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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
7章 彼らが明るい未来から段々と逸れていく変更譚
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81話 RDB、行動の開始

サーシャと赤い着物の女性は、互いに用事を済ませたあと、偶然再会する。

のぞみ……またどっかに行ってたよね? そもそも、ここで何をしてたの?」


 鼻で息を大きく吐くと、サーシャはそう言った。椿つばきとの面会後、一度本拠地に戻ろうとしていた所、偶然彼女を見かけたので話しかけたのだ。



「それはこちらの台詞でもあるぞ? お主、どこへ観光しに行ったのじゃ?」


 希──先程、優貴と接触した赤い着物の女性──は、張り付いた笑顔でサーシャに笑いかけた。



「ボクは東京の下調べをしてたよ。後々RDBが活動する場だからね、敵の情報だけじゃ足りないでしょ?」

「ふむ──そうかそうか。わっちも同じくじゃ。てっきり、『罪人取締班に接触して裏切る』と思うておったが……検討違いじゃったな」

「ボクもてっきり、『優貴ゆうきに会った』と思ってたよ。ああ、誤解してごめんね?」


 二人は目を合わせ、そのまま凝視した。互いの瞳孔に潜む真実を掻き出すように。


 少しして、サーシャが「はぁ」と口で息を大きく吐くと、諦めたように視線をらす。



「ま、君と押し問答じみたことをするつもりは無いよ。君も拠点に帰るんだろ? 狩魔かるまを呼ぼう」

「同意じゃ」


 サーシャは自分の耳に、携帯を軽く押し付ける。コールがやけに長く感じた。





 * * * *




 足を組んで座っている聖華せいかは、目新しい空間に居た。


 音が消されたと思い込んでしまうくらいの静寂な空間。そんな場所に、「入れ」という男の声がした。


 その男に促されその空間に足を踏み込んだのは、彼女にとって──はるか昔の上司だった。



「久しぶりだねぇ。随分とここの暮らしが様になってるじゃないか、白虎びゃっこ

「はっ、雑な皮肉を言うためだけに来たのか? 玄武げんぶ、俺は絞首刑から逃れる方法を考えなきゃいけねぇんだ。時間が惜しいんだよ」


 「はははっ」と聖華は笑う。空っぽな笑いで眉間にシワを寄せる白虎を眺めながら、聖華は目的を話す。



「あたしがまだ玄武だった頃、プロ・ノービスの罪人を増やす技術はRDBから輸入したと聞いたよ。あれは本当かい?」

「本当だな」

「──そうかい。あと、あんたはプロ・ノービスとRDBの関係について知ってることはあるかい?」

「……元々、プロ・ノービスに資金援助していたのがRDBだ。あいつらはどうやら、罪人取締班との敵対関係を維持して欲しかったらしい」

「──?」


 「あ? どうした?」という白虎の問いに、聖華は率直に心情を伝える。



「やけに正直に答えるねぇ。てっきり黙りこくると思ってたんだけど──」

「俺はもう、この世界に必要無くなったモノだからな。能力を発動するための薬がねぇ俺は、ただのスピーカーにすぎねぇ」


 「所詮いわゆる、諦観ってやつだ」と白虎は言う。その言い草は、確かに人生そのものを諦めていた。


 聖華は彼の認識を改めると、先程よりも落ち着いた様子で話を続ける。



「罪人取締班の味方になりそうな人、誰か心当たりないかい? 言い換えれば、正義感の強い人だね」

「……おいお前、紙とペン渡せ」


 そう言って見張りの警察官を、首元を引っ掻くような目で睨む。

 その様子に気圧けおされた警察官から紙とペンを貰うと、白虎はそこに住所を書き出して聖華に見せる。



「ここに行け。プロ・ノービスに勧誘しようとした奴がいたが──断られたどころか、危うく殺されかけた。正義感が強いっつうよりも、頑固な印象があったな」

「あんたが殺されかけたのかい? よっぽど強いんだねぇ」


 聖華はからかい気味で言う。しかしそれに反論もせず、ふてくされたように無言で目をそらす白虎を見て、その人物がどれほどの者なのかを察した。



   *



 去り際に聖華は「ありがとね」と言って、その空間から足を運んだ。


 白虎の情報が正しければ、RDBにも罪人を作る技術も、他の誰かに援助できるほどの資金もある。しかし白虎は、それ以上のことを知らない様子だった。

 RDBの概要について何か知れればいいと思っていた聖華だが、それに関しての収穫はさほどなかった。

 唯一頼りなのは、白虎から教えられた住所だった。


 その住所を取締班に知らせようと、すみれに電話をかけようとしたその時だった。



 突然、聖華の視界でうっすらと捉えていたはずの、高層マンションが倒壊したのだ。

 コンクリートが粉状となって、空気中に一斉放出される。思わず、聖華は顔を隠す。


 自然災害ではないと、聖華はすぐに分かった。その倒壊が、下からひび割れていたためである。

 人為的であると聖華は確信して、そう遠くないその現場まで突っ走る。



   *



「ああっ! ついにやっちゃった! 僕のせいで、何人もの人が死んじゃった! おぞましいおぞましい!」


 低いしゃがれた声。興奮した口ぶりで、今の心情を話していた。

 聖華が見たのは、三十代前半だと捉えられる男。黒シャツにダメージジーパンの、変わった男。



「止まりな! あんた、RDBだね?」

「ああっ! ついにバレちゃった! 僕の行動がさげすまれてしまうんだ! おそろしいおそろしい!」


 聖華は右足を踏み鳴らし、「《発動》!」と言う。障壁バリアをその男目掛けて引き伸ばした。


 その男は素手でその障壁を触ると、障壁は粉々に砕け散ってしまった。



「障壁が……!?」

「ああっ! ついに発動しちゃった! 僕を殺そうとした攻撃を何事もなく壊しちゃった! うらめしいうらめしい!」

「──なんだよ、こいつ……」


 聖華のそのセリフは、彼の能力だけではなく、人間性についても言及されていた。

ご愛読ありがとうございました!


次回も宜しくお願いします!

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