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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
2章 彼が根暗から一人前の罪人になるまでの成長譚
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19話 森閑を埋めるのは凄惨のコール 前編

遅れてしまい、本当に申し訳ございませんでした。

 俺は翔さんをじっと見つめた。提案をした彼もじっと俺を見つめる。まさに俺と彼の目が合う状態だ。彼のその目はどこか死んでいて、それでいて純粋さを忘れていないような……形容しがたい複雑な瞳だ。


 俺は今の、無駄に変な空気に耐えきれなかった。だから、その空気を振り払うように翔さんに疑問をていする。



「作戦を立てるって言っても、相手の能力も、居る場所も分からないんですよ? どのように作戦を?」



 彼の考える時の癖なのか、視線は下にして腕を組んでいる。さらに、俺と話ができる距離で歩き回っていた。そして俺が言い切った直後に翔さんが口を開く。



「回答する。それは大体予想ならできる。まず、女性がいた所は反響する場所だった。そして、大きな音……いや、あれは多分電車とか新幹線か。まあ、その音が1度あった。反響する、そして電車とかが通る所は、例えば静かな駅とか。さらに言えば、『駅の中にある線路に近い通路』。」



 俺は翔さんの推理力に脱帽した。しかし翔さんは俺に構うことなく推理を続ける。格好は決してブレず、腕を組んであてもなく近くを歩いている。



「女性の能力は流石に分からないけど、即死系でも精神干渉系でも無さそう。じゃないと、標的ターゲットに助けなんて呼ばせたりしないから。すると、肉みたいな音は能力で奏でられた音じゃないはず。そして発動する前は、カチッて音がした。何の音か分からないけど、それが発動条件だから注意はしておくべき」



 翔さんはスラスラと文字を音にする。彼は推理力にけているだけじゃなく、口達者くちだっしゃな人でもあるようだ。基本は無口だと言うのに、任務となるとこうも人が変わるのかと想像する。

 翔さんは俺が話す隙なく話を続ける。良く言うと、まるで推理ドラマのラストを観ている気分だ。……悪く言うと置いてけぼりだ。



「本題に入る。僕の能力は『強要罪きょうようざい』。相手に命令を1つ、強制的に行わせる能力。発動条件は……」



 今の言葉はさすがに聞き捨てならなかった。無粋ぶすいではあるが、俺は我慢ならず、話の途中で口出しした。



「ちょっと待ってください……! その能力があれば何でもできるんじゃ!?」



 俺がしまったと思ったときにはもう遅かった。翔さんは相当俺に呆れたのか、はあぁぁぁぁ……と深いため息を吐く。そして面倒くさそうに話し始めた。彼のしかめた眉の下にある目は、既に俺に向けられていた。



「……説明する。もちろん、色々制限はある。まず対象は『命令を全て聞くことができた人』のみだから、『対象にする人は選べない』こと。そして『命令は1人につき1日1回まで』。さらに『命令は結果的に人が命を確実に落とすものは無効となる』こととか……。強い力には必ず制限が付き物だよ。じゃないと化け物(チート)だから」


「流石に制限はあるんですね……」



 俺は何故か無性に安心した。いや決して、俺の能力は必要ないんじゃ……とか思ってた訳では無い。

 ただ彼が罪人取締班を裏切ったら、などと思うととても恐ろしいことが噴水のように溢れて思いつくからだ。しかしどうやら、無駄な想像力が働いてしまったようだ。



「……続けるけどいい?」



 翔さんは俺を怪訝けげんそうに俺の顔を覗き込んで問う。どうやら、俺の考えてた様子がいささか不思議だったのだろう。



「あっ、すみません。続けてください」


「了解する。そしてこの能力の発動条件は、『片目を片手で隠すこと』。利点と欠点はそこまで影響しないからはぶく。そっちの能力は、許可証を見せて貰ったから分かる。作戦としては、まず最初は僕が彼女を引きつけるから目を閉じて発動させておいて。そして僕をまもりつつ戦ってほしい。僕に戦闘能力は無いから、狙われたら負ける」



