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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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62話 弾けろ執念

遅くなってしまいました、ごめんなさい!

さらに、今回は長めです!

(キリよくしようとした結果、失敗しました)


優貴の1対2の状況から始まります!

 優貴ゆうきは思考を巡らせた。洗脳を解くために和也かずやへ攻撃すると同時に、力が段違いの白虎びゃっこの攻撃を避けなければいけない。


 白虎の能力は『傷害罪』、力を十倍にする能力だ。対して優貴の能力の『暴行罪』は力を五倍にする能力。

 『傷害罪』は俗に言う、『暴行罪』の上位互換というやつらしい。



 白虎は薬を一つ呑み込む。関節を鳴らすと同時に、「《発動》」と高らかに言う。

 優貴もまた、能力発動のために目を閉じる。どこで何が起きるか把握できない暗闇の中で、こわばりながらも一、二と数える。しかし──。



「っ…………!!」


 声にならない悲鳴を出す優貴。腹にはえぐれるような衝撃。硬い何かで殴られたような一撃、それは和也の飛び蹴りだった。

 優貴はその威力に負け、後ずさりした後に腹を抑えてうずくまる。


 幸いなことに、優貴の能力はまだ発動中だったために腹を貫かれなくて済んだ。

 優貴は能力の時間を延長しようと、能力を発動しようとしていたのだ。


 優貴が耐えているのは、痛みよりも衝撃に驚いて目を開けることだった。三秒目を閉じたため、「《発動》」と優貴は言った。

 直後、優貴は目を開けると一度後ろへ跳ぶ。

 一方、追撃しようとしていた和也の足は、当てる対象を無くしたまま地面に叩きつけられた。



「はあぁぁっ!」


 すぐに前へ跳ぶ優貴。その気合いが入った拳は、和也の胸めがけて投げ出された。

 和也は咄嗟とっさに体を、右へとひるがえす。


 和也は両手を優貴の頭上で組むと、そのまま鈍器の如く振り下ろした。

 優貴はそれよりも早く、両足で地面を蹴ってそれを回避する。



「あめぇな、おい」


 回避した行路の正面から白虎が飛んでくる。その速さは優貴も反応できないスピード。


 白虎は地に足をつけ、優貴の後頭部を掴んで地面に叩きつけた。

 顔面に襲う苦痛。地面の破片は優貴の頬を切り、初めに地面と激突した額からは恐ろしい量の血が流れ出ていた。


 優貴は失いかけた意識で、後頭部にある手を右の握り拳で退けると、腕を出した回転力で体の前後を変える。

 地を背後にして首跳ね起きで立ち上がる。そして、着地すると同時に和也へと走る。


 和也は迎撃の準備を整えていた。



「【免罪の闊歩アクィッタル・ステップ】!」


 優貴はそれを見越して、少ない手数で和也の背後へと移動。そして右半身全体を使って、和也へと突進する。

 和也は反応できなかったのか、その突進をモロに食らった。優貴が与えうる最大限の衝撃。

 急所を狙うわけでもない攻撃だが、その分和也の全身に打撃が発生する。



「なっ──」


 和也はその場でよろけ、片膝を付く。そして俺を睨んだ。

 その目は確かに怒りを表現していたが、蓋を開けると中身は空っぽな目だった。


 ボソッと、「……んだよ」と和也の口から零れた。小さな憤りを乗せた言葉に聞こえた。



「なんなんだよ!! なあ、おい……! お前は誰なんだよ!!」


 優貴は目を見開いた。まさか()()()()が、そこまで感情的になるなど思ってもみなかったからだ。



「さっきから──さっきからっ! 頭の片隅にずっっと居やがって!! ……お前を攻撃しようとする度に、苦しくなるのは、痛くなるのはっ。なんでだよ、答えろよ、なぁ…………!」


