35話 最悪の展開
班長が髪の毛をねだったところから始まります!
班長の言葉に全員固まった。驚きや軽蔑、理由は様々だが。
彼はとても焦ったように話す。
「別に変わった趣味とかではなくてね……!? 俺の能力上、その髪の毛を使えばここにいる全員の能力を使えるから……」
聖華さんは腕を組んで、眉をしかめながら答える。
「でも、正直気色が悪いよ。……まあ班長のことだから変に扱わないことは分かるけどさ」
続けて凛さんが話す。
「今までわたくしたちに能力を明かさなかったのはまさか……」
彼女の言葉に、班長は気まずそうに笑う。
「まあ、こういう反応されるのが嫌だったからね……」
「まああたしはいいよ。べ、別に恥ずかしいとか思っちゃいないしねぇ……」
聖華さんはそう言いながらも顔を赤くする。そして髪をいじると、一本の灰色に輝く糸を班長に渡した。
「いいかい……!? あたしを含めて、それで変なことをしたら承知しないからね!?」
と気を動転させながら。
その後も様々な一言を発しながら班長へと渡す。
「わたくしの後ろ髪より前髪のほうが、束の長さ的にちょうどですね」
と凛さんが金色のを。
「ふっふーん♪ 僕の能力と班長の能力、喧嘩しないといいねぇー♪」
と天舞音さんが橙色のを。
「寄付する。この能力難しいから、分からないことあったら聞いて」
と翔さんが茶色のを。
「俺の能力、使ってください」
と俺が黒色のを。
後は菫さんと頼渡さんだが……。
「私はもうお兄ちゃんに渡してるわ」
菫さんはそう話す。どうやら班長の能力は既に知っていたみたいだ。
ということは頼渡さんも渡してるのだろうか?
「ボクはパスで。だってボクの能力、椿に使いこなせる訳ないじゃん?」
図星なのか班長は何も話さなかった。
そうなると、俺が知らない能力は頼渡さんのだけだ。
あの時俺を守った能力。そして天舞音さんの『窃盗罪』に勝ったらしい能力。……使いこなせない能力?
「ああそれと」と彼が話し始める。
「ボク少し用事があるから、今日はもう帰るねぇー」
「用事? それって……」
班長の問いに答えることなく、彼は足早に去っていく。
彼の怒涛のような展開に誰もついていけなかった。
*
あれから数日が経過した。頼渡さんは、あれ以来姿を見せなかった。
代わりに姿を見せたのは退院した美羽だった。
初め班長に「髪の毛がほしい」と言われたときは慌てふためいていた。恥ずかしそうに顔を伏せながら、彼女は何とか班長に寄付した。
そんなある日のことだ。受話器のコール音が鳴り響いたのは。
*
それには班長自ら応じた。
「はい、こちら罪人取締班」
「何でよ! どうして私が罪人なんかに……」
「落ち着いてください。一体何が……」
「さ、3人くらいが交差点で暴れてるのよ! 変な能力使って道路やら車やらを壊してるし!」
「分かりました。安全な所に逃げて下さい。至急向かいます」
班長は電話を切った。3人もの罪人が暴れてるとなると……。
「みんな……総迎撃するよ」
彼の言葉に全員が立ち上がった。その全員の中には、心臓の鼓動が早まっている俺も含まれていた。
菫さん以外の班員でそこに向かうことになった。
*
そこが目的地というのはすぐに分かった。
そこは酷く荒れていて、血痕が飛び散っていたりアスファルトが抉れていたりと散々な所だ。
そこに居たのは、黒いフードを被った子供のような人物が2名と、『白い服装の人物』が1名だ。
その人物は、白いシルクハットに白のスーツを着ている。
紛れもない、頼渡さんだった。
「やっと来たぁ! 遅刻だよ!」
彼はスクラップになっている車の上に乗って足を振っている。
俺は息が詰まった。このまま呼吸ができないんじゃないか、と思うほどに。
「ら、頼渡!? あんた、今何してるのか分からないのかい!?」
聖華さんの怒号が辺りに響く。しかし当の本人はそれを軽く受け流す。
「何って……殺戮だけど? それ以外の何って言うのさぁ……!」
彼は狂気じみた目、見ただけで悪寒を感じる笑み。
