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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
8章 彼らが何もできない状態から行動を開始する行進譚
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87話 届称との対決 前編

四人は届称について行くことにした。

 届称かいしょうに促されるがまま、四人はその後をただついて行く。鉄でできた通路を、ただひたすら。


 道中で彼の妻──眼音まおは、届称に聞こえないように言う。



「あの人がこうやって案内するのは滅多にないことなんです。大抵たいていはすぐに追い返してしまうので」

「正義と悪を『面倒事』って言ってたけど……なんかそう思うわけでもあるの?」


 天舞音あまねも配慮して、小さい声で話す。遠くを歩く届称には聞こえていないようだ。


 それに答える際、眼音は四人に顔を向けることはなかった。



「…………過去に、少し。──まあ、つまるところ、彼はいざこざが嫌なだけなんです」

「あんたはどう思ってるんだい? あん時の()()反応が気になるけどねえ」


 聖華せいかの言う反応とは、届称に対して、眼音が『ちょっと、あなた!』と異論を唱えたものだ。


 眼音は顔だけ振り返って、気品のある笑みを浮かべる。



「困っている人がいるなら、その人を助けるのを率先するべきかと。──それが正義や悪に関係することだとしても」

「……ふーん、よくできた人だね」


 少しつまらない様子で、天舞音は言葉を投げかける。



「……ちょっと待って、届称さんは?」

「あれ、さっきまで少し向こうにいたはずだよな? ワープしたのか?」

「安心してください。彼は先に着いただけですから」


 眼音がそう言った途端、辺りの光が段々と強まり始めた。

 四人が目をすぼめる中、眼音は和やかな笑みを崩さなかった。



「さて、もうすぐですよ。頑張ってくださいね」


 辺りの光が完全に全員を包みこんだ。



   *



 眩しい体験の後、四人が視界を取り戻すと──。



「……ここは、公園かい? この家にはこんなのもあるみたいだねえ」


 ブランコや雲梯うんてい、シーソーに鉄棒まである。天気が良ければ和やかなのだが、依然として紫色の空に赤い月が昇っている。


 届称は「いい訓練所だろう?」と話す。声の方向は、四人の後方だった。



「ここは私が創ったんだ。ここにある遊具は、あらゆる衝撃に完全耐性を持っている。そして何より……君たちはここから出られない」


 気になった天舞音が、届称と反対方向に向かう。公園の敷地を過ぎた辺りで、彼女の頭と透明の壁が反発しあった。



「空間を創るのかい? 随分とめちゃくちゃな能力だねえ」


 痛がる天舞音を横目に、聖華は冷笑する。



「俺たちはどうやら、届称さんと戦うしかないみたいだね。みんな、準備はいい?」

「でも、4対1でいいのか? さすがに俺たちが勝つぞ?」


 届称は真意が見えないよう、微笑ほほえむ。



「ああ、本気で来てくれて構わないよ。むしろ、下手に手を抜いてたら殺してしまうかもしれない」

「ああそうかい。んじゃ、いかせてもらうよ!」


 右足を踏み鳴らして、「《発動》! 【激昂げっこう掌底しょうてい】!」という聖華の掛け声が響く。障壁バリアが一直線に、届称の元へ伸びる。


 届称は舌で弾いて、コロッと音を鳴らす。「《発動》」と冷静に呟いた後、彼の立つ地の周辺は光を放ち始めた。

 正確に言えば、地上から出た半透明の壁が筒状に天へと伸びて、守るように届称をおおっている。


 聖華の障壁は、その壁に触れた瞬間に微動だにしなくなってしまった。

 その障壁を解除すると、聖華は自分の額を確認しながら話す。



「……へぇ、空間を創るんじゃないのかい?」

「もちろん、創る能力だけどね。しかし、創った空間を守る能力でもあるのだよ。私の、『不動産侵奪罪ふどうさんしんだつざい』はね」


