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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
4章 彼らが理想の世界から残酷な現実に立ち向かうまでの克服譚
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38話 とある組織の作戦会議

今回は逆に、『朱雀』視点から、プロ・ノービスの会議を始めるところから始まります。

 * * * *





「では、これより対罪人取締班の対策会議を始める」



 私の呼び掛けにも、きっちりとした態度をとったのは『黄龍おうりゅう様』ただ一人だった。



白虎びゃっこ、机から足を下ろせ」


「……はいはい。お前、孤児院の先生してからやけにマナーに厳しくなったな」



 一瞬こいつの脳天をぶち抜いてやろうか、と思ったが、黄龍様の眼前でそんなことはできない。

 私は怒りをそっとしずめつつ、凛とした態度を心がけて口をひらく。



「……まず本題に入る前に、一人居ないし、一人増えているが?」



 私の言葉の真意は、『青龍せいりゅう』が未だ出席しておらず、代わりに『伝達係』がその場に、何食わぬ顔で席に座っていることだ。



「伝達係……なぜお前がここに?」


「『伝達係だから』さ。伝達無しには行動できないだろう? ああいや、別に否定してくれても構わないけれどね?」



 抹茶色のローブを着ている彼。一度見合って話したが、相変わらず掴み取れない性格だ。

 フード越しで見えるのは、メガネの下部分のみだ。



「なら、せめてフードを取れ。黄龍様の前だぞ」


「おや、これは失敬」



 あっさりと彼はフードを外す。そして初めて彼の容姿を見る。


 紫色と赤色の髪の毛が折り重なって、フサフサとした爽やかな髪型を作っている。

 暗めの黄色い瞳を覆うように、大きめのメガネがかけられている。

 孤児院から子供が逃げ出したのか、と思うほど、彼の容姿はこの場に合わず子供らしかった。



「これでこの伝達係も、会議に参加する資格をくれるかな?」



 彼は一つも動じずに話す。

 そんな彼に、私は呆れたように命じる。



「……青龍を呼んでこい。資格が欲しいなら、まず自分の伝達係としての仕事を全うしろ」


「ふぅ、人使いの荒い人だ。ただ、気の強い女性は嫌いじゃないよ?」

 


 こうして伝達係は席から立ち上がると、気色の悪い捨て台詞を放ってこの場を後にした。



「……何なんだ、あいつは」



 私の疲れた声に、白虎が反応する。



「確か伝達係あれやとったのって、ボスだったよな?」



 黄龍様は一際目立つ席に腰を下ろしている。

 そして黄龍様は、「うむ」と肯定する。そして続けた。



「状況を管理する者が欲しくてね。そんな時、たまたま彼がここに来たのだよ。彼も罪人だが、戦闘向きの能力では無かったから適任と判断した」



 確かに、あんな奴が戦場に出向けば不安でしかないからな。

 どうひねくれたら、あんな言い回しのする奴になるんだ……?



