41話 東京VS京都 (次鋒戦)
続いて次鋒戦となります。(今回から三話分は少々文字数が減るかもしれません。ごめんなさい。)
東京チームの聖華が、京都チームの昌也に勝利したところから始まります。
聖華さんはこちらに、疲れきった笑顔で寄ってくる。簡潔で、それでいて壮絶な闘い。彼女が疲れない道理は無かった。
美羽が小走りで、彼女へ白いタオルを届けて言う。
「お疲れ様です! やりましたね!」
聖華さんは顔をタオルにうずめ、美羽へ笑いかけて言う。
「ああ、ギリギリだったけどね! 障壁を守りに使ったのが幸をそうしたね」
そして聖華さんは、その笑顔のまま俺の元へ近づく。
多分、俺だけにしか聞こえないような声で言った。
「優貴の闘い方を少しかじったよ。攻めつつも、考えて守るようなあんたの……ね」
俺が返答しようと口を開く前に、彼女はその場から少し離れ、壁へと腰掛けた。
彼女に「変わりましたね」と言うのはお門違いというものだ。
俺は何事も無かったかのように、次の選手の美羽を励ます。
「美羽、頑張れよ」
「ひゃっ!? はっ、はいっ!」
もしや彼女は恐がりなのだろうか。これから話すときは、なるべく驚かさないようにしよう。
美羽は錆びたロボットのように、ぎこちなく試合へ向かった。
*
「あっ、あなたは……!」
そう言った美羽の視界の先には、着物の少女が居た。
その少女は黄金色の長い髪をして、赤い上品な着物を着ている。
あちら側で、紳士的な男性が言い放つ。
「応援しておりますぞ、魅風殿」
少女の名前は魅風さんと言うらしい。
そんな魅風さんは対戦相手に気づき、驚きや苛立ちを露わにする言いぶりで話す。
「なっ! よりにもよって!? ……絶対負けてやらないぞ、たわけが!」
「なあっ……! こっちだって負けるつもりはありません! この……! えっと……ばっ、バカ!」
「バカじゃとー!? ナメおって!」
場を押さえ込もうと、審判役の徳人さんは苦笑いで話す。
「さっ、さあ、いきなりバチバチですが、始めましょう! では次鋒戦……始め!」
彼の言葉が終わった直後、魅風さんは何かを取り出した。
あまりよく見えないが……金平糖のように見える。
「食らうがよいわ! 《発動》!」
魅風さんは金平糖を床に置くと、『手を叩いて』発動した。
刹那、金平糖がまるで星空のように、空中へと飛び立ったではないか。
「《甘すぎる豪雨》!」
さらに、それらは一斉に美羽の方へと猛攻する。
「痛っ! いたたたっ!!」
体にそれらがぶつかって、たまらず声を上げる美羽。
この光景どこかで見たような……そうか、節分だ。
ただ、物理的ダメージは全くないように見える。例え通り、本当の節分のようだ。
美羽は地面に両手をつける。
「お返しですよ! 《発動》!」
まさに形勢逆転、美羽と魅風さんの場所が入れ替わり、金平糖の餌食になったのは、屈んだ姿勢の魅風さんになった。
「あたっ、痛いっ! なんじゃこれはぁ!」
これはコメディーだろうか。先程の試合と比べると、殺伐という雰囲気の欠片もない。
魅風さんは金平糖を静止させると、美羽を睨んで言った。
「こんのぉー! この手は使いたく無かったが……もう勝ちにいくぞ!」
魅風さんはまた手を叩くと、「《発動》!」と言う。
直後、美羽の視界には見えてないが、美羽の背中の貼り紙が浮いてきているのが見えた。
「美羽! 背中背中!」
いつの間に復活した聖華さんが大声を上げる。
それに気がついた美羽は、「えっ!?」と声を零しながらも、急いで手を背中に向かわせて紙を押さえる。
一方の魅風さんは誇らしげに鼻を鳴らす。
「ふっふっふ……! 妾の能力、『過失致死傷罪』は妾が一度でも触れたものを浮かせて飛ばすことができる……つまり! その紙は妾が準備したもの、故にいくらでも動かせるんじゃ!」
「そんな! 卑怯ですよ!」
