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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
4章 彼らが理想の世界から残酷な現実に立ち向かうまでの克服譚
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43話 東京VS京都(大将戦)

遅れてしまい申し訳ございません。


椿が大将戦に赴くところから始まります。

 近くに美羽の柔らかい声が聞こえる。



「優貴くん! だっ、大丈夫ですか!?」


「……まあ、な」



 不意に上がる口角を下げようとせずに俺は答える。美羽は「よかったぁ……」と胸を撫で下ろした。

 班長はこちらを振り向くとこちらに微笑みかけた。しかし、その目の奥には強い意志を感じる。



「俺に勝敗の全部が懸ってるんだよね……じゃあ、行ってくるよ。絶対、勝ってみせるから」



 全員が首を縦へ動かす。彼を、班長を信用している証拠だと感じた。



   *



 班長同士が対面する。余裕を見せるように、互いに退かぬ笑顔を浮かべる。

 徳人さんは首をこてん、と倒すと困ったように言う。



「ははっ、随分と仕組まれた大将戦ですね」



 班長も答える。



「そちらのかたがあえて負けてくれなかったら、俺の出番が無くなるところでした」



 褒め合いかけなし合いか、いずれにせよ空気がピリつくのを感じる。

 張り詰めた空気の中、審判役の凛さんは口をひらく。



「準備は宜しいでしょうか? ……では、大将戦を始めてください!」



 他の闘いでも分かったが、始まった途端に必ずどちらかが動くのがセオリーになっているのだろうか。

 今回先に動いたのは徳人さんだった。しかし、その挙動は気が抜けるほどに静かだった。



「すみません、『能力を使わないで』くれます?」


「……?」



 初めに班長は呆気に取られていたが、それを直ぐに流して気を取り直すと、手袋を外して髪の束を触る。

 「《発動》!」という班長の声が聞こえた途端、徳人さんはおぞましく笑った。



「がはっ!!」



 初めて聞く、班長の苦悶の声。理由は彼の体が物語っていた。

 右肩から左腰にかけて、スーツに赤黒い血の線が見えた。


 右隣にいた美羽も、



「なに……あれ」



と、青ざめた表情で震える。

 また、左隣の聖華さんは、



「あいつ……! 怪我をさせないようにっつったのあいつだろ!?」



と、班長が傷つけられたことに腹を立てた。

 当の本人である徳人さんはヘラヘラと笑っていた。



「ふふっ、だから言ったじゃないですか。能力を発動しないで、と」



 班長は一動作一動作遅くても、それでも立ち上がった。

 痛みから息を切らし、苦しみから体が小刻みに震える。


 徳人さんは少々意外そうな顔をして言う。



「通常なら一発だけで痛みで立てなくなるんですが……。まあ、まだ手はあります」



 班長は傷を負ったが、代わりに能力を発動できたようだ。

 そういえば、徳人さんの発動の挙動が見られなかった。しがない推理だが、恐らく試合前に発動しておいたのだろう。


 徳人さんが続けざまに言う。



「では、『僕に近寄らないで』ください?」


「っ……!」



 班長は何かを察したのか、寧ろ離れて距離をとった。

 徳人さんは、本当に正義をまとめる者なのか、というほどに禍々(まがまが)しい笑みで行動した。



「……まあ、こちらから近づけばいいんですがね」



 彼はとんでもないスピードで走る。対して後退あとずさっていた班長との距離が縮まる。

 それはつまり……。



「ぐわあぁっ!!」



 今度は左肩から右腰にかけて赤黒い血が、黒いスーツに線状に滲む。

 先程のものと重なった所がさらにえぐられたらしく、そこから血が一滴、また一滴と垂れる。

 美羽は、いてもたってもいられずに抗議する。



「こんなのフェアじゃないです!! 凛さん、直ぐにこの試合を止めさせてください!!」



 審判役の凛さんも、それに賛成して終了させようとしたその時、あちら側の魅風みかぜさんが声を上げる。



「まっ、待つんじゃ!! その……班長のは、怪我をさせてるんじゃが、怪我をさせてないんじゃ!」



 どういうことだ、と俺が首を傾げた反面、班長はまた苦しそうに立ち上がって言った。



「そういう……ことか。これは……幻覚?」



 幻覚……? だが、俺たちは全員班長の血を視認している。

 まさか、俺たち全員が幻覚を見ているというのか……!?