いつもの彼とはかけ離れていた。
彼について何も語ることができない。
どうして気が狂ったのかも、罪人取締班を裏切ったのかも。ただ1つだけいえるのであれば、『彼は敵』だということだ。
「ほら! 正義ごっこかましてる馬鹿野郎どもが! ボクを、潰してみろよ!!」
「正義ごっこ……? あんた、絶対に許さないからね!?」
聖華さんは激情して右足を踏み鳴らす。班長は目を見開く。
「聖華さん! 待って……」
「《発動》!」
彼女は班長の静止を聞かずに能力を発動させた。バリアが一直線に彼の元に向かう。
しかし、黒いフードの小さな2名が頼渡さんの前に立つ。そして、『バリアが粉々に砕け散った』。
そのまま終われば、彼女はもう一度発動出来ただろう。
しかし、彼女に『2種類の異変』が起きた。
「くっ……な、んで……?」
彼女がよろけて倒れる寸前までになった。俺は急いで飛び出し、ギリギリの所で彼女を掴んだ。
彼女は精神的以上に、物理的に熱くなっていた。彼女の能力の欠点が『急進行』していることに気がついた。
「聖華さん!? どうしたんですか!」
美羽も慌てて駆け寄る。聖華さんは俺の腕の中でうっすらと目を開ける。
「み、美羽が掴んでくれたのかい……? ありがとね……」
「えっ? 掴んでいるのは優貴くんですよ?」
「そう、なのかい? 目が霞んで、何も見えないんだよ……」
弱々しい彼女の声に、その場の班員は開いた口が塞がらなかった。
どういうことだ? 彼女の身に、一体何が起きたのだろうか……?
「班長……わたくし、怖いです……」
凛さんが珍しく弱音を吐く。
いや、本当は俺だって吐きたい。胸の内がゾワゾワするほどの怪現象が起きているのだから。
「……どうしてだよ……頼渡!」
班長が怒りを顕にする。彼の表情は鬼の形相と言うのも生ぬるい顔をしていた。
「あの時……言ったじゃないか! 俺とお前と、菫の3人で平和を……」
「平和? ボクは最初からここで『ヘイワ』が作られるなんて思ってないよ!?」
「あははははっ」と彼は乾いた笑いを放つ。
「だいたい椿の『平和』とボクの『ヘイワ』が同じなんて、一体誰が言った!?」
「もう、いい……何も言うな、頼渡」
班長は白い手袋をほおり投げる。そして6本分太くなった、髪の毛の束を素手で触れた。
『もう、黙れ』
彼の気迫で全員が黙りこくった。能力の発動前なのに、まるで強要罪が発動されているかのように。
「……《発動》」
彼の能力を知ってから今まで彼が能力を練習しているとき、いつも情報酔いするらしくふらついていた。
今回の彼は例外だった。真っ直ぐ立って、頼渡さんに全ての憎みを合わせたような目を向ける。
その時、
「……ふふっ」
「……ははっ」
と、笑い声が聞こえた。
子供のような、邪悪な獣のような。
それが聞こえてないように、班長は歩みを進める。1歩を刻んで3人との距離を詰めていく。
それを見たフードの2名は驚いて頼渡の元へ駆けていく。風圧に耐えきれずにフードが脱げる。
黒い服装の2名の正体は、片方は白色の、もう片方は黒色の髪をした小さな子供だった。
「ねぇねぇどうしよう! ノワルの能力効いてないよ!?」
「ブランもブランも!!」
自らをノワルと名乗る黒髪の女児と自らをブランと名乗る白髪の女児の2名が不安そうな表情で頼渡を見やっていた。
彼は2人の頭をそっと撫でると、
「大丈夫。効いてるから」
と優しそうに笑った。
あの笑顔はよく見せていた笑顔で、それを敵の子供たちに見せているのを見ると、少し寂しくなる。
「覚悟しろ……頼渡!」
班長はそう言うと、『右耳を手で覆った』。
「《発動》」
彼は一瞬にして、3人の元へ近寄った。
「きゃっ!」
「いやっ!」
女児2人は酷く驚いて、頼渡さんの後ろへと隠れる。
一方の頼渡さんは余裕の笑みを見せていた。
ダークヒーロー頼渡が生まれました
そしてノワルとブランと名乗る2人の子供たちは……?
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