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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
6章 彼らが悪夢の余韻から明るい未来を作り上げるまでの努力譚
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71話 まきびしと面会

 * * * *





 優貴ゆうき椿つばきが事務室についた頃、美羽みうはポーチの中からあるものを取り出して、確認していた。



「美羽、それが『例のやつ』か?」

「うん、そうなんだけど……」


 優貴の質問に、美羽は顔を曇らせた。そんな美羽の手には、三角錐さんかくすい形の針みたいなものがあった。

 それはまるで、()()()()のようなものだった。ただ、優貴がゲームで見たそれよりも鋭そうに見える。



「翔さん、もう一度言いますが……私は投げやすい武器が欲しかったです。これはさすがに……」

「反論する。それはただのまきびしじゃなくて、投げるのに特化してる。使うときにソフトボールの投げ方をすると、空気抵抗やエネルギー減衰の影響を受けないまま──」

「と、とにかく、上手く投げられるように練習が必要だね、美羽さん!」


 話が長く、難しくなりそうだと予感した椿は、話を下手なりに遮った。美羽は「確かにそうですね」と軽く頷く。


 優貴が近くに行って、それを手に取った。思ったよりもずっしりしていて、四つあるうちの針の一つはより一層鋭利になっていた。

 その針の根元にはなだらかな溝と、周りの針より低い鉄板が薄く存在していた。その溝に人差し指を添えて、鉄板を親指とでつまみ、鋭利な針を敵に刺すのだろう。



「確かに、普通のまきびしよりは投げやすいかもな」

「それは、そうなんだけどね。でも、球体じゃない物を投げるのは、まだ慣れてないからなぁ……」

「補足する。一応、球体タイプもある。敵に当たった瞬間、針が飛び出る仕掛けのタイプ」


 翔の話を聞いた瞬間、美羽は目を見開いて輝かせた。



「なにそれ、凄くかっこいい! 早くそれを──」

「ただ、持つだけでも針が出るけど」


 翔の話を聞いた瞬間、美羽は「ひっ」と顔を青ざめさせた。



「……諦めて、それを使う練習した方がいいんじゃないか?」

「うう、そうだね……」


 肩を落とす美羽に、優貴は辺りを見回して話す。



「そういえば和也かずやは? 確か一緒だったろ?」

「和也くんならこれを見た瞬間に、無邪気に笑って外に出てったよ」

「なんだって!?」


 優貴は急いで外に向かおうとした。和也がそんな表情をする時は、大体良からぬことを企む時か──良からぬことが起こる時だ。


 その時、耳の奥を刺すような音とともに、黒い物体が通り過ぎた。それは扉のすぐ横に突き刺さっていた。

 床には窓ガラスの破片、扉の横にはまきびしの穴。そして、「あっ」という外からの和也の声。


 和也がここに来てまだわずかだが、班員らが彼の評価と印象を一瞬で決める事件になった。



 その後にすみれに散々叱られた和也は、『かっこいいから使いたかった』などと供述している。窓ガラスの下の壁には数十箇所の刺傷さしきずがあり、班員は余罪を調査している。



   *



 そんな日の夜、班員らは食事をしながらその事件を振り返っていた。聖華せいか芽衣めいも合流し、事の経緯を伝えていた。



「ははっ、ヤンチャな奴だねぇ」

「私は現場に居合わせませんでしたが……そんなことする人とは思ってました」

「思ってはいたんだね……芽衣ちゃん」


 一方の和也の料理には、野菜が詰め込まれていた。これがどうやら、最後のおとがめらしい。



「そういや、芽衣の方はどうだった?」

「はい。今回は母との面会だけでしたが、元気そうでした」

「芽衣ちゃん、面会って?」


 芽衣は、美羽を含めた全員に話した。親が片川かたかわ夫婦だということ、そして自分らを助けるために捕まったことを。

 話し終えた後は少しの沈黙があった。芽衣は取り繕うように言う。



「でも、私はその時も今も幸せです。なので、暗い話じゃないですよ」

「うん、なら良かったよ。ちなみに、その片川さんとはどんな話をしたの?」


 椿の話を聞いた芽衣は、自然と口角を緩ませる。そして「ふふっ、内緒です」と声を弾ませて言った。





 * * * *





 バスから降りると、厳重そうで厳格そうな振る舞いの建物があった。芽衣は汗で服がけていないかチェックしたあと、焦らずゆっくりと中に入った。


 『罪人刑務所』。そこは、様々な罪人が収容されている施設。色んな能力を持つ罪人、それぞれに合った仕事や収容方法が規定されている。

 その中に、芽衣の父と母にあたる片川夫婦がいる。今回、芽衣は母の方と面会する予定があるのだ。



   *



 芽衣は、面会室にある椅子に腰掛ける。直後、アクリル板の向こう側にある扉から、芽衣の母、片川爽子(さやこ)が出てきた。

 刑務所で思ったことは、芽衣の想像以上に囚人の健康が確保されていることだった。実際、爽子の血色は悪くないように思えた。



「芽衣、いつもありがとね。それより、戦争でどこか怪我してない?」

「わ、私は平気だよ!」


 芽衣は、自ら刺した太ももをこっそりさすりながら話す。



「それより、お母さんこそ元気そうで良かった!」

「そうね……ん? 芽衣、何かいい事あった?」


 突然、そんな質問が来て芽衣は戸惑った。

 「どうして?」と返す芽衣に、爽子は微笑ほほえみながら話した。



「だって、いつにも増して楽しそうな顔してたから」

「えっ……そんな顔に出てた?」


 芽衣はムニムニと自分の頬を触る。どちらにせよ、芽衣は()()を話したかった。



「実はね私、罪人取締班の一員になったの! そしてね、友達ができて──あっ美羽さんっていうんだけどね! その人の好きな人が……」


 芽衣の話が止まった。爽子が暗い表情をしてたからだ。

 話が止まったのに気がつくと、爽子は慌てて「ごめんね」と言った。



「その……芽衣の性格だから、取締班に行きそうとは思っていたんだけれど、大丈夫なの? 私、芽衣が怪我とかするのは嫌だから──」

「大丈夫! 私はこれから怪我もしないし、平気だから。それに……」

「それに?」

「私には、頼れる人たちがいるから!」


 爽子はそれを聞いて安心したのか、顔をほころばせた。



「そう。なら、私は心配よりも応援しないとね。その友達と仲良く、楽しく過ごしなさい」

「──うん!」


 芽衣は嬉しかった。認められたこと以上に、爽子の安心した笑顔が見れたことが。

 心が温まるような感覚が、面会終了時間まで、そしてその後もしばらく続いた。

ご愛読ありがとうございました!


また次回も宜しくお願いします!

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