69話 試合と試合、そして試合
(遅れて本当にごめんなさい!)
新章が開幕しました!
罪人取締班で行われた、和也と聖華の練習試合から始まります!
* * * *
「……うし! じゃあ、宜しくお願いするぜ!」
「威勢がいいねぇ! こっちこそ、宜しくね!」
練習場に気合いの籠る声が響く。和也と聖華、両者睨み合う。
優貴と美羽、芽衣は、──いくら練習試合だとしても──その緊張感に飲み込まれていた。
そんな雰囲気の中、椿は右腕を大きく上へ持ち上げる。
「いくよ……始め!」
椿の右腕が勢いよく下に振り落とされる。と、同時に和也と聖華の、「《発動》!」という声が重なって響いた。
聖華の前方には、巨大なスケールの障壁が張られた。それに物怖じせずに、和也は吹き飛ぶように前へ跳ぶ。
「【五蕾・凶鐘】!」
空中で無理やり上半身を起こすと、右膝を障壁へと思いっきり打ちつける。障壁は完全には割れなかったものの、軽くひびが入った。
和也は目にも止まらぬ速さで、ひびの中央部分を左足の裏で蹴る。あの頑丈な障壁が、僅か二撃で完全に砕けて消えた。
ただ、聖華もそれを見越していた。和也が突進してくる寸前で、既に二枚目の障壁を展開していたのだ。
そのため、和也が障壁を壊しても聖華の元にはたどり着けなかった。
「うわ、攻めれねぇ! 卑怯だぞ!」
「けど、守るだけじゃないよ! 《発動》! 【激昂・掌底】!!」
再び張り直される障壁は、縦方向ではなく、横方向に展開された。その先端は和也の腹を押し、そのまま向こう側の壁まで運ぶ。
その体勢では障壁を壊すこともできず、そのまま壁と背中を打ちつけた。
「って!」
「ふふん、どうだい!」
自分と同じ戦法を食らった和也を見て、優貴は不思議と安心した。
優貴と違ったことは、和也は迷う素振りもなかったことだ。障壁の上に乗ると、また聖華に向かって走り始めた。
聖華はすぐさま足場にされている障壁を消す。突然足場がなくなった和也は一瞬驚いた素振りを見せたが、落ち着いた着地をし、走りを再開した。
聖華はすぐに二枚目を張り直す。次は縦方向に。
「……暑いねぇ」
ふと、聖華の額から冷却シートが剥がれ落ちる。能力の後遺症がまだ治っていないのか、聖華の発汗スピードが段違いに早かった。
聖華が汗を拭う中、和也は空中で、両足の裏を聖華に見せるような体勢になる。
「二枚とも、一気に壊してやる!」
「一気にかい!? ならやってみな!」
和也は障壁に、両足蹴りを思い切りぶつける。
「【五蕾・難釘】!!」
二枚重なって張られていた障壁が、一気に壊れてしまった。
本当にできるとは思ってなかったのだろう。聖華は目を丸くして、すぐに笑みをこぼした。
「へぇ、やるじゃないか!」
「ふふん、どうだ!」
バネを縮めるほど元に戻る力も大きくなるように、限界まで溜めて放った一撃。隙は大きいが、当たれば高威力の技。
和也は、優貴が思うよりももっと強かった。ただ、嫉妬する訳ではなく、だからこそ追いついてやらないと、と優貴は少しだけ楽しみになっていた。
*
和也が勝ち、という結果で和也と聖華の練習試合は幕を閉じた。
次に始まるのは、美羽と芽衣の練習試合だった。
「よし。練習とはいえ、本気でいくよ!」
(って言っても、あまり動いちゃダメなんだけどね……)
「はっ、はい! 宜しくお願いします!」
芽衣は戦闘向きではないためか、美羽との練習試合を所望した。美羽自身も、どちらかと言えばサポート系だからだろう。
しかしそういえば、美羽が「やっと戦える!」と言っていたことを、優貴は思い出した。何か秘策があるのだろうか?
「それじゃあ……始め!」
椿の合図で、美羽は何かを取り出した。それは──
「……ゴム、ボール?」
「そ! ゴムボール!」
「えい!」と美羽は芽衣に向かって、それを投げ出した。不思議な投げ方だったが、優貴が想像している何倍か、それは速かった。
芽衣は反応できずに、それに当たった。ゴムだから、そこまでダメージはなさそうだった。
驚く芽衣や優貴に対して、美羽が誇らしげに話す。
「実は私、高校のときは女子ソフトボール部のピッチャーだったんだよ! 意外でしょ?」
芽衣はともかく、優貴にとっては意外だった。あまり運動できる印象はなかったからだ。
そんなことを優貴が思っていると、美羽はまたゴムボールを構えていた。あの構えと投げ方は、ソフトボールの投げ方だったのだろう。
「もういっちょ、いくよ!」
「えっ!?」
そう言って美羽は、もう一度投げた。直線状の軌道だったため、頑張って芽衣が避けようとした時だった。
美羽は両手を地面につけると、「《発動》!」と宣言した。
「うわっ!?」
「どうだ、驚いたでしょ?」
何が起きたかと言うと、飛ばしたゴムボールと美羽の位置が変わると、芽衣に抱きつくように美羽が飛んできたのだ。
芽衣は衝撃に耐えきれないで尻もちをつく。
美羽は体を密着させた状態で、手錠を素早く出して芽衣の手首に施錠した。
「ごめんなさい……。驚いてばかりで、全然でした……。ふぅ、まだまだです」
「私も最初そうだったよ! だけど、少しずつ慣れてくから!」
「そう……ですかね? あっ、それともう一つ謝ります」
芽衣はくいっと美羽の右耳に顔を近づけると、誰にも聞こえないように言う。
「ごめんなさい。この状況、優貴さんじゃなくて私で」
「────っ!?!?」
美羽は突然、顔を紅潮させる。そして、芽衣と反発するように体を離した。
芽衣は勘が確信に変わって、悪戯な笑みを見せる。
「そ……それ、誰にも言わないでね? シーっ、だよ?」
「ふふっ、分かりました」
人差し指で唇を抑える美羽を見て、芽衣は再び笑った。
「美羽さんの勝ち……で、いいよね?」
椿は戸惑いながらも、練習試合に決着をつけた。
ただ、美羽と芽衣の間で始まった別の試合に、決着をつける人はいない。
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