31話 橙色の少女との決着は、残酷を交えて
久々の戦闘シーンで自信がありませんが、心優しく読んで頂けると幸いです!
椿が、少女と接触した所から始まります!
(椿視点からです!)
「……話?」
俺は意志を持たない言葉を吐いた。それを聞いた目の前の、橙色ショートヘアの少女は、オレンジ色の目を爛々と光らせた。
「うん。いきなりだけど、本題から話すね♪」
彼女の目は猟奇的に、俺を捉えていた。そして、次の通りに話した。
「僕と、『協力』しない?」
「協力? 全く話の意図が見えない」
俺はあくまでも冷徹に話した。状況的に、目の前の彼女こそが聖華さんと凛さんを誘拐した張本人だからだ。
俺の冷ややかな態度を見た彼女は、両の手のひらを俺に見せた。「まあまあ」となだめるように。ただ、表情は苦笑いを作っていた。
「もちろん、ただでとは言わないよ。もしノってくれたら、君のお仲間さんは解放するよ」
「……2人は人質ってこと?」
「言い方を悪くすればそうなるかもね。まあ、話だけ聞いてよ」
彼女はほぼ確実に『罪人』。……まだ、彼女の正体も能力も分からない以上、冷静に事を運ぶしか無さそうだ。
俺はそう思い、彼女の話に耳を傾けることにした。
「僕ね、訳あって罪人が大大大っ嫌いなんだ。そしてプロ・ノービスが、動きを活性化させる予定だってことを知ってね? だから……」
「協力して、プロ・ノービスを『対処』する、ということ?」
「そうそう! 君たちにとっても悪い話じゃ無いんじゃないの?」
……今の俺たちは、確かに戦力が少しでも多く欲しい。傍から見ると悪い条件でも無さそうだが……
「断る」
俺は積極的に、4文字で意思表示をした。彼女は別に驚いた素振りもなく、むしろ表情を失った人形のようになった。
「……どうして?」
「逆にどうして、聖華さんと凛さんを拉致する必要がある?」
「こうでもしないと、話にノってくれないかなって……」
「違う。……もっと、後ろめたい何かがあるから。そうでしょ?」
彼女は一瞬、口を淀ませた。これを良い機会と思い、俺は畳み掛ける。
「さっき、罪人が嫌いと言っていたね。プロ・ノービスを倒したあと、『俺たちも葬る気』じゃないの?」
「っ!」
彼女の顔が強ばった。こういう心理戦は実は苦手なタイプなのだろう。だから話を、早く進めたかったんだ。
しかし、彼女は負けじと話した。少々焦ったように。
「でっ、でも、僕は人質をとっている! 君に拒否権は無いよ!」
拒否権、か。それは、俺の……『最も嫌いな言葉』だ。
俺は右手の手袋を脱ぎ捨てると、その手で懐から『束』を取り出す。
その束は赤や黄色、青などといった、ぐちゃぐちゃな色の糸で構成されていた。太さは全くなく、だいたい爪楊枝ほどの太さだ。
「……現時刻より、任務を遂行する。内容は、『罪人1人の確保』」
「……何、それ? 何か、気味悪いよ?」
少女は俺が右手で握った物を見て、目を引きつらせた。無理もないだろう。何故ならこれは……。
「《発動》!」
俺は未だ能力に慣れていない。使う度に『酔ってしまう』のが最もらしい理由だ。
立ちくらみ、吐き気、頭痛。全てが波のように押し寄せてきた。
「ぐっ……。ぐあっ……はぁっ、はぁ……」
微かに能力酔いが冷めていった。ここで彼女が攻めて来なかったのが幸いだろう。受動的な能力なのだろうか?
「……行くぞっ!」
「来てみなよ。君は負けるよ、絶対」
まず俺は、『両腕でバツをつくる』。彼女は怪訝そうに首を傾げた。
「《発動》!」
能力を『1つ』発動させる。1つの赤い車が、不気味なエンジンを吹かして前へと走る。彼女が死なない程度の速さだ。
「っ!?」
少女は、俺から見て右へと避ける。俺は追い討ちをかけるために、『右耳を手で覆う』。
「逃すか! 《発動》!」
自分でも驚く速さで、彼女の目の前に現れる。
それが、また彼女は驚く素振りがなかった。それどころか、目を見据えて笑っていた。
「……《発動》」
そう呟いた彼女は、俺が触れる前に『一瞬で姿を消した』。文字通り、影も形もなく。
本能が警鐘を鳴らしている。俺は再び瞬く間に移動して、その場から撤退した。
「ふふっ、君の能力分かっちゃった♪」
彼女は先程と同じ場所に現れた。1度攻撃を躱しただけで、余裕そうにしている。
多少憤りがあったが、感情的になるな、と自分に言い聞かせる。俺は手加減は不要だ、と感じると再び、車を彼女の元へ走らせた。
彼女はもう焦りという感情を失っているのか、笑顔を崩すことは無かった。
「……《発動》」
その一言で、車が崩壊した。……いや、車が何かに当たったのか。
「っ!?」
「まあ、僕の能力もバレちゃうんだけどね」
姿を消す、そして車の進行を防ぐ……。まさか……。
「似た者同士だね、僕と君。僕の『窃盗罪』と君の『詐欺罪』」
外れて欲しい予想が当たってしまった。そして俺は、この勝負は負けたと悟った。
*
彼女の能力は窃盗罪。別名、『罪人殺し』。世界での事例は少ない。しかし、それでも有名なのは、その能力の強さにある。
それは、『触れた罪人の能力を奪う』能力。しかも、発動条件を無視して発動できる。
ただ、能力を奪った罪人が一定範囲内にいる限りしか発動できない。
今あの少女は、凛さんの姿を消す能力、『住居侵入罪』と聖華さんのバリアを張る能力、『往来妨害罪』を使った。つまり、すぐ近くに2人がいるのは間違いなさそうだ。
問題はその他の能力を持っているかだ。
*
「そっかぁ、班長さんの能力は詐欺罪か。じゃあ、その束って……罪人たちの髪の毛!?」
「……答える義理はない」
意地を張ってそう答えたものの、彼女の推理は大正解だった。
*
俺の詐欺罪は、『触れた罪人の能力をコピーする』能力。能力を奪う窃盗罪とは違い、コピーされた罪人は能力を発動できる。
そして触れるのは、『生身の人間じゃなくても良い』。髪の毛で発動することを知ったのはつい最近だった。
能力には時間制限内がある。ただ、発動条件を満たしている限り、コピーした能力はいくらでも発動可能。『持ち主の利点、欠点の影響も受けない』。
余談だけど俺が酔ってしまうのは、コピーした罪人の使用許可証が、一気に頭になだれ込むから。これは窃盗罪も同じだったはず。
*
状況は俺が10種類、彼女が2種類以上の能力が使える。そして俺は彼女に触れられたら詰む。厳しい。彼女の欠点狙い……も苦しそうだし。
……降参するしか無いのか?
