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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
8章 彼らが何もできない状態から行動を開始する行進譚
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90話 悪い子

美羽、芽衣、翔の三人は、人災の報告を聞きつけてその場に向かった。

「……なんですか、これ」


 芽衣めいは目の前で起きていることを理解できずにいた。

 倒壊するビル、音を出して燃え盛る炎、生きるために逃げ惑う人の群れ。



「回答する。これはRDBが起こした人災」

「そ、それは分かってますよ──けど、なんで」


 いつもなら冷静な対応のできる芽衣だが、彼女が心を乱す訳があった。



「なん、で……()()が」


 被害が出た地域には、芽衣の両親がいる罪人刑務所があった。その両親とは、以前に取締班と交戦した片川かたかわ夫婦だ。

 その夫婦は芽衣にとって恩人であり、また家族でもあった。


 不意に走り出そうとした芽衣の左手首を、美羽みうは優しく掴む。



「芽衣ちゃん待って。心配なのは分かるけど、今は避難誘導と災害の抑制に専念しよ? 私たち、そのために来たから」


 美羽はそう言って、芽衣の単独行動を制止した。



「そう、ですね。そもそも私が父や母の元に行っても、災害から時間も経過してるのでできることは少ないですからね」


 今の言葉は、芽衣本人を納得させるためのものだった。


 しかし美羽は、そんな彼女の言葉から不安や恐怖を読み取った。

 本当は芽衣に行かせたかった。なぜなら美羽にも、大事な人を心配する気持ちは分かるためである。





 * * * *





 温もりのない太陽は、まるで空に浮かぶ白色電球のようだった。

 有象無象をただ照らして光と影を明確にするためだけに、今日の太陽はそこにあった。


 そんな太陽を尻目に、美羽は取締所ではなく優貴ゆうきの部屋へと向かった。



()()()聞きたいんだが……もし俺に何かあったら、その時は助けてくれるか?』


 優貴のその言葉が、何故か頭から離れなかった。彼からそう言われたあの日の夜、不安な気持ちになって眠れなかった。

 美羽はその質問の真意を本人に聞くため、その次の日の朝に彼の部屋へと出向いたのだ。


 中指の第二関節で扉を小突く。が、声も無い。



「優貴、くん?」


 不安そうな声で美羽はつぶやく。そしてその声が壁に反射する。


 胸が妙にざわめく。息遣いがわずかに荒くなる。

 ふとドアノブに手をかける。すると、手にかかる重力だけでドアノブは下に降りてしまった。鍵が開いていたのだ。


 胸の鼓動が早くなる。息が詰まる。

 ドアノブを握る手に少量の汗がこもる。その手を握り直して思い切りドアを引く。



「これって」


 美羽のおびえた声はそこで止まった。恐怖が限界を超えたわけではない。予想外のことに驚きを隠せなかったのだ。


 美羽の目が捉えたのは、ものけのからとなった部屋だった。



   *



「優貴くんが、消えた?」


 椿つばきは美羽の報告に動揺した。正確に言えば、椿を含めたその場の全員がだ。


 美羽は二つ頷いて話す。



「靴も無くなってたし、多分優貴くんの私有物も全部無くなってました。何故かベッドはそのままでしたが……」

「とりあえず、俺は信頼できる人に片っ端から相談してみるよ。それまで、みんなは任務に影響のない程度に捜索してね」


 椿の指示に、全員は従うことにした。





 * * * *





 それから数日経って、美羽は今に至る。優貴が消えた日からずっと、彼の身の安全を心配していた。



「班長たちも最終手段で頑張ってるし、私達も頑張らないとね!」


 最終手段に向かった班員以外で構成されたのが、美羽と芽衣としょうの三人だった。

 三人とも戦闘向きかと言われればそうではないが、居ないよりはマシだろう、とすみれは話していた。



「提案する。三人で分かれて、各々でできることをする。自分の能力も駆使して、避難者の保護や消防隊への協力、そして倒壊を防ぐ。だけどRDBがまだひそんでる可能性があるからあまり離れずに、接敵時は無理な戦闘は避けてすぐ救援を呼ぶこと」

「おっけーです!」

「了解しました」


 美羽と芽衣は翔に返事する。そして美羽がそこを離れようとした時、「《発動》」という声が聞こえた。

 美羽はとっさに振り返る。


 その声は──芽衣の声だった。芽衣は能力を発動し、美羽に触れていた。



「もし万が一、私に何かあれば……助けに来てください」

「──うん、分かった」


 美羽は芽衣の()()を理解し、強く頷いた。

 そして、二人はバラバラに行動した。



   *



「質問する。この事件の状況を教えて?」


 翔は現場を二人に任せ、避難区域で避難者に話を聞くことにした。

 一人でも現場は多い方が良いのだが、警官も多数出動しているため、あくまで対人向きの能力を持つ自分は後退した方が良いと考えた。



「はい。えっと、突然近くの建物が爆発して、その爆発が連鎖したように見えました。だけど何があったか分かりません」

「さらに質問する。爆発はどこから?」

「それも分かりません……。でも確か、東の方向だったと思います」

「感謝する。ありがとう」


 翔は顎に手を当てうつむく。

 ふと視線を戻すと、二人組の警官が事情聴取をしていたのを見た。



「質問する。何か変わったこととか聞いた?」

「お前は罪人だ。警官面しているところ悪いが、話すことなど──」

「いや待て」


 もう一人の警官が慌てて制止した。そして翔に聞こえないように、耳打ちで話す。



「彼は恐らく、菊村きくむら長官のお孫さんだ。いくら罪人だからと言って、突き放すのは少し恐い」

「彼が……そうか」


 二人の警官は態度を改めると、敬礼して丁寧に話し始めた。



「はい。事情聴取によりますと、青いマフラーの青年が何名かの避難者を救ったという情報があります。そして爆発源は麻宮あさみやビルという、今は使われていないビルの可能性があります」

「……感謝する。ありがとう」


 翔は避難区域を後にし、再び現場に向かった。二人の警官はその後ろ姿を、複雑な表情で見ていた。



「青いマフラーの青年──まさか、な」


 その視線を無視し、翔はそうつぶやいた。



   *



 その頃、芽衣は罪人刑務所の近くまでたどり着いていた。息切れは、もう気にしていなかった。


 翔の言う通りにした方が良い、美羽の制止をもっと真に受けた方が良い。

 そんなことは本人が一番よく分かっていた。しかし、自分を拾ってくれた恩が心臓をめった刺しにしてくるのだ。



「ごめんなさい。美羽さん、翔さん。私は……悪い子です」


 口をつぐむと、芽衣はさらに近づくように進んで行った。

ご愛読ありがとうございました。


次回も宜しくお願いします。

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