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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
7章 彼らが明るい未来から段々と逸れていく変更譚
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83話 錯綜と困惑

 聖華は彩と協力し、男を捕まえた。芽衣と美羽の出る幕もなく、事件はひとまず幕を閉じた。

 聖華せいかたちは罪人取締班へと戻り、椿つばきに状況を報告した。



「対処お疲れ様。RDBも、かなり派手に行動してきたね」

「まったくだよ──ああ、忘れる前にこれを渡しとこう」


 聖華はそう言って、白虎びゃっこからのメモをそのまま椿に渡した。



「これは……どこの住所なの?」

「そこに、あたし達の戦力になるかもしれない人がいるらしいよ。あたしがどこで知ったかとかは……ま、あまり重要じゃないね」

「その人の素性は?」


 聖華はあっさりと首を振る。



「いや、あたしにもさっぱりだね。ただ──唯一知ってるのは、機嫌を損ねたら命を取られるかもしれないってことだ」

「それは……どうなんだ?」


 椿が困ったように苦笑いする。



「まあ、最後の手段としてもいいかもね。──そういや、優貴ゆうきはどこにいるんだい? 今日はトレーニングの日のはずだけど……」


 聖華は辺りを見回す。しかし、普段椅子に座っているはずの優貴の姿はなかった。


 すみれはジトジトとした目で優貴のデスクを見ると、左腕に顔を乗せて口を開く。



「優貴は朝に出たっきり。心配だからって、和也かずやもどっか行った」

「──そうかい。確かに少し心配だね」

「どうせまた、くだらないことでもしてるんでしょ」


 菫はそう言いつつ、右足でパタパタと床を叩いていた。

 彼女の──本人は自覚していないが──不安なことや相談事がある時の癖だ。


 聖華はそれに気付かぬフリをして、「冷たいねぇ」と言って、ソファーに腰掛けた。

 彼女もまた、少々不安ではあるものの、任務後で和也のような行動力はなかった。



   *



 夕飯前に、和也は帰ってきた。少しくたびれていて、混乱してるかのように眉をひそめていた。


 天舞音あまねは、不思議そうに彼を見つめて話す。



「遅かったねー。どうしたの?」

「いや、少し変なことになって……まあ、でも、きっと大丈夫だ!」


 無理やり造った笑顔。『不可解』が彼を襲っていた。



「……ああ、優貴は先に帰ったぞ! なんか、少し気分が悪そうだった!」

「ま、トレーニングは明日に先延ばしするか! 和也も覚悟しとくんだね」


 「うげ」と和也は明らかに嫌な顔をした。その様子を、芽衣めいはクスッと笑っていた。





 * * * *





「やっと見つけた! おーい、優貴!」


 和也は優貴の方に駆け寄る。


 一方の優貴は、振り向きもしなかった。

 地平線に足をつけた太陽を、公園の手すりに腕を乗せて眺めていた。



「ここで何してんだ? もう飯の時間だぞ?」

「…………和也」


 優貴は夕日を見たまま和也に話しかけた。

 ()()()が、夕日に照らされていた。


 和也は首を傾げながら、「ど、どうした?」と応える。



「この物語の外の……主人公は誰だと思う?」

「主人、公? 急に何を──」

「この物語の外で……活躍しなければいけないのは、誰だと思う?」


 優貴は和也の顔を見た。



「お前……目が赤いぞ? それ、確かジュウケツって言うんだぞ?」

「今まで、俺が活躍してきた。……してきたと思っていた」

「確か、ジュウケツの時は休んだほうが──」

「でも、作られたシナリオだとしたら? 俺が絡むと、全てが上手くいくようなシナリオだと」

「お、おい──」

「シナリオをあざむく奴こそが、本当の主人公だと──」


 レモンを落としたような音。和也が、優貴の頭を叩き下ろした音だ。



「どうしたんだよ! 俺が『難しいことは分からない』ってこと忘れたのか!? お前の言うこと、何も分かんねぇよ!」

「…………俺は?」


 優貴はふと、我に返る。


 彼は朝の一件以来、意識がスイッチのON/OFFのように変わり続けていた。そのため、優貴はどうしてここに居たのか、自分が何を話していたのか思い出せなかった。

 ただ一つ分かったのは、優貴が和也を怒らせてしまったということだ。



「……すまん、ちょっとだけ変になってた。今日はもう帰る、他のみんなにもそう伝えてくれ」

「あ……ああ。分かった」


 優貴は足取り怪しく帰っていった。


 和也は迷いを一度振りほどいて、優貴とは反対方向へと足を出す。

 何が起きたのか、分からないまま。





 * * * *





 サーシャは近くにあった机を、ドンと叩く。それは、ローランの机だった。



「説明願えるかな? 東京の高層マンション、その倒壊のことをさぁ!」

「クハハ、そうカリカリすんなって。なんだ、お前にとって不都合だったか? サーシャ」

「不都合ではないさ、ただ、マイケルを行かせた理由を知りたいだけだよ?」


 ローランは椅子から立ち上がり、サーシャの頭をワシャワシャと撫でる。



「あいつが行きたがってたから行かせた……こんな理由じゃ不満か?」

「やめろって……! ──もしそれが理由だとしたら、軍師きみらしくないんじゃないか?」


 サーシャは、ローランの手を振りほどきながら藩論する。



「俺様にだって感情はある。今回は、あいつの意思を尊重しただけだ。まあ多分、今頃マイケルは捕まっただろうがな」

「尋問や拷問をされたら? 情報があっちに流れるじゃないか……!」

「なんだお前……妙に焦ってるが?」


 ローランの言う通り、サーシャは少し焦っていた。


 普段、ローランの計画通りにRDBの大半は動く。言わば、ローランはRDBのブレインなのだ。

 そんな彼から何も聞かされていないサーシャは、自分がレジスタンスとバレているかもしれない、と焦っているのだ。



「ボク個人の意見だけど……君の計画は少し信用できない。取締班の班長たちを襲ったのも、何か裏があるんじゃないかと探ってしまいそうだ」

「クハハ、例え裏があったとしても、()()()()どうにもできない。お互い、妙な詮索はやめにしようぜ? 仲間だろ?」


 少し冷静になるべきだ、とサーシャ自身に言い聞かせた。



「とにかく、仲間だと言うなら計画を入念に教えてほしいね。今回のようなイレギュラーが起きたら、こちらも驚いちゃうよ」

「ああ、すまなかったな。詫びてやる」


 サーシャはわざとらしく呼吸をすると、ローランの部屋から退出した。

ご愛読ありがとうございました!


次回も宜しくお願いします!

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