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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
7章 彼らが明るい未来から段々と逸れていく変更譚
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85話 夜空

会議が終わり、美羽は帰路についた。

 夜はすっかり冷え込んで、街の人々は二の腕をこする。街灯や窓明かりはまばらに、それでも確かに道や人を照らす。


 美羽みうは、こんな格好をするのではなかった、と後悔した。露出した脚をぎこちなく動かしながら、ため息を白く流す。

 彼女はふと立ち留まり、寂しそうに夜空を眺める。すると、周りから離れたところで光を放つ、孤独な星を見つけた。



「……大丈夫、だよね?」


 美羽はそれを見て不安になった。


 以前とは違い、美羽はあの孤独な星を自分のようだと思ってはいない。自分には取締班の仲間や、大学の親友がいるのだから。

 どちらかと言えば、彼女には不思議とあの星が、未来の優貴ゆうきの姿と思えてならなかったのだ。



   *



 寮を前にして彼女は再び立ち留まり、先程よりも大きな呼吸をする。ごくわずかに震えるその体は、寒さのせいでもあり、緊張のせいでもあった。


 四階まで上る。一段を踏むたびに、ローヒールの音がむなしく響く。先程から、大きな重りがついているのかと思うほど、彼女の足取りはゆっくりだった。

 その足取りのまま廊下を歩き、扉の前に立つ。その扉の先は自分の部屋ではなく、優貴の部屋だった。


 突然、両頬を自らペチンと叩く。「よし」と短く意気込むと、インターフォンのボタンを押す。


 …………反応なし。


 もう一度、押す。



「優貴くん? その、最近どうしたのかなって。もし具合が悪かったら大変だし、悪くなくても──話聞きたいよ」


 次はノックする。



「……それとも、少し落ち着く時間が欲しいの? 確かに、ここ最近の出来事は、なんて言うか──濃密だったからね」


 ……反応なし。



「困ったら、いつでも相談してね」


 諦めて今日は帰ろう、と自分の部屋に足を向けたその時。扉の向こう側から、ノックを返された。


 美羽は慌てて振り向いて、先程よりも扉と近い位置まで戻る。そして反射的に、扉に右手のひらをぴったりと合わせた。

 ありえないことに、彼女は扉から少しのぬくもりを感じた。


 美羽が泣きそうな顔をすると、扉の向こうで声が聞こえる。



「美羽、か?」

「うん、うん! はぁ…………良かったよ。本当に何かあったんじゃないかって……!」


 美羽の泣きそうな声を聞いてなのか、「すまない」と優貴は返す。でも、いつも通りの様子で──。



「それにしても、一週間くらいでさすがに大げさじゃないか?」

「大げさじゃないよ!! 理由もなしに、一週間()休んだら、誰だって心配するんだからね!?」


 美羽の声が、安心のせいで荒くなる。


 それを聞いた優貴は、心ここに在らずといった様子で、「はは」と乾いた笑みをこぼす。



「それで、どうしたの? どうして突然休むように……?」

「それは……言えない」

「──そっか」


 いつもとはかけ離れたような、潤いのない会話。両者とも、それを意図している訳では無い。

 まるで美羽が触れている扉のように、二人の間に不思議な気まずさがあるだけだった。


 短いようで長い静寂の後、優貴はふとこぼす。



()()()聞きたいんだが……もし俺に何かあったら、その時は助けてくれるか?」


 突然の質問に、美羽は鳩が豆鉄砲の状態になった。しかしすぐに──。



「当然だよ! 私と優貴くんは友達なんだから!」

「──良かった、安心したよ」


 優貴はそう言って、扉から離れていった。





 * * * *





「……アリス。次は何を育てるんだい?」


 そう言ってノアは、見事に育ったコスモスを見た。



「そうですね──では、バラとかはどうでしょうか?」

とげが危ないよ。害のない植物じゃダメなのかい? ああ、いや、アリスの意見を否定している訳ではなくてね? アリスが怪我しなければいいんだ」


 アリスは「大丈夫です」と自信満々に答えた。



「じゃあ、種と花壇を持ってくるね。少し待ってて」


 ノアはそう言って、ツタだらけの彼女の部屋を出た。



   *



「……何しに来たの? 歳をとったせいで方向感覚が狂ったのかい? のぞみ

「なんじゃ、随分と冷たいでは無いか。それに一端いっぱしの女性に対して、歳のことを揶揄やゆするのは禁忌じゃぞ? ノア」


 赤で統一された彼女は、この無機質な通路にとっては刺激が強すぎる。


 ノアは気遣う余裕もないかのように、ため息を吐いて、「用がないなら帰ってくれ」とあしらう。



「お主の余裕が無い様子を見たのは、『平和罪(カーム)』以来じゃのう」

「……その話をするためだけに来たのかい?」


 ノアは、殺気を凝縮して練ったような視線を向けた。


 希もさすがにその話を深堀したくないのか、「冗談じゃ」と返した。



「わっちも、アリスと話したいだけなのじゃが……無理な願いなようじゃのう。ましてや、彼女にお礼なども伝えられん」

「……少なくとも、僕達七人は彼女の前で『平和罪カーム』の話はすべきでない」


 「相違そういない」と希は呟いた。



「そういえば、優貴にあったと聞いたよ。彼に何を? なぜ接触した?」

「ふふっ。まあ、気まぐれじゃな」

「君はよく、何を考えてるか分からない。いつだってね」


 ノアは希を見ることなく、その場を立ち去った。



「……相変わらず、頑固よのう」


 彼女はクスリ笑うと、ノアとは違う方向へ歩いていった。

ご愛読ありがとうございました!


次回も宜しくお願いします!


(遅れてしまい、申し訳ごさいません!)

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