66話 二度は起こらない悲劇
和也が参戦した所から始まります!
* * * *
「命令変更だ! 三人ではなく、こいつを含めた四人だ!」
青龍は和也を指さすとそう言った。と同時に、黄龍、狙撃手を含めた罪人十四名が目標を睨む。
優貴、和也、椿、聖華は、ほぼ四面楚歌の状態の中で警戒を強めた。
「っ──和也くん、といったよね?」
「お、おい! 立つなって!」
椿は、和也の制止を振り切って立ち上がる。両手共々銃で撃ち抜かれ、特に左腕はほぼ機能してなかった。
「……銃で撃たれたら痛てぇ。俺にも分かる」
「だからといって……班長たるもの、休むわけにはいかないよ。それより──」
椿は和也に、青龍の能力を簡略に伝えた。
「なるほどなぁ。趣味が悪ぃ能力だな。だけど……」
和也はそう言い残すと、青龍の所へ向かった。咄嗟のことに驚く椿を尻目に。
「要は、敵を倒し続けて、青龍を倒せばいいんだろ?」
もちろん、黄龍が行く手を阻む。紫の針を四本出し、和也を刺し殺そうとしていた。しかし、和也もそこまで愚かではなかった。
「【五蕾・災雨】」
四本の針の根元辺り、そこに前蹴りを的確に放つ。針が後ろの方へなびく。針が無力化された瞬間、黄龍の左頬目掛けて上段回し蹴り。
黄龍の体は左側へ吹っ飛び、優貴と聖華の足元に転げ落ちた。
まるで、バトル物のアニメの主人公のような、そんな立ち回りを披露した和也。戦闘中にも関わらず、敵味方共々釘付けになった。
無理もない、仮のボスを、一瞬で片付けたのだから。
「なんだよ──こいつ!」
青龍は咄嗟に罪人を二体ほど出した。壁の代わりと思ったのだろう。しかし和也はそれを、文字通り一蹴した。
そのままの勢いで、青龍との距離を詰める。しかし、まさかのタイミングで、最悪の事態が起きた。
「やばっ……」
能力の時間切れだ。どうやら、五分を見誤っていたのだろう。
直後、パァン、と耳を劈くほどの銃声が鳴る。
「……うっ!」
和也は苦悶を明確に表す声を出す。彼の右手の甲からは幾筋もの血が流れる。
痛みをこらえるためか、ゼェゼェと息を荒らげる彼は2人を睨み続けるものの、利き手の負傷で抵抗は全くできる状態では無い。
狙撃手が撃ったのだ。隙を見逃さないあの狙撃手に。
手の甲なだけ、まだ軽いが──優貴は、和也が目の前で撃たれたのにも関わらず、何も声を発することもできなかった。
*
まただ。
また、俺は立ち向かう和也を見ていることしかできなかった。
また、和也は銃で──。
『……また?』
──いや、違う。
『……何が?』
俺は、あの時とは……違う!
『……なら?』
──なら。
『「もう二度と──同じ過ちはしない」』
そうだ、何をしているんだ!
もう、あんなことは、起こしたくない!
次は和也じゃない、過去の弱い俺を殺す……!
『「次は、絶対に助ける!」』
*
優貴は気がついたら走っていた。
本能に近い行動、救い出す使命。
それが彼の全てを掻き立てた。
再び鳴り渡る銃声。和也に銃口を向けていた狙撃手。
「優貴……ありがとな!」
そして、立ち上がる和也。
優貴の腹に当たった銃弾は地面に落ちた。
何を思ったのか、優貴は深呼吸した。そして一言、「護れたぞ」と呟く。
「……? 俺は最初から、優貴なら銃弾を護れるって思ってたぞ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……とにかく、早く能力を」
「そうだった」と、和也は自らの足の甲を、靴越しに手で触れると「《発動》!」と言った時だった。
「……うまく、いくと思うな!」
青龍は更に罪人を生み出した。外にほおりだした罪人らの半分を、この場に招集し始めたのだ。
「予定変更だ! 外の奴らの前に、あの四人を──」
「四人ではないぞ! 妾達もおる!」
どこからともなく、声がした。幼い女の子のような、透き通った声が。
声のした先に慌てたように目を向ける。するとそこには──。
「み、魅風さん!? 勝さんに、昌也さん、源五郎さんまでどうして!?」
「それだけじゃない、徳人さんに広さん……まさか──全国の罪人取締班が!?」
椿の言う通りだった。その彼らが、無数の大きな穴から続々と飛び降りてきたのだ。
「なるべく動ける班員を持ってきたよぉー」
どこかで聞いた声。忌々しさを思い出すような声。
その方向にいたのは──。
「狩魔……! どういう風の吹き回しだい!?」
「これもボスの命令だからねぇー。じゃあ、後は頑張ってねー」
「あっ、おい、待ちな!」
聖華の声を無視して、狩魔はその場にサイコロを残して消えた。
RDBの目的はどうであれ、和也を除く三人は、これを好機だと考えた。
「なあ、あれって味方か?」
「ああ、応援が来た感覚でいい」
和也の問いに、優貴は答えた。
しかし、さすがに青龍も黙ってはいなかった。
「何が起きたか知らないが──その気なら、徹底抗戦してやるよ! ボクが出せる、最大数を見せてやる! お前ら──アイツらを根絶やしにしろ!!」
青龍は外にいた全ての罪人を、この場に呼び寄せた。さらに、先程までいなかった罪人も、全て出し始めた。
これで、人数的にはほぼ等しくなった。そして、誰が合図した訳でもなく、一斉に激突した。
*
誰が発案した訳でもないが、特攻隊と防衛隊に分かれるような戦いを始めた。
「前線は私たちを中心に抑えます! あなた方はあの男を!」
防衛隊となる徳人の言葉に、特攻隊の優貴、聖華、椿は頷く。
そして、その三人と和也を中心に、取締班らは青龍の方へ駆け出し始める。
すると、何らかの意図を察した死人の罪人らは、すぐさま特攻隊の行く手を強靭に阻んだ。
「先に行け──【突風】!」
勝は特攻隊の最前線に立って、それらを吹き飛ばした。勝を含めた数人は、横方向からの死人を対処するため、その場に留まった。
それを繰り返して、敵の軍隊の内部を抉り込むようにして入っていく。
しばらくすると、まるで人が材料の壁のように立ちはだかる場面が現れた。青龍まであと一息といった所でだ。
すると、広は特攻隊の先頭に立って、日本刀を縦に一振り。
まるでモーゼの十戒の海のように、壁は真っ二つになった。
広も横の対処をするためにその場に留まり、ただ一言「急げ」と言った。
*
青龍の近くに罪人はほとんどいなかった。強い罪人の戦闘を、弱い罪人で邪魔したくないという、青龍の作戦なのだろう。
その割には、青龍は少し焦った表情をしていた。
その場にいたのは、特攻隊の優貴、和也、聖華、椿。
そして青龍、黄龍、狙撃手、そして……。
「……やっぱ──趣味悪いよ、あんた」
無言で立ち尽くしていた、無表情の凛だった。
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