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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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65話 間違いだらけ

遅くなってしまい、申し訳ございません!


今回は、青龍の過去を綴りました!

 * * * *





 お父さんは元々、ある大手ワイン企業の社長だった。そこの社員であるお母さんと恋に落ち、共に仕事を手放して、地方で暮らすようになった。

 その後にボクが産まれた。赤子の中だと小さいほうだったらしい。


 ボクは、どんなことがあっても支えてくれる優しいお父さんと、周りの人を笑顔にする優しいお母さんが大好きだった。

 近くの学校で、友達とのんびりと過ごし、家に帰っては、農家として働き始めた両親の手伝いをした。


 そんな暮らしが大好きで幸せで、もはやこれ以上望むとばちがあたりそうだった。



   *



「ねえねえ! 青泉あおい共由ともゆきさん! コレ見て!」


 気品がありそうな声色。その実、無邪気な子供のように弾んだ声。ボクのお母さんの、いつもの声だった。

 ボクとお父さんは彼女の背後から、スマートフォンをぬっと覗き込んだ。

 するとそこには、『最近のトレンド! 神秘の甘さのリンゴ、「神木のしずく」!』と書いてあった。



「すごい! これってボクたちのリンゴだよね!?」

「人気になるのは嬉しいことだな。今までの苦労が報われ……ううっ」

「ちょっと共由ともゆきさんったら! ふふっ、困った人ね」


 両親は果物、特にリンゴに力をかけていた。どうして甘いのか、詳しい理屈は理解できなかった。

 お父さんの徹底した土地の管理と、お母さんの丁寧でミスのない育て方でできた、奇跡の代物らしい。


 ボクは少し誇らしかった。こんなすごい、お父さんお母さんの子供で。

 この幸せが続く──と思っていた。あの日までは。



   *



 ボクが十六歳、高校に入学したくらいの時期の日だった。その日、お母さんは都会の方に出向いて、農家として大事な会談をしに行った。

 何でも、あるコンビニ会社のオリジナルスイーツの材料として自分たちのリンゴが使われるとのことだった。


 ボクとお父さんが結果を心待ちにしてた夕方、お母さんが青ざめた表情で都会から帰ってきた。



「二人とも──ごめんっ……!」


 突然、お母さんがその場に崩れ落ちた。綺麗だった目元を抑えた、しなやかな左手からは涙が漏れていた。

 落ち込みとか、後悔とか、そんなヤワなものじゃない。泣く理由がとても、『会談のことではない』ように思えた。



 電車の線路に人を突き落としたのだ。


 と言っても、お母さんもまた、よそ見して話していたカップルに背中を押されたのだが。

 落とされたのは、40代のサラリーマンだった。お母さんが、とっさに助けようとした瞬間。



 右側から瞳を刺すような光が。


 男性の頭は、ちょうどレールの上にあった。もちろん即死だった。

 カバとスイカのような死に方だったらしい。


 お母さんに故意はなく、警察に事情を説明した後、とがめなしで済んだらしい。

 ただ、警察もお母さんが虚偽の説明、もしくは『過失致死』の疑いも調査してるらしい。


 そして、最も恐ろしい事態が起きた。それは──



「私──罪人に、なっちゃった……っ」



   *



 いくら後ろが悪いとはいえ、突き落としたのは自分。『例え後ろに当たられても動じなかったら、そんな能力があったら』、とお母さんは自分を責めた。

 自分の体を完全静止させる能力、『不退去罪ふたいきょざい』。それがお母さんに認められた能力だった。



   *



 お母さんは数日寝込んだ。無理もない、平和な日々から突然の殺人。誰でも落ち込む。


 しかし、寝込んだ後はいつものお母さんに戻っていた。



「青泉? 今日のお弁当には、たこさんウィンナー六体分! ね? 可愛いでしょー」

「数えるなら、六()じゃなくて六()でしょ? 六体はもう怪獣の数え方だよ……」


 だから、ボクもお父さんもいつも通り接した。

 お母さんがボク達に対して望んでいたのは、『変化』じゃない。

 『不変』だ。



   *



 まだ近所にもバレず、家族だけで秘密を守り通そうとしていた日々。

 そんな中でも幸せだった、ボクの十八歳の誕生日の日だった。



「危ないっ!! は、《発動》っ!」


 『眉をひそめた』お母さんは、ボクが反応できないほど素早く身を乗り出した。罪人特有の反射速度だった。


 お母さんが仁王立ちした前にはトラック、後ろには幼稚園児がいた。

 母親は携帯をいじっていて、我が子を監視していなかったのだ。



「お母さんっ!!」

恵理子えりこっ!!」


 ボクとお父さんは、我を忘れてお母さんの下に走り出していた。

 罪人になってから、お母さんは「万が一があるかもっ!」と、能力の練習をしていた。

 能力を使い慣れていたのは不幸中の幸いだろう。



「……けほっ」


 しかし、自分を完全静止するということは、後ろには吹き飛ばない。言わば、エネルギーを全て受けきる危険な行為だった。


 トラックはおかげで完全に止まり、子供も無事だった。

 しかし、当のお母さんは吐血。能力を解除すれば、すぐさま倒れそうだった。



「あれ、恵理子さんよね。何か変じゃない?」

「罪人よ……。あの力は、罪人の力よ……!?」

「前々から、リンゴが突然売れたりするのは怪しいと思ってたけど……まさか罪人なんてねぇ」

「私は最初から、罪人だって疑ってたわよ! ホント、今まで話してた時間返して欲しいわ!」


 人を救った相手にかける言葉とは思えなかった。子供の母親は、その場から子供を抱えると、お母さんには何も言わずにそそくさと退場した。



 (なんだこいつら。これが罪人への差別なのか? 人を救った罪人でもこれなのか?)


