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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
4章 彼らが理想の世界から残酷な現実に立ち向かうまでの克服譚
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40話 東京VS京都 (先鋒戦)

新しい能力が追加されます。詳細は後書きの方で。


東京の罪人取締班(椿、凛、聖華、美羽、優貴)と、埼玉の罪人取締班(徳人、メガネの少年、着物の少女、気品ある老人、ムキムキの男性)が練習場に入ったところから始まります。

「はえーっ、ここが練習場ですかぁ。随分と大きいですねぇ」



 京都の取締班班長の徳人のりとさんは、上を見上げたり周りをくるくると見渡したりして言った。

 そして徳人さんは朗らかな笑顔をして、続けて話す。



「昨日も言わせてもらいましたが、もう一度ルールを確認しますね」



 彼の話によると、ルールは至ってシンプル。


 チームの勝敗は、勝ち数を参照にする『星取り形式』。先鋒から大将までを決め、一対一の勝負を五回。

 相手が降参するか、相手の背中に付けられている()()()を取ったら勝ち。



「これはあくまでも『オリエンテーション』。互いに怪我はさせないように、楽しく行いましょう」



 とのことだ。

 大将は班長同士の闘いになるだろうから、先鋒から副将の中で、いかに多く勝利するかが大事になるだろう。


 俺たち東京チームは、割り振りを行うために作戦会議をすることになった。



   *



「どっ、どうしますか!?」


「しーっ! 美羽、静かに。相手に聞こえるよ?」



 美羽の暴走を、聖華さんは優しく制止した。美羽は焦ったように、口元を手で隠す。


 班長はその一部始終を苦笑いで眺めると、こちらに向き直って話し始めた。



「まあ、京都の方がどんな戦い方か分からないからね。だけど、ある定石があってね」



 俺は、班長の話に興味を示すように聞く。



「定石……というのは?」


「先鋒は豪快な、次鋒はテクニカルな、中堅はオールマイティな、副将は確実な選手にするという定石だよ。今回は、それに合わせてみよう」



 班長は、やはりやるからには勝ちたいのだろうか、堅実な作戦を立てた。


 かくして先鋒が聖華さん、次鋒が美羽、中堅が凛さん、副将が俺で、大将が班長で決定した。

 副将というポジションはかなり緊張するが……東京チームの為にも頑張ろう。



   *



 互いに準備の整った様子で、東京チームと京都チームが対面する。

 徳人さんが楽しみ半分の口調で聞く。



「どうやら決まったようですね。恐れ多ながら、そちらの実力を見させてもらいます」



 班長も、彼に似たような笑みで返す。



「そちらこそ。お互い、素晴らしい闘いにしましょう」



 二人は、まるで心が通じているように握手を交わした。

 こうして、合同演習が幕を開けることになる。



   *



 まずは先鋒戦。こちらは聖華さん、相手はメガネをかけ、分厚い本を抱えた少年だ。



「相手はあんたかい? 手加減はしないよ!」


「て、手加減無しですか……! こちらも、全力を出さなければ!」



 各々のチームの残りの四人は、選手の後ろ側で座っていた。

 赤い貼り紙が、聖華さんの背中に付いているのを確認できる。あれを取られたら負けか……。



「聖華さん、頑張ってくださぁい!!」


昌也まさやー! 負けるんじゃないぞー!」



 こちらの美羽の声と、あちらの着物の少女の声が重なる。

 互いに邪魔されたからか、美羽と少女の、二人の睨む目線が重なる。


 徳人さんが練習場の中心に立って、手を大きく上げる。

 徳人さんは、選手二人に聞くように響く声で言う。



「両者準備はいいです? では、先鋒戦……」



 少しの間。その重たい間が何故かこちらまで伝わり、心が張り詰めるような気分になる。



「始め!」



 徳人さんは手を勢いよく振り下ろすと、この闘いの火蓋ひぶたを切る。

 それとほぼ同時、そのくらいに動いたのは聖華さんだった。



「《発動》!」



 発動条件を満たし、目の前に、一つの障壁バリアを展開する……はずだった。



「はっ、《発動》!!」



 メガネの……昌也まさやと呼ばれていた彼は、ピシッと『天井を指さす』ように手を上げる。


 聖華さんの障壁バリアが……発動しない。いや、よく見ると聖華さんの足元には、確かに障壁バリアがある。

 これは……?


 俺の疑問に答えるように、聖華さんは驚いた声で話す。



障壁バリアの展開が……『めちゃくちゃ遅い』ってことだね、こりゃ」



 戸惑う彼女に、昌也さんは彼女の元へ駆ける。



「あれが展開しきる前に……急がないと!」



 彼は、『何かを遅らせる』能力者ってことか。

 聖華さん、どう動くんだ?



