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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
3章 彼らが優しい夢から残酷な現実に目を向けるまでの改造譚
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22話 響き渡るのは声と後悔 後編

3人がただならない緊張感で、目的地に到着。そして車を降りた辺りから始まります。

 トンネルに入ると、やけに涼しい空気が肌をかすめた。

 向こう側の入口付近には、倒れた男が1名。そして外をじっと見ている人影も見えた。


 後ろに続く2人に、注意をうながす。恐らくあの立っている人物が『騒乱罪そうらんざい』の罪人だろう。


 幸い小さな音は反響しにくく、俺たちの足音はあの罪人に聞こえていない様子。どうせなら、気付かれないように背後に回りたいものだけど……。

 ゆっくりと、じわじわと距離を詰める。近づけば近づくほどに緊張感が高まっていった。それと同時に、標的と被害者の服装もだんだんと鮮明になっていく。


 倒れている男性はブラウンのスーツをまとい、右手には携帯を持っていた。俺たちに、必死で連絡してくれたのはこの人で間違いない。

 一方、標的は赤いジャージで、両手を上着のポケットに突っ込んでいる。子供のように小さい背丈で、髪もまとまっていない男子のように見えた。そんな彼は不可解なことに、じっと外を見つめたままだった。


 距離はもうすぐ攻撃可能な範囲になろうとしている。もう少しといったところで、カランと背後で音がした。次に聞こえたのは、



「あっ……!」



という美羽みうさんの微かな声だった。その音と声を聞いてその罪人は、パッとこちらを向いた。幼い少年のような顔が、夕日を背景バックあらわとなった。



「あれ? 気づかなかったや! いやー、僕としたことが……!」



 声は電話越しで聞いたものと同じだった。今更確認しても、というところだけれど。



「ご、ごめんなさい!」



 美羽さんの謝る声がすぐ背後から反響してきた。どうやら、暗い足元にある空き缶を蹴ってしまったのだろう。仕方ないことだと思う。



「大丈夫だよ! 3対1だし、絶対に負けはしないさ!」



 過去によって、戦闘になると、つい楽しくなってしまう聖華せいかさんは、その呪いに従って口角を上げる。

 俺も美羽さんをとがめはせず、むしろなぐさめるように、彼女の肩をそっと叩く。

 それと同時に、『自分の能力の制限時間が残り僅かだ』と悟った。罪人取締所からここまでの移動で、それなりの時間が経過してしまったらしい。



「……3対1だから勝てるって? 罪人取締班も、所詮ゴミのくせして、よく僕を見下せるなああぁぁぁ!!」



と言って、彼は喉を両手で抑えた。決して喉を痛めた訳では無いようだ。では何か、と言うとそれが彼の、



「《発動》!!」



発動条件だからだ。聖華さんは右足を地面に叩きつけて



「《発動》!」



と言った。その声はどこか血気盛ん、といったところだ。そんな声が響き渡ると同時に目の前に障壁バリアが張られる。


 彼は口を大きく開けている。どうやら騒乱罪で、自分の声を増幅させているらしい。その証拠に、トンネルのライトが次々に割れている。

 しかし、こちら側に彼の声が届くことはなかった。



「……あ、あれ? このバリアって、音(ふせ)げましたっけ?」



 耳を塞ごうとしていた美羽さんの声は、彼とは打って変わって、しっかりと伝わってきた。

 汗を滲ませる聖華さんは、男の挙動を監視しながら説明する。



「あたしの『往来妨害罪おうらいぼうがいざい』は色々防ぐことができるんだよ。そしてそれはあたし自身で設定できる。このバリアは攻撃を防げない代わりに、音を防ぐ設定にしてるんだよ」



