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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
3章 彼らが優しい夢から残酷な現実に目を向けるまでの改造譚
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34話 軽視される了解

頼渡と天舞音が握手し終えて、班長が場を仕切り直すところから始まります!


視点は

優貴→???→優貴

の順で変わります!

「じゃあ、仕切り直して……」



 班長はわざとらしい咳払いをして続ける。



天舞音あまねさん、すみれの能力で使用許可証を見てもいい?」



 彼の問いかけに、天舞音さんはほがらかに笑う。



「いーよー。だけとその前に、せっかくだから僕の能力をみんなに軽く説明しとくね♪」



 彼女の言葉で、全員が彼女を注目した。あたかも舞台上の手品師のように、彼女は身振り手振りをしながら能力を明かす。



「僕の能力は『窃盗罪せっとうざい』。触れた罪人の能力を完全に奪う能力。発動条件は『深呼吸をすること』。利点は『空気抵抗の減少』で欠点は『感情の起伏の増幅』だよ」


「感情の起伏?」



 頼渡さんはその言葉が気になったのか、椅子の背もたれに身を寄せつつ彼女に聞く。

 それに対し、彼女は呆れたように肩をすくめてこう返答した。



「要は、喜怒哀楽が激しくなるんだ。昨日は2人を捕まえたときから、ずぅっと発動しっぱなしだったんだよねぇ……」


「ああ……だから、あの時はいきなり怒ったり泣いたりしたんだねぇ」



 頼渡さんは納得したように2つ頷く。ただ、その場にいなかった俺にはいまいちピンと来ない話だった。



「まあ……そんな感じだよ。いくら心の広い僕でも、使い過ぎれば何するか分かんなくなる」


「そういうときこそ、あたしらを信用しな! 絶対何とかしてやるから!」



 聖華せいかさんは根拠の無い優しさを見せる。しかし、たまにはそういう優しさが心の奥まで染みる。


 その言葉を受けて天舞音さんは目をパチクリとさせる。そういう風に言われるとは思ってなかったのだろう。


 まるで、何も発言しないのはそれはそれで恥ずかしい、と言いたげな様子だ。そのためか、強がるように笑うと



「いやぁ……なんか、僕が年上だけど優しいお姉ちゃんみたいだね♪」



と聖華さんに言う。

 彼女は家族を失ってしばらく経つ、ということは簡単な優しさにすら永らく触れてなかったのだろう。


 聖華さんは否定せず、ただ笑いかけていた。



   *



 班長と菫さん、そして天舞音さんはここの2階へと向かった。俺もやった、記憶を見るためだ。


 午前中は自由にしてて良い、と言われたため、俺はりんさんに事務のやり方を聞きに行った。









 * * * *




 事務室に電話の音が鳴る。電話の持ち主は自分。何食わぬ顔で外に出て、電話に応じる。相手は『ボス』から。



「……もしもし?」


『やあ、調子はどうだい? ああいや、急に世間話をしに来た訳では無いよ』



 相変わらず口数の多い人。早く要件だけを言ってほしい。


 そんな気持ちが伝わったように、ボスは声のトーンを落として話す。



『……罪人殺しが、取締班に入ったようだね。……何が言いたいか、君には分かるね?』



 もう、その先の言葉は聞きたくない。戻れなくなってしまうから。そんな気持ちがいつから芽生えたのかは、自分には分からない。


 自分の気持ちを嘲笑い、踏みにじるかのようにボスは告げる。



『……つまり潜伏ハイディングは終わりだ。これからは行動アクションだ』



 自分は目を瞑った。何かの終わりを悟ったのか、内なる自分を見ようとしたのか。



「……了解ラジャー



 自分の言葉に重みが増す。その重さは誰の心に影響するだろうか。

 少なくとも、電話越しの人物に影響などちゃんちゃらおかしい。


 電話は一方的に切られた。切られた後の無機質な音が死亡宣告のように、ご大層にも頭に反響する。



   *



 つらい、辞めたい、このままでいたい、という気持ちをぐっと抑える。


 その気持ちは猫のようだった。乱暴に押し込めると、内側から周りを引っ掻いている。

 おかげで一心不乱に、心中しんちゅうで叫ぶしかなかった。決して外には出せない叫びを。


 しかし思う。これは運命なのだ、と。ボクとしての定めなのだ、と。



 『篠原しのはら頼渡として』の……。









 * * * *




 記憶に関して行動していた3人と、電話のために退室した頼渡さんが同タイミングで帰ってきた。



「頼渡さん、電話大丈夫ですか?」



 少し覚えた事務を何とかこなす俺は、これといった理由は無いが頼渡さんにそう聞いた。



「んー? 大丈夫だよぉ? ほら、どこも壊れて無いし」



 そういう意味じゃないのだが……と思っていると、彼は「あはは」と軽く笑う。



「冗談だよ。無事、『解決』したから大丈夫」



 本当に何を考えてるか分からない人だ。もはやそこが、彼の魅力チャームなのかもしれない。


 一方の班長は、何かの紙を2枚持って来た。そして、



「みんな、少し見てくれるかい?」



と言う。その言葉に導かれるように、班長の机に向かった。


 そして彼の机を見ると、彼が先程持っていた2枚の紙が提示されている。それは2人分の使用許可証だった。



   *





┏                  ┓

       叢雲むらくも 椿つばき 様          


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『詐欺罪』の使用許

 可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後、触れた

 罪人の能力を模倣もほうし、利点と欠点を無視

 し、時間制限内で能力を発動できる能力

 です。



 『発動条件』:身につけた物を1つ外す

 こと。


 『発動中、あなたが有する利点』:気温

 への適応力の上昇。


 『発動中、あなたが有する欠点』:この

 能力の時間制限の短縮。


┗                  ┛



┏                  ┓

     九十九田つくもだ 天舞音あまね 様


    貴方は罪人となりました。


 これは貴方の能力、『窃盗罪』の使用許

 可証です。


 この能力の詳細は以下の通りです。


 あなたの能力は発動条件達成後、触れた

 罪人の能力を奪取だっしゅし、対象が30m以内

 にいる限り、発動条件を無視して発動で

 きる能力です。



 『発動条件』:深呼吸をすること。


 『発動中、あなたが有する利点』:空気

 抵抗の減少。


 『発動中、あなたが有する欠点』:感情

 の起伏の大幅な増幅。


┗                  ┛





   *



 この2枚を見て、分かったことが2つある。それは、天舞音さんは能力を偽って無かったことと、班長の能力の全てだ。



「いやー、なんか恥ずかしいねぇー♪ まるで自分のスリーサイズを見られてるかのような気分だよ」



 何を言ってるんだこの人は。


 ……それよりも、なぜ班長はこの2枚を提示したのだろう。

 班長は、俺の心を見通したかのように答えた。



「俺の能力は罪人の生死に関わらず発動できるんだ。つまり……だから……」



 彼は気になるところで言いよどむ。

 少しして決意が着いたのか、眉間に眉を近づけるようにして話す。



「……君たちの、髪の毛を貰えないかな?」

お読み頂き、ありがとうございます!

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