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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
6章 彼らが悪夢の余韻から明るい未来を作り上げるまでの努力譚
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72話 近況報告は突然に

 * * * *




 夕食を食べ終わった一同は、その後片付けをしていた。帰路につこうとしていた班員もいる中、ある二人が突然、執務室に入った。



「おう! 久しぶりだな!」

「だからノックをしろ、社会の常識をどこに落としてきた?」


 罪人取締班に肯定的な、数少ない刑事の京之介きょうのすけ和葉かずはだ。

 椿つばきは思わず立ち上がり、ソファーの方に手を向ける。「どうぞ」と言いながら。



   *



「最近はあまりお会いしてませんでしたが、お元気でしたか?」


 テーブルを挟んで椿の前に腰掛ける二人。椿の問いには軽々と答える。



「ま、そこそこ元気だったな。ただ、戦争の時は『元気』っていうのが分からなかったがな」

「戦争の対処、本当に感謝する、俺たち一般警察は、ただ避難誘導に尽力していただけだった。……この班があって、どれほど良かったものか」


 実際、一般警察は根本的には対処できていなかったものの、避難誘導の働きのおかげで被害を最小限に抑えることができた。

 ただ、その()()()という数は、抑えたといっても日本国内では計り知れない量だったが。



「それで……今日はどんな用でここに?」


 椿は顔を少ししかめる。ここ最近は良い話を聞かないため、今回もそうなのだろうと腹を括っているのだ。

 それに対して京之介は、あっけらかんとした態度で「いやいや」と首を振る。



「ただの近況報告だ。しかもこの報告は、警視庁直々の命令だぜ?」

「直々……ですか?」


 いつも警視庁は、この罪人取締班をないがしろにしたり、時には事件報告等もしないことが多々ある。

 そう思うと、今回の報告はとても珍しいことだったのだ。



「なぜそんな命令が下ったかは分からないが、彼らが負い目を感じてるのだと信じたいな」


 和葉の言葉には多少の期待と共に、多少の皮肉が混ざっていた。

 椿は強引に笑うと、「報告を聞きましょう」とだけ話した。

 京之介は一つ頷くと、口を開いた。



「まず、プロ・ノービスが運営していた孤児院だが、子どもは皆が避難されていたらしい。なんでも、何台かのバスがそこに来たとか。そこでだ、少し不気味な話をするぞ?」

「不気味な話?」

「そのバス、なんと子どもたちが降りた頃には運転手がいなかったらしいぞ! しかも、どのバス会社も避難のためのバスを出した覚えはない! 幽霊が地獄に送るバスで運転してたんじゃないか……って怪談話もあるみたいだぞ?」


 椿はさすがにそれを、『不気味な話』と認めるしかなかった。と同時に、これを近況報告と言えるのか、疑問を抱いた。

 すると唐突に、聖華せいかが後ろを向いて話に参加し始めた。



「へぇ、随分と()()じゃないか」


 聖華の意味深な言葉に、椿ら三人は首を傾げる勢いだった。聖華はむしろ、分からないように言ってるんだと言いたげな、悪戯な笑みを見せていた。

 そんな聖華を放っておいて、椿は二人に向き直る。京之介も椿にならうように話を続けた。



「それとだな、俺たちが避難誘導したとはいえども、死者の量がやっぱり多かった。この資料に死者や行方不明者の数が詳しく載ってはいるが、大まかに言えば約一万かそれくらいだ」


 歴史的に見れば、確かに少ない方だ。

 しかし、考えでみてほしい。たった一日で、だ。もはや国内紛争というより、災害に近いだろう。



「一万……そんなにかい。もっと被害を抑えることもできたかもしれないねぇ……」


 聖華は額を抑えて言う。その言葉の一つ一つに、自分への不甲斐なさが染み込んでいた。最もプロ・ノービスに近かったからこそ、悔しさの上限が他とは違うのだろう。

 和葉はいつもと違って、落ち着いて言葉を発した。



「突然に日常を失った者、周りに裏切られて殺された者……大事な人を失った者」


 和葉は言葉の語尾を言い終わると同時に、椿の目をまっすぐ見た。慰めでも同情でもない、ただ事実を述べるような目で。

 むしろ彼のその目のほうが、椿にとって居心地が良かった。



「……そんな人達が、わずか一日で大量に生まれた。風のように、命が過ぎ去った。そして残ったのが、誰も望まなかった結末だ」


 ゆっくりと、気持ちを込めて話した和葉。椿や聖華は一字一句聞き逃さないで、和葉の寂しげな目を見つめていた。



「しかし、罪人取締班があったから一日で終わった、我々がいたから被害を留めることができた。これを最善と言う訳ではないが、少なくとも平均点よりは上だろう」


 和葉はそう言った。色んな結末がある中で、今迎えた結末は悪くはないのだろうと。



「……ま、とにかくだ。戦争は終結して、復興も終わりつつある。そりゃ後悔やらがあると思うが、それを活かして俺たちは責務をまっとうしようぜ」


 京之介はそう締めた。



   *



 食器を洗っていた優貴は、執務室に戻って始めて、二人に気がついたようだ。

 京之介と和葉も優貴に気がつくと、ソファーから立ち上がった。



「おお、元気にしてたか?」

「京之介さん、和葉さん……はい、元気です」


 二人を懐かしむように見つめた優貴は、うっすらと笑みを浮かべて話した。



「そうか、それはよかった、だが、ちょうど帰るところなんだ、すまない」


 「いえ、大丈夫です」と優貴が断る。帰る直前、京之介は思い出したように大声で話した。



「そうだ椿! 一番大事なことを忘れていた! 明後日の12時半に、警視庁に来るようにって警察庁長官がおっしゃっていたぞ!」

「長官が……分かりました。うかがいます」


 椿はどうして呼ばれたのか分からぬまま、二人を見送った。何も無ければいいが、とも思っていた。

今回は少し短めです、ご愛読ありがとうございました!


良ければブックマーク等宜しくお願いします!

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