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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
5章 彼らが残酷な現実から理想の世界にするまでの英雄譚
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46話 希望すら投げられた二択

優貴、美羽、天舞音が、椿、凛と合流したところから始まります。


今回はある二つの地域についても焦点を当てます。

 * * * *




 優貴と美羽、天舞音は椿と凛の元で合流した。今は使われてなさそうな鉄製の施設がそこらに並ぶ。工場というよりは……刑務所のようなイメージ。

 三人からの質問も待たず、椿が怪訝そうな表情で聞く。


「……聖華さんは?」


 それに天舞音が不安そうに答える。


「メールで先に行ってって。助けに行きたかったけど、聖華さんを信じてここに来た」


「聖華さんが? ……分かった、俺と凛さんで様子を見に行くよ」


 椿は焦燥感を表に出す。ながらも、彼はこの場所を説明した。


「ここは国が立てた少年院……っていう名目の建物。()()孤児院の要請で作られたらしい」


 実は孤児院の施設は、森の中の一つだけではなかったのだ。ではここは何をする所なのだろう……?


「ここのどこかにプロ・ノービスの本拠地がある。三人で、慎重に行動するようにね」


 椿はそう言うと、凛と共に闇に隠れた。さすがにここで別行動は命取りだろう。

 優貴と美羽と天舞音の三人は、先を急ぎつつも冷静に行動を始めた。









 * * * *



 もちろん、この戦争の被害は東京に留まらなかった。例えばそれは……神奈川にも及んでいた。


恵子けいこさん! こっちは終わりました!」


 誰かの声。呼ばれたのは神奈川の班長、金山かなやま恵子だった。

 彼女はもともと戦闘系の能力ではない。しかし、彼女なりに立ち回って罪人を対処していた。

 彼女は誰も不安にさせまいと、笑顔を崩さずに答える。


「量が減ってきたわ! このまま押し切りましょ!」


 当然彼女は余裕ではない、寧ろその逆だ。しかし、彼女の笑顔で士気が上昇し続けている。

 一方、優貴の元先輩であった楠木くすのき雅人まさとも、戦闘系ではない。そのため、市民の保護に回っている。

 たまたま彼は、恵子のすぐ近くの市民を救助していた。恵子は近くに来た雅人に語りかける。


「雅人くんもありがとうね。もう少しの辛抱よ!」

「はっ、はい!!」


 彼は、笑顔こそ見せないものの、声を精一杯張り上げる。


 ……。


「ふん、ここを潰せばいいのね? 余裕だわ」


 そんな二人に、一人の闇が忍び寄る。










 * * * *




 さらに言えば、被害は関東に収まらず、こんな所にも……。



「恐らく、もうじきあちらの弾切れです。皆さん、もうひと踏ん張りです」


 京都の班長、長谷川はせがわ徳人のりとの物腰柔らかそうな、固い一言。それは全員と繋がる端末に吸い込まれる。

 その語尾終わりに、一人の敵が襲いかかる。その敵はナイフのような物を投げつける。


「このやろぅ!!」

「っ……! おい、『もう誰も攻撃すんなよ』?」


 頬を切った徳人さんは、細い目を開け、殺気のこもる声でそう言った。もちろん、()()()()を知らない敵は、再びナイフを投げた。


「がっっ……!! 痛てぇ!」


 徳人さんはそのナイフを避ける。そして敵は転がり込んだ。幻覚ではあるが、血が腹から溢れる。

 転がり込んで、痛みにもだえる敵を冷徹に睨む徳人。ゆっくりと歩み寄って、敵の苦しみを覗き込むようにしゃがみ込む。

 そして彼は何も思わないのか、そんな敵に《祝詞(セレブレーション)》を投げかける。


「もう『動くな』『喋んな』『息すんな』」


 痛みでもがく敵は切り傷を負う。

 痛みであえぐ敵は切り傷を負う。

 痛みで呼吸を荒らげる敵は切り傷を負う。


 敵は最後の力でびた。


「もう……やめ、」

「『俺に触れんな』」


 立ち上がった徳人は、事も無げに敵の腹を踏み潰す。一番の血しぶきが上がったところで、敵の言葉は途絶とだえた。

 あまりの痛みで脳が錯覚し、生命活動を中止した。いわゆるショック死というものだ。


 嘘の血を顔に浴びた彼は、白目を向いて力ない敵に薄ら笑いでこう呟いた。


「やっと、命令に従ってくれましたか」


 ……。


「ねえねえ! あの人強そうだね、()()()!」

「うん! 楽しみだね、()()()!」


 彼に、白黒の悪魔が微笑む。









 * * * *





 いくら敵が居なくなったと言っても、それはあくまでも()()()()

 そのため、急いで本拠地を制圧しなければ、日本の未来が危うくなる。


 つまり、今の中でこれの終幕を告げる者は、慎重な歩みを続けるこの三人だけだ。

 優貴が周りを警戒しつつ話す。


「思ったよりも敵は少ないな」


 天舞音が神妙に同調する。


「確かに、まだ敵も見かけてないしね。……逆に不気味だけど」


 美羽は、お化け屋敷を探索するように怯えながら話す。


「こっ、このまま敵無しで本拠地にたどり着きたいですよね……」



「うふふっ、そんなはずないでしょぅー? わたしがいるってぇー」


 聞きなれないふわっとした声。三人は驚く暇もなく、その声が聞こえた背後を振り向く。


 彼らの視界上には、灰色の目を輝かせる、妖艶な雰囲気の女性が建物の壁にもたれていた。

 右側は赤色、左側は青色のロングヘアを揺らしながら立ち上がると、彼らを眺め微笑んでいた。

 彼女は以前に頼渡を助けた、狩魔かるまと呼ばれた女性だ、と三人は思い出す。

 

