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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
1章 彼が幸せから地獄に落ちゆくまでの転落譚
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7話 救済の一言

優貴が質問を受けるところから始まります!


視点変更は


優貴→椿→優貴→椿→優貴


と目まぐるしく変わります。ややこしくなってしまい、申し訳ございません。

 班長は、俺の目を見据みすえて話し始めた。



「じゃあ早速質問するけど、いい?」


「……はい」


「まず、この女性は?」



 彼はそう言うと、1枚の写真を指差した。自分の記憶から持ってきた写真なので、見覚えがあるのは自明の事だった。

 その写真には、きらびやかな茶髪をしたポニーテールの女性が微笑んで写っていた。



「彼女は増田ますだ亜喜あき先生です。俺の住んでいた孤児院の、生活指導係の1人でした」



 班長は顎に手を当て、少しうつむく。迷うような素振りか、少し間を空けて言う。



「多分、その名前は偽名だよ」


「偽名?」


「うん。彼女は易々と本名をさらしたりしないはず……」



 はず、ということは確証は無いということか? 彼女は一体……



「こいつは巨大な罪人組織の幹部よ。」



 俺は驚き混じりで、声の主の方を向く。

 声の主であるすみれさんは、まるで気色悪い虫を見るような目で亜喜先生を睨んでいる。



「組織の名前は『プロ・ノービス』。そこは罪人を多く所有していて、一般人を殺傷する犯罪を繰り返しているの。こいつは組織内では『朱雀すざく』って呼ばれてるわ」


「プロ・ノービスとは?」



 菫さんは声にならない笑いを浮かべる。伝わってくる失望の念は、俺の質問に対してでは無いだろうが。



「ラテン語で『成り代わり』って意味らしいけど、正直言って意味不明でしょ? 何を目標にしてるのか、どこにあるのか……見当もつかない組織なの」


「でも、亜喜せ……朱雀は俺の孤児院に居たので、そこなのでは?」



 俺の疑問に対しては、代わりに班長が答えた。



「可能性はあるけど、まだ罪のない子供たちを巻き込んでまで突入するには危険性リスクがありすぎる。この組織は何をするか分からない……子供を人質にとるなんて造作ぞうさもないことだろう」


 俺は口を閉ざした。孤児院では、和也かずや以外にも関わった大事な人が大勢いる。……俺にとったら酷な話だ。


 彼は寡黙かもくになった俺を見る。目が合ったが、俺は必死に目を下に逸らす。


 ……こんなの、救われるわけないじゃないか。むしろ、これは拷問ごうもんに近い。



「……とにかく、この組織について今分かっていることは、罪人を使って人々を殺傷していること。そして構成は、長が1人、幹部が4人、大勢の部下がいることぐらいだね」



 彼は俺の様子を気にかけた()()()なのか、俺に話を振った。



「優貴くんは、『中国の五神』の話は聞いた事ある?」


「……聞いた事ないです」


「中国の神話の1つだよ。『青龍せいりゅう』、『朱雀すざく』、『白虎びゃっこ』、『玄武げんぶ』……そしてその長が『黄龍おうりゅう』。この組織もそれになぞらえられてる」



 だから幹部が4人、長が1人か。

 ……気がついてみれば、ここに来て俺は何を聞かされているんだ? もう、ここにいる意味は無いな。


 俺はそう思い、足に力を入れ、尻を浮かせて立ち上がろうとする。しかし、


「……だけど、今確認されてる幹部は3人なんだ。何故1人居ないのだろうね?」



故意か偶然か、彼は俺を静止するように質問した。それも、俺に聞いてもどうしようもないものだ。


 苛立ちを表すように思いがけず目の下をピクっと動かす。立ち上がる機会を失い、もう1度椅子に背をもたれる。



「分からないですね」



 対応が面倒くさい、という思考が心から這いずり出るかのように適当な返事をした。



「私、飲み物持ってくる。お兄ちゃんは待ってて」



 彼は頷いた。そしてそれを確認した菫さんは、スタスタとこの場を去った。



   *



 こうして今、この場は俺と彼の2人が対面する形となった。立ち去る機会を再び得ようとしても、彼の顔を見ると何故か本能的に体が固定される。彼は俺の強ばった顔を見ると、こう話した。



「……疲れてるみたいだし、質問は最後にしようか。この施設って何かな?」



 彼の白い手袋越しの指が差したのは、まさしく孤児院で噂になっていた『あの』施設だった。



「……っ!」



 写真の景色が踊り出す。

 これは写真だ。確かに写真だ。なのに、なぜ映像のように動こうとする……!?


