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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
1章 彼が幸せから地獄に落ちゆくまでの転落譚
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5話 値踏みと行き交う情報

いつもより短めです。ごめんなさい。


優貴が自己紹介するところから始まります!

「じゃあ、他の人にも自己紹介をすることになるけど、君は大勢相手に挨拶できるタイプかな?」



 班長は俺を気遣ったのか、そのようなことを聞いた。本当はどちらかと言うと苦手なほうではある。

 しかし俺は、



「できます。大丈夫です」



と短く答えた。

 この時の俺はもしかしたら、心にプロテクトをしていたのかもしれない。つまり自分を偽りたかったのだ。



   *



 班長に促されるまま俺は面前めんぜんに立つ。こちらを向く人達は、俺の中身を値踏みするかのようにじっと見ている。

 緊張をおもてに出さないように、自己紹介というていで俺は素性をさらす。

 


「ここで働くことになった、上浦かみうら優貴ゆうきです。能力というのもいまいち分からないですが、役に立てるように精進するので、宜しくお願いします」



 ふと前を見ると攻撃的ではない、温かな眼差しがあった。つい心を許しそうになってしまう。

 しかし残念ながら俺も俺で彼らを値踏みしている。果たして信用に値するのか、と。


 隣にいた班長は、驚くことにこんなことを言う。



「じゃあ質問タイム! 1人1つずつ質問してね。その前に自分の自己紹介をしてから言うこと」



と。

 やぶから棒にそんなことを言われた俺は、値踏みがどうのこうの関係なく目を見開く。



「はっ!?」


「言ってなかったっけ? 班員も聞きたいことがあるだろうし、質問タイムを設けるよ、って」


「いやいや言ってないですし、絶対今考えましたよね? それ」



 素の俺の言葉に、彼は返答代わりのイタズラな笑みを見せた。本当、敵に回したくない人だ。



「じゃあ、あたしから質問いいかい?」



 明るい影のような灰色の無造作なショートカットに、炎のような赤い目をした女性が堂々と手を挙げる。

 彼女の服装はスポーティーで運動好きなのが外見で分かる。肌も少し焼けているのも外によく出ている証拠だ。



「あたしは岡田おかだ聖華せいかってんだ。まあ、戦闘員だと思っておくれよ。そして、上浦くんのことをなんて呼んだらいいんだい? ちなみに、あたしはなんて呼ばれてもいいからね」



 彼女は歯を見せて笑った。訛っているのか、標準語ではないように聞こえる。

 ……呼び名は孤児院にいた時と同じでいいか。彼女のことを名前で『聖華さん』と呼ぶことにして、質問に返答する。



「いや特に名前の希望はないので、好きなように」



 次に輝くような金色で癖のないロングヘアに、茶色く染まった目をした女性が優雅に手を挙げる。

 亜喜あき先生ほどでは無いが、スタイルは良く、赤いメガネと黒のスーツ姿がトレードマークなのだろう。彼女の大人びた雰囲気と妙にマッチしている。



「わたくしは湯島ゆしまりんと申します。この班で副班長を務めております。質問ですが、あなたの能力名はお分かりになりますか?」


「確か『暴行罪』と書いてありました。」


「なるほど、暴行罪ですか。お答え頂きありがとうございました」



 凛さんはやけに妖艶ようえんな笑顔を浮かべて言う。目を合わせているこちらが恥ずかしくなる。

 彼女の口調はとても丁寧で、ビジネスでは好印象を持ちそうだ。


 先程の女性、聖華さんは手のひらと拳をバチンと合わせて言い放つ。



「暴行罪……いいじゃないの! あたしはそういうガツガツしたのは好きだよ!」


「えっ、聖華さんは俺の能力を知ってるんですか?」



 自分の能力は早く知るに越したことはない。俺は少々焦ってつい質問してしまった。

 そんな質問の対象である彼女は、座りながらストレッチをしていた。ただ、赤い目だけは俺の方を捉えている。



「まあね。そもそも、同じ能力があることは珍しいことじゃないからね」


「俺以外にも同じ能力の人がいるんですか。ちなみに、皆さんの能力は何ですか?」


「残念ながら、今は教えられない決まりとなっております」



 凛さんは、鼻の頂点と口の中心を結ぶように人差し指を立てる。『今は』というのに、俺は少し引っかかった。



「それは一体?」


「もはや、君からの質問タイムになってるね。まあ仕方ないか」



 班長は少し呆れたように振る舞う。

 無理やり吊り上げたような口の端を戻しつつ、彼は続けた。



「スパイ対策だよ。まだ完全に君のことは信用できてない。もし、俺たちの能力が他の悪さする罪人にばれたら、対策されやすくなってしまう。『あること』をしたら少しずつ教えるよ」


