37話 本格的な作戦会議
『優貴視点』から、罪人取締所についたところから始まります!
(今回は作戦会議ということもあり、色々ごちゃごちゃしています。ご了承ください)
* * * *
俺は何もできなかった。その後悔は消えることなく、結果的に取締所まで引きずることとなった。
頼渡さんの裏切り、その事実を受け止めきれない人が何人か居た。
俺は比較的触れ合う日数が少ないためか、特別ショックという訳では無かったが……。
「みんな……少し時間を取るよ? 会議室に来てくれるかい?」
班長は俺を含めた班員七人に言う。
雰囲気を明るくしたい為の呼びかけでは無い、と彼の顔から分かった。
*
全員が席に座ったのを確認した彼は、指を交互に絡ませて机に肘を置く。
『緊迫』という言葉一つでは表せない空気が、会議室内の一人一人にこべり着くように漂っている。
「確定ではないけど、頼渡が敵に回った。こうなればもう、彼の言い分を聞く必要なんてないからね」
言い分……と言われてもピンと来ない自分が居る。
俺だけじゃない、美羽や翔さんも首を傾げる勢いだ。
その答えを彼から聞くのには、僅かの時間もかからなかった。
「頼渡の能力についてだよ。……『公務執行妨害罪』。『自身や対象の受ける力を数倍にして跳ね返す』……それが頼渡の能力だよ」
力を跳ね返す……。
そうだとしたら、今までの現象にも合点がいく。ある時は俺をナイフから守ったり、またある時は人に触れられるのを阻止したり。
「だけど、これはあくまでも彼自身が言っていたことだ。それに発動条件も、利点欠点も教えてはくれなかった」
つまるところ、班長にも能力は分からないということか。
前の頼渡さんなら信頼できた。しかし今の頼渡さんを見てしまったら、どうしても疑いが出てしまう。
「つまり、プロ・ノービスに頼渡さんが入った……ってこと?」
今は居ない頼渡さんの席に座っている天舞音さんが疑問を投げかける。
それに対して、珍しく翔さんが口を開く。
「否定する。頼渡さんは『RDB』の所属。そんなRDBがプロ・ノービスに協力するはずない」
『RDB』と言う名前、頼渡さんから一度だけ聞いたことがある。彼は世界を守る組織、と言っていたが……。
それも本当なのか、と疑ってしまってはどうしようもない。
内心焦る俺に比べ、凛さんは幾分冷静な態度で、メガネのブリッジを上に押す。
「確かに、プロ・ノービスには加入してないかもしれません。ですが確実に、わたくし達の敵に回りました。敵の敵は味方、ということですね」
恐らくこれが議題の結論だ。理由はどうであれ、俺たちの敵に『RDB』がいるということだ。
彼女の言葉には、誰も彼も口を開かなかった。
*
「とにかく、確実な敵であるプロ・ノービスに対抗するには、それなりの情報が欲しいところだけど……」
そう言って、班長は聖華さんの方を向いた。
自分が何をするかすぐさま理解した彼女は、「はぁ……うん」と言葉にならない様子で覚悟を決める。
「あんまりあの組織を語りたくないんだけど……まあ、事態が事態だしねぇ……」
まいったと言わんばかりに、彼女は頭を掻く。
「ありがとう」と班長はぎこちなく笑みをこぼす。
「まあ、プロ・ノービスには幹部が四……いや、三人いるんだ。一人目の『朱雀』の能力は前話したね。できれば不意打ちとかが最適解だよ」
「朱雀……」
俺は思わず独りごちる。誰もそれに触れる素振りはない。
凛さんはそもそも聞こえてないのか、こちらを気にする様子すらないように話す。
「とても厄介な能力でした。擬似的な瞬間移動、分身生成、巧妙な攻撃……一対一は避けたい相手ですね」
「さらに言えば、彩はあたしと違って頭が切れるからねぇ……」
「彩?」
聞き馴染みのない言葉に、菫さんが言及する。
聖華さんも言われて初めて気がついたように目を丸くする。
そしてすぐさま「ああいや……」と、首を静かに振る。
「とにかく接触したときは、なるべく周りをよく見るんだ。それか耐久戦で対処しな。あいつの欠点は『体温の急激な低下』だからね」
体温の急激な低下と言えば、聖華さんの能力の欠点と良く似てるな。
「あと足音にも気をつけな。なぜなら、あいつの利点は『聴力の上昇』っていう厄介なやつだからねぇ」
これも聖華さんの利点に良く似ている。
総じて、二人の能力の利点欠点に共通点が多いということが分かった。これはたまたまなのか……?