 ……この()()には、和也が見えるような気がする。血みどろの和也が。銃で撃たれて、項垂れている和也が。



「……優貴ゆうきくん?」


「はぁ、はぁ……っはぁ!」



 誰かの問いに、俺は乱れた呼吸音で答えることしかできなかった。途端に、呼吸の戻し方を忘れる。

 誰も彼も見ず俺はただ誰かの指先にある、写真に近い映像を目に留めていた。



   *



 この映像はフラッシュバック……言わば、生者の走馬灯。写真が動いている訳あるまいが、目や脳が錯覚して強制的にあの時を映そうとしている。俺を……とそうと。

 そう自覚はできても、意識はこの錯覚を明瞭なまでに手放さなった。


 ここに行かなければ和也かずやは死ぬことはなかった。俺の無力さを実感することもなかった。

 そんなことを思っては後悔する。そして自分自身に憤慨ふんがいする。


 ああ、後悔の色はこんなに黒いのか。いや、これは本当に後悔なのだろうか?



 ……はっ、そうか。どうやらこれは……



『自殺願望みたいだ』










 * * * *





 ……これが優貴くんの地雷か。その証拠に今、息が乱れている。それ程までに、ここで起こったことに対してトラウマを植え付けられたのだろう。

 ……救い出さなければ、彼を。



 もう、『罪人を救おうとするのは辞めた』はずだったのになぁ……。



俺はそう思いながらも『班長』としてでは無く、1人の罪人として彼に言った。



「優貴くん。失敗は誰にだってある。だから自分を責めちゃだめだ……なんて、俺は絶対に言わない」



 優貴くんは俺の言葉にどう反応したかはよく分からない。分からないけど、例え無視されていても俺は続ける。



自責じせきするのなら、とことんしたほうがいい。そうしたらいつか必ず、それは『決意』になる。だけど途中で自責をめたら、それは『後悔』になる」



 失敗は成功の元、と言うがあれは不十分だ。何かに失敗して、どこで失敗したか、何故かと失敗を責める。その行為が成功しようという決意になって、実際に成功へと繋がるんだ。……()()()()()()()()


 俺の言葉が届いたのか、優貴くんの息が整ってきた。俺はもう一言話した。



「ただ、責めすぎも自己破壊の原因にある。……辛いことがあったら、無理をせずに話してね。班員一同、君の味方だよ」



 だって、ここにいる班員の全員は、君と似た境遇の人だから……。










 * * * *





 誰かが言ったその言葉は、どこか突き放していて、そしてどこか考えさせられた。

 意識すら支配されていたのに、まるで正座した後の足の痺れがじわじわと治るような、あの独特の感覚が全身を駆け巡った。


 彼は……彼も、これを経験したのだろうか。だからか、妙に親しみ深かった。



   *



 ふと我に返ると、写真は写真だった。無機質な施設が映っただけの。

 ぼうっとした意識から目が覚め、俺は顔を目の前の男性に向けた。彼は、悲しそうな目をしていた。


 気がついたら、『さぐり』とか『値踏み』とかいう下卑げびた思考は記憶から脱落していた。さらに……



「……この施設は、人体実験をしてるという噂がありました」



その時だけは何も考えずに、まるで原稿を棒読みするような話し方をして説明していた。不思議だ、と後から自身でも驚くほどに。



   *




 夢見心地でも、班長に起こったことを洗いざらい話す。途中途中で、視界がぐるっと逆転しそうになる。その度に、彼は優しくさとしてくれた。

 同情するな、とは言えなかった。彼には同情する権利がある、ということがひしひしと伝わってきたから。


 人事ひとごとという訳では無いのに、話すのが楽だった。というよりは、話すたびに楽になった。



   *



 全て出し尽くした後、目の前にいた彼は少々驚いた顔をしていた。



「……君が罪人になったきっかけの人物が、まさかこの少年とはね」



 気がつけば、顔の角度が少し傾いていた。彼の言うことがさっぱりだった。

 この少年……ということは、彼の持っている写真に写っているのは和也なのか……?


