23話 罪人共の思惑の交錯
美羽を守れなかったことを悔やむ班長と聖華。その回想を終えたところから始まります。
年齢→24話
伝達係→3話
****
班長の顔は終始暗いままだった。それを表すかのように、外は月明かりすらない黒色で染まっていた。
「……明日、凛さんと美羽さんのお見舞いに行く予定だよ。まさか、この1日で2人も怪我するなんて……ね」
班長は精一杯の笑顔を取り繕った。そんな彼に、目の前の頼渡さんは追い討ちかのように告げる。
「いやぁ、でも仕方ないと思うよー? 白虎が来るなんて予想できなかったんだし。まあそもそも、この班は戦場慣れしてないし、そんな予測はできないだろうけどねぇー」
「……」
班長は、彼の言葉に口を噤んだ。俯いた彼の顔を見るに、どうやら図星のようだった。
その後も2人の不毛な会話は続く。
何故彼女に付き添わなかったのかと聞けば、車に乗り込む余裕が無い程の一大事だったため、と答える。
では何故自分達よりも帰りが速かったのかと聞けば、予め警察を近くに待機させ、その車を使ったため、と答える。
途中で聖華さんは俺と、隣にいた翔さんに、
「今日は帰りな。後、明日は2人のお見舞いに行くからね」
と放った。聖華さんの話によると、菫さんは先程のあの暗い空気に耐えきれずに先に帰った、と言う。
俺たちは聖華さんの言葉に従って、寮に戻ることにした。
夜の道路では、黄色や赤の光がせわしなく動いている。こういう景色もいいな、とは思えなかった。いや、思う余裕が無かった、と訂正しておく。
今日も色々起こりすぎた。2人の怪我といい、命削れる闘いといい……。罪人取締班はこんなに忙しいのか、と心の内側で愚痴をこぼす。
帰り道では翔さんとの間に会話は一切無かった。唯一の会話は、寮に入ってから交わされた。翔さんが俺に話しかけてきたのだ。
「……謝罪する。疑ってごめん」
「え、えーっと……?」
彼の突然の発言にどう返したら良いかおどおどとしていると、彼は再び口を開いた。
「説明する。現場に向かう前、そっちが聞いた年齢のこと。本当にいらない会話だと思っていたけど、彼女の能力は多分『年齢が若いほど効果時間が続く』みたいだったから」
「あっ、ああ……」
俺は苦笑いして納得した。あの時、俺は確かに年齢を聞いた。……任務と関係ある、と嘘をついて。
彼の方からしたら、彼女の監禁罪が年齢と関係ある、と俺が予測したということになる。
「ねえ、なんであの能力が年齢と関係するって思ったの?」
「いや、なんというか、その……」
これはこれで非常に参った。普段、表情の硬い彼が羨望の眼差しで見つめるから尚更だ。
「……まあ、勘でも凄いと思う。少し、見直したよ」
どうやら、それ以上のお咎めは無いようだ。俺はほっとして胸を撫で下ろす。
彼とは別れ、各自で部屋に戻った。
「……はあ」
まだ物もなくて寂しい部屋だからか、投げた声が僅かに返ってくる。またそれを聞くのも寂しいため、ため息はもうやめることにした。
自分が罪人取締班に入っておよそ1週間だと言うのに、ここまで忙しい日々になるなんて想像もしていなかった。罪人がここまで社会で暴れているなんて、孤児院では習わなかった。
……いや、もしかしたら規制されていたのかもしれない。そう考えると、あの孤児院から抜け出せて、社会を知れて良かった、と感じた。皮肉にも、出れた理由は……。
いや、それよりも亜喜せん……朱雀は今、何をしているのだろうか? 本当に和也は無事なのだろうか? 無事と言うなら、凛さんや美羽だって心配だ。……疲弊する疑問ばかりだな。
そんな疑問から逃れるように、寝る支度を整えて寝具に体を入れた。
****
今日のところは待機だ、と言われた。予告した日にまさか攻撃するとは、罪人取締班には想像もつかないだろう。しかも2人もの罪人だ。対処できるか……見物だ。
初めはボスの行動に反対した。なぜ今日攻めるのか、と聞いてみたら、戦力を分からせるため、そして罪人取締班の実力を量るため、と答えた。最近ボスの行動には首を傾げるばかりだ。
「今戻ったぞー!」
記憶を蘇らせていると、白虎の声が耳に入った。私は急いで彼の元へ向かった。
彼の服には、所々に赤い点のようなものが散らばっていた。私は彼の心配よりも、と彼に質問を投げかける。
「聖、……玄武は!? ここに戻ると言っていたか!?」
「なっ……! なんだ、『朱雀』か……。驚かせんじゃねえよ。なあ、お前にしては珍しい顔してんじゃねえか?」
「うるさい! 私の質問に答えろ……!」
彼の小馬鹿にしたような顔に憤りを覚えながらも、彼に問いただすことは止めなかった。彼はつれねえな、と一言置いてから話した。
「頑張って説得したが、無理だったぜ。何でも、あっちの方が居心地いいんだとよ。」
「……そうか」
私は納得を表す口調とは裏腹に、彼女に苦言を呈したかった。なぜ、あちらがいいのか、どうして私の傍に居てくれないのか、と。
「そんな顔すんなって。どうせ、俺たちが勝つんだから、安心してろ」
鈍感な彼は笑いながら口にした。確かに、勝ちはこちらが頂くだろう。しかし、いやだからこそ、聖華には……。
そんな私の思考を断ち切るように彼は続けた。
「俺はボスに報告しに行く。監禁罪のあの女には青龍がついて行ったから、口封じできてると思うが」
そうか、今回はあの閉じこもりの青龍も出るのか。正直彼の強さも、性格もあまり知らないが、大丈夫だろうか……?
彼はボスの居る所まで、歩いて向かっていく。私は何も話さずにそれを見送った。
私は、1度自分の部屋へ向かおうとした時、
「亜喜……いや、ここでは朱雀と言った方が正解かな?」
後ろで何とも形容しがたい声が聞こえた。幼くも聞こえれば、機械的にも聞こえる。その声には聞き覚えがあった。私は振り返りながら声の正体を視界に入れた。
「お前は、伝達係の?」
「面と向かっては初めまして、だ。電話越しで聞いたとおり、声も麗しいし、見た目も可憐な女性だね」
無駄に口達者な彼は、少し大きめの眼鏡をかけていた。身長は私よりも低く、髪は無造作で、目は紫だった。髪の色はフードを被っていたため、判別できなかった。子供と言い張れば通るような外見だった。
「私に何か用か?」
「いや少しご挨拶を、と思ってね。何せ入ったばかりで、まだ幹部というあなたにも会えていなかったから」
「そうか。改めて、私は朱雀だ。お前は?」
「名前は無いよ。よくあるだろう? 戸籍も無い人なんて」
「……なるほど。では、引き続き伝達係と呼ぶ」
「ふふっ、良い名前だね。ありがとう」
彼は終始、ぼやけたような話し方だった。掴みどころが無いというか、何というか……。
彼は仕事がある、といって足早に去っていった。私も、部屋に戻る目的を思い出し、その場を後にした。
****
カーテンを閉め忘れたのか、朝の日差しが俺の顔を照らした。布団から起き上がって、軽く背伸びをする。
そういえば今日は見舞いに行く、と言っていたな。
俺は身支度をてきぱきと終わらせてドアノブに手をかけた。
次回の展開はお見舞いシーンからです。戦闘は展開上しばらく無くなるかもしれないです。