「ひっ、卑怯なんかじゃない! 妾が前もって準備した戦術と言え!」
そんな美羽と魅風さんの押し問答が続く。卑怯とは言わないが、決して正攻法とも言えないな……。
ただ、先程の金平糖を見るに、浮力はそんなに大きくないようだ。美羽は片手で何とか紙を押さえれる程度だしな。
その代わり、美羽の能力が封じられたと言っても過言ではない。
美羽の能力は、両手を地面に付けないといけないからだ。
……と、いうことは。
「それ、食らうがよい! 《甘すぎる豪雨》!」
「きゃあっ!」
やはり、先程の節分状態だ。
さらに、魅風さんはその節分を派生させ、更なる技を繰り出す。
「お主はもう能力を発動できまい! これで終いじゃ! 《甘すぎる暴風》!!」
金平糖が、イワシの魚群のように渦巻いて台風のようになった。
その中心には、片手の使えない美羽。
「もう……だ、め……」
美羽は苦痛に満ちた表情でそんな弱音をこぼした。
塵も積もれば山となる、というように、金平糖の痛みも長く続けば痛いに違いない。
「そこまで!」
徳人さんの声が響く。それを合図に、金平糖は地面にパラパラと落ちた。
徳人さんの声が続く。
「……えっ? これを勝ちにしたくないんだけど……。くそ、ルールをしっかりと練らなくてはいけなかったのか……?」
徳人さんはチラッとこちらを見やる。彼の視線の先に居たのは班長だった。
目を合わせた班長は一つ頷く。その表情は優しく、この勝負の負けを認めるようだった。
それを見た徳人さんも、苦渋の決断で言う。
「勝者、京都チーム……!」
それを聞いた魅風さんは、仁王立ちして言った。
「ふふん、見たか! これが妾の……」
彼女が言い切る前に、徳人さんは軽く彼女の頭を小突く。
それを受けた魅風さんは、頭を押さえて叫ぶ。
「なっ、何をするんじゃ!」
「何が『見たか』なんだ……! あれは酷い、勝利とは言えない!」
「ひっ」と魅風さんは縮こまる。
その直後、魅風さんは涙目になって弁解した。
「だっ、だって……昌也がやられちゃったから、わ、妾が……勝たないとって……思ったんじゃもん……」
今にも泣き出しそうな雰囲気の彼女。そこに寄り添ったのは、他でもない美羽だった。
「あはは……私は順当に負けたと思ってますよ。だから、泣かないでくださいね?」
「うん……」と頷く彼女。
美羽が口出しした以上、何も叱れないだろう徳人さんは、代わりにため息を零して言った。
「……今回は東京の方々の優しさに甘えるけど、次からこういう行事には最低限の盛らるや礼儀を弁える! いい?」
魅風さんは迷いなく頷く。そして、美羽に向き直って話す。
「す、すまん……。えと、どこも痛くないかのう?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。とてもいい試合でしたよ」
こうして魅風さんと美羽は握手を交わす。新たな友情が俺にまで感じるほどに、その握手は固かった。
一見批判が殺到しそうだが、美羽の甘すぎる性格によって収束した次鋒戦だった。
新能力者、東魅風の使用許可証です。
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東 魅風 様
貴方は罪人となりました。
これは貴方の能力、『過失致死傷罪』の
使用許可証です。
この能力の詳細は以下の通りです。
あなたの能力は発動条件達成後、自身の
体重の十分の一までの質量の物体を浮遊
させる能力です。また浮力は一定です。
『発動条件』:手を叩く
『発動中、あなたが有する利点』:浮力
方向の自由度の上昇
『発動中、あなたが有する欠点』:色彩
判別力の低下
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ご愛読ありがとうございます。次回も宜しくお願いします。