56話 怨恨と期待
少し遅れました、ごめんなさい!
天舞音の話がようやく続きます!
* * * *
優貴と芽衣が聞いた音は、プロノービス本部の扉が開く音だった。
「……本当に開いた。菫ちゃんはすごいねぇ」
天舞音は菫から送られた数列を眺めながら呟いた。先程、天舞音は扉横のパネルに数字を打ち込み、扉を開放したばかりだった。
(菫ちゃんに『みんな揃ってから中に入って』って言われたけど……罪人だけの団体だから、大丈夫か♪)
天舞音はそんな過度な自信を胸に奥へと入って行った。
*
天舞音は辺りを見回しながら進んでいく。どこにボスがいるか、どういう構造か分からないのにも関わらず。
それでも進みたい理由が天舞音にはあった。
(……白虎、もし君を見つけたら容赦しない。今の僕は罪人殺しの能力者。僕の家族を殺した罪を……絶対に)
天舞音の復讐劇──その第一歩が、白虎を殺すことだった。目的のためなら手段を問わない。
──それで自分が死ぬリスクも考えない。
そんなことを考えながら天舞音は、白虎の居場所を探るために右へ左へ、上へ下へと進んでいく。
(何ここ……複雑すぎる。どこに行けばいいの?)
三階建ての本部には地下もあるため、実質四階分の捜索を余儀なくされた。
天舞音が曲がり角に差し掛かったその時、天舞音に転機が訪れた。
「……そういえば、戦況はどうなってんだろうね」
「多分、こっちが優勢だよ? あまり分からないけどね」
二人組の女性の声。恐らく見回りかその辺りだろう。
天舞音は裏に隠れ、深く呼吸する。
黒ずくめの女二人が、曲がり角から現れた瞬間、「《発動》」と天舞音は言う。
「っ──誰!?」
相手が反応した頃には既に、天舞音は二人目掛けて跳んでいた。
天舞音の手が二人を突き飛ばすと同時に、天舞音自身ももつれるように突撃した。
「君たちの能力は……なるほど、『公務員職権濫用罪』と『淫行勧誘罪』か」
「ど、どうして…………」
天舞音は瞬時に立ち上がると、驚きつつもゆっくりと立ち上がろうとする女性の腹を踏む。
「くっ──!」
「どうしてかって? それはね、僕が君たちの能力を奪ったからだよ。ほら、能力を発動してみなよ」
二人は天舞音に言われずとも、それぞれで能力を発動しようとする。しかし何も起こらなかった。
天舞音はゆっくりと口角を上げると、焦る二人の瞳を覗き込んで言う。
「代わりに僕が発動してあげよっか? まずは──公務員職権濫用罪からね。じゃあ……『二人の腕と脚を動かす権利を阻害』するね♪」
そう言って天舞音は女性二人の腕、脚を触る。
この能力は、相手の体のどこの権利を阻害するか宣言した後、相手の体にある、宣言した部位に触れると宣言通りにするものだ。
「っ──!」
「あれ、本当に動かないんだね。そしてこの状態で……淫行勧誘罪を使うとどうなるのかな?」
「……やだ、やめてください……!」
一人の女性は涙を流して命を乞う。もう一人は恐怖で声も出せない。
天舞音は淫行勧誘罪の能力者と目を合わせる。それは涙を流す女性の方だった。
その女性が目を逸らそうとした時にはもう遅く、女性は身動き一つしなくなった。
淫行勧誘罪は、目を合わせた相手の体の自由を一時的に得たり、何かを命じることができる能力。
発動から一秒以内というシビアなものだが、天舞音の『窃盗罪』で盗った能力は、必要な発動条件を無視できる。
「動けなくなった腕と脚を、体を乗っ取って無理やり動かす──まあ、酷いことになるだろうね」
「さすがにそれはできない」と、天舞音はコントロールした方の阻害を解除する。そして残った一人に向かって、淫行勧誘罪の女性が持っていた銃を構える。
天舞音は怯える女性に一言、「これが罪人の性、そして末路だよ」と言い放つ。天舞音でもびっくりするぐらい、持つ銃の口が揺れていた。
だが、必死に頭に狙いを定めて────弾を一つ。
殺しに慣れてない彼女が経験する、初めての反動だった。
*
天舞音はことが終わると、自由を奪った女性に指示して、白虎の部屋に案内させた。
女性の後ろを歩く天舞音は、少しばかり感傷的になっていた。
(僕は殺しができない弱虫──って、思ってたのになぁ)
いつからこんな非情になったのか、と自分に問いただしていた。果たして根本的な原因は、家族と死別したあの日なのか……天舞音自身にも分からなかった。
そんなことをしていると、目の前の女性が止まったことに気づかず、天舞音は背中に体当たりしてしまった。
「いたた……。ここが、白虎のいる所……?」
そこは一階の扉をまっすぐ行った、本部とは独立したエリアだった。広々としたところで、学校の体育館を彷彿とさせる。
天舞音はこの案内役の女性に対し、天舞音がとびきりためらうような命令を下す。「この銃で命を絶って」と。
銃声が一つ聞こえた後、天舞音は恐る恐る中に入っていく。広い空間故に見晴らしが良く、天舞音には白虎がいるようには思えなかった。
案内役の女性の思う白虎の場所と、実際に白虎のいる場所で誤差が生じたのか、と天舞音が感じたその時だった。
「はあ……まだ準備中だってのに。乗り込む馬鹿は誰だぁ?」
天舞音の頭上から声がした。とっさに回避する天舞音だったが、声の主の降る速度の方が速い。
風圧で少し遠くへ飛ばされる天舞音に、彼は言う。
「……ただの小娘が何の用だぁ? 遺言書は持ってきたのか?」
乱暴な口調、荒々しい服装。間違いない、彼こそが──。
「白虎──!!」
「ああ? お前どっかで……まあいい。暇つぶしに付き合ってくれ」
天舞音は今までで最も怒りを感じた。白虎に会ったから、いや、それ以上に自分の存在を忘れられていたことがそれを加速させた。
その怒りを全て表に出すように、天舞音は叫ぶように訴えた。
「僕はあの時──お前が起こしたあの、大量惨殺事件で…………家族を殺された! 忘れたとは言わせないぞ、クソ野郎っ!!!!」
「大量惨殺……ふっ、あんときしっぽ巻いて逃げたガキか。ああ、少し遅れてすまねぇな。今、家族と会わせてやるよ」
見合う二人の間に渦巻くのは、怨恨と期待だった。
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