 美羽さんの相槌あいづちも待たずに、聖華さんは焦りの色を見せて続ける。



「だけど……あたしの攻撃はあいつを出口に押し出すだけだし、バリアもそろそろ割れそうだし……これじゃあ消耗戦だよ! どうする、班長!」



 負け戦は全く楽しくないと言いたいように、先程よりも元気のない声だった。


 しかし、彼女の言うことは言い得て妙だった。俺は、気を引き締めるという意味でも、黒い手袋をする。

 ……この2人の能力を活かして、何とかあの男の口を物理的に封じたい。ならば、これしか無さそうだな。



「聖華さんは攻撃無効のバリアを使ってあの男の足をすくって! あと、美羽さんはいつでも能力を発動できるように準備しておいて!」



 聖華さんは右足を軽く上げて、美羽さんは地面に両手を付ける。そして会話を譲り合う余裕が無いのか、ほぼ同時に話し始めた。



「了解! もう攻めるよ!」


「いつでも、発動できます!」


「よし……作戦開始!」



 俺の声を火蓋ひぶたに、聖華さんの足が勢いよく落とされた。踏み鳴らす音が反響しそうになる前に、



「2枚目! 《発動》!」



聖華さんの声が反響した。宣言通り、2枚目のバリアが地面を這うようにして進んで行った。


 バリアは男のすねに激突し、足をすくわれたために小さく宙に舞った。その瞬間を待っていた。

 俺は美羽さんに向けて肘を打ち付ける準備をする。そして美羽さんにこう指示をした。



「美羽さん! 彼と!」


「はい! 《発動》!」



 俺の指示を理解出来たのか、美羽さんは発動を宣言する。

 直後、能力を発動させた彼女は、地面にうつ伏せになっている彼になった。……正確に言うと、彼女の『背任罪はいにんざい』で両者の座標が交換されたのだ。


 都合の良いことに、彼は驚きのあまり、文字通り声も出なかったのだろう。俺と聖華さんが騒乱罪の餌食えじきになることはなかった。

 既に攻撃の準備をしていた俺は、彼に容赦なく肘で背中を攻撃した。



「があっ……!」



 しかし、まだ彼の能力が続いていたらしく、彼の断末魔だんまつままでも増幅されていた。長く続いていたら危なかっただろう。


 俺はすかさず彼の口に手を当てる。それでも暴れられたら困るため、彼にそっと、小さい声で耳打ちした。



「いいかい? 俺の能力で君の口を消失させれるんだけど……どうする? まだやるかい?」



 もちろん嘘だ。実際、俺の能力はそんなものでは無いし、そもそも俺の能力はもう時間切れ(タイムアップ)だ。




 『……しかし、こういう状況での嘘は、何よりも1番効くということを知っていた。』




 手袋越しに、彼の唇がうごめくのが理解できた。

 俺は聖華さんを手招きして、彼の両手首を背後に回させる。そして手錠でしっかりと固定させた。


 もう口を抑えなくとも、彼は大人しくなった。これまた文字通り声も出さず、だ。どうやら俺の嘘をに受けたらしい。

 俺は彼が賢くて良かった、と心の底から安堵あんどした。

 美羽さんも、俺と聖華さんのそばへてくてくと歩いて来た。


 後は応援を呼ぶだけ……そんな時、彼の断末魔ほどではないが、耳を塞ぎたくなる轟音ごうおんが視界外から聞こえた。


 そこに居たのは、赤色の短髪に半袖短パンの男だった。彼が造ったのか、地面は軽くえぐれて崩壊していた。

 もし、聖華さんの話通りだとすればあれは……プロノービスの幹部、『白虎びゃっこ』だ。



「おいおい……捕まってんじゃねーか。てめぇ、組織に泥塗る気か?」



 その言葉は、俺の手元にいるこの罪人に向けられたものだった。



「僕は……ど、努力はした! 努力したんだ!」



 騒乱罪の効力はもう消えたみたいだ。しかし、それ以上の脅威がこちらをじっと睨んでいた。それに、俺はとてつもなく嫌な予感がして、この狭い空間でも、必死に横へと回避する。



「全員、横に回避しろ!!」



と叫びながら。

 その声に反応したようで、聖華さんは俺と同じく、横へと退しりぞけた。しかし、美羽さんは突然のことに何に従えばいいのかという……まさに混乱状態だった。

 俺が声をかけようとしても、手錠をかけたあの罪人に声をさえぎられる。



「そ、そもそも3対1だぞ!? 負けても仕方な……」



 瞬間移動……はたまた風圧で移動……そんな勘違いをするほど、白虎は速かった。

 俺の隣で繰り広がる光景は、男性の頭がクラッカーの如く、遠くに飛んで行く、というグロテスクなものだった。


 非常に不味い事態だ。能力を発動する暇もない。聖華さんのバリアも、恐らくあの力なら一瞬で破られるだろう。そして……そう言えば! 美羽さんは!?


