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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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63話 許せないのは戦争か世界か

優貴、椿、聖華の視点から始まります!

 * * * *




 優貴ゆうきは黒い手記、そして白虎の言葉を椿つばき聖華せいかに伝えた。



青泉あおい……聞いたことない名前だ。青泉という人が黄龍おうりゅうでないなら、その人がボスの可能性はあるね」

白虎びゃっこのその、『あいつ』こそがその青泉かもねぇ。少なくとも白虎なら、黄龍のことをそう呼ばない。それに……」


 聖華はちらりと後ろに目線を移した。そこには、凛の亡骸なきがら()()があった。



「その話を聞いたら、あれの説明もつくしね」

「あれ……とは何ですか?」

「いつの間にか無くなってるんだよ。黄龍の死体がね」


 椿と優貴は聖華の言葉に動揺したように、先ほどまで黄龍の死体があった位置を慌てて確認する。しかし、聖華の言う通り死体は無かった。

 三人が会話に夢中になっていて気づかなかったのだろう。



「本当に消えているね……誰かがずらしたのか、黄龍がまだ生きていたのか、それとも──泡みたいに消えたのか」


 椿は顎に手をかぶせた。彼の考えるときの癖だ。


 そんな中、優貴は凛の亡骸に視線が止まった。

 そのまま彼女の前まで近づいてしゃがみこむと、両手を合わせた。



「……驚かないのかい?」

「いえ、今も驚いてます。前まであんなに身近にいた人が……って。でも、凛さんの為にも、感傷に浸るのはまた後にしようって、震える体を動かそうって思ったんです」


 椿や聖華も心の中で肯定する。長くいた分のショックは大きいが、優貴の言う通り、思い出を思い返すのはまた後にしようと。

 優貴はすっと立ち上がると、二人を見て言う。



「ただ……次にすべきことは決まりましたね。会いに行きましょう──この、戦争の火付け役に」


 椿と聖華は、優貴の言葉に頷く。三人とも、青泉が誰か、行きそうな場所はどこか、ある程度分かっていた。


 青泉が黄龍を操っていたのなら、青泉はまだ生きている。しかし、白虎も朱雀もいない。

 今までボスを黄龍と偽って、安全なところで見物していたのだろう。つまり、青泉はボスではないが、組織全体を見張れるような高い立ち位置にいるはず。


 該当者は一人しかいなかった。聖華すら存在を忘れていた、あの──。



   *



「また生体反応が消えた……はぁ、もっと頑丈に作るべきだったか」


 男はそのような独り言を零しながら、ゆったりとした足取りで外を歩いていた。実験棟、カプセルやパイプ……無機質だらけの、無機質の外を。


 今は劣勢、今回の戦争はおそらく負けるだろう。しかし、自分がいる限り戦争は起こるし起こす。

 彼はそう考えていた。



「さて……仮のボスもとっくに居なくなったし、安全なところで作戦を──」


 突然、男は足を止めた。後ろの気配に気がついたからだ。

 ただの一般人じゃない。殺意がある。

 その瞬間、男は察した。「はあ」とため息を吐いて、無造作の黒い髪を分けるように頭を軽く搔く。



「よく気づいたね、おめでとう」

「あたしが玄武げんぶだったときは気づかなかったよ。まさか、あんたとはねぇ。青龍せいりゅう……!」


 その男、青龍は三人のほうに向き直る。気づかれるはずでなかった正体を、突き止めることができた三人への敬意からだろう。

 しかし青龍の顔は、感情や関心が欠如したような、一種の人形のように冷たく無愛想だった。



「そしてどうするの? ボクを殺すのかい?」

「いや、俺は殺さないよ。生かしたまま、罰を受け続けてもらう」


 一瞬、椿の頭に凛の顔がぎる。その一件は、椿にとって許されるものではなく、死よりも辛いことだった。



「司法による制裁を希望か、さすが警察の一端いったんだね」

