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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
3章 彼らが優しい夢から残酷な現実に目を向けるまでの改造譚
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29話 彼女は悩み、悔やみ、後ろへ行く

※注意


今回は主観が2回変わります!


(優貴→凛→優貴)


それと、場面展開の方法など変えました。見づらい、などのご意見がありましたら、宜しくお願いします。

 俺と班長は、薙田なぎたこうさんと別れた後、昼食をとることにした。場所は道中で見つけた喫茶店だ。



   *



「彼はどうだった?」



 班長は口の中を空にして話す。そういうところを見れば、行儀がいいな、と思う。俺もそれにならって、咀嚼そしゃくし終えると答える。



「なんか、きっちりしている人だなと思いました。悪い人ではなさそうです」


「まあ、彼も警察だから悪いはずないけどね」



 班長はうっすらと笑みをこぼす。すっかり忘れていた。

 確かに、悪い人では無いかもしれない。だけど、広さんも……『罪人』だ。



「班長」


「ん? どうしたの?」



 俺は禁断ともとれる質問をすることにした。



「班長は、どうして罪人に?」



 班長が箸で食器をつついたのを最後に、2人の間に音は消え去った。音が静まるこのテーブルでは、周りの雑音しか聞こえなかった。いや、もはやその雑音すらぼやけている。



「……なんで?」



 彼は負の感情で固められたような目をしていた。俺の本能は、まるで踏切のように安全と危険を区切っている。これ以上は踏み入るな、と。

 ただ、俺は彼をそれなりに信頼している。だからこそ、自分の本能を無視して、こんな話をした。



「俺は、自分に使命をしました。不幸な罪人に少しでも寄り添って、悲しみを和らげるように、と。俺が班に来たとき、班長がしたように」


「……なるほど、それ自体は良い。だけど、今の優貴くんには無理だ」



 一瞬、心臓が止まった。目の前の彼は、確かに知っているんだ。俺が、まだ過去を克服できてないことを。



「優貴くんは、自分の過去ばかりに目をとられている。そんな人がもっと深い、えぐい過去を受け取りきれるはずがない」



 少し前の俺は、自分が最も不幸だ。愚かだ。……そう思っていた。だけど、今ではもっと不幸な人がいることを悟った。目の前の彼も、例外では無いかもしれない。



「さっ! 早く食べちゃおうか。だけど、次は神奈川に行くからしっかり食べるんだよ」


「……ごめんなさい」



 小声で呟いた謝罪の言葉は、彼に届くことは無かった。









 * * * *





 班長と優貴さんはご無事でしょうか……? どんな旅にも、危険はつきものです。

 とにかくわたくしは1日、副班長として務めなければ……。 


 撃ち抜かれた右手は未だ少し痛みます。なので、左手のみでパソコンを……少し、不自由ですね。やはり、痛みを覚悟で……



「ねぇー、凛さん?」


「はっ、はい!」



 質問でしょうか? 頼渡らいとさんも今日()()は働いています。ここは副班長たるもの、真摯しんしに答えなければいけな……



「休憩とってもいーい?」


「……」



 確かに、業務には休憩も必要です。しかし、あなたは……!



「あなたは、まだ30分しか作業していないでしょう……!?」



   *



 無事、彼には作業を再開させました。そろそろお昼時ですし、あとはこれを終わらせて……



「……!?」



 リリリリリ、という電話の音。それに全員が、胸をざわつかせてこちらを向きました。

 幸い電話は左側にあったので、左手で受話器をとります。素早く耳と肩でそれを挟んで、話しながらスピーカーにしました。



「はい、こちら罪人取締班」


「あっ、あの……! 今誘拐されていて……あの男性が、変なことしてて!」



 声はそれなりに幼い少女のような声でした。錯乱しているのでしょうか、言動がやや不安定です。ただ、今は考えていられません。



「落ち着いてください。あなたの今いる場所は分かりますか?」


「えっと……少し寒くて、声が反響しそうで、暗くて……あっ!」


「ど、どうしました? もしもし!」



 声は途切れ、代わりにツーという音が聞こえました。まさか、犯人に見つかったのでしょうか!? だとしたら……




「急がなくては! わたくしが向かいます!」


「ちょ、ちょっと待ちな! あんた、まだ怪我が……!」



 電話の主の場所は、班長と副班長の席のモニターで表示される仕組みです。確認すると、徒歩でも行けますが、ここは車を使って……!



「待ちなってば!」



 外に出ようとするわたくしの左手を、聖華せいかさんが掴みました。



「……っ!? 離してください!」


「あんた、焦ってるんじゃないのかい? 怪我の分を取り戻そうって。」


「そ、そんなこと……!」



 正直、そんなことありました。入院中も、どうして怪我をしたかをずっと考えていて、仕事が出来なかった分をここで取り戻そうと躍起やっきになっています。

 それに気がつき、落ち着きを取り戻すと、彼女に申しました。



「……ですが、ここはわたくしが行くべきです。誘拐事件ならば、わたくしの能力で潜入して、状況確認をしなければいけません」


「……あんたが焦るなんて、珍しいじゃないか。じゃあ、あたしも行くよ。あたしだって取り戻さないとねえ」


「だ、だからそういう……」


「それに、さっきの子をあたしの能力でかばえるからねえ」



 ……正論でした。彼女のおっしゃることは、少なくとも今のわたくしよりも正しかったです。



   *



結局、わたくしと聖華さんの2名で向かうことになりました。

 途中、頼渡さんが行きたいとおっしゃってました。しかしそうなれば、事件への対応がしょうさんに頼ってしまいます。なので、頼渡さんは待機させました。……第一、彼の能力も存じ上げませんので。


