・ノービスとの戦いだって最後まで戦えなかったし」

「美羽……」


 翔は思わず声をこぼした。美羽が今までそんな気持ちを抱いていると思わなかったからだ。



「だから、少しでも頼れるような人になりたかったんだ。人を守れるようになれるように、変わらないといけなかったんだよ」

「っ……だから、人を傷つけることを考えたのか。だけど心がまだ変わりきってないから、白虎を傷つけることにまだ抵抗があったの?」


 美羽は固くなった表情で、ひとつ頷く。そのままうつむいて、彼に答える。



「ノアが白虎を刺した時、思わず『ひどい』って思っちゃったんだ。だけど自分や仲間を守りたいなら、いつかこういう残虐なこともしないといけないって、分からなくなって……」


 美羽は残酷になれずにいた自分を恥じながら、胸の内を明かした。

 『傷つけないといけない』という使命感と、『傷つけたらいけない』という抵抗感が、彼女の心でしっちゃかめっちゃかに揉み合っていた。


 そんな彼女の苦しみをある程度察した翔は、一拍おいて話す。



「っ……優貴が取締班を出たのは、美羽のせいじゃない。きっと、彼には彼なりの……使命があるんだ。──ごめん、上手く話せないや」

「ううん、いいんだよ。なぐさめてくれてありがとう」

「っ……慰めじゃない。僕が言いたいのは、美羽は、あの頃の優しくて元気な美羽のままでいいんだよ。だって、君が優貴と会ったとき、変わった君を見たら彼はどう思うの? きっと……少しさみしく思うよ」


 その言葉に、美羽は顔を上げて翔を見る。



「っ……むしろ変わらない美羽を見たら、優貴は安心すると思うな。だから、無理に変わらなくても大丈夫だよ」


 美羽は少し深呼吸したあと、勢いよく立ち上がった。



「私……二人のこと追いかける! やっぱり心配だから!」


 そう言って、美羽はその場を後にした。その後ろ姿を見て、翔は表情を緩める。



「安心する、それでいい」


 翔も階段から立ち上がると、警察の捜査に協力し始めた。

ご愛読ありがとうございました。


次回も宜しくお願いします。


そして、ここ最近遅くなってしまい、申し訳ございません。

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