 班長は、無言になる徳人さんに告げる。



「……俺が、幻覚から目をませば、俺の……勝ちでいいですね?」



 徳人さんは余裕そうに頷いた。彼がそんなに自信があるということは、これはそうそう破れないのだろう。


 班長はゆっくりと目を閉じる。しかし、これは勝負。

 徳人さんは大人げなくも、こんなことを発した。



「ごめんなさい。僕、セコい人間なので勝たせてもらいますね。なので、『抵抗しないで』ください?」



 そうして彼は走り出す。多分、背中の紙を剥がすために。そして悲しいことに、これを卑怯とは呼べない。

 これがもし敵との闘いであるならば、○○で勝利でいいか、なんて頼みがまかり通るわけが無いからだ。


 そう考えると、寧ろ徳人さんのほうが現実的に見えてしまう。

 

 かくして、徳人さんが班長の背中に手を伸ばす。班長は未だに目を閉じたままだ。



「「「班長!!」」」



 俺と美羽と、聖華さんの声が重なる。

 それに反応したかどうかは定かではないが、班長は目を見開く。


 班長は耳に手を当てると、「《発動》!」と、瞬間的に移動した。

 これも抵抗の一つらしく、班長の背中から血が飛び散る。ただ……



「……どうして痛がらない? まさか、幻覚が解けたでも言うのか!?」



 徳人さんの動揺する声に、班長は笑う。子供らしく、無邪気に笑う。

 それにつられて、徳人さんも笑う。呆れたように、困ったように笑う。


 徳人さんは称賛するように語る。



「今まで一度しか破られてないのに……。バレたらもう、この能力は通用しないので、これで降参とさせてもらいます」



 まさにお手上げというように手を上げる。凛さんは安堵した表情で決着を告げた。



「勝者、東京チーム!」



と。



   *



「いやー、負けてしまいました。完敗です」



 徳人さんは悔しそう……ではなく、あっけらかんと言った。

 それと同時に能力を解除したのか、班長の血もみるみるうちに消えていく。やはり全員が幻覚を見ていたらしい。


 班長は言う。



「京都罪人取締班の方々は強いと認識できる、有意義な時間でした」



 二人は握手を交わす。それは始まりの握手よりも固く、そして美しく見えるものだった。



   *



 練習場から退出し、外はすっかりと赤く染まっていた。

 もうすぐ夜の気配がする中、それぞれで会話を交わしていた。


 先鋒同士では、



「あんた、絶対強くなるよ! あたしが保証するさ!」


「ほっ、本当ですか!? ですが、もっと精進します!」


「おっ、その意気だよ! あたしも負けちゃいられないね!」



という、聖華さんと昌也さんの元気そうな声が。

 次鋒では、



「その……すまんかったのう。よっ、良ければその……連絡先を、交換せんか?」


「連絡先ですか? もちろん! また会って、今度はどこかに出かけましょう!」



という、美羽と魅風さんの可愛らしい声が。

 中堅では、



「相手にもなれず、申し訳ございませんでした……」


「ほっほ。まだまだお若く、戦闘の知識もあまりござらないでしょう。年を重ね、日々精進してくだされ」


「いつか、対等に渡り合えるその時まで、お元気で」



という、凛さんとげん爺さんの優雅な声が。

 大将では、



「こちらの班員の能力を東京のほうに送りますね」


「これは丁寧に。こちらも京都へと送らせて頂きますね」



という、班長と徳人さんの業務的な声が。

 そして……



「改めて、良い試合だった」



と、勝さんの声が聞こえた。そちらを振り向いて、俺も答える。



「はい、とても熱い闘いでした。ありがとうございます」


「次は味方として、プロ・ノービスに健闘しよう」


「勝さんがいれば心強いです。共に、自分の地域を守りましょう」



という、俺と勝さんの熱い友情のこもる声が交わされたのであった。

新能力者、長谷川徳人の使用許可証です。


┏                  ┓

     長谷川はせがわ 徳人のりと 様          


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『脅迫罪きょうはくざい』の使用許

 可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後一時間、

 対象に禁止事項を押し付け、対象がそれ

 を破った場合に、深い切り傷を追わせる

 幻覚を見せる能力です。また一度使用し

 た禁止事項は、その日はもう使えませ

 ん。


 『発動条件』:頭を抱える。


 『発動中、あなたが有する利点』:判断

 力の上昇


 『発動中、あなたが有する欠点』:痛覚

 の上昇

┗                  ┛



ご愛読ありがとうございます。次回も宜しくお願いします。

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