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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
3章 彼らが優しい夢から残酷な現実に目を向けるまでの改造譚
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31話 橙色の少女との決着は、残酷を交えて

久々の戦闘シーンで自信がありませんが、心優しく読んで頂けると幸いです!


椿が、少女と接触した所から始まります!

(椿視点からです!)

「……話?」



 俺は意志を持たない言葉を吐いた。それを聞いた目の前の、橙色ショートヘアの少女は、オレンジ色の目を爛々(らんらん)と光らせた。



「うん。いきなりだけど、本題から話すね♪」



 彼女の目は猟奇的に、俺を捉えていた。そして、次の通りに話した。



「僕と、『協力』しない?」


「協力? 全く話の意図が見えない」



 俺はあくまでも冷徹れいてつに話した。状況的に、目の前の彼女こそが聖華せいかさんとりんさんを誘拐した張本人だからだ。


 俺の冷ややかな態度を見た彼女は、両の手のひらを俺に見せた。「まあまあ」となだめるように。ただ、表情は苦笑いを作っていた。



「もちろん、ただでとは言わないよ。もしノってくれたら、君のお仲間さんは解放するよ」


「……2人は人質ってこと?」


「言い方を悪くすればそうなるかもね。まあ、話だけ聞いてよ」



 彼女はほぼ確実に『罪人』。……まだ、彼女の正体も能力も分からない以上、冷静に事を運ぶしか無さそうだ。


 俺はそう思い、彼女の話に耳を傾けることにした。



「僕ね、訳あって罪人が大大大っ嫌いなんだ。そしてプロ・ノービスが、動きを活性化させる予定だってことを知ってね? だから……」


「協力して、プロ・ノービスを『対処』する、ということ?」


「そうそう! 君たちにとっても悪い話じゃ無いんじゃないの?」



 ……今の俺たちは、確かに戦力が少しでも多く欲しい。傍から見ると悪い条件でも無さそうだが……



「断る」



 俺は積極的に、4文字で意思表示をした。彼女は別に驚いた素振りもなく、むしろ表情を失った人形のようになった。



「……どうして?」


「逆にどうして、聖華さんと凛さんを拉致らちする必要がある?」


「こうでもしないと、話にノってくれないかなって……」


「違う。……もっと、後ろめたい()()があるから。そうでしょ?」



 彼女は一瞬、口をよどませた。これを良い機会と思い、俺は畳み掛ける。



「さっき、罪人が嫌いと言っていたね。プロ・ノービスを倒したあと、『俺たちも葬る気』じゃないの?」


「っ!」



 彼女の顔が強ばった。こういう心理戦は実は苦手なタイプなのだろう。だから話を、早く進めたかったんだ。


 しかし、彼女は負けじと話した。少々焦ったように。



「でっ、でも、僕は人質をとっている! 君に拒否権は無いよ!」



 拒否権、か。それは、俺の……『最も嫌いな言葉』だ。


 俺は右手の手袋を脱ぎ捨てると、その手でふところから『たば』を取り出す。


 その束は赤や黄色、青などといった、ぐちゃぐちゃな色の糸で構成されていた。太さは全くなく、だいたい爪楊枝つまようじほどの太さだ。



「……現時刻より、任務を遂行する。内容は、『罪人1人の確保』」


「……何、それ? 何か、気味悪いよ?」



 少女は俺が右手で握った物を見て、目を引きつらせた。無理もないだろう。何故ならこれは……。



「《発動》!」



 俺は未だ能力に慣れていない。使う度に『酔ってしまう』のが最もらしい理由だ。

 立ちくらみ、吐き気、頭痛。全てが波のように押し寄せてきた。



「ぐっ……。ぐあっ……はぁっ、はぁ……」



 微かに能力酔いが冷めていった。ここで彼女が攻めて来なかったのが幸いだろう。受動的な能力なのだろうか?