「でもまあ、動けなくなる程度にはぶっ潰してもいいんだろ? さあ、覚悟はできてるかい?」


 聖華は、朱雀──あやを悪へと進ませた張本人を目の前に、よくこらえられてると自分を褒める。



「覚悟は──してなかったね、まさかボクが手を下すと思わなかったからね」

「お前は、いろんな人を巻き込んで傷つけて……。例えお前が勝っても、そんな奴が作った世界は要らない」


 傷ついた人たち、騙されて操られた人たち、命を落とした人たち……。

 優貴は例え、彼がなんと言おうと許すことはできなかった。



「『色んな人』……? はっ、いいかい? ボクはね、この世界が大っっ嫌いなんだ……! 罪人を悪だと、一般人を正義だと決めつけてやまない固定概念、先入観! ……うんざりする」


 青龍の感情が読めなかった。怒っているのか嘆いているのか、嘲笑しているのか。

 少なくとも、青龍の逆鱗げきりんに触れたことは確かだった。



「君たちも思ってるんだろ? 罪人への差別、態度や価値観。その全てが物語ってるんじゃないか! 一般人(あいつら)はボク達を人として見てない。そんなの、変えないとだろ?」


 正直、三人は反論できなかった。人を殺すことは悪いのは確かだ。しかし、罪人への態度の数々が悪いのもまたしかり。


 同時に、三人は気がついた。この戦争は、正義と悪の戦いではない。二つの、それぞれの正義の戦いなのだと。


「君たちはどうだ、この戦争に勝って訪れるものはなんだ。それは、()()()()だ。戦争前と何も変わらない。むしろ、この戦争は罪人のせいだと言われ、罪人の評価はさらに下がる。民主主義で窒息するのも時間の問題だ」


 聖華は不信感と怒りをつのらせる。動きそうになる体を必死に抑え、反論した。



「じゃあ、あんたはどうしてこの戦争を起こしたんだい!? 罪人の評価が下がるならなぜ──」

「評価を下げる奴らが悪いんだろ!? 民主主義で負けるなら、多数派の奴らを減らせばいいだけだ! 理由なき侮蔑ぶべつがどれほどの罪なのか、一般人(あいつら)に思い知らせるんだ!」


 彼にどんな言葉も届きそうになかった。自らの正義感を曲げようとしなかった。

 しかし、彼は冷静さを取り戻すと、三人にこう言った。



「……君たちも罪人だ。気が変わったならボクを止めないでくれないか?」


 それは暗に、『この計画に協力してくれ』と言っているようなものだった。


 しかし、三人の正義感もまた強かった。今まで傷つけられて、中には命を落とした仲間もいる。

 だからこんな戦争自体、許せなかった。


 青龍は三人の態度を見て、『眉間を抑えながら』「そっか」と呟いた。



「まあ、薄々予感してたけど、それでもそっちにつくのか。なら、無理やり協力してもらうよ……《発動》!」


 刹那、そこから出てきたのは……先程まで聖華と椿、凛と死闘を繰り広げた相手、黄龍だった。



「ボクの能力は『墳墓発掘罪ふんぼはっくつざい』、死者を蘇らせる能力! 君たちを殺して、ボクの能力の礎としてあげるよ!」

「まさか、お前は黄龍──実の父親を殺したのか!?」


 優貴の問いかけに、青龍は驚く。



「……キミがどうして、黄龍を父さんだと知っている?」

「黄龍の手記を読んだ。お前、青泉が暴走すると」

「手記……? まあいい、ボクが父さんを殺した。父さんは、一般人を庇う愚かな罪人だからね」


 「それより」と青龍は言い放つ。



「ボクは死者と、視覚と聴覚を繋げるんだ。そこで、君たちの戦闘で面白いことがあったね。凛さん、だっけ?」


 椿の顔がこわばる。



「あの人、ボクの作った()()()()と共倒れしたよね。本当に無意味だったよね、彼女の犠牲は。ボクの仲間になっていれば──」

「……おいてめぇ、それ以上口にするなよ……?」


 椿の気迫に、青龍は少しされた。聖華も、優貴も。

 椿は手袋を脱ぎ、「《発動》」と言った。

ご愛読ありがとうございました!

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