9話 初めての決着は唐突に
優貴が聖華に勝つための作戦を立てたところから始まります!
彼女の前方には半透明の障壁が展開されていた。
「……行くぞ!」
と、自分を鼓舞するように叫ぶ。そして先程と全く同じように特攻した。
「はっ、めげないねえ!」
仁王立ちする彼女目掛けて突進した。そして障壁と右拳が衝突する。
それに反応するように「カン」と無機質な音がした。ただ先程と異なり、俺は退かずにもう一度拳をぶつけた。自分でも驚くスピードでそれを殴りつける。
色々殴り方を変化させたりもした。だが全て和也の見よう見まねだからか、障壁はビクともしない。
「なんだい!? 作戦を立てて来たんじゃないのかい?」
傍から見たら、確かに俺はやけくそで攻撃しているように見えるだろう。しかし、俺の作戦は着実に遂行されていた。
「その割には……疲れてるように見えるが?」
それを受けて彼女の顔が淀む。そして彼女の額から一滴の汗が顎へと流れた。
*
何度目かの殴打で、ついにその時が来た。
拳の先で「ピキッ」と手応えのある音がでしたのだ。
「しまっ……!」
彼女の顔がより一層淀む。直後、感情が行動に出たように左足を一歩退いた。俺も正直驚いたがこれはチャンスだと感じて攻撃を続ける。
一撃が加わるごとに、亀裂の範囲が広がっていく。そして最後はタックルで障壁は粉々に砕け散って消えていった。
そのタックルの勢いを殺さぬように、足で地面を押す。
「《発動》!」
俺の渾身の努力も水の泡、彼女の発動条件と思しき、右足で地面を鳴らして彼女はそう言った。
先程左足を退いたのは怯みからではなく、能力を発動しやすくするためだったのだ。
俺のタックルは人間ではなく無機物に当たった。もちろんそれで障壁が割れることはなかった。
「残念だったね……!」
強がっているのは台詞だけ。彼女は少しよろけ、息もより荒くなっていた。
俺は狙い通りになったことを嬉しく思い、それが感情に反映される。
正直、障壁が割れたり一瞬で張り直せることは少し予想外だったが、真の作戦自体は成功したからだ。
「……なるほど、やるじゃないの」
彼女も俺の意図を察したのか、苦々しく笑って俺を認めた。
俺の意図……それは『彼女の能力の欠点を利用する』ことだ。
*
俺がそれに気がついたのは、最初に障壁が展開されたときだ。照明に照らされて、彼女の光る一筋の汗を見逃さなかった。そもそも、動いてもなく、気温も平常なのに汗をかくのがおかしい話というものだ。
彼女の能力の欠点、それはズバリ『体温の急激な上昇』だ。先程よろけたのもそれのせいだろう。
*
「相手の能力の欠点を利用する……初めてにしちゃ上出来すぎだねぇ」
つまりこの戦いを長引かせれば勝てる。彼女が障壁を発動しているかぎり欠点は……
「っ!?」
突如として膝が落ちる。そのまま何も抵抗できずに、うつ伏せになるように地面へと倒れ込んだ。
次には言いようのない痛みが全身を駆け巡る。指の一本も動かせないとは良く言ったものだ。
……でもどういうことだ? まさか、班長がまだ罪の能力について話してないことがあったのだろうか?