 和也の洗脳は、最初から完全じゃなかったのだ。最初から頭のどこかに、確かに優貴の存在が居たのだ。

 伝えるすべもなく、止まることもなく、ただ暴れるしかなかっただけだ。


 和也は零れた涙をぐしっとぬぐう。立ち上がって、優貴の方に向き直る。

 しかしその構えはどことなく、最初と比べたら、簡単に攻撃できそうなほど隙だらけだった。


 優貴もつられて泣きそうになるのをぐっとこらえる。そして何も構えずに、ゆっくりと歩く。

 「お前は、何も悪くない」と言いながら。


 和也はそれを逆に不気味に思う。しかし何が起こるのか想像もつかない、ある種の恐怖で足がすくんだ。何故か動けないのだ。



「やめろっ……来るなっ!」


 和也は震えた声で拒絶した。しかしその言葉と反して、優貴との距離が縮まってゆく。


 一方の優貴はもう決心していた。

 今、自分について話しても意味がない。最後の、洗脳を吹き飛ばす一撃を食らわせる、と。

 確実に、冷静に。



「来るなあぁぁっ!!」


 今まで動かせなかった和也の体が動く。和也の右拳が前へと飛び出す。

 不気味の恐怖より、目の前の死の恐怖が勝った時。その瞬間、人間は防衛的に攻撃しようとする。しかし必ず、その攻撃は分かりやすくなる。


 優貴は和也の攻撃をかわすと、鋭利な優貴の右拳の一撃を腹に差し込んだ。




「【冤罪の昇華(フォルス・バニッシュ)】」




 拳の直撃を食らった和也は尻もちを着くかのように、勢いよく後ろに座り込んだ。

 さっき取り乱していた割には、何も声に出さないでその拳を受け取った。


 しかし和也は、しばしの間黙りこくっていた。

 まさか、まだ洗脳が解けていないのか、と優貴が心配な面持ちでいたところに、無邪気な笑い声が響いた。



「……たははっ、どうしてくれるんだよ。──お前のせいで、今までの俺を殴りたくなってきた」

「──俺の殴った所はまだ痛いか?」

「ぼちぼち、だな」


 優貴は和也を取り戻せたことに安堵した。しかし、久々の()()の感動を、口にすることはなかった。

 二人には、そんなしみじみした会話は似合わない、と互いに思っているからだ。



「ったく、早く来いよゴミ共」


 白虎は、そんな仲良しごっこは見るのも聞くのもゴメンだ、と言いたげな表情をしていた。



「和也、まだ闘えるか?」

「ああ。まだ頭がぼんやりするけど、こんなのゴマだ!」

「……誤差ゴサな」


 馬鹿げた会話だと、そんなことは二人が一番分かっている。ただ、この会話で程よい緊張を保つことができた。

 そんな、二人にしか分からない二人の会話だ。



「てめぇら『暴行罪』に、俺の『傷害罪』が負けるわけねぇ。とっととちりになれや」

「……の割には、さっきからやけに能力を発動するな」


 優貴は心の余裕を持てたのか、いつも以上に冷静に戦況を分析することができた。



「俺たちの『暴行罪』は、確かに()()で五倍だ。ただ、そっちの『傷害罪』は、()()で十倍なんじゃないのか?」

「おっ、時間制限があっちの方が短いってことか?」


 白虎の反応から見て、どうやら当たりのようだ。つまり、『完全な』下位互換ではないということだ。



「うぜえな、時間程度じゃあ何も変わんねえよ──カス共が!」


 白虎はとんでもないスピードで、和也の頭を掴んだ。そのまま壁まで飛んでいき、思い切り叩きつけた。

 壁には穴が開き、和也は離せと言わんばかりに白虎の腕を叩いている。


 優貴は背後から、白虎の後頭部へと蹴りを入れる。続けざまに、和也を掴んでいる腕にかかとを落とす。

 しかし──。



「はあ、言っただろ? てめぇらの攻撃は無に等しいんだよ!」


 白虎は優貴の首を掴む。そして──。



「蹴りっつうのはな──、こうやるんだよっ!!」

「ぐっ──!!」


 優貴は壁から向こうの壁まで、ほぼ一直線に飛ばされた。

 それを許せなかった和也は、白虎の親指を思いっきり噛んだ。


 白虎の「ちっ」という舌打ちの直後、和也を遠くへとほおり投げた。

 和也は飛んでいる最中に、地面と激突して、何度か転がったあと寝転がっていた。



「つまんねえな、お前ら。終わらせてやるよ」


 と、優貴の方へ足を向けた。その瞬間だった。

 「なっ!?」と白虎は、すぐさま右太ももを抑えた。


 察しよく睨んだ、白虎の視線の先には芽衣めいが居た。

 芽衣は隠し持っていたナイフで、自らの右太ももを刺していたのだ。血がトクトクと脚を伝って、地面に溜まりを作っていた。



「なにしてるんだ、芽衣!」

「うっ……優貴さんが、殺されるぐらいなら──」

「まだ続いてたんだな、そのバカみてえな能力。ま、あくまで共有すんのは感覚で、傷じゃあねぇことが分かった」


 白虎は芽衣の方を向く。芽衣は青ざめながらも、覚悟を決めたように目をつむる。



「てめぇに致命傷を与えたとしても、俺は死なねぇ。今、殺してやるよ」


 白虎は芽衣を殺そうと飛んだ。

