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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
8章 彼らが何もできない状態から行動を開始する行進譚
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92話 不協和音

美羽と白虎は、床や壁から生える黒い何かを発見した。

「ワレら、とひとつがおすスメ。チャンスです、ます、これ」


 不安を脳内に流し込むような声。壁や床には目がいびつに生えた黒い触手、目の前には視界を覆うくらい大きな口。

 美羽みう白虎びゃっこがその時に感じたのは、純粋無垢な『不快』だった。



「あなたは、誰?」

「ワレはオマえ、大きくれバ。でもオマえはオマえ、小さく看れバ」


 白虎はため息をついて、疲れたように頭を抱える。



「やめろ、頭がおかしくなりそうだ。じゃあこう聞こう、俺と闘いてぇのか?」

「チャンスを棄てル、です、ます、よ」

「はっ、なるほどな。一つ分かった」


 白虎はその大きな口を大きくり上げた。喉元と思わしきものが、岸に打ち上げられた魚のように跳ねる。

 「がギぎギぎ」と有害な断末魔を上げるそれに、白虎は笑いかけた。



「要は、てめぇと話し合いができねぇってことだ」

「──失敗、交渉。オマえは負要ふよう、この世界においテ。馬禍ばかなオマえら、馬禍スギて棄てルから馬禍でス。ワレに歯向かう馬禍でスは、祈血いのち簡誕かんたんに馬禍でス」


 相手の有害なたたずまいに、美羽の心臓はすでに凍っていた。冷や汗を流し、動悸どうきは激しくなっていた。

 白虎はそれを横目で見やり、言葉を投げ出すように話す。



「おいピンク髪。闘えねぇんだったら、芽衣あいつを連れてどっか行け。邪魔だ」


 白虎は美羽に、芽衣めいを連れて外まで退くことを指示した。



「でも、あなたは──」

「確かに、能力は使えねえな。だが、こいつを使って俺の価値を測ってやるだけだ。こいつに殺されるようだったら、俺はその程度のモノって分かるからなぁ」


 白虎のその表情は、悲しそうでも怯えてそうでもなかった。

 ただ、笑っていた。



「──今はあなたの言う通り、芽衣ちゃんを安全な所に連れてくよ。だけど、絶対に戻ってくるから!」

「はっ、好きにしろ。だが、邪魔も手助けもするなよ」


 美羽は言動を行動に移そうとした時だった。

 人間は、あるはずのものがないと思考が停止してしまうものだ。



「芽衣、ちゃんは?」

「なんだと……?」


 思わず白虎も、芽衣が元いた位置に顔を向ける。そこに、芽衣は居なかった。





「うあっ…………」


 次には、芽衣のうめき声がどこからか聞こえる。


 美羽は、芽衣が近くにいるという安心とともに、どうして苦しそうな声が聞こえたのか不安になる。

 恐る恐る声の聞こえた方向に目線を向けると、そこには黒い触手ではりつけにされている芽衣の姿があった。



「芽衣ちゃんっ!」


 悪夢でも見ているかのように苦悶の表情を浮かべ、うなされている。

 腕や脚は触手に侵食され、鼓動のように脈打ちながら圧迫と緩和を繰り返している。



「ぎゃあぁっ……!」


 鼓動の最中、黒い触手が青く光るタイミングで芽衣は一番の苦しみを見せた。


 美羽にはもう、恐れという感情はなかった。

 ただ、いかっていた。



「何してるんだよっ……! 芽衣ちゃんに!」

「馬鹿、うかつに──」


 白虎の制止も聞かず、美羽はまきびし──通称『茨星スタッズ』──を全速力で放つ。


 触手は茨星が刺さると同時に、痛みに悶えるようにうねる。



「っ…………?」


 同時に美羽は右のふくらはぎを抑えて、しゃがみ込んだ。声のならない叫びを上げる美羽に、白虎は頭を強く働かせる。



「──どうした? 答えろ」

「急に……痛い」


 白虎が美羽を観察する。すると、床から生えた触手が、美羽の左靴に絡まっているのを見た。

 白虎は口の端を吊り上げる。



「なるほどな……芽衣そいつの能力を自分の物にしてやがんのか」

「もとモト、これはワレのもノ、です、ます、ガ? 馬禍にハ判らないです、ます、ガ?」

「俺はてめぇと話をしたい訳じゃねぇって言ってんだろ? 俺はただ、てめぇと闘いてぇだけだ」


 白虎は芽衣を殴らないギリギリの位置を、思い切り振りかぶって殴る。

 同等の痛みが、白虎の左脇腹に伝わる。



「ぐっ……こいつの能力は一回食らってんだよ。今更どうってことはねぇ。ってか、そこが脇腹かよ? もう少し人間らしい形してくれねぇと分からねぇ」


 しゃがみこむ美羽に、白虎は話す。



「お前のその痛みは、芽衣あいつの能力を模したものだ。なんてことはねぇだろ? あのまんま芽衣あいつを放っておきたいなら、そのまんましゃがんでろ」

「そんなわけ……ないじゃん!」


 美羽は痛みをこらえて立ち上がった。



「絶対に……救ってみせるんだ!」


 美羽に対し、白虎は微笑を浮かべた。

ご愛読ありがとうございました。


次回も宜しくお願いします。

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