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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
1章 彼が幸せから地獄に落ちゆくまでの転落譚
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6話 微かな希望と心の腐敗

扉が勢いよく開いたところから始まります!

 扉をけたのは、青髪のツインテールにワンピース姿がよく似合う少女だった。

 班長の髪の色は紺に近いが、彼女の髪の色は晴天の色だ。少女のツリ目の中で光る瞳も、髪の色と同じで澄んだ青色だ。



「はあ……もう! 注文がひどすぎるでしょ!? りんさんと美羽みうは必要な物だからいいとして、他の人は業務と関係ないじゃない!」



目つきの鋭い彼女は、大きな声で怒りをあらわにした。しかし怒っているにも関わらず、気迫が感じられないのは彼女が幼いからだろうか?


 彼女は絶賛ゲーム中のしょうさんをキッと睨む。睨まれた本人は気づく様子もないことが更に気に食わないのか、少女は彼の元へ歩みを進める。



「中にはお菓子の人もいるし! しかも少し離れたところにしかないやつ……!」


「ん……感謝する、ありがとう」



 少女は何かが入ったレジ袋を差し出す。翔さんは礼(?)を言って、彼女の手からそれを受け取る。一体何のお菓子だろう?



「はあ……もう!」



 少女はため息を交えながらも1人1人丁寧に、買ってきた物を渡していく。


 孤児院のテレビで放映されたアニメに、『つんでれ』という性格があった気がする。確か、口調は棘があるが性格は照れやすいというものだったような……彼女はそれだろうか?



「はい、これ!」



 そんな彼女は俺の近くにいる班長に渡す。班長に対してタメ口ということからも、気の強い性格をただよわせる。


 少女がようやく俺に気づいたのか、くりくりと目を丸くする。次に班長の肩をぽんぽんと叩いて聞く。



「……もしかして、この人が新人?」


「うん。新人くんだよ」



 彼は手渡されたものを確認せずに手に持つと、少女の疑問に解答した。



「もう! 大事な時にも居れなかったじゃない……最悪!」


「じゃあ、今自己紹介したほうがいいんじゃない?」


「するわよ! ……もう!」



 彼女は目を吊り上げて声を強める。その目つきのまま話すものだから、俺が責められてる気持ちになってしまう。

 ……相変わらず気迫は無いが。



「……私は叢雲むらくも すみれ。まあ、宜しくね」



 菫さんは強気な性格を感じさせるような人だ。しかし、子供っぽい所も隠しきれていない。  それより……少し引っ掛かる所もあるが、とりあえず自己紹介を優先する。



上浦かみうら優貴ゆうきです。こちらこそ、宜しくお願いします」


「口調は丁寧なのね。でもそう硬くならなくてもいいけど……」


「そう……ですね、ちょっとリラックスします。それより、これは偶然ですか?」


「これ……というのは?」



 俺の問いに班長が食いつく。


 ……いや、あんなに珍しいのに偶然というほうがおかしいか。俺は単刀直入に尋ねる。



「班長と菫さんは……兄妹ですか?」


「うん、兄妹だよ。そっか、名字が同じだからね」



 やっぱりそうか。……でも、兄妹揃って罪人? この2人、過去に一体何が……?