「五分経過したよ。優貴くんの能力の時間切れだ」
少し離れた所で彼の声が聞こえた。そうか、俺は聖華さんの能力に気を取られていて、自分の能力の時間制限すら頭から抜け落ちていたのか。
俺の能力の欠点である『身体への負担増加』も疲れと痛みを助長して、俺はまるで隙を見せ放題の人形と化している。
それでも俺は必死に考えた。ここで負けず嫌いの一面が出るとは思わなかった。
能力を再発動しても体が動かない。作戦は失敗した。他にどうやって……。
ある一つの結果が出た。しかし、俺はそれを言いたくなくて顔を伏せた。悔しがっている表情を見せたくなかった、とも言うべきかもしれない。
「……勝負あったね。」
彼の言葉が俺の心へと刺さった。
次には何処で間違えたのか、と俺は必死に考えていた。血流も良くなっていて頭の回転が早かったが、結局のところ結果を導き出せなかった。
「本当に新人かい? ……結構危なかったよ?」
俺に向けられた言葉だろうか。布のなびく音が聞こえるから、服で体を仰いでいるのだろうか。
俺は彼女に言った。色々、降参の意味すらも含めて。
「聖華さん、ごめんなさい……体、動きません」
俺の言葉に、彼女は「はははっ」と豪快に笑う。笑いごとじゃないですよ、と内心で悪態ついた。
*
「……聖華さん?」
「優貴は筋力が足りないねえ。もしあれば、もっといい勝負になってたよ」
「聖華さん? ……なぜ俺はおんぶされてるのでしょうか?」
いやまあ致し方ないことなのだが、女性に背負われたこともないので、どうしたら良いか分からなくなっているのだ。
「いいから、じっとしときな!」
取締所へと向かう足取りは、行きとさほど変化してないため俺を背負って歩くことくらい朝飯前なのだろうか。
会話が無いのも気まずかったから、俺は唐突に彼女に聞いてみた。
「聖華さんの能力って何だったんですか?」
彼女は「ああ」と言うと、こう続けた。
「『往来妨害罪』っていう能力だよ。障壁を最大二枚まで展開する能力らしいよ」
「じゃあずっと一枚で闘ってたんですか?」
俺は少し悔しくなってそう聞いた。手加減していたのだろうか、と。
対する彼女は首を傾げる。後ろ髪が重力に負けてファサ、と揺れた。
「いやいや、手加減した訳じゃないよ? 二枚発動したらその分の『体温の上昇』も大きくなるしね」
確かにそうか、と俺は納得した。
彼女はこう続ける。
「って言っても、あたしもこの能力の利点もイマイチ使いこなせないしね。偉そうには言えないさ」
「利点?」
「あたしの能力の利点は『視力の増加』だけど、さっきは関係無かったね」
確か俺の能力の利点は『自然治癒力の増加』だ。先程は使えなかったが、使いこなせれば強くなれるだろうか。……俺の能力の利点と欠点が喧嘩しているように感じるが。
*
「ほら、体が動くまでここで寝転がってな!」
そう言うと彼女は俺をソファーに優しく下ろした。
そんな俺に心配するように、「大丈夫!?」という声が聞こえた。この声は確か……美羽か。
答え合わせをするように、彼女はひょこっと俺の顔を覗き込んだ。
彼女のうねった桃色の髪の毛が、俺の顔に触れるか触れないかの距離で揺れている。
「まさか、聖華さんにいじめられたの!?」
何故か必死な彼女が、俺はおかしくて「ふっ」と笑う。いじめられたって……いや、あながち間違いでは無いか。
「ああ、こっぴどくやられた」
「やっぱり! 聖華さんひどい!」
俺の冗談を真に受けて、彼女の目線は向こうへといく。その視線の先で聖華さんさんは、
「ちょっと優貴! 勘違いするようなこと言うんじゃないよ!」
と大きな声で怒っていた。それを聞いた班長の、「はははっ」という幸せそうな笑い声が聞こえた。
……中々美羽の誤解が解けなかったのはまた別の話。
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岡田 聖華 様
貴方は罪人となりました。
これは貴方の能力、『往来妨害罪』の使
用許可証です。
この能力の詳細は以下の通りです。
あなたの能力は発動条件達成後、任意の
1平面に障壁を2枚まで展開する能力で
す。
『発動条件』:右足と地面で音を鳴らす
。
『発動中、あなたが有する利点』:視力
の上昇。
『発動中、あなたが有する欠点』:身体
の体温の急上昇。
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情報で公開されたので使用許可証の形式でも公開しておきます!
もし宜しければ、次回もよろしくお願いします!