 彼はあえて俺に見せないためか、写真を伏せて話を続けた。



「ああいや、てっきりこの4人が原因だと思ってたから。だって写真を見る限り、『この子は致命傷なんて無いから』ね」


「……っ!?」



 俺は期待通りの答えを待って、固唾かたずをのむ。彼もまた、疑念の目をして顎に手をあてる。



「可能性の話だ。可能性だけど……この少年、『恐らくまだ生きてる』」



 可能性、を念押しした彼の言葉に俺は荒々しく椅子から立ち上がった。期待通りの言葉だったからだ。



「そ……それは本当ですか?」


「あくまで可能性だけどね。出血多量の場合もあるけど、専門家でも判断できないほど生死不明だね」


「ほん……とう、に……?」



 俺は3度目の着席をした。1度目は疑惑、2度目はいきどおり、3度目は感極まって。



「これ、机に置いとくから後で目を通してね」


 班長は何かを察知したらしい。写真を回収して、テーブルに賞状のような物を置くと、音をたてないように退室した。










 * * * *





 俺がその場を後にすると、飲み物を持った菫がすぐ近くにただずんでいた。そういえば飲み物を持ってくると言ってたな。


 その飲み物は緑の色をしていた。まあ、お茶だろう。

 湯のみに触れると、手袋越しにほんのり温度が感じられた。



「温かいお茶って……この場に合わないんじゃ?」


「そう?」



 菫は昔っから、何かを選ぶセンスが無いからな……。



「いつからここに?」


「ちょうど施設の話をする時くらい」


「入っても良かったんだよ?」


「はあっ!? 入れる雰囲気じゃ無かったじゃない!」



 菫は声を弱めて怒った。一応優貴くんに気を使ってる辺り、いかにも菫らしい。


 彼をより1人にさせてやるためにも、俺は菫に話した。



「じゃあ戻ろうか。……そのお茶、誰にあげようか」


「そうねぇ……あっ、お兄ちゃんが飲んでもいいのよ?」



 菫は嫌味を含めてそう言った。雰囲気がそうさせてるのか、表情は固いままだ。



「あはは……気持ちだけ受け取っておくよ」



 俺はその言葉を軽く流して片足を前に出す。菫は「ふっ」と失笑して俺についてきた。










 * * * *





 気持ちが少しだけ落ち着いて、俺はゆっくりと彼の置いたものを覗き込む。





┏                  ┓

       上浦かみうら 優貴ゆうき 様          


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『暴行罪』の使用許

 可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後、5分間

 自身の身体能力、及び抵抗力を5倍にす

 る能力です。


 『発動条件』:目を3秒(つぶ)る。


 『発動中、あなたが有する利点』:自然

 治癒力の上昇。


 『発動中、あなたが有する欠点』:身体

 への負担増加。            

┗                  ┛





 潤んだ視界でも文字は読むことができた。ゲームとか、アニメとかでこういうのを見たことがある。本当にこれが使えるようになるのか……。



   *



 先程から目をつぶっていてもこれといった変化は表れなかった。何か他にやることがあるのだろう。


 目の前にあった使用許可証を手に取る。……これは和也が残してくれた、挽回ばんかい機会チャンスだ。そう思うことで幾分いくぶんかは超能力を理解できた。


 さすがに心の傷が完全にえた訳では無い。ただ眠ることすらできなかったあの時の俺よりは、いい意味で変わった気がする。

 和也はまだどこかで生きてるという、奇跡に近い可能性が見つかったから。彼の笑顔を思うたびに、また泣いてしまう。



   *



 結局、鼻をこする。涙が一筋、頬をつたう。その涙は口角をなぞったことを感じて、俺は始めて薄笑いをしていたことを自覚した。

とりあえずここで1章は完結です。ここまでのご愛読ありがとうございました!


2章では戦闘シーンが多くなる予定です!


ご感想、ブックマーク等して頂けたら本当に嬉しいです!


宜しければ、次回もよろしくお願いします!

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