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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
7章 彼らが明るい未来から段々と逸れていく変更譚
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82話 雀の恩返し

聖華は、あまりにも奇妙なRDBの男と接敵する。


聖華の攻撃は、その男には通じないようだ……。

「【激昂げっこう掌底しょうてい】!」


 聖華せいかの号令と共に、障壁バリアが男に飛びかかる。


 しかし聖華と男の距離が遠いため、男は余裕だと言わんばかりのにやけ顔をしている。

 そしてその態度通り、彼は飛んでくる障壁に手で触れ、一瞬で破壊した。



「ああっ! ついにやっちゃった! 一度のみならず、二度までも余裕で破壊しちゃった! いさましいいさましい!」

「むやみやたらに破壊してくねぇ。そして、さっきから手で触れたがってるけど……手で触れないと発動しないのかい?」


 よく分からない構文を話しながら、体をうねらせながらもだえる男。


 聖華はそんな男に生理的拒絶を感じつつも、少し強引に質問を投げかける。



「そそそ、そうだよおぉ! ぼぼぼ、僕の『建造物等損壊罪けんぞうぶつそんかいざい』は、ててて、手で触れないと発動しないんだあぁ!」

「存外、普通に話せるんだねぇ。それと、()()あっさりと話すねぇ」

「ししし、しかも僕の能力は、ひひひ、人が作った物じゃないといけないんだあぁ! ああっ! また言っちゃった! 僕が不利になることを、こんなあっさりと教えちゃった! いたましいいたましい!」


 こんな男に対してでも、聖華は感じる。

 彼はきっと、強者の余裕をかましているのだと。彼は能力を教えても、絶対勝てると思っているのだと。



「あたしの障壁も、人が作った扱いになってるんだねぇ。でも、話すのはちと早計すぎたかもね──《発動》! 【憤懣ふんまん脚薙きゃくし】!」


 聖華はそう言うと、地を這う大蛇のように障壁を展開した。

 先程よりも数段階速く展開されたその障壁は、男の反応速度を越えていた。


 男は宙に投げ飛ばされ、そのまま障壁の上に倒れ込んだ。落ちた衝撃が体に響く。

 しかし当然、これで解決できるはずもなく。



「いっってぇなあぁ!! 調子に乗んなカスが!!」


 空気がひりつくほど、その男は豹変して激怒した。そしてすぐさま体勢を立て直し、下の障壁に手を添える。


 瞬間、聖華は世界が崩落したような錯覚を感じた。正確に言えば──



「こいつ……アスファルトを!!」


 彼は、聖華の周りにある地面のアスファルトを崩壊させたのだ。

 体勢を崩した聖華に、彼は恐ろしい速度で駆け寄る。



「人もまた、人が作った物……」


 彼はそう呟くと、聖華の顔に向かって手を伸ばした。


 右足も地面に置けない聖華には、もはや為す術などなく──。



 ──何かが爆発した音、ひゅんと空気を切る音を聖華は聞く。

 ──飛び散る赤黒い液体、弾き飛ばされる男の右手を聖華は見る。



「…………は?」


 男は、自分に何が起きたか理解できてなかった。


 むしろ、聖華が先に理解していた。彼は、『何者かの銃に撃たれた』のだと。


 数瞬後、男も状況を理解したかのように、銃弾が飛んできた方向を血眼で睨む。

 「おい誰だ、クソ野郎!!」と彼が叫ぶと、その方向へと跳ぶ。



「お前か!? お前が撃ったんだな!! 壊してやるうぅ!!」


 男はすぐ近くに銃を持った女を見つけると、左手でためらいもなく破壊した。

 女を粉々に破壊すると、男は表情をほころばせて楽しそうに笑う。



「ああっ! ついにやっちゃった! 不意打ちしようとしてきたやつの、希望を壊しちゃった! もどかしいもどかしい!」


 ──彼が得意気になったのもつかの間、次は二発の銃声が鳴り響く。


 銃弾は彼の両肩を射抜く。彼が向かった方向とは真反対から飛んできたものだった。



「があっ……!? あの女がここに来る前に……増援を呼んだのか? とにかく、今は逃げないとおぉ……!!」

「逃がすもんかい!! 《発動》! 【苦艱くかん・────」


 両肩を負傷したため、男は腕を上げることはできない。そのため、聖華に背を向けて逃げ出したのだ。


 しかしそれを逃さまいと、聖華は障壁をゆるい角度で斜めに展開し、それの上を駆け上がる。

 男よりも足が速い聖華が男を捉えると、そのまま障壁から空中に身を投げた。



「──踵落しょうらく】!!」


 聖華は重力で生じる威力を全て右足に込めて、空中で体勢を変える。そして全身全霊で、背を向けている男のうなじに強烈な蹴りをお見舞した。


 受け身も取れない男は、数メートル前へ吹き飛んで地面と顔を思い切りる。



   *



 気絶したその男に手錠をかける。

 しかし、手錠だけでは破壊されてしまう恐れがあるので、念の為前腕を近くに落ちていた縄で縛り付けた。


 聖華は任務を終えた脱力感と共に、大きな声で叫んだ。



「銃の腕が鈍ってるんじゃないのかい!?」


 すると、物陰から一人の女性が姿を表した。

 茶髪のロングテールに睨むような目つき、黒いスーツを着た女性が。



「鈍っているのではない。上達したからこそ、殺さずに生け捕りにできる範囲で無力化できたんだ。むしろ、お前の方こそ腕が鈍ってるだろ……聖華」

「──ひさしいね、あや


 かつて、プロ・ノービスの幹部として働いた朱雀すざくこと、彩が優しさを混じえた視線を聖華に送っていた。


 聖華も思わず頬を上げて彩を見ていた。



「私にもした技を使うとは──何かの当て付けか?」

「いやぁ、ただの思いつきだね? ……なんだい、もしかして『自分だけ特別』なんて思ってたのかい?」

「ち、違う……!」


 視線を逸らす彩を見て、聖華は吹き出して笑った。



「まぁ……なんにせよ、今回は本当に助かったよ。ありがとね、彩」

「──これで、貸し借りはなしだぞ」


 彩は改めて聖華に視線を戻すと、すまし顔でそう言った。



   *



 それから間もなくして、他の警察官や芽衣めい美羽みうが到着した。


 「呼んでいたのか……!?」と彩は驚きを見せつつ、与太話もなくその場を後にした。

 聖華は現場に行く途中で、既にすみれに報告していたのだ。


 聖華は警察官に、男の能力を説明して身柄を拘束させた。



   *



 被害は最小限とはいえ、高層マンションやアスファルトの崩壊での死傷者は、聖華の想定を上回った。


 また取締班は、RDBへの過剰な対処は認められている。

 そのため聖華は、男の気絶だけではなく銃痕までも責任に問われかけたが、回避することができた。



 美羽は「聖華さんって銃使うんですね」と言った。


 聖華は「いや、雀の恩返しだね」とだけ、美羽に話した。

ご愛読ありがとうございました!


次回も宜しくお願いします!

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