 しかし、芽衣の命が尽きることはなかった。


 不思議に思った芽衣が、まぶたを開いて見たのは、和也が攻撃を防いでいるところだった。



「……どけよカス。そもそも、こいつとお前は面識ねぇはずだが?」

「優貴が、大事に思ってる奴だっ……! 味方なら、まもるのが当たり前だろ! それと──」


 和也は白虎の拳をいなすと、僅かに体勢の崩れた白虎を、思い切り背負い投げた。もちろん、全てが危険性に満ちた背負い投げだ。



「俺は、カスじゃねぇっ!」

「っ──!? その動き……」

「俺がこんな動きできないと思ってたのは、お前が俺を殺してたからだ! 洗脳中ずっとな!」


 白虎はすぐさま体勢を立て直すと、和也だけを見据えて構えていた。

 白虎が動いたかと思うと、その動きは拳を前に出す動作だった。

 しかし、和也はそれを見切るとしゃがんでそれを躱す。隙だらけの躱し方だったが、理由があった。


 それは、優貴が後ろから、白虎の拳を拳で対抗するためだった。再び拳同士がぶつかり合う。しかし──。



「威力が弱まってるな! 能力発動に使う薬のせいか!?」

「っ──黙れ!」


 力はほぼ互角だった。しかし、さすがに優貴が少しされている。

 そこを和也は、下から上に向かって両脚で腹に蹴りを入れた。


 二人分の威力の攻撃にひるみ、白虎は後ずさった。一度体勢を整えようと後ろへと跳ぶ白虎。


 しかし、二人はその隙を見逃さなかった。

 というより、最後の隙になりそうだから見逃せなかった。



「行くぞ、和也!」

「オッケー、優貴!」


 最後の、最大の一撃。それをぶちかまそうと二人で考えていた。



「俺は──俺は最強なんだ! てめぇらに、てめぇらに! 負けるわけねえだろうが!!!!」


 発狂した白虎は、薬を全て口に含んで噛み砕いた。この様子から見るに、それは増強剤なのだろう。



 そして、三人は激突した。




「【断罪の拳ジャッジメント・フィスト】!!」

「【五蕾ごらい厄燕やくつばめ】!!」



「俺は……俺は、道具じゃねえぇぇっっ!!」




 優貴の上からの拳、和也の横ぶりの蹴り、白虎の両拳。

 それは互角……いや、白虎の方が断然上だ。



「はははっ! 見ろ、見ろ! 俺が、俺が!」

「「いや、周りを見なかったお前の負けだ!!」」

「っ──!?」


 激突した瞬間、徐々に白虎の力が抜けていった。白虎は、周りという言葉を聞いて、意識せずとも芽衣の方を向いた。

 するとそこには、芽衣の手に触れる天舞音あまねの姿があった。



「これでも、触れたことに、なる、とは……ね」


 息切れとともに、天舞音本人も驚いていた。芽衣の感覚共有で白虎と触れたことになる天舞音。天舞音の能力は──触れた能力を奪う『窃盗罪』。

 天舞音は様々な感情が込み上げる中、笑みを浮かべて言った。



「地獄に落ちろ──ゴミ野郎っ……!」


 もはや薬の力のみで抑えていた、優貴と和也の猛攻にされながら白虎は醜く顔を歪ませる。



「クソ……クソクソクソクソクソ──この、クソ野郎共があぁぁぁっっ!!!!」


 瞬間、白虎はすさまじい速さで吹き飛んでいく。

 壁には穴が開き、その壁の奥にある鉄柱に背中を打ち付ける。後、力なく項垂れた。



   *



「じゃあ、俺はこの二人を運んでくるよ」


 和也はそう言うと、天舞音を、俗に言うお姫様抱っこした。そして芽衣は、まだ意識が鮮明のため、背中に掴まってもらうことにした。

 一人ずつ運ぶことを提案した優貴だったが、「お前はやるべきことがあるだろ?」と一蹴されてしまった。



「……俺を、救ってくれてありがとな」

「それを言うなら、お前の腕の中と、背負ってる彼女らにも言ってくれ」


 今回、元々負けると優貴は思っていた。

 しかし、優貴たちは這いずりながらも芽衣に近づく天舞音を見かけ、何かしてくれると信じて攻撃を仕掛けたのだ。


 天舞音の、家族の無念を晴らす強い執念が勝敗を分けたのだ。何か自分にできることを見出そうと、強い執念で努力した彼女がいたから勝てたのだ。

 白虎に家族を殺された恨みは、ここで一旦晴れることだろう。


 和也はこくりと頷くと、その場を後にした。優貴もその場を去ろうとした途端、瀕死の白虎は、大きな声で笑いながらこんなことを言った。



「ふははははっ…………はあ、()()()が、何とか……して、くれ──」


 白虎が生きていたこと以上に、優貴は勘づいてしまったことがある。優貴の記憶にある手記、彼の言葉、全てが悪い意味で優貴の中で繋がってしまった。



   *



 その後、優貴は焦ったように辺りを走り、()()を見つけようとした。

 そこで床の崩れる音を聞いて、椿つばき聖華せいか、そしてりんの元へと向かったのだ。

ご愛読ありがとうございました!


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