「……《発動》!」


「無駄です! 《発動》!」



 聖華さんの発動に、とてつもない速さで反応する昌也さん。

 これで、聖華さんの障壁バリアも事実上発動を封じられた。


 昌也さんが聖華さんに寄る。聖華さんは拳を前に構えると、



「……じゃあ、能力無しでやってやるさ!」



と、ファイティングポーズをとった。

 聖華さんは体術もできる。一方の昌也さんは、お世辞にも運動が得意そうに見えない。


 これで聖華さんが有利そうに見えるが……。

 それを裏切るように、昌也さんが言う。



()()()()して……《発動》!」



 彼の発言直後、彼の背後で突然障壁バリアが展開された。そして、『聖華さんの行動がいちじるしく鈍った』。


 昌也さんの能力は人間にもかけられるのか……恐ろしい能力だ。

 ただ、一つ解除ということは、スローにできるのは最大二つまでか。


 先程の展開された障壁バリアは、聖華さんが最初に発動したものだろう。

 昌也さんが、障壁バリアの内側へと入ったため、聖華さんの一つ目のものは無意味となった。


 このままだと、聖華さんは不利だ。……圧倒的に。

 聖華さんが負ける……そう思った時、昌也さんが突然、その場に崩れ落ちた。

 意識していない嗚咽おえつが、昌也さんの口から出る。



「うっ……お、重……!」



 何が起きたのか、俺が考察しようとしたその時、あちらの着物の少女が声を張り上げる。



「昌也ー! 一つ解除しないと()()がどんどんキツくなるぞー!」



 あれが……昌也さんの欠点なのか? だとしたら、『体が重くなる』という欠点か。

 そうだとしたら彼女の言う通り、どちらかを解除しないと欠点がやわらがずに、いつか昌也さんは動けなくなるだろう。


 昌也さんはアドバイスを受け、苦しそうな表情で話す。



「じ、じゃあ……解除!」



 恐らく解除したのは、聖華さんのもう一つの障壁バリアだろう。

 聖華さんが、先程から微動だにしていないのがそれを裏付ける。


 なので結果的に、聖華さんの不利には変わりない。……そのはずだった。


 刹那せつな、昌也さんは横へと飛ばされる。



「っ!?」



 昌也さんは声にならない叫びを発する。そして、壁に背中を合わせる形となった。

 さらに彼は、壁に背をつけたまま地面に座り込む。


 正体は、聖華さんの障壁バリアだった。ただ、それは昌也さんを吹き飛ばすというより、壁まで運んだという表記が正しい。


 なので彼の体に、衝撃は加わらなかったようだ。

 しかし代わりに、彼は審判役の徳人さんに、降参の意を表明する。


 その理由は昌也さん本人の口から説明された。



「……今ので、貼り紙が取れてしまいました」



 壁に背を引きずったため、自然と紙が剥がれてしまったのだ。証拠に、彼の尻元には青い貼り紙が落ちていた。

 徳人さんはそれを確認すると、また響くようや声を張り上げる。



「勝者、東京チーム!」



 途端に、聖華さんは「いたっ!」と、その場に座り込んだ。昌也さんの能力が解除されたのだろう。


 聖華さんの勝因は、二枚目の障壁バリアをあらかじめ、あのように発動しておいたことだ。

 彼の能力をいち早く理解し、それを逆に利用して、近づくと壁へ彼を運ぶ()のようにした。


 それでも勝てる可能性は低かったが、聖華さんはその賭けに勝利した。

 彼女自身も、苦肉の策と思ったに違いない。



   *



 聖華さんは、未だ座り込む昌也さんのところに歩み寄ると、手を差し伸べた。



「いい勝負だったよ……! どこか違ったらあたしは負けてたねぇ」


「あはは……ありがとうございました。あと一息だったのに……悔しいです」



 そう発言して、昌也さんは聖華さんの手をとる。

 これで一つの友情が結ばれた……ように見えた次の瞬間、



「おっも!!」


「あっつ!!」



 二人は一瞬にして手を離し合った。

 聖華さんの『体温の上昇』で昌也さんは反射的に、昌也さんの『体重の増加』で聖華さんは諦めて手を離した。


 かっこいい勝負には間違いないが、最後はかっこがつかない先鋒戦となった。

新能力者、光野昌也の使用許可証です。


┏                  ┓

       光野ひかりの 昌也まさや 様          


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『業務妨害罪ぎょうむぼうがいざい』の使

 用許可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後、ある対

 象の速度を十分の一にする能力です。対

 象は最大で二つまでです。


 『発動条件』:人差し指で上方向を指す


 『発動中、あなたが有する利点』:反射

 速度の上昇。


 『発動中、あなたが有する欠点』:体重

 の大幅な上昇。

┗                  ┛



ご愛読ありがとうございます。次回も宜しくお願いします。

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