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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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68話 終結した異能力の闘争

 * * * *



 日差しが暖かく差し込む、秋の終わり。ゆっくりと平穏が戻っていく日本。

 途端に扉の開く音。それは静かな仕事場を軽く刺激した。



「ただいま戻りました! 本日より復帰します、天ノ川(あまのかわ)美羽みうです!」


 周りの人も顔がほころぶような、溌剌はつらつとした声。その声の主、美羽はかしこまったように、右手で敬礼の姿勢をとった。



「もう大丈夫なのかい?」

「そこまで大した怪我ではありませんでした! 少し、能力を使いすぎただけだったので!」

「まあ、能力の後遺症はゆっくりと治すといいよ。ま、あたしもそうだしねぇ」


 聖華せいかは自分の額に貼ってある、冷却シートを指さして言った。能力の使いすぎは、しばらくの生活に支障をきたすらしい。

 ただ、能力の使いすぎ以外にも、生活に支障をきたす者もいた。



「でも、美羽さんが来てくれてよかった。戦争の収束の仕事、その大半が取締班に回されたからね」

「……そうだ、美羽。ここの所分担してもらえないか?」


 椿つばきの、黄龍に貫かれた左腕は動かなかった。既に、『義手』をつけていたからだ。

 優貴ゆうきは過度の筋肉疲労で、腕を持ち上げるのに精一杯の状態だった。さらに所々の傷口に包帯を巻いている。


 美羽は、優貴の指さしたパソコンの画面を覗こうと足を踏み出そうとする。



「あっ……」


 その瞬間、美羽の視界に映ったのは一つの机だった。誰も座っていない、椿の隣にある一つの机。

 そこには聖母のような、穏やかな笑顔の金髪の女性の写真が飾られていた。


 又聞またぎきだった美羽も、その写真を見ると表情が暗く落ちた。

 胸が張り裂けそうになるのを振りほどいて、美羽は歩みを再開した。



「……そうそう、新人が来るんだって。知ってた?」


 嫌な雰囲気になると察したすみれは、咄嗟とっさに話題を変えた。


 実際、素っ気ないように振る舞っているしょうと菫には、とてつもない罪悪感がつのっていた。

 情報提供役とはいえ、自分たちが何一つ傷ついていないことに。戦傷せんしょうのない自分達にとって、この仕事場はなかなかくるものがあるのだ。


 話を変えた菫の意図を察してか、椿はその話を深める。



「新人は少し運が悪いかもね。こんな大変な時期に……」

「お兄ちゃん、また新人に『アレ』するの?」


 『アレ』というのは、記憶を取り出す作業のことだ。

 椿は首を横に振る。



「いや、新人の意向に任せるよ。取り出してもいいか、聞くだけ聞いてはみるけどさ」


 菫は「そっか」と言って画面に向き直った。

 椿も片手で作業を再開した。



   *



 二人は、罪人取締所の玄関に足を踏み入れた。扉まで歩いている途中、話をしていた。



「……なあ、やっぱり今日は来ない方が良かったんじゃねえか?」

「どうせここまで来たんです。それに、ちゃんと時間を守らないと、きっと怒られちゃうので──痛っ!」


 少女は足を抑えた。それを見かねた少年は、少女の前にしゃがみこんで言う。



「じゃあせめて、あの扉までおぶってやるよ」

「──前みたいなおんぶは……恥ずかしいので」


 少女は、以前に少年にされたおんぶが、妙に頭に残っていた。そのためか、恥じらいを覚えたようだ。



「ん? ……おう、そうか!」


 考えることをやめた少年は、適当な返事をした。

 そうこうしているうちに、扉の前にたどり着いた。『事務室』と書かれた扉だ。



「よし、開けるぞ!」


 荒々しい扉が開かれる音。仕事中の班員がその奥から見たのは、二人の顔だった。



「今日から班員になる、来藤らいとう和也かずやだ!」

「同じく、籠宮かごみや芽衣めいです」


 二人は仲良く頭を下げて言う。



「「宜しくお願いします!」」



   *



 特に話題性のない質問タイムと自己紹介、班員証贈呈を終わらせたあと、椿は二人に質問した。



「二人の過去を教えてもらっても大丈夫かな?」

「おう、俺はいいぞ! ……って言っても、そんな面白くねえけどな!」

「私は……一度考えさせてください」


 二人のそれぞれの返答に、椿は頷く。

 そうして和也は椿、菫とともに他の部屋へ向かい、芽衣は優貴と美羽に仕事の説明を受けた。


 仕事の説明にそこまで時間がかからなかったため、空いた時間で芽衣は質問した。



「あの……天舞音あまねさんは、どこにいらっしゃるんですか? 私、天舞音さんに庇ってくれたお礼を言いたくて……」


 「ああ、」と優貴が声を零すと、そのまま話し続けた。



「天舞音さんは今、病院で療養中だよ。そうだ、会いたいなら病室まで連れて行くけど、どうする?」

「いいんですか? 優貴さんの時間が空いた日は──」

「わっ、私も行く!」


 美羽はどうしてか、口が勝手に動いていた。目をパチクリさせ、動き終わった口をそっと手で抑えた。



(あれ? 私なんで……)

「そうだ、そういえば美羽もお見舞い行ってないからな。じゃあ三人で行くか」

「……ほほぉ?」


 何かに気づいたのか、芽衣は僅かに口角を吊り上げた。

 美羽は一見大人しそうな芽衣に、その顔をされたのがどうにも恥ずかしかったのか、「す、少し待ってて!」と言って事務室を後にした。

 優貴は首を傾げながらも、どうして美羽が出て行ったのか深くは考えなかった。



   *



 後日談、椿は二人に例の質問をしたそうだ。



「その……変な意味じゃなくて、二人に髪の毛を一本分けてもらえないかな?」

「うげ……。お前、そんな趣味あったのかよ……」

「ち、違う! 能力の発動に必要なんだよ!」


 和也は少し距離を置くように後ずさりした。椿は、何とかその誤解を解こうとしていた。

 そんな中、芽衣は椿の肩をチョンチョンとつつく。



「班長。私、黒い髪の毛と赤い髪の毛があるんですけど……どっちがいいですか?」

「えっと……色は特に問題ないかな」

「あっ……うん、じゃあ俺も髪の毛やる!」


 椿の趣味と芽衣のおかしさを知った和也は、考えることを止めた。


 こうして椿は茶色と赤色の髪の毛、計二本をしまった。





 * * * *





「ボスぅ。戦争終わっちゃったけど、これからどうするのぉ?」


 ゆとりのある女性の声。そこに、少年の声が答える。



「今は不均衡。天秤が大きく傾いているときだね。つまりだ、その天秤の軽い方の皿に着地する必要がある。これは絶対的真理で、世界を安定させるためだ。……時は金なり。始めるよ、世界的なボランティアを、ね」





 * * * *






 戦争の復興は時間がかかる。そして世間は、罪人がこの戦争を引き起こしたと話題にしている。

 罪人の評価は、もはや負の数になるほどだった。


 それでも、世界が回る限り、罪人取締班は罪人の対処をする。

 それぞれの誓い、想い、使命感を胸に。


 それが、罪人としての存在価値だと信じて。その価値が、いずれは評価されると信じて。

ここまでがとりあえず、物語の大まかな前半部分です!

本当にここまでのご愛読ありがとうございます!


後半部分も引き続き書いていきますので、これからも宜しくお願いします!


前半の感想等々していただけると、本当に嬉しいです!

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