「いつの間に? 警戒してたのに……」


 天舞音が怯えに促されて言葉をこぼす。それは優貴も美羽も同じ気持ちだった。

 彼女は、何の前ぶりもなくサイコロを一つ振る。襲来を全く予想していなかった彼らが、何かできるはずなく。


 彼女の振った目は五を指した。それを見た彼女はしてやったり、という顔をしてこう言った。


「……BINGO(ビンゴ)


と。



   *



「っ!?」


 美羽は声を出さず驚いた。当然だ、周囲の景色も変わり、仲間も居なくなっていたのだから。


「……天舞音さん? 優貴くん?」


 彼女は()()()()()()()()二人を探しさまよう。

 ただでさえ同じ構造の建物が並ぶ所のため、たとえ彼女が元いた場所に着いたとしても分からないだろう。

 じっとしておくのが正解か、と彼女が考えたその時。


 「やめろ! くんなぁ!!」という活発な女子の怒鳴り声。

 次に聞こえたのは、「あなたは……誰、ですか?」と小動物のようなワナワナした怯え声。


 どちらも、やけに聞いた事ある口調で美羽は変な汗を流す。


「嘘……でしょ?」


 美羽は絶望から、顔を白くする。そして、突発的にそちらの方角へ急ぐ。



   *



 美羽が見たのは、狩魔が二人の市民の腕を掴んでいる場面だった。

 しかも美羽にとって、その二人はただの市民ではなかった。


「大丈夫よぉー。お姉さんは、悪い人でも、いい人でもないからぁー」


 その市民らは必死に抵抗する。


「避難したはずなのに……! なんでこんな所にいるんだよ!」

「な、なんて、力……!?」


 黄緑のポニーの活発女子と黄色のボブの弱気女子。その外見が、美羽の懸念が確定した瞬間であった。

 美羽は何のためらいなくそこに飛び込む。


「その二人を離して!!」

「み、美羽!?」

「美羽……なんで、ここに?」


 その二人は美羽の大切な大学の友達、菜々子(ななこ)真里奈(まりな)だった。


 狩魔は「はいはい」と、あっさり手を離す。

 急に手を離された二人は重心がずれ、後ろに体重が傾く。

 足腰の強い菜々子は倒れずに踏ん張ったが、真里奈はそのまま地面にもたれこんだ。

 そして、狩魔は後ろに下がる。


「そっかぁ。でもぉ、お友達だったらぁ、()()()()しないとねぇー?」


 二人から距離をとった狩魔は懐から白いサイコロを取り出した。美羽は先程を思い出し、あれを落としきってはダメだと悟った。

 なので、美羽はサイコロと逆転するために地面に両手をつける。しかし……


「美羽? 地面に何かあるのか?」

「……っ!」


 菜々子の声で、美羽ははっと我に返る。ここで能力を発動したら、二人に罪人だということがバレてしまう。

 バレたくなくて、今まで隠し通してきたのに。


「じゃあ、サイコロを振るわよぉー?」


 狩魔の手から落ち行くサイコロが、美羽にはスローモーションに見えた。彼女の答えはもう決まっていた。ただ、彼女の決心がつかないだけ。

 彼女は、サイコロの目ではなく、彼女の目から出た液体を噛み締めるように目を閉じる。


「…………《発動》っ!」



   *



 彼女は、狩魔の前で軽く宙に浮いていた。そして、狩魔を攻撃するのではなく、菜々子と真里奈の二人に駆け寄った。

 美羽の直感通り、サイコロを最後まで落とせなかったら狩魔の能力は発動しないことが分かった。

 しかし、美羽が恐れたことはそれでは無い。美羽は二人を背後に、両手を広げてかばう姿勢を見せた。

 彼女の背後からは予想通りの反応が聞こえる。


「今のって……?」

「美羽……お前、まさか……」


 真里奈と菜々子の失念の声が、美羽の背後に突き刺さる。美羽はただ、「……ごめん」としか言えず、涙をそのままにした。

 狩魔は意地悪そうに口角を吊り上げる。


「あぁあー。バレちゃったねぇ、お友達に。罪人取締班の班員だってことが」


 狩魔は言葉のみで、彼女の精神状態に深い追い討ちをかける。

 しかし、それでも折れないのが美羽の強さだった。震えて息を吸うことに必死な声で叫ぶ。


「私は、いいの……! 二人を守れるなら、罪人だってバレても! さげすまれても!! 二人が無事なら、それで……!!」


 それは狩魔への反抗でもあり、自身を納得させるための自己暗示でもあった。

 菜々子と真里奈は、虚をつかれたように胸を掴まれる。


 美羽は次に、二人に告げる。


「菜々子、真里奈! ここから、絶対に動かないでね! ……ねぇ、お願いだから……!」


 二人は失念から我を取り戻す。そして、各々(おのおの)で答えた。


「……美羽、ここから動かなければいいんだな!?」

「後で、話聞かせてね。信じてるから」


 美羽の心に、まさかの返答が染みる。刹那せつな、少しつまらなさそうな表情をした狩魔を美羽は睨む。

 絶対に守りきる、という覚悟のもとに。

ご愛読ありがとうございました!


良ければ、次回も宜しくお願いします!!

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