 当時のボクは憎悪にまみれた。世界の闇というものを悟った瞬間だった。



   *



 お母さんは、命は助かったものの、大きな怪我が残った。

 もちろん病院に連れていった。初めは手当てをしてくれていたが、担当医者は突然こんなことを言った。


 「もうこれ以上罪人の手当てはしません」と。まだ治療段階だったため、手当てを継続してくれる病院を探し回った。

 しかしどこもかしこも、そんな言葉で一点ばりだった。


 当時は『罪人受付可能の病院』がなかったのだ。


 お母さんが罪人とバレた原因、それがある記事『衝撃的事実! 「神木のしずく」の農家、雲原くもはら恵理子さんが罪人だった!?』というものだ。

 マスコミにとっては、まさに神秘の甘さのネタだろう。



 世界は腐っている。罪人がどんなことをしても悪なんだもんな。

 本当に……腐っている。



   *



 ボク達だけで、お母さんを救うしかなかった。お母さんを個室のベッドに寝かせ、素人なりに努力した。


 初め、お母さんは痛みで少し苦しそうだった。無理もない、縫合したもののお腹が裂けていたのだから。

 お腹だけじゃない、頭や肩、脚、全体的に酷い状態で、とても動けない状況だった。


 それでも、お母さんは笑顔をつくろっていた。ボク達を安心させようとしていたのだろう。

 しかし、その笑顔を見ると心が傷んだ。



 いつの間にか、お母さんは痛みに耐えきれなくなっていた。

 毎日、毎時毎分毎秒、どうしようもできない激痛が走る。


 食事を運ぶ度、ベッドのシーツや横の壁の引っき傷が多くなっている。

 ボクが食事を運ぶ度にこう言われる。



「あの時……誕生日プレゼントを買いに行かなければ」


 お母さんは日頃の痛みで、だんだんと精神がむしばまれていたのだ。


 あんなに心優しい、心の底から喜びを表現できるお母さんが、廃れ、暴れ、のたうち回る。

 挙句にボク達を罵倒ばとうし暴言を吐く。……それでも、まだお母さんの面影はあったのだ。



   *



 ある日の夜、物音がした。お母さんの寝床だ。

 恐る恐る見に行くと、お母さんはいつも以上に暴れていた。


 ──笑いながら。



「あはははっ!! ぎゃははははははっっ!!」


 そこには、ついにお母さんの面影もなかった。


 お母さんが、最後の最後まで大事に守っていた精神モノが、ボロボロだった精神モノが、苦痛に喰らい尽くされたのだ。



 おそらく、痛みで藻掻もがくうちに縫合した腹の糸が抜け、傷口が完全に開いてしまったのがきっかけだろう。

 衣服の腹部分は赤く染まり、他の傷口からも少しずつ赤が侵食した。



「はははっ!! ぎゃっはははははははははっ!! あはははははははははははははははははははははははは…………」


 お母さんは、完全にイカれたラジオのように笑う。


 笑う、笑う、笑う。



   *



 お母さんの葬式には誰も来なかった。実の両親でさえも。

 結局、ボク達に知識がなかったせいで、お母さんを『殺してしまった』。



 もう一度、もう一度だけ、『お母さんと会いたかった』。

 そんな理由で手に入れてしまったのは、『墳墓発掘罪ふんぼはっくつざい』だった。



 お父さんは……恨んでいた。

 あの時救おうとしなかった……いや、どんなチャンスもドブに捨てた自分を恨んだ。


 お父さんは、『自分を殺したい』理由で『殺人罪』を手に入れてしまった。



   *



 お父さんは、プロ・ノービスを立ち上げた。罪人の善行を見せつけて、罪人を認めてもらう団体だ。


 ボクはお父さんに失望した。お母さんが身をもって証明したことを、何も覚えてなかった。

 お父さんは「力で解決せず、誠意で解決する」と言った。

 お母さんと同じ道を歩むことで、お母さんに許してもらおうとしたのか?



 ……違う、違う違う。


 子供を守らなかったあいつも、罪人を悪だと決めつけるあいつらも、人と同じように救わないあいつらも、甘い蜜にたかるあいつらも。

 悪いのは絶対あいつらだ。だから、認めてもらうんじゃない。思い知らせるんだよ。


 お母さんが世界に対して望んでいたのは、『不変』じゃない。

 『変化』だ。



   *



 お父さんは死んだ。プロ・ノービスの罪人を庇うために。罪人を許さない過激派から庇うために。

 最後の最後までボクに笑っていた。プロ・ノービスを任せた、一般人を悪く思わないでくれ。

 そんな眼差しだと一瞬で気がついた。


 ごめんねお父さん。ボクが早めに説得しなかったからだよね。だからそんな、お門違かどちがいなんでしょ?

 お父さんは実質、『ボクが殺した』ようなものだよね。ごめんね。


 でも大丈夫だよ。お父さん、お母さん。



 ボクがいる限り、


 何回でも、


 何回でも、


 よみがえらさせてあげる。



 三人で一緒に、罪人の世界を見ようね。







 ね?

恐らく、残り三話くらいだと思います!


続編は書く予定なのでよろしくお願いします!

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