「……行くぞっ!」


「来てみなよ。君は負けるよ、絶対」



 まず俺は、『両腕でバツをつくる』。彼女は怪訝けげんそうに首を傾げた。



「《発動》!」



 能力を『1つ』発動させる。1つの赤い車が、不気味なエンジンを吹かして前へと走る。彼女が死なない程度の速さだ。



「っ!?」



 少女は、俺から見て右へと避ける。俺は追い討ちをかけるために、『右耳を手で覆う』。



のがすか! 《発動》!」



 自分でも驚く速さで、彼女の目の前に現れる。

 それが、また彼女は驚く素振りがなかった。それどころか、目を見据みすえて笑っていた。



「……《発動》」



 そう呟いた彼女は、俺が触れる前に『一瞬で姿を消した』。文字通り、影も形もなく。

 本能が警鐘けいしょうを鳴らしている。俺は再び瞬く間に移動して、その場から撤退した。



「ふふっ、君の能力分かっちゃった♪」



 彼女は先程と同じ場所に現れた。1度攻撃をかわしただけで、余裕そうにしている。


 多少(いきどお)りがあったが、感情的になるな、と自分に言い聞かせる。俺は手加減は不要だ、と感じると再び、車を彼女の元へ走らせた。

 彼女はもう焦りという感情を失っているのか、笑顔を崩すことは無かった。



「……《発動》」



 その一言で、車が崩壊ほうかいした。……いや、車が何かに当たったのか。



「っ!?」


「まあ、僕の能力もバレちゃうんだけどね」



 姿を消す、そして車の進行を防ぐ……。まさか……。



「似た者同士だね、僕と君。僕の『窃盗罪せっとうざい』と君の『詐欺罪さぎざい』」



 外れて欲しい予想が当たってしまった。そして俺は、この勝負は負けたと悟った。



   *



 彼女の能力は窃盗罪。別名、『罪人殺し』。世界での事例は少ない。しかし、それでも有名なのは、その能力の強さにある。


 それは、『触れた罪人の能力を()()』能力。しかも、発動条件を無視して発動できる。

 ただ、能力を奪った罪人が一定範囲内にいる限りしか発動できない。


 今あの少女は、凛さんの姿を消す能力、『住居侵入罪じゅうきょしんにゅうざい』と聖華さんのバリアを張る能力、『往来妨害罪おうらいぼうがいざい』を使った。つまり、すぐ近くに2人がいるのは間違いなさそうだ。

 問題はそのほかの能力を持っているかだ。



   *



「そっかぁ、班長さんの能力は詐欺罪か。じゃあ、その束って……罪人たちの髪の毛!?」


「……答える義理はない」



 意地を張ってそう答えたものの、彼女の推理は大正解だった。



   *



 俺の詐欺罪は、『触れた罪人の能力を()()()する』能力。能力を奪う窃盗罪とは違い、コピーされた罪人は能力を発動できる。

 そして触れるのは、『生身の人間じゃなくても良い』。髪の毛で発動することを知ったのはつい最近だった。


 能力には時間制限内がある。ただ、発動条件を満たしている限り、コピーした能力はいくらでも発動可能。『持ち主の利点、欠点の影響も受けない』。


 余談だけど俺が酔ってしまうのは、コピーした罪人の使用許可証が、一気に頭になだれ込むから。これは窃盗罪も同じだったはず。



   *



 状況は俺が10種類、彼女が2種類以上の能力が使える。そして俺は彼女に触れられたら詰む。厳しい。彼女の欠点狙い……も苦しそうだし。


 ……降参するしか無いのか?



