29話 彼女は悩み、悔やみ、後ろへ行く
※注意
今回は主観が2回変わります!
(優貴→凛→優貴)
それと、場面展開の方法など変えました。見づらい、などのご意見がありましたら、宜しくお願いします。
俺と班長は、薙田広さんと別れた後、昼食をとることにした。場所は道中で見つけた喫茶店だ。
*
「彼はどうだった?」
班長は口の中を空にして話す。そういうところを見れば、行儀がいいな、と思う。俺もそれに倣って、咀嚼し終えると答える。
「なんか、きっちりしている人だなと思いました。悪い人ではなさそうです」
「まあ、彼も警察だから悪いはずないけどね」
班長はうっすらと笑みを零す。すっかり忘れていた。
確かに、悪い人では無いかもしれない。だけど、広さんも……『罪人』だ。
「班長」
「ん? どうしたの?」
俺は禁断ともとれる質問をすることにした。
「班長は、どうして罪人に?」
班長が箸で食器をつついたのを最後に、2人の間に音は消え去った。音が静まるこのテーブルでは、周りの雑音しか聞こえなかった。いや、もはやその雑音すらぼやけている。
「……なんで?」
彼は負の感情で固められたような目をしていた。俺の本能は、まるで踏切のように安全と危険を区切っている。これ以上は踏み入るな、と。
ただ、俺は彼をそれなりに信頼している。だからこそ、自分の本能を無視して、こんな話をした。
「俺は、自分に使命を課しました。不幸な罪人に少しでも寄り添って、悲しみを和らげるように、と。俺が班に来たとき、班長がしたように」
「……なるほど、それ自体は良い。だけど、今の優貴くんには無理だ」
一瞬、心臓が止まった。目の前の彼は、確かに知っているんだ。俺が、まだ過去を克服できてないことを。
「優貴くんは、自分の過去ばかりに目をとられている。そんな人がもっと深い、えぐい過去を受け取りきれるはずがない」
少し前の俺は、自分が最も不幸だ。愚かだ。……そう思っていた。だけど、今ではもっと不幸な人がいることを悟った。目の前の彼も、例外では無いかもしれない。
「さっ! 早く食べちゃおうか。だけど、次は神奈川に行くからしっかり食べるんだよ」
「……ごめんなさい」
小声で呟いた謝罪の言葉は、彼に届くことは無かった。
* * * *
班長と優貴さんはご無事でしょうか……? どんな旅にも、危険はつきものです。
とにかくわたくしは1日、副班長として務めなければ……。
撃ち抜かれた右手は未だ少し痛みます。なので、左手のみでパソコンを……少し、不自由ですね。やはり、痛みを覚悟で……
「ねぇー、凛さん?」
「はっ、はい!」
質問でしょうか? 頼渡さんも今日だけは働いています。ここは副班長たるもの、真摯に答えなければいけな……
「休憩とってもいーい?」
「……」
確かに、業務には休憩も必要です。しかし、あなたは……!
「あなたは、まだ30分しか作業していないでしょう……!?」
*
無事、彼には作業を再開させました。そろそろお昼時ですし、あとはこれを終わらせて……
「……!?」
リリリリリ、という電話の音。それに全員が、胸をざわつかせてこちらを向きました。
幸い電話は左側にあったので、左手で受話器をとります。素早く耳と肩でそれを挟んで、話しながらスピーカーにしました。
「はい、こちら罪人取締班」
「あっ、あの……! 今誘拐されていて……あの男性が、変なことしてて!」
声はそれなりに幼い少女のような声でした。錯乱しているのでしょうか、言動がやや不安定です。ただ、今は考えていられません。
「落ち着いてください。あなたの今いる場所は分かりますか?」
「えっと……少し寒くて、声が反響しそうで、暗くて……あっ!」
「ど、どうしました? もしもし!」
声は途切れ、代わりにツーという音が聞こえました。まさか、犯人に見つかったのでしょうか!? だとしたら……
「急がなくては! わたくしが向かいます!」
「ちょ、ちょっと待ちな! あんた、まだ怪我が……!」
電話の主の場所は、班長と副班長の席のモニターで表示される仕組みです。確認すると、徒歩でも行けますが、ここは車を使って……!
