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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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58話 人と物

   *



 嘘であってほしかった。いやもはや夢でいい、この戦争自体が絵空事だと思い込みたい。今の世界が、子供がクレヨンを握って塗りつぶした絵の中が良かった──のに。



   *



 そのカプセルの中には、紛れもなく和也かれがいた。コードがついたヘルメットの様なものが、和也かずやの頭から剥がれる。

 すると、和也は歩き出した。普通に、何の変哲もなく。その足が向かわんとするのは、優貴ゆうきではなく白虎びゃっこの方だった。


「和也に…………和也に何をしたっ!!」


 優貴の言葉一つ、怒りの感情が敷き詰められている。事情を知らない天舞音あまね芽衣めいも、優貴の変貌に戸惑った。

 白虎はあることに気がつくと、腹を抑えて笑った。


「だはははっ……! まさか、てめぇが優貴か? 和也こいつの親友っていう! 運命だなこりゃ!!」

「耳がないのかお前……? ()()()()()だけを聞いてるんだ!!」


 白虎は両手の平を見せ、「まあ、待て待て」となだめて話し始める。


「そうだなぁ、てめぇの名前を使()()()対価として教えてやるよ。最初から最後までな」


 白虎はそう言うと、高圧的に腕を組みながら話し始める。





 * * * *




 自主訓練が終わって少し休もうと、白虎は席に着いた。少しだけ羽毛が入っている、使い古された黒い椅子。

 今度買い換えようと思っていた時、突然伝達係が部屋に入ってきた。彼の無礼さに白虎は、少しイライラさせる中、伝達係からこのようなことを言われた。


「白虎、朱雀すざくからの言伝ことつてだ。『孤児院にある、罪人変換施設に近づいた男子を銃で何発か撃った。まだ息があるため、先生としての立場上延命はしているが、施設の重要な情報を知られている可能性が高い。生死の判断をゆだねたい』と」

「はぁ……何故俺に聞く、勝手に判断しろ」


 「まあまあ」と、伝達係は白虎に落ち着くように頼む。


「彼女にも、『亜喜あき』としての情が湧いたのだろう。それに、君にとって面白い情報があるのだけれども……聞くかい? ああいや、君がめんどくさいのなら、それまででいいんだけれどもね」


 伝達係のうるさい言動に腹を立たせながらも、白虎は、「早く言え」とだけ言う。その日は少しだけ気分が良かったのだろう。


「その男子を撃った部下が全員殺された。それも凄惨にね。どうやらもう一人男子が居たらしく、罪人として覚醒したみたいだね」


 「ほう」と、白虎は椅子を回転させて伝達係を見る。彼のちんちくりんなその体に見合わぬ覇気はき。その得体の知れなさに、白虎は前々から警戒している。

 今回はそんな彼を警戒して見たのではなく、彼の話に興味が湧いたため顔を向けた。


「覚醒した罪人が撃たれた者を運んできた。その二人は元々親友らしく、その故に見殺しにしたという意味で罪人になったのだろうね。罪人のほうは──どこで漏れたかは知らないけど、罪人取締班に引き取られるみたいだし、ボスもまだあちらと穏便にすませたいらしいから、僕たちに残ったのは銃で撃たれた方さ」