 その時だった。彼の、飄々とした声が聞こえたのは。



「苦戦してるねぇー」


「ら、頼渡らいと!? ど、どうして……」


「良く頑張ったね。班長さんのデビュー戦はここまで。ここからは本番だよ」



 その状況を見て、彼女はひどく驚いていた。



「えっ……なんで、応援が……?」


「爪が甘すぎるよ。1人で来いっていう文章だけで応援が来ないはずないでしょ?」



 ここに来てから、いやもっと前からずっと違和感を感じていた。この事件はどこかつたないと。それが今、ようやく晴らされた。


 彼女は、『犯罪を犯すことに慣れていない』。



「だ、だったら! 君たちの能力、どっちも奪ってやる! 《発動》!」



 凛さんの能力を使ったのだろう。彼女は姿を消した。だが、頼渡の能力の前では『無力に等しい』。


 彼女は頼渡の背後に立って手を伸ばす。能力を知らない彼から攻めるのだろう。



「まずは、君から!」


「……触れてみろよ」



 彼は俺でさえゾッとするような、おぞましい笑みを浮かべた。

 少女も悪寒を感じたのだろう、泣き出しそうな顔をしている。しかし、退こうと考えるには決断が遅かった。手の勢いを止める余裕が無かったようだ。


 頼渡の背中に伸ばされた、彼女の手は豪快に弾き飛ばされた。危ないことに、もう少し勢いがついていたら指がもげていただろう。



「きゃあっ!!」



 高い悲鳴をあげる。彼女の中指の爪が割れたようだ。やはり戦い慣れてないのか、痛みに苦しんで膝を落としてしまった。



「うっ、ううっ……!」


「手加減しただけ、ありがたいって思ってね?」



 頼渡は残酷な笑顔で、残酷な言葉を突き立てた。しかし、それだけではなかった。彼女にとって、更に残酷なことが起きる。



『頼渡さん! 聖華さんと凛さんを保護しました!』


「ありがとう、優貴くん。2人を連れてここから少し離れてみて?」



 トランシーバー越しに、優貴ゆうきくんの声が聞こえた。彼も来てくれたのか……。そして2人が離れるということは……



「っ!? 能力が……!」



 彼女の、窃盗罪からは2人の能力が失われた。彼女の、この世の終わりのような顔を見ると、他に奪った能力も無いのだろう。つまり、



詰み(チェックメイト)、だよ。ボクたちの勝ちだ」


「……なん、で? 僕は、ただ……!!」



 彼女の嗚咽おえつが、冷たい倉庫内の空気を揺らした。

 彼女なりの理由。しかし、それに同情してはいけない。自分の心も痛んでしまうから。



『頼渡聞いておくれ!』


「聖華さん?」



 突然、聖華さんの声が聞こえた。優貴くんのトランシーバーを借りたのだろう。



『その子を責めないであげとくれ! ……その子は、あたし達を閉じ込める直前、とても悲しそうな顔をしてたんだ。あたし達を拘束すらしなかったんだ……!』


「ダメだよー、聖華さん。罪からは、いかなる人でも逃げられないんだから……」



 頼渡、それは……自分への皮肉なのか?

 俺はその言葉を、そっと胸にしまった。


 それよりもこの少女が、慣れない悪事に手を染めてまで何をしたかったのか……。本当に、罪人を殺したかったのか……。



「……君に、何があったんだ?」



 気がついたら、そんな言葉をかけていた。俺は騙されやすいのか、と妙に納得しながら。


 綺麗な水溜まりになっている、彼女の目は俺に向けられた。時折鼻をすする仕草をして、彼女はこう話す。



「お願い……します! 僕と、一緒に……!!」


「……君と協力をすることはできない。()()君は、信用することができない」



 俺の言葉に共感するように、頼渡は頷いた。それと同時に、彼のトランシーバーからは、



『は、班長!!』



聖華さんの制止する声が聞こえた。

 しかし、頼渡の共感と、聖華さんの制止が、俺の一言で『入れ替わる』ことになった。



「……君に協力する条件は、君が、罪人取締班に入ることだよ」

ご愛読、ありがとうございました!


今回は賛否の別れそうな話となりました。賛成派の方も、否定派の方も、今後にご期待いただければ幸いです!


次回は椿の問に、少女が回答するところからです!


モチベーション向上の為、ご感想、ブックマーク等宜しくお願いします!

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