 届称は続いて、立方体の形をした、手のひらほどの半透明の物体を椿に向かって投げる。


 椿つばきは嫌な予感がして、「全員退避!」と叫ぶ。残りの三人はそれに反応して、横へ体を飛ばす。

 その物体が着地した途端、それが千倍にもなって膨れ上がった。



「危ないねえ。もし壁との間に居たら圧死する所だったよ」

「圧死はしないから安心していい。せいぜい身動きが取れない程度だと思うよ──少なくとも、それはね」

「ね、ねえあれさ……どんどん大きくなってない?」


 天舞音がそう言って指さしたのは、届称の周りの壁だった。それが少しづつ大きくなることに気がついたのだ。



「鋭いね。このまま放っておけば、公園の壁と挟まって……次こそ死ぬだろうね」

「それまでに俺や天舞音さんの『窃盗罪』で能力を奪いたい──けど、今のままでは彼に触れられない……」


 和也かずやはしゃがんで足を触る。



「《発動》!! 俺があの壁壊してやる!」


 そう言って、自慢の脚力で一瞬で届称に近づく。

 前のめりの姿勢から攻撃を放つのか……と思ったが、届称を攻撃することなく、そのまま通り過ぎてしまった。



「な、何やって──」


 天舞音はそう口走ったが、和也の進行方向には鉄棒があった。


 和也は前のめりになった体でそれを掴む。そのまま二回転の大車輪をして、勢いを増していく。

 そして、地面に正面を向けた状態で鉄棒を押すように飛ぶ。空中で、届称の壁に狙いを定めて、脚を引き絞った。



「【五蕾ごらい難釘なんてい】!!」


 和也は両足で、まるで注射器のように壁を刺す。その威力は、ライフル銃の15倍に相当した。


 それでも──壁は壊れなかった。



「痛たたっ……くそ、壊れてないかぁー!」

「あの和也の攻撃──多分あたしの障壁5枚は壊せる威力なのに、それでも壊せないのかい……」


 届称は少しだけ驚いた表情をすると、すぐに元に戻って話す。



「私のこれにも、完全破壊防止機能がある。……むしろ私の能力で覆っているからこそ、この遊具らは壊れないのだ」

「あたしの能力よりも、よっぽど強いねえ。こういうのを……なんて言うんだったっけ?」

「上位互換、だね。正直かなり厳しいけど……班長さんはいかがお考えで?」


 椿はずっとうつむいていたが、ゆっくりと顔を上げる。



「考えはある。けど、成功するかどうか──」

「やってみないと分からないだろ? あたしは任せるよ」


 椿は手袋を外し、束を掴む。「《発動》」と言うと、彼は世界がゆがむような錯覚を感じた。

 一度片膝を地面につけ、ようやく酔いが収まる。


 少しして、「……まだ、慣れないなぁ」と言いながら立ち上がる。そして、右目を隠して「《発動》」と言う。



「全員、一分間全ての能力を解除しろ!!」


 しょうの、『強要罪』だ。


 届称は「それは……」と目を見開く。…………しかし、壁が消えることはなかった。



「全く……君たちといると、常に驚きの連続だな。──私の能力は、私自身にも制御できないんだよ。だから壁の拡大を阻止できないし、無くなることだってない。それが、君と私の能力の違いさ」


 聖華を見ながら、届称は説明した。そして、続ける。



「私の壁には一定のプログラムを設定できる。例えば、この公園の壁には『半年間継続する』、私の周りの壁には『毎秒半径五センチ広がる』のようにね。あ、細かいプログラムははぶいてるよ」


 そうこうしている間にも、壁は迫り続けている。しかし、椿は焦らなかった。



「もう一つだけ、考えがある。……正直、こっちの方が成功率は低かったけど、やるしかないようだね」


 和也が戻って来たのを見て、椿は作戦を話す。



「それは……できなくは、無さそうだねえ。よし、ここは少し張り切ってみるとするか!」


 聖華の言葉に天舞音と和也はうなづいて、届称の方に向き直った。

ご愛読ありがとうございました!


次回も宜しくお願いします!

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