51話 お互い様
今回は聖華と朱雀の戦いを書きました!
朱雀の分身が放ったロケットランチャーは、確かに聖華の障壁を砕いた。
しかし、聖華は爆風を避けるように後ろへと退いた。
そして聖華はその場で右足で地面を叩く。
「《発動》! 【激昴・掌底】!!」
展開された障壁は、屋根の上にいる朱雀へと向かう。
朱雀はそれを受ける寸前、身代わりと立ち位置を変換して回避した。そしてカウンターの如く、左足で屋根瓦を踏む。
「《発動》。【愚者の宴】……!」
突如、朱雀の掌で黒い球体が浮き、そこから分身が噴水のように溢れ始めた。
その分身らは機関銃を所持しており、地面に降り立つや否や発砲した。
「っ……《発動》!」
聖華は再び能力を発動し、過大な障壁を作った。銃弾は障壁に当たり続け、今にも割れそうな雰囲気を匂わせる。
聖華はさらに二枚目の障壁を使うことで、一枚目の障壁を割られても二枚目が聖華の身を守る。
数秒後、機関銃の弾が全て無くなった。分身は装填できる弾を持っていないため、棒立ちのまま機能しなくなった。
「凌ぎきられたか……」
朱雀は地面に居た分身を一度に回収する。伴って聖華も障壁を解除した。
朱雀にとっては聖華の障壁を、聖華にとっては朱雀の分身をどうにかしないといけない。しかし聖華も朱雀も、能力の欠点によって体温に余裕が無い。短期決戦かつ相手を封じるような立ち回りが求められた。
その策を互いに練る間、その場は完全に停滞した。そんな中、朱雀は言った。
「……玄武、もう一度言う。プロ・ノービスに来い。お前が来れば勝利は間違いないだろう」
「よく言うねえ。あたしがそっちに行こうが行かまいが、プロ・ノービスは負けるよ。だってこっちには、信頼できる仲間がいるからね」
「信頼だと? 仲間だと? そんなもの嘘だ。……昔はあると思っていた。そいつとは信頼し合える仲間だと」
朱雀の言う『そいつ』が自分を指していると聖華は分かった。だからこそ、何も言えなかった。実際に、彼女を裏切ったのは自分だから。
しかし、それが間違いだった訳ではないと聖華は思っていた。
「じゃああんたも、あの時逃げれば良かった! あんな大量快楽殺戮組織よりも、罪人取締班の方が正しいだろ!?」
「違う、違う! あの時、私が正しかったんだ! 私やお前を馬鹿にする愚か者など、殺されて当然だ! お前は……悔しくないのか!? 罪人が蔑ろにされ、この腐った世界ですらまともに生きられないんだぞ!?」
朱雀は眉を逆八にして怒った。罪人の今の処遇を思っての言葉だった。
対して聖華も、声を張り上げて怒鳴った。
「だからって人を殺す? ふざけるな! 寧ろ、どうして無闇に命を蔑ろにできる!? 何の罪も無い奴をただ殺して楽しいか!?」
「お前も人を殺したのは同じだ! そうやって綺麗事を言っても事実は変わらない!」
「覚えてるだろ!? あの時は悪者だと嘘をつかれて殺した! あたしがプロ・ノービスを抜けたのは、罪もない奴をもう殺したくないからだ!」
互いに本心だった。嘘偽りのないいがみ合い。もう策を考える余裕もなかった。
「終わりにしてやる、聖華! 【狂人の雨】!!」
「っ!!」
朱雀は天に向かって分身を打ち出した。その分身は、落ちながらも聖華に向かって発砲していた。
聖華は上に向かって障壁を出したが、右肩に一度弾が当たってしまった。聖華の能力の欠点により体温が上昇し、反射速度が低下したからだ。
それでも聖華は朱雀へと走り始めた。一直線に、真っ直ぐに。
「《発ど──……っ!?」
朱雀は回避用の分身を出そうとした。しかし、左足が上手く機能しなかったのだ。
朱雀の能力の欠点により体温が低下し、体全体が悴んで動かなかったからだ。