*
一段落ついたところで、彼女は再び話を始める。
「二人目は『白虎』。はっきり言って、あいつは異常だよ。力も……性格も」
「……っ!」
白虎の名前を聞いた途端、天舞音さんの形相が一変した。恨みや怒りなど、彼女らしからぬ感情を感じ取れる。
隣に居た美羽は、彼女を落ち着かせるように肩をさすりつつ話す。
「確かに……ものすごく速かったです。戦闘慣れしてない私は反応できませんでした」
「あいつとは……接触したらすぐ逃げな。逃げ切れたらラッキーだね」
聖華さんの口から、『逃げな』と聞けるとは思わなかった。それほどまでに恐ろしい相手なのだろう。
「その白虎の能力は……?」
俺は対策としても、念の為に聞くことにした。
対して彼女は肩を竦めて答える。
「残念ながら、あたしが知ってる能力は朱雀の能力だけさ。その他の主要メンバーの能力は、あたしにも教えてくれなかった」
聖華さんにも伝えられてないのか……。うちと同じで、あちらも能力の漏洩を恐れているらしい。
「次に『青龍』だけど……今思えば、あたしもそんなに見かけたことが無かったんだよ。恐らく戦闘向きではない能力と見たね」
彼女は、「いつも引きこもってたからなぁ……」と独り言を呟く。
「まあそれは置いといて……。最後に『黄龍』だね。本当に得体のしれない奴さ。なんたって能力すら……あっ」
「聖華さん? どうしたの?」
何かに気づいたように目を開く彼女に、班長が不思議そうに首を傾げる。
彼女は顎に手を当て、思い出すようにポツポツと話し始める。
「そういえば……体から黒い鞭みたいなのを出してたっけな? ……すまないね、これ以上は思い出せないや」
諦めたように苦笑いする。とにかく、これで大まかに組織について聞けたな。
*
その後も班員達で、プロ・ノービスの対策を練る。
どうしようもないことはバッサリと切り捨てる。対策できるところはとことん話し続ける。
……そんな方式だ。
途中途中で意見が割れることもあったが、その度に班長か凛さんが場を収めた。
今決まったことは、『大まかなメンバー』と『最終目標』だ。
*
メンバーは主に三グループで編成された。
まず、最前線で敵の様子を見る『偵察隊』。これは能力の関係上、『凛さんと班長』に決定した。
次に、敵を倒しながら進む『攻撃隊』。これも能力的に、『俺と美羽、聖華さん、そして天舞音さん』に決定した。
最後に『後方支援隊』。これは負傷した敵から情報を聞き取ったりできる『菫さんと翔さん』に決定した。
このメンバーは、他の都道府県の取締班にも伝えるらしい。そして同じような編成にしてもらうことで、互いに助け合うシステムが不安定ながら完成した。
罪人で構成された『治安ボランティア』の人達にも協力を仰いで、そこそこの人数が集まったらしい。
最終目標はもちろん、『黄龍、及び幹部を対処する』こと。余裕があれば残党も対処していきたい。
*
先程言ったどうしようもないことは二つ。
一つは『RDB』の存在。
この作戦も彼らに邪魔されれば根本から崩れかねない。
もう一つは、『この作戦自体の稚拙さ』。正直、この作戦は机上の空論だ。
だからあえて行動を限定しないのだが……それは、各々《おのおの》で臨機応変に対応しなければいけない、という不安定さを意味している。
*
そんな紆余曲折な議論が展開されながらも、いよいよこれが最後の話だ。
「……じゃあ、最後に俺の『詐欺罪』でコピーできる能力を紙にまとめておいたよ。後でもいいから一応目を通しておいてね。じゃあこれで会議を終わるよ、みんなお疲れ様」
そういえば、頼渡さんとの戦いの際にも様々な能力を使っていたな。それを知っておくと良いことがありそうだ。
俺は班長からその紙を受け取ると、会議室を後にした。
優貴が受け取った紙の内容
↓
車を出す能力の『危険運転致死傷罪』
思考力を高める能力の『私戦陰謀罪』
計算能力のある電子機器を爆破させる能力の『電子計算機損壊等業務妨害罪』
自身を瞬間移動させる能力の『逃走罪』
その他は、頼渡を除く班員の能力 計11種
班長はこの能力達を上手く使いこなせるのかに期待しながら、続きを楽しみにして頂けるよう、お願いします!