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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
3章 彼らが優しい夢から残酷な現実に目を向けるまでの改造譚
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33話 最悪の団結

前回に比べるとボリューム不足で申し訳ございません!


凛の過去の回想が終わったところから始まります!


(視点は椿→優貴となっております!)











 * * * *




 当時、りんさんが俺たちに過去を話した際の顔は、自責と傷心でひずんでいた。その顔を忘れることなんてできるわけがない。



「ひうっ……うっ、私、どうすれば……?」



 顔を隠して啼泣ていきゅうする彼女。どう慰めようか。慰めようがあるのか。



「……人は、すぐに変われるものじゃない」



 そんな気持ちに反して、俺は声をかけていた。



「だけど、今の君はもう、強いよ。……強くなったよ」



 彼女の泣き声につられたのだろうか、雲が月を隠す。誰かの気持ちのように、薄暗く夜は染まっていった。









 * * * *




 なまりのような瞼を上げる。少しして自分の部屋だと認識できた。昨日は色々あったな、とゆっくり起き上がる。


 俺は昨日、班長に言われた通り罪人取締所に戻った。中は当然、パニック状態だ。そんな時でも、頼渡さんは既に班長の応援に行く準備をしていた。

 ……頼渡さん、何だかんだ言ってすみれさんと同じくらい心配していたんだよなあ。


 今の俺の格好を見ると、眠気に気圧けおされたのか、少々傷ついた黒いスーツを粗雑そざつに着ていた。

 このままは流石に……と、着替えて取締所に向かった。



   *



 事務室までの道のりで特に異常は無かった。だが、その目的地である事務室に異常があるみたいだ。扉を挟んだ先で口論が聞こえた。

 まさか昨日の事で!? 焦りを隠しきれない手元でドアノブを捻る。始めに聞こえてきたのは聖華せいかさんの声だった。



「全く、あんたってやつは……! 少しは反省したらどうだい!?」



 それを受け流すように頼渡さんは答える。



「反省も何も、ボクは悪くないじゃーん」



 一体何があったんだ……? 末恐すえおそろしくなり、素知らぬ顔で作業している菫さんに聞く。



「あの……2人に何が? やはり昨日のことが?」


「昨日とは全く。ちょっとしたトラブルよ」


「えっ?」



 一瞬、思考が停止した。無理やり再起動させた頭で2人の口喧嘩を見やる。



「もう一度聞くよ! あんた、何で仕事のフォルダに悪口書いたファイルを入れたんだい!? おかげで埼玉と神奈川の罪人取締班に送っちまったじゃないかい!」


「ただの悪戯だったんだってー。それに送るつもりも無かったんだし。内容を確認しないで送ったそっちが悪いよー」



 ……心配して損した。何やってるのこの人たち。


 いつもだったら、「職場は静かに」と凛さんが言うはずなのだが、本人はうつむき加減で仕事をしている。少し、元気がないように見えるのは気のせいだろうか。

 ……それもそうだが、神奈川の班長の恵子けいこさんはまだしも、埼玉の班長のこうさんは許してくれるのだろうか?


 後の頼渡さんの謝罪の電話で、恵子さんは『やっぱり、頼渡くんだったのね。お痛は程々にね?』と軽く注意した。そして広さんは、『そんなことで信頼をそこねはしませんよ。むしろ、場がなごやかになりました』と笑って話していた。



   *



 朝の件の区切りがつき、俺は頼渡さんと班長との話を耳にした。



「椿、あの子来ないねぇー。やっぱり捕まえるべきだったんじゃないのー?」


「いや、彼女は来るよ。……絶対に」



 あの子、というのは誰のことだろう。昨日、頼渡さんとのトランシーバーが途絶えたあとの話だろうか?

 その瞬間だった。何の予備動作もなく、扉が元気よく開かれる。



「たっのもー!」



 聞こえてきたのは、子供のような女性の声だった。これが、2人の言っていた『あの子』なのだろうか。



「お嬢ちゃん!」


「いやー、この度はご迷惑おかけしましたー」



 声の正体は、橙色の目と髪をした幼げな少女だった。常に何か企んでそうな伏せ目に、ボーイッシュな髪型。格好はスタイリッシュで、発達しきっていない体に不思議とマッチしている。