必死に動かそうと左足を見る。しかし一向に上がる気配がなかった。
「その技、予め分身を出さないとダメだろ? ……バカ」
「しまっ…………!」
聖華の声は朱雀の頭上で聞こえた。斜めに障壁を張り、その上を登っていたのだ。
「【苦艱・踵落】!!」
障壁から飛び降りると、朱雀の後頭部を狙うように、空中で踵を振った。狙い通り、聖華の踵は朱雀の後頭部に当たり、朱雀は崩れた。
朱雀は手も動かないので受け身も取れない。そのため最後の力を振り絞り、横に倒れることによって肩がクッションになって頭を地面に打ち付けることはなかった。
「……優貴の重力を生かす技、役に立ったよ」
聖華はそう言いながら膝だけ崩れ、立ち膝になった。
* * * *
「……聖華、一つ聞きたいことがある」
「はっ、らしくないねぇ……聞くだけ聞くさ」
朱雀に何故かトドメを刺さない聖華はそう答えた。何故か反撃をしない朱雀はどこか不安そうで、どこか怯えたような眼差しで話した。
「……私は何だ?」
「……」
朱雀の問いに、聖華は答えることができなかった。決して動物としての分類や、肉体の姿形を尋ねたものでは無い。
戦闘目的とその理由、信仰対象、築かれた過去……それらを一括した質問だった。
朱雀は自ら補足するかのように続けた。
「私は今も、一般の輩が卑劣で愚かだと思っている。ただ……一般人と罪人との齟齬の影響で、多量の死者が出た。望んだか望んでなかったかと言えば、望んでなかった」
「……確かに、普通の奴らにも極悪非道な奴もいれば、罪人にも根の優しい奴もいる。じゃあ次にあたしが聞くけど、どうしてこの戦争は起こっている?」
朱雀は薄々答えを知っていた。しかしそれを認めたくない自分がいたのか、口に出せなかった。
聖華はそんな朱雀をお構い無しに、事実を突きつけた。
「……分かり合おうとしなかったからだ。罪人を一律に悪と、一般人を一律に善と決めつけたからだ」
朱雀は自分でも分からずに反論しようとした。
「だが──」
「この戦争はね、認めない同士の一般人とプロ・ノービスで起きたもんだ。分かり合う努力もしなかった報いだよ」
朱雀の反論を遮って聖華は話した。その目に宿っていたのは、ただの嫌悪だった。一般人に対して、プロ・ノービスに対して。
朱雀はやっと、聖華の意思を悟ったように呟いた。
「……ボスの言うことが正しいと思っていた。所詮、妄信的に信じてただけだった。……だが、それも間違いだったんだな」
「少なくとも、この戦場においては正しいやつなんて居ないよ、彩」
「……そっか」
朱雀は自嘲気味に微笑んだ。聖華は自分でも恥ずかしい事を言ったな、と照れくさそうに言い放つ。
「ほら、動けるようになったらどこへでも行きな。あたしは……あんたをこんな風にした黄龍をぶん殴らないといけないからね……」
「……ふふっ」
そのとき、遠くから走る音が聞こえた。その正体は椿と凛だった。
「聖華さん! 大丈夫かい!?」
「大丈夫だよ、班長」
「あれは……朱雀ですか? 聖華さんトドメは──」
「いや、気にしないでくれ。ここは、あたしを信じてくれないか?」
椿と凛は互いに顔を合わせた。その僅か、椿が言った。
「……分かった。聖華さん、もしまだ動けるなら本部へと向かって欲しいんだ……大丈夫かな?」
「ああ、まだいけるよ。じゃあ行こうか」
椿と凛は、微量の疑惑を持ちながらも、聖華と共にプロ・ノービスの本部へと向かった。
もう誰も居ないその場で、朱雀──彩は先程とは違う微笑みで呟いた。
「カッコつけるなよ……聖華」
ご愛読ありがとうございました!
ご感想等々何卒よろしくお願いします!