 そんなことを考えては、班長との約束を思い出して思考をかき消した。



「はぁ……このバカ兄貴がお世話になるわ」


「バカはそっちだろ? 書類にお茶ぶちまけてダメにした人は誰だっけ?」



 菫さんの言葉があまりにも聞き捨てならないのか、班長は綺麗な眉間にシワを寄せて反論する。

 それに対して菫さんは顔を真っ赤にして声をあらげる。



「なあっ……! しっ、新人の前で言うこと!? そっちだって、いつになったらパソコンできるようになるのよ! この機械音痴!」


「うるさい! このおっちょこちょい!」


「機械音痴!」



 お互いに1歩も譲らず言い争う。……あれ? そういえばなんでケンカしてるんだ、この人達。


 もちろん俺は今、空気になっている。そもそも、なんでここで兄妹ゲンカを見せつけられているのだろう、とつくづくあきれた。

 議論がよりヒートアップしそうなその時、



「お2人とも、ここではお静かに……!」



と、凛さんの鋭く刺すような眼光が飛んできた。2人は顔を青ざめて、一瞬で口を閉ざす。ここでの生活指導役は凛さんか、と重い笑みでそう思った。



「そうだ、忘れるところだった。優貴くん、少し俺と菫に付き合ってくれる?」



 空気を入れ替えるためか、とっさに班長は低く口角を上げて言う。彼のその笑みが堅苦しいのは、状況がそうさせているのか、それとも元からか。



「いいですが、何するんですか?」


「またあれするの? 1週間前にもしたから嫌なんだけど……」



 菫さんは露骨に嫌な顔をする。

 1週間前というのは、確か美羽が来たのと同じ時期だったな。その彼女が嫌がることは班員全員にやってることなのだろうか?



「ごめん、これも必要なことなんだ」



 班長は菫さんを真っ直ぐ見つめる。彼は、どこか悲しそうに目尻を下げた。

 縁起の悪い(マイナスの)思いを振り払うためなのか、彼はぎゅっと目を瞑る。さらに、そのまま左右に1、2回頭を振ると、次は俺の顔を見た。



「ああ、ごめんね。向かいながら説明しよう」



 あまりにもわざとらしく彼が笑うものだから、返事もせずに目をそむけてしまった。不承不承ふしょうぶしょうと笑われるのは、気を使わせてるようで苦手だ。



   *



 どこに向かっているかも分からず、3人仲良く亀のように歩く。静かな中響く足音をBGMに、班長は話の続きを語る。



「君の能力についてだけど、自分でどんな内容か分かる?」


「いえ。ただ、名前が暴行罪ということのみ……」


奇妙きみょうだけど、罪人には『使用許可証』と呼ばれる紙切れが頭の中にある。それに能力の内容が書いてあるんだ」



 班長の言う通り、頭の中……いや、記憶の中というべきか? そんな曖昧な所には、確実に1枚の紙がある。

 表すなら、見たことないのに見たかのような感覚。そう、まさに『既視感デジャヴ』だ。


 俺は紙の状態を正直に述べることにした。嘘をついてもよかったのだが、自分のことをもっと知るには致しかたないだろう。



「紙は確かにあります。ただ、まるでもやがかかったように見えないんです」


「まあ本当は時間が経つにつれて徐々に見えていくんだ。だけど、その人の脳の状態によっては、最悪1年かかることがあるらしい。そこで菫の能力を使って、手っ取り早く記憶を見ようと思う」



 これは彼のミステイクか? 菫さんは記憶を見る能力者ということを隠喩いんゆしているではないか。

 ……いや罠かもしれない。そう易々と仲間の能力を教えるはずがない。

 俺は確証を得るために探ることにした。



「さりげなく菫さんの能力を俺に教えていいんですか?」


「まあね。こちらとしても、君の能力は明確に知りたい。……ただ」


「ただ?」



 彼は立ち止まって目を伏せた。そんな彼の手は目前のドアノブにかかっていることから、目的地はこの扉の先なのだろう。

 ひとまずは菫さんの能力を認めた彼は、どことなく神妙な面持ちでこう言った。



「君の……上浦優貴くんの記憶全てを見たいんだ。怪しい記憶がないとき、初めて君を信用するよ」



と。

 つまり、まだ俺は信用されてなかったわけだ。だから俺の記憶を見たい……そう言いたいようだ。


 ……待て。『俺の記憶』……? あんなみにくいものを? あんな情けないものを……!? あんなに罪人の過去を詮索せんさくするなって言ったのは、他でもないあんただろ!?



