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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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50話 罪人の親友

本当に遅れました!! ごめんなさい!!


頼渡VS広から始まります!


「っ……!!」


 こうの刀が頼渡らいとの頬に届く。頼渡は慌てて距離をとり、能力を最大限のちからで発動する。広は口に人差し指を当てると、《発動》と呟いた。

 通常ならば上向きの10Gのちからを受けて確実に死に至る。しかし広は、その影響を受けたような素振りをしない。


「くそ……。前々からその能力、本当に大っ嫌いだったんだよね! 君の、『中立命令背違罪ちゅうりつめいれいはいいざい』の能力がさぁ……!」

「……だから言ったはずだ。勝てない勝負だ、と」


 広の能力は、自身のちからを貫く能力。自分に対していかなるちからがかかろうとも、それを一度だけ無効にする能力。

 反作用のちからを用いてカウンターを食らわせる頼渡の能力では、彼の能力を止められなかった。反作用すら彼にとったら無に等しいからだ。


「だけど、君には弱点があるでしょ。()()()()()()()という弱点が」

「……」

「君だって分かってるはずだ、RDBのメンバーだというメリットが失われて──」

「関係ない。むしろ()の能力が異常なだけで、今の俺が本当の罪人の姿だ」


 傍目はためから見ても分かるように不機嫌になった広は、《発動》ともう一度唱えると、頼渡の懐に入るような勢いで駆けていく。

 一方頼渡は後ろに倒れつつ、近くの小さな石を指ではじいた。能力でその威力は膨れ上がっている。


 しかし石の軌道があまりにも直線的だったため、広は左足を右脚の後ろに持っていき、ひるがえすようにかわした。

 その回転力を活かして頼渡に急接近すると、刀を横から頼渡の首を目掛けて振る。


「くそっ……!」

「これで終わ──」

「はいはぁい、失礼するよぉー」


 カラン、という音と共におとぼけた女の声が聞こえた。広の刀は頼渡の首寸前で、空中で停止した。

 左に倒れ込む前に、足を入れて立て直す広。それに伴い、頼渡は後ろに倒れ込む勢いを殺さずに、後ろへと退散した。

 目を見開いた広を無視して、頼渡は女に話しかけた。


「……狩魔かるま。二回も助けられたね」

「なんもなんもぉー。……あれぇ? 広さんじゃぁん。久しぶりぃー」


 広は何も言わず、頼渡を助けた狩魔を睨んでいた。対して狩魔は、下に落としたサイコロを拾いながら口を開いた。


「広さんのその目……もしかして、私の熱烈なファン?」

「狩魔……お前は何故RDBにいる。お前は()()だったはずだ」

「あれぇ、知らなかったっけぇー。私、つい最近正式加入したんだよぉー。広さんが抜けた後にねぇー」


 そのやり取り自体に意味はなかった。少なくとも広は、頼渡を助けた狩魔はすでに敵と見なしていたからだ。

 頼渡は狩魔の元へと歩く。広はそれを追わなかった。また狩魔の妨害が入ると思ったからだ。


「それにしても、狩魔はどうしてここに?」

「ボスが退けって言ってたよぉー。ボスに頼まれてここに来たぁー。頼渡、携帯サイレントモードにしてるから気づかなかったしょぉー?」


 頼渡はポケットから黒い携帯を取り出して、着信履歴を見た。


「……本当だ、ボスから電話が来てる。しかも二回」

「頼渡は広さんをどうしたいか分からないけどぉ、ボスの言うことに従うのが最優先……だよねぇー?」

「…………そう、だね」


 頼渡は少し悔しそうな表情をしたが、ボスの話を受け入れられるほどには冷静だった。そして狩魔の肩を掴むと、狩魔はもう一度サイコロを振った。


「じゃあねぇ、広さぁん」

「っ! 待て、逃げるな!!」


 サイコロが地面に付いた瞬間、二人は一瞬でその場から消えた。広の声と、刀の落ちる音が虚しく響き渡っただけだった。

 歯を食いしばりながら刀を拾うと、二人が元いた場所にあるサイコロを、めいっぱい足で砕いた。