 先程のときとは異なって、今度は俺を一直線に見て話していた。彼の瞳が一瞬、俺を飲み込むような錯覚を感じる。彼が一拍おいて話そうと口を開いた。

 しかし、どこかからサイレンの音が小さく聞こえたため、その口から声が出ることは無かった。その音は徐々に大きくなり、俺の右側で鳴っていることが鮮明に分かってきた。

 白黒の車1台がこちらへと来て、2人の横へ停車した。上には赤色のパトライトが置かれていて、中の光源がめまぐるしく回っている。音の正体はどうやらこれのようだ。

 運転席に乗っていたのは、大柄な男……京之介きょうのすけさんだった。



「待たせたなぁ! さあ乗れぃ!」



 運転席の彼の口は、一体どうしてか笑いを表していた。それを無視するように、翔さんさんはこちらに向けて、



「場所を変更する。続きは車の中で話す」



と話した。それに対し、俺はの意味を込めてコクンと1回頷いた。





 車内から見る夕方の街並は、日に照らされてとても神秘的に見えた。

 まだ純粋無垢じゅんすいむくな人も多く居る中、凄惨せいさんな犯罪が起きているという、この街の二面性が何とも悲しいものだ。



「続ける」



 隣に座る翔さんが、何の前触れも無く話し始める。返事をする暇もなく、翔さんの声は留まることを知らずに車内に充満する。



「と言っても、ただまとめるだけ。今回の作戦の目標は、『彼女の能力を警戒しつつ、そっちの力で押し通すか、僕の能力で行動不能にする』こと。……まあ、僕の能力はそっちも受けるけど、僕が拘束するから安心して」


「おっ、何か楽しそうだな。俺にも作戦を……」


「拒否する。京之介さんは口を挟まないで」



 彼の言葉に、京之介さんのやるせない表情がバックミラーに写る。こちらは真剣なのに、京之介さんの楽しそうな様子がしゃくに障ったのだろう。

 気を取り直すように翔さんは鼻で大きく深呼吸する。次は、口で息をテンポ良く吸うと、吐き出すついでかのように話す。



「……何か聞きたいこととかある?」



 聞きたいこと……か。翔さんと話すのはこれが一大チャンスかもしれない。リラックスする意味でも、作戦のこと以外でいいか。



「翔さんの歳っていくつですか?」


「不可解を示す。それは作戦と関わる?」



 ここで「いいえ」と答えれば、「じゃあいい」と返されるだろうな。意地悪だがここは……



「はい。必要なことです」


「了解する。僕は12歳で今は小学6年」


「学校はどうしてるんですか?」


「……回答を拒否する。それは絶対必要じゃない」



 つい勢いで聞き続けてしまった。それがあだとなってバレてしまったようだ。俺は



「ごめんなさい」



とだけ告げて黙る。翔さんもそれ以上は追求してこなかった。

 その後は全くもって会話が無かった。何故か京之介さんも黙っていることに、もはや恐怖すら感じる。


 車は俺が想像してたより、はるかにさかっている場所を通る。そして、駅のような……いや、これは完全に駅か。その駅の近くに車は停まる。



「よし、着いたぞ! この駅が現場だ。まだ標的が居るかどうか分からないが、警戒していけよ」



 そうか……確かに彼女がまだそこに居る確証は無い。彼女は人間であって、置物などではないから。



「ありがとうございました」



 俺はそう言って一礼して車から出ようとすると、京之介さんから話しかけられた。



「優貴! 翔! ……キツかったら1度戻って来いよ。絶対待ってるからな」



 その顔は、いつもの京之介さんとは思えないほどに心配に満ちている。まるで本当の親のようだ。



「はい。行ってきます」


「ん。行ってくる」



 俺と翔さんの声が重なりそうになった。それが互いに結束の証となればいいが……。

 俺たちは車から降りて駅へと向かった。



 駅に向かうと、突如の鉄の匂いに鼻をつまむ。嗅覚の次に働いたのは視覚だった。その光景はあまりにも衝撃的でそれでいて残忍的だった。



「これ……は?」


「……衝撃を受けた。これ、想像以上に……」



 転がる死体たちが物語るのは、この犯人……彼女の暴虐性だった。そんな赤でデザインされた駅内に男の悲鳴が轟く。



ぎゃあああぁぁぁ……!



「今のって!」


「急ぐ。ここから近い!」



 俺たちはその音源へと駆けて行った。目に光のない人達を1度見なかった事にして。


 その場付近につくと、項垂うなだれて倒れている人が居た。その人はまだ息があるみたいだ。

 俺と翔さんは、互いに目を合わせて頷き、その人に駆け寄る。



「何があったんですか! 大丈夫ですか!」



 俺は必死に叫ぶように聞いた。しかし、隣で翔さんが声を零す。



「いや、……もう彼は……助からない」


「じゃあ、せめて! 犯人は……彼女は……?」



 彼は最後の余力を尽くすつもりなのか、指を……『俺たちの背後』へ向けた。



「なっ……!」


「しまっ……」



 思わず声を出しながらも振り向こうとすると、『カチリ』と音がする。『爪を噛む』彼女の、黒いワンピース姿を捉えた頃には全てが遅かった。



「《発動》」



 電話越しで聞いた彼女の声だ。俺と翔さんの体は、『たちまちに動かなくなった』。声すら出せない。

 彼女は、



「ふふっ、ふふふふふっ……」



と猟奇的に笑うと、俺の首元へナイフを振り下ろした。

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