その時だった。彼の、飄々とした声が聞こえたのは。
「苦戦してるねぇー」
「ら、頼渡!? ど、どうして……」
「良く頑張ったね。班長さんのデビュー戦はここまで。ここからは本番だよ」
その状況を見て、彼女はひどく驚いていた。
「えっ……なんで、応援が……?」
「爪が甘すぎるよ。1人で来いっていう文章だけで応援が来ないはずないでしょ?」
ここに来てから、いやもっと前からずっと違和感を感じていた。この事件はどこか拙いと。それが今、ようやく晴らされた。
彼女は、『犯罪を犯すことに慣れていない』。
「だ、だったら! 君たちの能力、どっちも奪ってやる! 《発動》!」
凛さんの能力を使ったのだろう。彼女は姿を消した。だが、頼渡の能力の前では『無力に等しい』。
彼女は頼渡の背後に立って手を伸ばす。能力を知らない彼から攻めるのだろう。
「まずは、君から!」
「……触れてみろよ」
彼は俺でさえゾッとするような、おぞましい笑みを浮かべた。
少女も悪寒を感じたのだろう、泣き出しそうな顔をしている。しかし、退こうと考えるには決断が遅かった。手の勢いを止める余裕が無かったようだ。
頼渡の背中に伸ばされた、彼女の手は豪快に弾き飛ばされた。危ないことに、もう少し勢いがついていたら指がもげていただろう。
「きゃあっ!!」
高い悲鳴をあげる。彼女の中指の爪が割れたようだ。やはり戦い慣れてないのか、痛みに苦しんで膝を落としてしまった。
「うっ、ううっ……!」
「手加減しただけ、ありがたいって思ってね?」
頼渡は残酷な笑顔で、残酷な言葉を突き立てた。しかし、それだけではなかった。彼女にとって、更に残酷なことが起きる。
『頼渡さん! 聖華さんと凛さんを保護しました!』
「ありがとう、優貴くん。2人を連れてここから少し離れてみて?」
トランシーバー越しに、優貴くんの声が聞こえた。彼も来てくれたのか……。そして2人が離れるということは……
「っ!? 能力が……!」
彼女の、窃盗罪からは2人の能力が失われた。彼女の、この世の終わりのような顔を見ると、他に奪った能力も無いのだろう。つまり、
「詰み、だよ。ボクたちの勝ちだ」
「……なん、で? 僕は、ただ……!!」
彼女の嗚咽が、冷たい倉庫内の空気を揺らした。
彼女なりの理由。しかし、それに同情してはいけない。自分の心も痛んでしまうから。
『頼渡聞いておくれ!』
「聖華さん?」
突然、聖華さんの声が聞こえた。優貴くんのトランシーバーを借りたのだろう。
『その子を責めないであげとくれ! ……その子は、あたし達を閉じ込める直前、とても悲しそうな顔をしてたんだ。あたし達を拘束すらしなかったんだ……!』
「ダメだよー、聖華さん。罪からは、いかなる人でも逃げられないんだから……」
頼渡、それは……自分への皮肉なのか?
俺はその言葉を、そっと胸にしまった。
それよりもこの少女が、慣れない悪事に手を染めてまで何をしたかったのか……。本当に、罪人を殺したかったのか……。
「……君に、何があったんだ?」
気がついたら、そんな言葉をかけていた。俺は騙されやすいのか、と妙に納得しながら。
綺麗な水溜まりになっている、彼女の目は俺に向けられた。時折鼻をすする仕草をして、彼女はこう話す。
「お願い……します! 僕と、一緒に……!!」
「……君と協力をすることはできない。今の君は、信用することができない」
俺の言葉に共感するように、頼渡は頷いた。それと同時に、彼のトランシーバーからは、
『は、班長!!』
聖華さんの制止する声が聞こえた。
しかし、頼渡の共感と、聖華さんの制止が、俺の一言で『入れ替わる』ことになった。
「……君に協力する条件は、君が、罪人取締班に入ることだよ」
ご愛読、ありがとうございました!
今回は賛否の別れそうな話となりました。賛成派の方も、否定派の方も、今後にご期待いただければ幸いです!
次回は椿の問に、少女が回答するところからです!
モチベーション向上の為、ご感想、ブックマーク等宜しくお願いします!