「……なるほど」



 まあ組織上、ここにいる全員の戦い方がバレたら成り立たなくなるだろう。

 それでも突っ込みたい質問もあるが、無闇に目立たぬようにするため、俺はとりあえず納得するように見せる。



「じゃあ質問を再開して!」


「はい!」



 彼の言葉とほとんど被るように元気よく手を挙げた。その人は果実のような桃色で短いウェーブヘアに、宝石のように輝く桃色の目をした女子だ。

 何やら見たことない服装をしている。長年、孤児院に居たせいか最近の流行はよく分からない。こういうのが流行っているのか?



「ふふっ、やっと質問が決まりました……! あっ、私の名前は天ノ川(あまのがわ)美羽みうです! まだここに入って1週間の新人なので、キャリア的には優貴くんとほぼ同じですね! そして質問ですが、優貴くんはいくつですか?」


「18歳の、高校3年生です」



 そう言うと、彼女は「わあ」とわざとらしく両手を合わせる。わざとらしく見える大袈裟おおげさな行動はまるで……いや。

 ……彼女は続ける。



「歳まで同じなんですね! 私も18歳です! ……あっ、そっか! わざわざ敬語じゃなくてもいいんだよね……?」



 手を合わせたまま、彼女はほがらかな笑顔を浮かべている。ただ、最後が疑問で終わったときの彼女は自信がないように見えた。

 元気が良く可愛らしい人だが、その反面落ち着きがないとも言える人だ。


 彼女の言葉にも一理ある、同期なのに敬語は必要ない、と感じた俺は疑問に答える。



「……そうだな。じゃあ、これから美羽って呼ぶから宜しくな」



 彼女の雰囲気に気圧けおされて、不用心にも思わず口角が吊り上がる。

 すると美羽は急にうつむく。髪の隙間から見える顔はほんのり赤かった。



「あはは、名前呼び捨てなんだね……」



 彼女の呟く声は何故か元気が無かった。おかしなことをしてしまったのか、それか孤児院の常識はここの非常識なのだろうか、と首を傾げた。



「高校生が名前の呼び捨て……ねぇ」



と聖華さんは嫌味ったらしく、ニヤニヤしている。

 どうやらここの人たちは、人が困っているのを見ることが好きらしい。こんな人たちが警察の一員でいいのだろうか?


 それはさておき、原因は分からないが友好関係を崩してしまったら都合が悪くなる。だから俺は「ごめん」と、とりあえずそう言っておいた。


 あとはあのゲームをしている少年だ。亜喜先生と似ている茶色で全体的に少し長い髪をしている。前髪から覗いた彼の瞳の紫色は、何かで無理やり塗り潰したようだった。

 彼は視線をゲームからこっちに変えて俺を見る。その一連の動作の後、口を開いた。



「はあ……自己紹介する。僕は菊村きくむらしょう。そして質問する。好きな食べ物は?」


「好きな食べ物……天ぷらですかね」


「肯定する。確かに美味しいよね」



 淡白な会話のあと、翔『さん』は俺から目線を外してゲームを始めた。

 ちなみにこの職場では先輩にあたるため、『さん』を付けることにする。……こんな態度の先輩は欲しくないが。


 そして彼は、話す前に許可を得たいかのように自らの行動を発言していたようだ。独特の話し方に困惑したのは心の中の秘密だ。



   *



 全員の自己紹介が終わったことを確認した班長は俺に向き直って、



「はいこれ、渡しておくね」



と話した。

 それはカードのようなものだった。文字が書いてあり、自分の名前や顔写真など個人的な情報が記載されていた。

 1番上には『班員証』という記述があることから、恐らくこれの名称だろうと認識した。『警察庁罪人取締班班員』という聞き馴染みのない漢字の羅列られつの隣には、「No.8」と書かれていた。



「『No.8』?」


「その通り。君は8番目の班員だ」



 8番目の班員という意味のNo.8か。

 ……いや待てよ、と俺は違和感を覚える。



「8? ここには俺を含めて6人ですよ。No.6の間違いじゃ?」



 彼は「ううん」と首を横に振る。そして間を空けずに彼は続ける。



「合ってるよ。1人は買い出し中でね、多分もうすぐ帰って来るよ。そしてもう1人は出張してる。少ししたら帰ってくるかな?」



 彼はにこにこと話していた。まるでそれが予言かのようにバン、とドアが荒々しく開かれた。

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