「待ちなってば!」
外に出ようとするわたくしの左手を、聖華さんが掴みました。
「……っ!? 離してください!」
「あんた、焦ってるんじゃないのかい? 怪我の分を取り戻そうって。」
「そ、そんなこと……!」
正直、そんなことありました。入院中も、どうして怪我をしたかをずっと考えていて、仕事が出来なかった分をここで取り戻そうと躍起になっています。
それに気がつき、落ち着きを取り戻すと、彼女に申しました。
「……ですが、ここはわたくしが行くべきです。誘拐事件ならば、わたくしの能力で潜入して、状況確認をしなければいけません」
「……あんたが焦るなんて、珍しいじゃないか。じゃあ、あたしも行くよ。あたしだって取り戻さないとねえ」
「だ、だからそういう……」
「それに、さっきの子をあたしの能力で庇えるからねえ」
……正論でした。彼女のおっしゃることは、少なくとも今のわたくしよりも正しかったです。
*
結局、わたくしと聖華さんの2名で向かうことになりました。
途中、頼渡さんが行きたいとおっしゃってました。しかしそうなれば、事件への対応が翔さんに頼ってしまいます。なので、頼渡さんは待機させました。……第一、彼の能力も存じ上げませんので。
運転席にはわたくしを、助手席には聖華さんを乗せて車は動き出しました。その間にも、今回の作戦を考えていました。
今回は相手の能力も、現場の状況も分からない状態。わたくしが索敵を、聖華さんは被害者の保護をするべきですね。
ただ、被害者は1人とは限りませんし、逆に犯人も1人とは限りません。ですが、急を要する事態なので、安全よりも効率を優先させましょう。
2人別々に行動し、予め持ってきたトランシーバーで連絡を取り合う。
……ミイラ取りがミイラにならないように気をつけましょう。
ですが、今回は『最終兵器』もあるので、少し安心でしょう。
わたくしがまとめて作戦を申し伝えると、彼女は「了解したよ」とだけおっしゃっていました。
*
現場へと到着しました。そこはとても大きな倉庫でした。最近、使われなくなった場所と聞いてます。ただ、ここに誘拐して、犯人は何がしたいのでしょうか?
一体、何でしょう……? この違和感は……。
「凛? 早く行かないのかい?」
「……ごめんなさい。作戦は車でおおよそ説明した通りです。では、これより任務を開始します……《発動》」
透明を駆使して、倉庫の中を確認します。ですが人は見当たりません。単独犯でしょうか?
「はぁ……はぁ……」
つい、吐息が零れます。『能力の欠点』が原因で、疲労の速さが……。
ただでさえ少ない体力が、入院のせいで更に減ってしまいました。これ以上は厳しいので、1度能力を解除しましょうか……。監視カメラが無さそうな場所……あそこにしましょう。
「……はぁ……ふぅ」
やはり、聖華さんのおっしゃる通り、無謀だったのでしょうか?
……いや、弱音を吐くな、凛。あなたは副班長なのだから……!
「……は、《発、動》」
発動するだけで、立ちくらみするほどの疲労。ですが無理をすること以上に、後悔することのほうがよっぽど……。
意識が朦朧として、倒れそうになったその時、ある1つの大きな扉を見つけました。息を切らしながらも中を覗くと、そこには1人の少女と男性が。
声の正体であろう少女は手足を拘束されていて、犯人であろう男性は銃を所持しています。
わたくしの息は彼らには聞こえないのですが、なんせこの状態だとトランシーバーのボタンが押せなくて連絡できません。
わたくしは少し離れた所で能力を解除して、途切れ途切れの声で聖華さんに連絡しました。彼女は急いでこちらに向かって来ました。
「凛……! 大丈夫かい!?」
声の音量を下げて彼女は聞きます。わたくしは意識せずとも、疲れてて声は小さかったので、そのまま話しました。
「大、丈夫……です。はぁ、はぁ……ですが、犯人は……う、動く様子が、無かったので、少し時間を……」
「わ、分かった! 今は何も喋らないほうがいいよ」
*
聖華さんは、荒々しく扉を開けて中に入りました。
「動くな! 罪人取締班だよ!」
「な、なんだお前! ……てめぇやっぱり連絡していたのかあぁぁ!」
男性は少女の頭部にに銃口を向けました。聖華さんは右足を振り下ろし音を鳴らしました。
「《発動》!」
彼女の2枚の障壁うち1枚は、銃と少女の間に、もう1枚は直接男性に展開されました。
「ぐあ! 何だこれ!」
彼は吹き飛ばされ、壁と衝突しました。しかし、まだ気絶はしていません。なので『わたくしは能力を解除しました』。
実は最初から能力を発動して、男性の体勢が崩れるのを狙ってました。
「終わりです……!」
わたくしは『最終兵器』……『スタンガン』で男性の喉元に電気を流して気絶させました。
「っはぁ! はぁ……っ、はぁ……」
「やったね、凛!」
「はい……そちらも、良い、攻撃でした」
「そうだ、お嬢ちゃん。どこか怪我は……」
何故か聖華さんの声が途切れました。わたくしは彼女の目線の先にいる、少女の方を向きました。少女は……『クスクスと笑っていました』。
* * * *
神奈川県に到着した。班長はいつも通り振舞っていたが……昼食でのこと、怒っていないだろうか?
俺の目線に気がついた彼は、ニコッと笑う。俺はつい目を逸らす。
*
神奈川罪人取締所に到着した。確か、ここの班長は金山恵子さんだ。
昨日言われたことについてだが、連絡先を忘れてしまったため、近くに来ても彼女に連絡することができなかった。
俺と班長は足並み揃えて、とはいかなかったが、2人で取締所の中へ入る。
ご拝読、ありがとうございました!
次回は優貴の方では恵子さんとの話から、凛の方は班長目線で書きます。宜しくお願いします!(次回かその辺で凛の過去が……?)
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前書きでも記しましたが、ここ最近、場面展開などの「*」の配置が低迷するかもしれません。なので、ご意見などございましたら、この話の感想などに。ご協力の程、宜しくお願いします!