 彼女の元いた場所を見たら、



「ぐあっ……! ううっ……」



 彼女が、反対側のトンネルの壁によりかかって、苦しそうに項垂れていたのを目先めさきで見た。僅かに吐血しており、背中からは血が流れているようだ。しかし、彼の移動に巻き込まれただけであんな風になるのだろうか?


 いや、そうか……! 美羽さんの能力の欠点、『抵抗力の低下』が相まってしまっているのか!


 これは不味い事態だ、と1歩を踏み出したその時、白虎と聖華さんの会話が始まった。



「……ちっ、移動に時間食っちまった。これじゃあ……」


「一体何しに来た? とっとと帰ってくれないかい?」


「……玄武げんぶ。ああついでだから、お前も殺してやろうか?」


「その名はもう捨てた……! いいかい、もう2度とそれで呼ばないでおくれ!」



 聖華さんは俺にアイサインをした。どうやら、今のうちに美羽さんを保護しろ、ということだ。

 その意志をみ取って、俺はいそいそと彼女の元に駆け寄ることにした。

 その間にも会話は続いていた。



「捨てた? お前はもうその過去はぬぐえねえ。例えお前の仲間が許しても、お前が殺してきた奴らの魂は、決してお前を許さねえんだよ。お前は……玄武として生きていくしかねえんだよ!」


「それは、遠回しに組織に戻れって言ってんのかい? だとしたらあたしのしかばねだけ持って行きな! 生きてる限りは、あんたらに……プロノービスに手なんて貸さないよ!!」


「戻ってこないと、一生後悔するんだぞ? 戦力差も歴然だよなあ? 屍すら残んねえよ」


「あたしは、この班のあたたかみを知ったんだ……! あたしの過去を知っても、深追いなんてしないで、全員がいつものように振舞ってくれたんだ! だからあたしは! あたしは……」


「……ちっ、任務達成率50%って所かあ? あいつの口は封じたが、こいつは戻る意思はねえしなあ……」



 彼らの会話は、盗み聞きするしない以前に、反響して否応いやおうでも耳に入った。彼の怒気を強めた声も、彼女の震えた声も、さらに鼻をすする音までも。


 一方俺は、既に目的地へと到着した。彼女の吐息を確認し、まだ助かると判断。更に彼女を抱えて、和葉さんの車の方へ慎重に運んだ。

 彼が追って来なければいいと願っていたのだが、そう上手くはいかなかった。



「おい、逃げんのかあ?」


「待っ、待ちな……! まだ話は終わってないよ!」



 すぐ背後に彼の声が聞こえた。背筋が凍るとはまさにこの事だ。俺は上手く誤魔化そうと話し始めた。



「……君の目的は2つ。まず騒乱罪の彼の口を封じること。そして、聖華さんを組織に戻そうとすることだ。だから、今は互いに争いを避けたい。命令が無い以上、犠牲は今払うべきでは無いんじゃないかな?」



 さすがにこれでは誤魔化せるとは思ってないのだが……。



「……まあ、すげぇ腹立つが、俺は卑怯な争いは好まねえ。……その命、助かったと思え」



 彼はそう口にすると、目に追えない速度で消えて行った。まだ説得の方法はあったのだが、早めに撤退してくれたのは、本当の意味で命が助かったと思った。


 俺は美羽さんを、急いで和葉さんの車に乗せる。和葉さんには急いで病院に、と話して発車してもらった。俺と聖華さんは1度そこに残って応援を待つことにした。そのかん、俺と聖華さんはつい本音をこぼした。



「くそ……! 彼女に……美羽さんになんてことを……」


「……不甲斐ないねえ。班長も、あたしも」



 その声はトンネルに反響して消えていった。しかし、2人の心の中では消えることなどなく、永遠に反響し続けていた。

怪我をして病院に搬送されたのが2名になりました。


今後はどんな展開になるのでしょうか……? 


書くのは自分なんですけどね……(;´∀`)


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