34話 軽視される了解
頼渡と天舞音が握手し終えて、班長が場を仕切り直すところから始まります!
視点は
優貴→???→優貴
の順で変わります!
「じゃあ、仕切り直して……」
班長はわざとらしい咳払いをして続ける。
「天舞音さん、菫の能力で使用許可証を見てもいい?」
彼の問いかけに、天舞音さんは朗らかに笑う。
「いーよー。だけとその前に、せっかくだから僕の能力をみんなに軽く説明しとくね♪」
彼女の言葉で、全員が彼女を注目した。あたかも舞台上の手品師のように、彼女は身振り手振りをしながら能力を明かす。
「僕の能力は『窃盗罪』。触れた罪人の能力を完全に奪う能力。発動条件は『深呼吸をすること』。利点は『空気抵抗の減少』で欠点は『感情の起伏の増幅』だよ」
「感情の起伏?」
頼渡さんはその言葉が気になったのか、椅子の背もたれに身を寄せつつ彼女に聞く。
それに対し、彼女は呆れたように肩を竦めてこう返答した。
「要は、喜怒哀楽が激しくなるんだ。昨日は2人を捕まえたときから、ずぅっと発動しっぱなしだったんだよねぇ……」
「ああ……だから、あの時はいきなり怒ったり泣いたりしたんだねぇ」
頼渡さんは納得したように2つ頷く。ただ、その場にいなかった俺にはいまいちピンと来ない話だった。
「まあ……そんな感じだよ。いくら心の広い僕でも、使い過ぎれば何するか分かんなくなる」
「そういうときこそ、あたしらを信用しな! 絶対何とかしてやるから!」
聖華さんは根拠の無い優しさを見せる。しかし、たまにはそういう優しさが心の奥まで染みる。
その言葉を受けて天舞音さんは目をパチクリとさせる。そういう風に言われるとは思ってなかったのだろう。
まるで、何も発言しないのはそれはそれで恥ずかしい、と言いたげな様子だ。そのためか、強がるように笑うと
「いやぁ……なんか、僕が年上だけど優しいお姉ちゃんみたいだね♪」
と聖華さんに言う。
彼女は家族を失ってしばらく経つ、ということは簡単な優しさにすら永らく触れてなかったのだろう。
聖華さんは否定せず、ただ笑いかけていた。
*
班長と菫さん、そして天舞音さんはここの2階へと向かった。俺もやった、記憶を見るためだ。
午前中は自由にしてて良い、と言われたため、俺は凛さんに事務のやり方を聞きに行った。
* * * *
事務室に電話の音が鳴る。電話の持ち主は自分。何食わぬ顔で外に出て、電話に応じる。相手は『ボス』から。
「……もしもし?」
『やあ、調子はどうだい? ああいや、急に世間話をしに来た訳では無いよ』
相変わらず口数の多い人。早く要件だけを言ってほしい。
そんな気持ちが伝わったように、ボスは声のトーンを落として話す。
『……罪人殺しが、取締班に入ったようだね。……何が言いたいか、君には分かるね?』
もう、その先の言葉は聞きたくない。戻れなくなってしまうから。そんな気持ちがいつから芽生えたのかは、自分には分からない。
自分の気持ちを嘲笑い、踏みにじるかのようにボスは告げる。
『……つまり潜伏は終わりだ。これからは行動だ』
自分は目を瞑った。何かの終わりを悟ったのか、内なる自分を見ようとしたのか。
「……了解」
自分の言葉に重みが増す。その重さは誰の心に影響するだろうか。
少なくとも、電話越しの人物に影響などちゃんちゃらおかしい。
電話は一方的に切られた。切られた後の無機質な音が死亡宣告のように、ご大層にも頭に反響する。
*
辛い、辞めたい、このままでいたい、という気持ちをぐっと抑える。
その気持ちは猫のようだった。乱暴に押し込めると、内側から周りを引っ掻いている。
おかげで一心不乱に、心中で叫ぶしかなかった。決して外には出せない叫びを。
しかし思う。これは運命なのだ、と。ボクとしての定めなのだ、と。
『篠原頼渡として』の……。
* * * *
記憶に関して行動していた3人と、電話のために退室した頼渡さんが同タイミングで帰ってきた。
「頼渡さん、電話大丈夫ですか?」
少し覚えた事務を何とかこなす俺は、これといった理由は無いが頼渡さんにそう聞いた。
「んー? 大丈夫だよぉ? ほら、どこも壊れて無いし」
そういう意味じゃないのだが……と思っていると、彼は「あはは」と軽く笑う。
「冗談だよ。無事、『解決』したから大丈夫」
本当に何を考えてるか分からない人だ。もはやそこが、彼の魅力なのかもしれない。
一方の班長は、何かの紙を2枚持って来た。そして、
「みんな、少し見てくれるかい?」
と言う。その言葉に導かれるように、班長の机に向かった。
そして彼の机を見ると、彼が先程持っていた2枚の紙が提示されている。それは2人分の使用許可証だった。
*
┏ ┓
叢雲 椿 様
貴方は罪人となりました。
これは貴方の能力、『詐欺罪』の使用許
可証です。
この能力の詳細は以下の通りです。
あなたの能力は発動条件達成後、触れた
罪人の能力を模倣し、利点と欠点を無視
し、時間制限内で能力を発動できる能力
です。
『発動条件』:身につけた物を1つ外す
こと。
『発動中、あなたが有する利点』:気温
への適応力の上昇。
『発動中、あなたが有する欠点』:この
能力の時間制限の短縮。
┗ ┛
┏ ┓
九十九田 天舞音 様
貴方は罪人となりました。
これは貴方の能力、『窃盗罪』の使用許
可証です。
この能力の詳細は以下の通りです。
あなたの能力は発動条件達成後、触れた
罪人の能力を奪取し、対象が30m以内
にいる限り、発動条件を無視して発動で
きる能力です。
『発動条件』:深呼吸をすること。
『発動中、あなたが有する利点』:空気
抵抗の減少。
『発動中、あなたが有する欠点』:感情
の起伏の大幅な増幅。
┗ ┛
*
この2枚を見て、分かったことが2つある。それは、天舞音さんは能力を偽って無かったことと、班長の能力の全てだ。
「いやー、なんか恥ずかしいねぇー♪ まるで自分のスリーサイズを見られてるかのような気分だよ」
何を言ってるんだこの人は。
……それよりも、なぜ班長はこの2枚を提示したのだろう。
班長は、俺の心を見通したかのように答えた。
「俺の能力は罪人の生死に関わらず発動できるんだ。つまり……だから……」
彼は気になるところで言い淀む。
少しして決意が着いたのか、眉間に眉を近づけるようにして話す。
「……君たちの、髪の毛を貰えないかな?」
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