 彼女はほどけた笑みをやめると、少し真面目な顔をしてこう言う。



「……来たよ、班長さん。だから一緒に……」


「みんなに、自己紹介して。新人がここに来た時に、最初にすることだよ」



 彼女の言葉を最後まで聞かないで班長は言う。寝耳に水、というかのように彼女は驚いていた。



   *



「えっと……名前の他に何言えばいい?」



 全員が当然のように彼女を見る中、不意にそう質問した。問いに答えたのは班長だ。



「人によるよ。例えば年齢だったり、趣味だったり……あと、一言だったり」


「そっかぁ……。よし、全部言おう!」



 ただ考えるのが面倒なのか、彼女は班長の言われた項目を言うことにしたらしい。



「えぇっと、僕は九十九田つくもだ天舞音あまね。年齢は32歳で……」



 通常、口に液体が入っていて驚きでもしたら、むせるか吐くかのどちらかだ。聖華さんは後者だった。



「ね、年齢のところ盛ってないかい……?」



 聖華さんはこぼしたお茶を、凛さんからの布巾ふきんで拭いて話す。彼女の反応を見て、天舞音……さんはクスクスと悪戯いたずらな笑顔を見せる。



「やっぱり、みんな僕が小さい子供だと思った!? にししっ♪ 残念ながら立派な三十代でしたぁー!」



 大きなリアクションを見せたのは聖華さんだけだったが、驚いたのは天舞音さん以外の全員だった。

 ……だって思わないじゃん、まさかこの中で最年長なんて。



「まあそれはさておき、趣味は特に無いけど……あっ、好きなのは悪戯することかなー」



 さてはおけないのだが、趣味は悪戯とは、いい性格していると思う。まるで頼渡さんみたいな……。


 そう思って彼を見ると、ラメのように目をキラキラとさせていた。絶対にくっつけたくない2人だ。



「そして一言は……生真面目きまじめにいくよ」



 そう言った途端、宣言通り彼女の雰囲気が変貌へんぼうした。それに合わせるようにして、場の空気がピリついてきた。



「……そこの2人を誘拐したこと、本当に反省してる。ごめんなさい」



 彼女は悲哀の顔を隠すように頭を下げた。

 それよりも、まさか彼女が誘拐の首謀者だったのか……。驚きはしないが、代わりになぜそんなことを、と疑念が湧いてくる。その答えは思ったよりも早く知ることになった。


 顔を上げた、彼女から。



「……僕の両親は、プロノービスの幹部である白虎に殺された。いや、僕の『予定での』弟すら……」



 その後も、彼女の口から繰り広げられたものは、悲しむことすら許されないほどの悲劇だった。そして、誘拐して取締班に協力をあおごうとしたことも洗いざらい語られた。



   *



「……まあ、そんな訳でこの班に入ったんだけど、ここで質問するね。……本当に、僕はここに居てもいいの?」



 彼女の正体が全て分かったあと、彼女自身からこれまた重い質問をされた。


 しかし、答えたのは意外な人物だった。



「……回答する。ここに居てもいいんじゃない? 君が何かくわだてたりしてない限り」



 しょうさんは何食わぬ顔でそう答えた。それにならうように、俺を含めて次々と答えが相次いだ。



「あたしは元々賛成派だったからね。いらっしゃい!」


「まあ、誘ったのは俺だし……今更断りはしないさ」


「……わたくしを誘拐した分、たっぷりと働いて頂きますよ」


「まあ、誰も傷ついてないし……お兄ちゃんがいいなら私は何も言わないわ」


「……翔さんが言った通り、何も悪さしないなら、共に戦力になります」



 唯一、流れに乗らなかったのは頼渡さんだった。彼の表情は白いシルクハットに隠れて見えなかった。



「……君にとっては、僕は不要?」



 天舞音さんは不安そうに聞く。彼は「はははっ」と冷笑する。



「この人が仕事? 全員、馬鹿げてるの?」



 そう言って席を立つと、天舞音さんの元へ歩いていく。聖華さんは静止を促すように、



「あんた!? 何しようとしてるんだい!」



と言ったが、彼は聞こえないかのように歩みを進める。


 そして天舞音さんの前に立つ。彼女は抵抗はしないと言わんばかりに動かない。しかし本心が足に表れ、かすかに震えている。


 そんな彼女の様子にも気づかずに、頼渡さんは言った。



「君がやるのは仕事じゃなくて……」



 彼の腕が下から振り上げられる。天舞音さんは反射的に目を閉じる。


 頼渡さんの腕は天舞音さんの腰の高さで停止した。その手のひらは指を閉じたパーの形をしていた。



「……悪戯、でしょ? 一緒にここをはちゃめちゃにしちゃおうよ!」


「えっ?」



 彼女は呆気にとられたが、すぐに持ち直して、悪戯な笑みを再び浮かべると



「にししっ♪ 話が分かる人だねぇー!」



と、頼渡さんの手を取って握手した。1番やめて欲しい団結だったが、結果的には安堵の一瞬となった。

次回から少しかは日常編となると思います!


気に召して頂けたなら、ご感想やブックマーク等、何卒宜しくお願いします!

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