 『どこで漏れたかは知らないけど』のときに、伝達係は一瞬言い淀んだ。しかし白虎は、彼が情報を渡したかどうかは気にしなかった。

 和也を部下にする方法(いいこと)を思いついたからだ。


「朱雀に、『そいつを生かせ』と伝えろ」

「ほう、意外だね。君がそんなに慈愛じあいに満ち溢れた人だとは」


 「だははっ」と白虎は笑う。


「おいおい、俺がそんな奴に見えるか?」

「見えないから、冗談というていで言ったんだ」


 伝達係の飄々《ひょうひょう》とした態度に、「はっ」と白虎は微笑した。



   *



「白虎様、これが例の小僧です」

「ん、分かった。てめぇは下がれ」


 手下は「はっ」とかしこまり、その場を後にした。残ったのは白虎と目を合わせようとしない和也だけだった。


 白虎は、傷口がようやく塞がったらしい和也を呼び寄せたのだ。見た目はもはや中学生くらいだが、身体能力は高いのだろうと気迫で感じ取った。

 そして白虎は和也に聞いた。


「何か聞きたいことはあるか?」

「優貴は……優貴はどこに!? そもそもここは!? あんたは!?」


 さすがに混乱してるのだろう。和也の質問責めに、白虎は思わずため息が出た。

 白虎は少し芝居をうってみた。


「優貴? あああの、お前の隣で死んでた奴か。残念だったなぁ。お前は息があったが、そいつはもう……」


 白虎の白々しい演技も、嘘を見抜けない和也はすぐに真に受けてしまった。


「……そっか、俺に『ちから』が無かったから──。俺が優貴を、もっと守れるちからがあればっ! ──っ!?」


 白虎の計画通りだった。

 和也は自分を『ちからが無い』と責めた。そうして和也は──『暴行罪』を手に入れた。

 そして心が荒んでいる所を洗脳した。伝達係が作ったという、専用のカプセルに押し込めて。


 その後はずっと、カプセルから出しては実習訓練を繰り返させた。しかし、和也の身体能力には目を見張るものがあった。

 わずか一週間で、三人の部下の罪人を同時に気絶させた。


 白虎はこいつが次の、事実上の『玄武げんぶ』になると確信していた。





 * * * *




「と、まあこんな感じだ。つまり和也こいつは、もう優貴てめぇ親友てめぇだと認識しちゃいねぇ」


 気がつくと、優貴は前へ跳んでいた。狙いはもちろん白虎へ。

 もう警戒も様子見も必要ない、そう思うほどに優貴の感情は臨界点をゆうに超えていた。


 「やれ」と白虎は和也に命令した。刹那、優貴が白虎を殴ろうとする腕を、和也は下から蹴りあげた。

 戸惑う優貴に、和也は更なる追撃として、もう片方の足の裏で優貴の腹を思いっきり蹴る。


「がっ──」


 優貴の声が出切る前に、奥の壁へと叩きつけられていた。

 そして様々な情報を処理しきれない芽衣に、白虎が近づいた。


「あっ──」

「んで、お前も罪人なんだろ? ()()と一緒に沈めてやるよ」


 白虎が『それ』と呼称したのは、傷だらけで上手く動けもしない天舞音だった。

 芽衣は、先程まで恐怖で動けなかったのに、気がつけばすくっと立ち上がると、白虎にこう言った。


「私、あまり頭は良くないです──けど、この人は物じゃありません! 生きてる人に、どうして酷くできるんですか!?」

「……人間も物だろ。困ったら頼られ、飽きたら捨てられ」

「っ──」


 その時の白虎は、唯一悲しい顔をしていた。そして何も言わずに、薬を一錠飲み、関節を鳴らす。

 危険を感じた芽衣は、とっさに()()()()


「「《発動》」」


 二人の声が重なる。その声が消える前に、白虎は芽衣の腹を殴る。瞬間、芽衣は左へと飛ばされた。


「ううっ────!」


 腹に加わった貫くような衝撃、背中で受けた壁の叩かれたような衝撃の痛さにもだえる。

 芽衣の目から思わずこぼれる涙。この種類の痛さは初めてだったのだ。


 しかし、突如として白虎はその場でひざまづいた。


「…………痛ぇ」


 白虎はそんな声を零す。まさか攻撃がくるとはという驚き、久々に痛みを感じた高揚感が大げさに混ざった一言。

 芽衣の『重婚罪』によって、芽衣の痛覚が白虎へと伝わったのだ。


 白虎はまた立ち上がると、芽衣を見据えてこう言った。


「今のは、感覚を共有する能力か? だが、傷もなければてめぇみてえに血も流れてねぇ。……実験だ、てめぇに致命傷を食らわせたら、俺は生きるのか死ぬのか──楽しみだ」


 白虎は面白いものをただ見ていた。芽衣は体を震わせ、肌を青ざめさせていた。

 白虎が近づこうと脚を出そうとした。しかし、脚には誰かの手があった。


「行かせない……僕が死んででも、君を離さない!」


 天舞音は能力を発動していて、白虎は舌打ちをしながら、天舞音を上から踏みつけようとしていた。

ご愛読ありがとうございました!


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