「……はっ」



 どす黒い気持ちがかすかにあふれて、俺はつい乾いた笑いを堪えきれなかった。

 その笑いが引き金となり、彼らの反応も待たずに話す。



()()()()()()()、俺がスパイかどうか見極めるんですか。なるほど……合理的ですね」


「……うん、だから君の記憶を見たい。ただ、これはプライバシーに関することだ。もし君が嫌だったら断ってくれていい。これは……『俺の自己矛盾』でもあるから」



 自己矛盾というのはまさに詮索の話か。自覚はあるんだな。



「ただね、優貴くん。もし君の過去を知れれば、寄り添ってあげることもできるかもしれない。もしかしたら少しは気持ちが楽になるかもしれない。実際、そんなケースもあった」



 寄り添ってあげることもできるかもしれない。いや、無理だろ? 楽になるかもしれない。いや、不可能……だろ?


 でも、もし……そんなことがあれば、俺は……。


 ……本当に、俺を過去からの苦しみから救えるものなら救ってみろよ……。



「……はい。宜しくお願いします」



 会話上は従順な部下を維持できているはずだ。だから内心やけくそだが、表面だけはなるべく自然に頼むことにする。



 自然に……。だから、彼を睨んでいる目はまぶたで隠す。食いしばる歯は唇で隠す。


 そんな俺に、今まで無言だった菫さんは悪魔的にも、心を揺るがすことを言ってきた。


 

「本当に? 見られるの、嫌じゃないの?」


「……俺は、ここで生きるしかないんです。郷に入れば郷に従え……ですよ」



 彼女に苦く笑った。わざと笑う人は嫌いだ、と言っておきながら。

 ただ悔しいが、建前の俺の台詞にも一理あった。俺の生き場所は、ここを失ったら……。



   *



 そんな考えをほおり出すのと同時に、班長はやっと扉をひらく。刹那の光の後、見えたのは、2つの椅子と、1つの机しかない無機質な部屋の中身だ。

 菫さんに促されるがまま、俺は席についた。彼女は続けざまに言う。



「はあ……うん、じゃあ……始めるわよ」



 彼女は見て取れるほどに乗り気でなかった。人の記憶を見るのは、もちろん自他共に嫌だろう。

 記憶は自分だけ持っていて初めて価値があるのだ。


 菫さんは黒いビニール手袋をはめた。なんのためだろう?

 まさか直接脳にでも触れるのだろうか?



「《発動》。目を瞑って」



 俺も覚悟を決めて、言われるがまま閉じる。さあ、俺を過去から……。



   *



 どれほど経っただろうか。もう記憶は見られているのだろうか。それも分からぬまま、無味な時間が流れる。



「はい、終わったわよ。目も、もう開けてもいいわ」



 突如として菫さんの声が聞こえた。驚いたのか従ったのかは分からないが、俺は反射的に目をひらいた。

 机の上には写真のようなものが広がっていた。どれもこれも見覚えのある……。



「……これは『君の記憶』だよ」



 混乱している俺を見てか、班長は声のない問いに答えた。

 班長は写真を全て隠すと、菫さんの肩をぽんと叩く。菫さんは班長に向かって1つ頷くと、口から声を出し始めた。



「……私の能力は『秘密漏示罪ひみつろうじざい』。対象の記憶を写真として取り出す能力だけど、あなたが今経験しているように、記憶が消されることはないわ」



 彼女は自分の能力を話した。これが能力なのか……と思うも束の間、続くように班長は俺を見て話す。



「結論からいうと、君は信用できる」



 彼の言葉を聞いて俺は、とりあえず寝床を確保したことに一安心する。しかし班長はこう続ける。



「だけど、俺の質問には答えてくれる? 君の記憶は……いや、少しずつ話すよ」



と。

 彼はとても予想外だったような顔をしている。その顔の原因は、どうせ醜い過去が関係しているだろう。


 信用されたものだから、こちらも信用したいものだ。俺に果たして救いがやってくるのかどうか……。

 とにかく今の俺は、自身に救いがもたらされるのかどうか、ということしか考えていなかったのだ。

もし宜しければ、次回もよろしくお願いします!

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