 * * * *




 時間は数分前にさかのぼる。


 美羽みうは片膝を付いて、疲弊感をあらわにした。

 突然倒れ込みそうになった美羽を心配して、菜々子(ななこ)真理奈(まりな)は駆け寄ろうと足を踏み込んだ。


「っ……かはぁっ……」

「美羽!?」

「だっ、大丈夫……! だから、まだ、そこにいてっ……?」

「大丈夫……じゃないよ、それ。いろんなとこから……血がっ……」


 美羽はせめて親友だけは救いたい、という意志のみでボロボロの体を動かしていた。しかし、それも限界が近づいていた。


「あれぇ、もう終わっちゃうのぉー? まだサイコロがあるのにぃー?」


 狩魔は美羽に見せびらかすようにサイコロを見せた。その数は、ボロボロだった美羽の心を折るものだった。


「じゃあねぇー。まあまあ楽しめたよぉー」


 そう言ってサイコロを振る準備をしたその時。


「どおぉぉりゃああぁぁぁ!!!」


 菜々子が全力で狩魔に近づいて飛び蹴りを喰らわせようとしていた。

 無慈悲にも狩魔はそれを躱す。しかしサイコロは振れなかった。


 菜々子は後ろにいた狩魔に向き直り、今にも泣きそうな目で睨んで怒鳴った。


「美羽は……美羽はな! お前みたいな、人をけなす奴に傷つけられていい人間じゃないんだよ!! これ以上美羽を傷つけるなら、あたしがお前をぶっ殺す!!」

「な、菜々子……」


 美羽は胸を打たれて心を熱くした。狩魔は嫌悪感をむき出しにした舌打ちを一つすると、気を取り直してサイコロを落とした。

 しかしサイコロは地面に落ちることはなかった。真理奈が寸前で手で受け止めたからだ。


「はぁっ、はぁっ……」


 息を切らして、涙を一粒一粒落として真理奈は叫んだ。


「美羽は……いつも私たちを気にかけてくれて、優しくて……庇ってくれて……。だから次は、私が……私たちが、美羽を助ける!!」

「……真理奈」


 美羽の心がさらに熱くなった。対し狩魔は何も言わなかった。表情も変えなかった。あたかも殺戮マシンのようにもう一度サイコロを振ろうとしたその瞬間、電話の着信音が鳴った。

 狩魔はそれに応答した。


「……もしもし」

『やあ、狩魔。少し不機嫌そうだね。いや、不機嫌じゃなかったら僕の杞憂だけれども──』

「要件は?」

『……撤退するよ。もうそろそろ()()()()だからね。だから、()()()()()()?』

「……分かった」


 狩魔は足の近くにいた真理奈を蹴飛ばすと、ボスのいる方へと向かった。


「きゃぁっ……!!」

「んのっ……てめぇ!!」

「私はもう戦わないから、宜しく」

「っ……」


 狩魔の氷よりも冷たい視線に、菜々子はひるむ。そして、そのまま歩いて撤退してしまった。

 美羽は真理奈に近づいて聞く。


「……大丈夫? ごめんね、庇えなくて……」


 真理奈は優しくてふわふわした笑顔で言った。


「大丈夫だよ」





 * * * *




 真理奈と菜々子は、動けなくなる寸前の美羽を連れてその場を後にした。美羽は避難所の場所を知っていたため、菜々子の背中の上から口頭で案内していた。

 その途中、美羽は二人に申し訳なさそうに言った。


「……隠してて、ごめん。私が罪人だっ──」

「なに言ってんだ! あたし言ったろ? 罪人だろうがなんだろうが、美羽は美羽だ! どうせ運がなくて罪人になっちまったんだろ?」


 菜々子は美羽の言葉を遮って言った。真理奈も元気そうに言った。


「優しい美羽が悪い罪人な訳ないよ。……その代わり、何かつらいことがあったらいつでもわたしたちに相談してね? 私たち、親友だからさ」

「…………」


 美羽は口をひらけなかった。代わりに、感謝の気持ちが目から流れ始めた。


「おい、泣くなって! あたしの背中が濡れんだろ!?」

「まあいいじゃん菜々子、泣きたいときに泣いても」


 そんな三人の面影が、幸せそうに避難所へと消えていった。

こんなデータ管理ガバガバの自分ですが、感想、アドバイス等々頂ければ嬉しいです!

ご愛読ありがとうございました!!

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