 運転席にはわたくしを、助手席には聖華さんを乗せて車は動き出しました。その間にも、今回の作戦を考えていました。


 今回は相手の能力も、現場の状況も分からない状態。わたくしが索敵を、聖華さんは被害者の保護をするべきですね。

 ただ、被害者は1人とは限りませんし、逆に犯人も1人とは限りません。ですが、急を要する事態なので、安全よりも効率を優先させましょう。

 2人別々に行動し、あらかじめ持ってきたトランシーバーで連絡を取り合う。

 ……ミイラ取りがミイラにならないように気をつけましょう。


 ですが、今回は『最終兵器』もあるので、少し安心でしょう。



 わたくしがまとめて作戦を申し伝えると、彼女は「了解したよ」とだけおっしゃっていました。



   *



 現場へと到着しました。そこはとても大きな倉庫でした。最近、使われなくなった場所と聞いてます。ただ、ここに誘拐して、犯人は何がしたいのでしょうか?


 一体、何でしょう……? この違和感は……。



「凛? 早く行かないのかい?」


「……ごめんなさい。作戦は車でおおよそ説明した通りです。では、これより任務を開始します……《発動》」



 透明を駆使して、倉庫の中を確認します。ですが人は見当たりません。単独犯でしょうか?



「はぁ……はぁ……」



 つい、吐息がこぼれます。『能力の欠点』が原因で、疲労の速さが……。


 ただでさえ少ない体力が、入院のせいで更に減ってしまいました。これ以上は厳しいので、1度能力を解除しましょうか……。監視カメラが無さそうな場所……あそこにしましょう。



「……はぁ……ふぅ」



 やはり、聖華さんのおっしゃる通り、無謀だったのでしょうか?

 ……いや、弱音を吐くな、凛。あなたは副班長なのだから……!



「……は、《発、動》」



 発動するだけで、立ちくらみするほどの疲労。ですが無理をすること以上に、後悔することのほうがよっぽど……。



 意識が朦朧もうろうとして、倒れそうになったその時、ある1つの大きな扉を見つけました。息を切らしながらも中を覗くと、そこには1人の少女と男性が。

 声の正体であろう少女は手足を拘束されていて、犯人であろう男性は銃を所持しています。

 わたくしの息は彼らには聞こえないのですが、なんせこの状態だとトランシーバーのボタンが押せなくて連絡できません。


 わたくしは少し離れた所で能力を解除して、途切れ途切れの声で聖華さんに連絡しました。彼女は急いでこちらに向かって来ました。



「凛……! 大丈夫かい!?」



声の音量を下げて彼女は聞きます。わたくしは意識せずとも、疲れてて声は小さかったので、そのまま話しました。



「大、丈夫……です。はぁ、はぁ……ですが、犯人は……う、動く様子が、無かったので、少し時間を……」


「わ、分かった! 今は何も喋らないほうがいいよ」



   *



 聖華さんは、荒々しく扉を開けて中に入りました。



「動くな! 罪人取締班だよ!」


「な、なんだお前! ……てめぇやっぱり連絡していたのかあぁぁ!」



 男性は少女の頭部にに銃口を向けました。聖華さんは右足を振り下ろし音を鳴らしました。



「《発動》!」



 彼女の2枚の障壁うち1枚は、銃と少女の間に、もう1枚は直接男性に展開されました。



「ぐあ! 何だこれ!」



 彼は吹き飛ばされ、壁と衝突しました。しかし、まだ気絶はしていません。なので『わたくしは能力を解除しました』。

 実は最初から能力を発動して、男性の体勢が崩れるのを狙ってました。



「終わりです……!」



 わたくしは『最終兵器』……『スタンガン』で男性の喉元に電気を流して気絶させました。



「っはぁ! はぁ……っ、はぁ……」


「やったね、凛!」


「はい……そちらも、良い、攻撃でした」


「そうだ、お嬢ちゃん。どこか怪我は……」



 何故か聖華さんの声が途切れました。わたくしは彼女の目線の先にいる、少女の方を向きました。少女は……『クスクスと笑っていました』。









 * * * *





 神奈川県に到着した。班長はいつも通り振舞っていたが……昼食でのこと、怒っていないだろうか?


 俺の目線に気がついた彼は、ニコッと笑う。俺はつい目を逸らす。



   *



 神奈川罪人取締所に到着した。確か、ここの班長は金山かなやま恵子けいこさんだ。

 昨日言われたことについてだが、連絡先を忘れてしまったため、近くに来ても彼女に連絡することができなかった。


 俺と班長は足並み揃えて、とはいかなかったが、2人で取締所の中へ入る。

ご拝読、ありがとうございました!


次回は優貴の方では恵子さんとの話から、凛の方は班長目線で書きます。宜しくお願いします!(次回かその辺で凛の過去が……?)


ご感想、ブックマーク等、宜しくお願いします!



前書きでも記しましたが、ここ最近、場面展開などの「*」の配置が低迷するかもしれません。なので、ご意見などございましたら、この話の感想などに。ご協力の程、宜しくお願いします!

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