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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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56話 怨恨と期待

少し遅れました、ごめんなさい!


天舞音の話がようやく続きます!

  * * * *



 優貴ゆうき芽衣めいが聞いた音は、プロノービス本部の扉がひらく音だった。


「……本当にいた。すみれちゃんはすごいねぇ」


 天舞音あまねは菫から送られた数列を眺めながら呟いた。先程、天舞音は扉横のパネルに数字を打ち込み、扉を開放したばかりだった。


(菫ちゃんに『みんな揃ってから中に入って』って言われたけど……()()()()の団体だから、大丈夫か♪)


 天舞音はそんな過度な自信を胸に奥へと入って行った。



   *



 天舞音は辺りを見回しながら進んでいく。どこにボスがいるか、どういう構造か分からないのにも関わらず。

 それでも進みたい理由が天舞音にはあった。


(……白虎、もし君を見つけたら容赦しない。今の僕は()()()()の能力者。僕の家族を殺した罪を……絶対に)


 天舞音の復讐劇──その第一歩が、白虎を殺すことだった。目的のためなら手段を問わない。

 ──それで自分が死ぬリスクも考えない。

 そんなことを考えながら天舞音は、白虎の居場所を探るために右へ左へ、上へ下へと進んでいく。


(何ここ……複雑すぎる。どこに行けばいいの?)


 三階建ての本部には地下もあるため、実質四階分の捜索を余儀なくされた。

 天舞音が曲がり角に差し掛かったその時、天舞音に転機が訪れた。


「……そういえば、戦況はどうなってんだろうね」

「多分、こっちが優勢だよ? あまり分からないけどね」


 二人組の女性の声。恐らく見回りかその辺りだろう。

 天舞音は裏に隠れ、深く呼吸する。

 黒ずくめの女二人が、曲がり角から現れた瞬間、「《発動》」と天舞音は言う。


「っ──誰!?」


 相手が反応した頃には既に、天舞音は二人目掛けて跳んでいた。

 天舞音の手が二人を突き飛ばすと同時に、天舞音自身ももつれるように突撃した。


「君たちの能力は……なるほど、『公務員職権濫用罪こうむいんしょっけんらんようざい』と『淫行勧誘罪いんこうかんゆうざい』か」

「ど、どうして…………」


 天舞音は瞬時に立ち上がると、驚きつつもゆっくりと立ち上がろうとする女性の腹を踏む。


「くっ──!」

「どうしてかって? それはね、僕が君たちの能力を奪ったからだよ。ほら、能力を発動してみなよ」


 二人は天舞音に言われずとも、それぞれで能力を発動しようとする。しかし何も起こらなかった。

 天舞音はゆっくりと口角を上げると、焦る二人の瞳を覗き込んで言う。


「代わりに僕が発動してあげよっか? まずは──公務員職権濫用罪からね。じゃあ……『二人の腕と脚を動かす権利を阻害』するね♪」


 そう言って天舞音は女性二人の腕、脚を触る。

 この能力は、相手の体のどこの権利を阻害するか宣言した後、相手の体にある、宣言した部位に触れると宣言通りにするものだ。


「っ──!」

「あれ、本当に動かないんだね。そしてこの状態で……淫行勧誘罪を使うとどうなるのかな?」

「……やだ、やめてください……!」


 一人の女性は涙を流して命をう。もう一人は恐怖で声も出せない。

 天舞音は淫行勧誘罪の能力者と目を合わせる。それは涙を流す女性の方だった。

 その女性が目を逸らそうとした時にはもう遅く、女性は身動き一つしなくなった。


 淫行勧誘罪は、目を合わせた相手の体の自由を一時的に得たり、何かを命じることができる能力。

 発動から一秒以内というシビアなものだが、天舞音の『窃盗罪せっとうざい』で盗った能力は、必要な発動条件を無視できる。


「動けなくなった腕と脚を、体を乗っ取って無理やり動かす──まあ、酷いことになるだろうね」


 「さすがにそれはできない」と、天舞音はコントロールした方の阻害を解除する。そして残った一人に向かって、淫行勧誘罪の女性が持っていた銃を構える。

 天舞音は怯える女性に一言、「これが罪人のさが、そして末路だよ」と言い放つ。天舞音でもびっくりするぐらい、持つ銃の口が揺れていた。


 だが、必死に頭に狙いを定めて────弾を一つ。

 殺しに慣れてない彼女が経験する、初めての反動リコイルショックだった。



   *



 天舞音は()()が終わると、自由を奪った女性に指示して、白虎の部屋に案内させた。

 女性の後ろを歩く天舞音は、少しばかり感傷的になっていた。


(僕は殺しができない弱虫──って、思ってたのになぁ)


 いつからこんな非情になったのか、と自分に問いただしていた。果たして根本的な原因は、家族と死別した()()()なのか……天舞音自身にも分からなかった。

 そんなことをしていると、目の前の女性が止まったことに気づかず、天舞音は背中に体当たりしてしまった。


「いたた……。ここが、白虎のいる所……?」


 そこは一階の扉をまっすぐ行った、本部とは独立したエリアだった。広々としたところで、学校の体育館を彷彿ほうふつとさせる。

 天舞音はこの案内役の女性に対し、天舞音がとびきりためらうような命令を下す。「この銃で命を絶って」と。



 銃声が一つ聞こえた後、天舞音は恐る恐る中に入っていく。広い空間故に見晴らしが良く、天舞音には白虎がいるようには思えなかった。

 案内役の女性の思う白虎の場所と、実際に白虎のいる場所で誤差が生じたのか、と天舞音が感じたその時だった。


「はあ……まだ準備中だってのに。乗り込む馬鹿は誰だぁ?」


 天舞音の頭上から声がした。とっさに回避する天舞音だったが、声の主の降る速度の方が速い。

 風圧で少し遠くへ飛ばされる天舞音に、彼は言う。


「……ただの小娘が何の用だぁ? 遺言書は持ってきたのか?」


 乱暴な口調、荒々しい服装。間違いない、彼こそが──。


「白虎──!!」

「ああ? お前どっかで……まあいい。暇つぶしに付き合ってくれ」


 天舞音は今までで最も怒りを感じた。白虎に会ったから、いや、それ以上に自分の存在を忘れられていたことがそれを加速させた。

 その怒りを全て表に出すように、天舞音は叫ぶように訴えた。


「僕はあの時──お前が起こしたあの、大量惨殺事件で…………家族を殺された! 忘れたとは言わせないぞ、クソ野郎っ!!!!」

「大量惨殺……ふっ、あんときしっぽ巻いて逃げたガキか。ああ、少し遅れてすまねぇな。今、家族と会わせてやるよ」


 見合う二人の間に渦巻くのは、怨恨と期待だった。

ご愛読ありがとうございました!


良ければご感想等々宜しくお願い致します!

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