21話 響き渡るのは声と後悔 前編
(内容が上手くまとまらず、結果、量が少なくなってしまいました! ごめんなさい!)
優貴くん、翔くん、頼渡さんが任務を終えて罪人取締所に帰るところから始まります。
「話します。あの、頼渡さん。助けて貰ってあれなんですけど、来るなら言ってください」
隣に居た翔さんは、車で突如そんなことを言った。確かに、その方が作戦や対処方法の幅も広がっただろう。言い咎められた頼渡さんは、これまた飄々と話す。
「いやぁ、ボクだってね? イジワルしたかった訳じゃ無いんだよ。罪人取締所に向かう途中で駅が変だなぁ、って思って中に入ったらキミ達が居ただけなんだよねぇ」
「そして、俺と翔さんはギリギリのところで助けてられた……ってことですね?」
俺の問いかけに、助手席の彼は振り向くと、俺へ1つ頷いて肯定した。彼は話を変えるためか、パン、と手を叩く。
「そうそう! あの人の能力、結構優秀だったねぇ! あれ多分『監禁罪』だけど、もしいい人だったら『RDB』にスカウトしてたのになぁ」
「RDB?」
「『Réunion des bourreau』っていうのが正式名称。その頭文字を取ってRDBって略になるんだ。世界で起きてるテロとかを対処してるんだぁ」
爛々とした目の彼は、包み隠すこと無く自分の所属を教えた。先程の異国語の意味はさっぱりだが、正義のもとに行動しているあたりは罪人取締班と同じだ、と思う。
「そうそう! RDBで面白いことが沢山あったんだよねぇ! まずは……あの話にしよっか。これはドイツで起こったテロの話なんだけどね? まずボクがそこに着いたとき……」
頼渡さんは喋り出すと止まらない性格なのだろうか。怒涛の如く、彼はお土産話のようなものを披露した。
翔さんは、既にこうなると分かっていたのだろうか。話を無視して、車窓から夜の景色を眺めている。俺も話を馬耳東風をしたかったが、子供のようにワクワクした彼を見たら無視するのもどこか気が引ける。
……子供っぽい人には弱いんだな、と皮肉を心に零す。その心に零した箇所には、和也の笑顔が、冷水のようにキツく染み込んだ。
頼渡さんの話に対して、時折苦笑いを零しながら運転する京之介さん。話から逃れるように、流れる夜景を目に映す翔さん。そして内心渋々と聞いている俺の、計4人を乗せたパトカーは罪人取締所に到着した。
去り際に、京之介さんが窓から顔を出す。
「じゃ、達者でな!」
運転してくれた京之介さんに、感謝の意を込めて一礼すると罪人取締所に入った。
1番に、事務室のドアノブに手をかけた頼渡さんが、勢いよく飛び込む。
「こんちはぁー! って、もう夜だけどね」
そこには既に班長と聖華さんが居た。久々に帰って来たであろう頼渡さんに、何1つとして反応を示さない所から、2人は少し元気が無いように見える。その原因は聞かずとも考えることができた。
「……美羽は? どこへ?」
嫌な予感がした。その予感は前にどこかで感じた、人が死ぬ直前の……もしくは知らされる直前の感覚によく似ていた。
俺の問いかけに班長が重々しく答えた。
「……美羽さんは、搬送された。多分、命に別状は無さそうだけど……先輩として、情けないことをしてしまった……」
後悔。その言葉が大半を占めるようなトーンだった。俺は彼に問いただすことにする。
「……何があったのか、聞かせてください」
決して彼らを責めたい訳では無い。だが、2人も先輩が居ながら、後輩が受けた怪我の理由を知りたいだけだ。
彼はぽつぽつと、それでいてはっきりと話し始めた。
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闘う準備は済ませた。後は油断せずに任務を遂行させるだけ。
少しして、優貴くんと翔くんが現場に向かったとの情報が入った。それと同時に、和葉さんが到着したという情報も、だ。
俺と聖華さん、そして美羽さんの3人で、彼らの成功を祈りつつ、和葉さんの待つ車の中へ乗り込んだ。
全員乗ったことを確認した和葉さんは、
「全員乗ったな、急ぐぞ」
と、いつにも増して早く聞こえた口調で話し、車が動き出した。
赤と黄色が綺麗に混ざった色の夕日が、滞り無く街を照らしている。隣に座っていた美羽さんは、緊張しているのか固くなって俯いていた。
「……大丈夫かい? あまり緊張しないでね。判断力を鈍らせちゃうから」
俺は彼女に話しかけた。彼女はビクッ、と肩を反応させて驚いていたが、ぎこちない笑顔で口を開く。
「あはは……でもやっぱり、緊張しちゃいますよ。もし自分が失敗しちゃったら、もしかしたら死んじゃうかもしれないですし」
その言葉に対して、聖華さんは美羽さんとはまた違う笑顔で返す。
「なぁに、いざとなったらあたしが守ってあげるよ! だからあんまり固くならないでおくれよ」
「それに、相手の能力もおおよそ見当がついているから、対策はできるよ」
俺の言葉に美羽さんは、目をより大きくする。漫画だったら、頭の上に「?」が浮かんでいるだろう。
彼女の聞きたいことを解決するために話を続けた。
「彼の能力は恐らく『騒乱罪』。自身が発する声や音を、何十倍にもする能力。まあ、何もしなかったら運が良くて鼓膜損傷。だけど悪かったら……」
「ストップストッープ! ……それ以上は聞かないでおきます」
彼女は話を遮って大きな声を出す。俺はつい微笑すると、こう話した。
「そんな元気があるなら、もう大丈夫だね」
「……あっ」
彼女も意識してなかった元気が漏れたらしく、少し赤らめた顔のまま、口を手で押さえた。バックミラーで一部始終を見ていた聖華さんは笑いながら、
「なんか微笑ましいねぇ」
と言っていた。
少しして、まるで山道のような所にある、『トンネル』の目前で車は停止した。
運転していた和葉さんは、握っていたハンドルを離すと、こう話した。
「ここが現場だ、俺はなるべくここにいるから、何かあったらすぐに戻ってきてくれ、健闘を祈る」
あたかも彼は、自身も闘いに行くような焦りを見せる。それほどまでに緊迫とした雰囲気が、普段は落ち着くような自然の空間を支配していた。
俺たちは先程と打って変わって、多少の緊張を胸に抱いて車を降りた。
……しかし、俺や聖華さんはどこか油断していたのかもしれない。そのせいで、小さく、それでいて大きな悲劇が俺たちの運命を受け入れることになったのだ。
次は後編です。美羽さんがなぜ病院に搬送されたか、真実が描かれます。