   *



朱雀すざく、お望み通り青龍を連れてきたよ」



 伝達係の彼の後ろには、黒い無造作の髪型の、高身長の男がいた。

 紛れもない、彼こそが青龍だ。



「青龍、何をしていたんだ?」


「……別に」



 そいつは素っ気ない態度で席に座る。なんだコイツは。伝達係といい、なぜこんな奴がこの組織に多いのか。

 私は腹立たしさをぐっとこらえ、本題に入る。



「では、改めて本題に入る。私達は罪人取締班と徹底的に交戦する。相手の警戒人物を一通り洗う」



 東京の罪人取締班だけじゃない、全ての敵と成りうる存在全てを、だ。

 私は続ける。



「例を挙げる。元幹部だった聖……玄武も、今は奴らの味方だ。要警戒の一人だろう。このように、他に注意すべき人物はいないか?」



 私の語尾に合わせ、白虎が脱力したように手を上げる。

 私が手で促すと、白虎は話す。



「まず、班のおさは強ぇと思う。だけどまあ、関東から離れてる奴らはひとまず置いといていいんじゃねぇか?」


「道理だ、続けろ」



 私の言葉に促されて、白虎は続ける。



「東京に透明になるやつ居なかったか? あいつは厄介かもな」



 確か、東京の副班長だったか。そいつ一人で戦況が揺らぎかねない。



「後は知らねぇな。あいつらも易々と能力を開示しねぇだろ」


「そうか。では他、何かないか?」


「では、私から……」



 細く、長い手を上げたのは黄龍様だ。私が「どうぞ」と促すと、高貴な態度で話し始めた。



「『RDB』の篠原頼渡、彼が帰国しているらしい。罪人取締班の仲間でもある彼に注意すべきだ」



 『RDB』……聞いたことある団体だ。どうやら、一人一人の戦闘能力が凄まじく高いとのことだが……。

 何を思ったのか、伝達係は手を上げ、私が促す前に話し始めた。



「篠原頼渡……噂によると、取締班の敵に回ったとか」


「おい! 誰が話してもいいと……」



 私の停止も聞かず、彼はまだ口を閉ざさずに続ける。



「そして、『罪人殺し』が仲間に入ったらしいよ」



 その言葉に一番反応を見せたのは、意外なことにあの青龍だった。



「……罪人殺し?」


「ああいや、これも噂だけどね? 何でも、触れるだけで能力を奪うだとか」



 伝達係は飄々(ひょうひょう)とした口調で話す。

 私は少し怪訝けげんに思い、彼に質問する。



「その噂……一体どこで聞いた?」



 彼のレンズが不気味に輝く。微妙に気後れする私に、伝達係は話す。



「能力だよ、この伝達係の……ね。さて、この話は置いておいて、噂も一応(かんが)みてくれないだろうか?」



 食えない奴だ……。まあ、その噂が本当なら、本格的に陣形を整える必要がある。

 私はため息混じりで話す。



「……分かった、警戒を強めて他の罪人を適任の所に配置しよう。もちろん、幹部はこのアジトの周りを補強する。……異論のある者は?」



 白虎はやはり面倒くさそうに手を上げて声を出す。



「あー、一人だけ俺の近くに配置して欲しい奴がいる。いいか?」


「はぁ……誰だ?」



 私の問いかけに、彼は性格の悪そうな笑みを零す。

 それを見て、私はなんとなく理解した。



「あいつか……。最近、やけにお前が気にかけてる奴のことだな?」



 私の言葉に、白虎は軽く頷く。性格が悪いやつだ、全く……。



「これで危険人物の話を終了する。次にこちらから奴らを攻撃する作戦だが……」



   *



 会議は徐々に終幕へと進み、その時が来た。



「長かった会議だが、これで終了する。変更などがあった場合、その都度会議を開くため、()()遅れないように」



 私はそう言って、青龍の方を向く。彼は何処吹く風、といったようにそっぽを向いている。


 各々(おのおの)が退出する中、伝達係はまだ席に座っていた。

 今この場には、私と彼の二人しかいない。


 私は、退出する素振りもない彼に聞く。



「どうした? 具合でも悪いのか?」


「体調に気遣いできる、家庭的な女性だね」



 どうやら、体調が悪いわけではないようだ。……いっそ、私が悪くさせてやろうか?

 伝達係はうすら笑みで話す。



「君は、『プロ・ノービス』と『取締班』。どちらが勝ってほしい?」



 愚問だ。私は、堂々とした態度でそれに答える。



「そんなの決まっているだろう? 私の組織が勝つに決まっ……」


「あっちには、『玄武』も居るのに? 君は、せっかく彼女が手に入れた幸せを奪うのかい? その覚悟はあるのかい?」


「っ!?」



 彼のうすら笑みが、だんだんと不気味に思えてきた。

 体に変な汗をかいているのが分かる。


 幸せを……奪う? 聖華の……幸せを?

 ……違う、そうじゃない、私は、ただ……!


 追い討ち、というように伝達係は話す。



「彼女は君に、『正しさ』を与えようとした。しかし君はそれを拒否したね? それなら、『今自分のしていることが正しい』と言い張れるかい?」


「……れ」



 思わず机を叩く。



「黙れ!! 貴様、喧嘩を売っているのか!?」


「おっと、その暴力的な顔も美しいね」


「っ……!!」



 焦りと怒りが混ざり、訳の分からない色となって心に覆い被さる。


 私は『左足を地面に叩きつけ』、「《発動》!」と叫ぶ。

 一人の私の分身が、私の背後に出現する。分身は奴に、ライフルの銃口を向けているはずだ。



「お前に……聖華のことを語る資格はない!」


「なら、君に資格はある……と?」


「なっ……」



 奴は立ち上がると、こちら側に歩いてくる。……話しながら。



「君が、最初に言ったことだ。『資格が欲しいなら、仕事を全うしろ』、と。では、君が彼女を語る資格が欲しいなら、君としての仕事をするべきだ」


「っ……! く、来るな!」



 私は威嚇射撃を分身に命じた。しかし、分身は動かない。

 彼は一向に歩みをめず、私へと近づく。



「なら、君の仕事とは何か」



 一歩。



「幹部としての仕事か……否」



 また一歩近づく。

 私は気が動転して、その場から動くことなどできなかった。


 ついに、子供のような身長の彼は、私の目を覗き込むように、下から私を見上げた。

 そして私に告げる。



「君の、正しさを主張しな。彼女に、君の行動の正しさを……ね」


「……っ」



 もはや、何も言い返すことができなかった。

 鼻につく態度だが、発言は何一つ間違いなど見当たらない。むしろ、納得したくらいだ。



「……すまないね。伝達係からの、ささやかなお知らせさ」



 彼はそうして、何も無かったかのようにこの部屋を後にした。



「っ……はぁ、はぁ……」



 まるで、戦闘を終えたかのような疲労感が私を襲った。

 机に手を乗せ、体重をそこに預ける。


 ふと後ろを見やる。

 今の私の、迷いと不安定さを忠実に表すように、分身の『銃口は私に向けられて』いた。

ご愛読ありがとうございます。


もし良ければ、次回も宜しくお願いします。

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