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「sin・sense」 〜罪人共による異能力の闘争〜  作者: むかぜまる
最終章 彼らが『始まりから終わりまで』を続けたいそうです
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最終話① 罪人共の未来

 あれから数ヶ月。周りでは色んなことが目まぐるしく起きた。


 ノアやのぞみなど、RDBのメンバーの一部は、罪人専用の刑務所に収監された。

 逆に、レジスタンスのメンバーや、ルドラ、フローリーは、RDBに強制された、もしくは意識喪失状態として行動していたため、お咎め無しで済んだ。


 また、何名かが重症のため、病院に搬送された。全員、命に別状はないらしい。


 彼らは皆、この結末に満足していた。なぜなら、これこそがある意味での『自由』なのだから。



   *



 石の前で、芽衣めいは手を合わせる。二つの石にはどちらも、片川かたかわの文字が刻まれていた。



「──終わったよ。復讐も、戦争も……この親子関係も」


 彼女はそう言った。

 最後の一つは本音では無い。『そんなことないよ』と、彼らに否定して欲しいがためについた嘘だ。



「私、お母さんとお父さんのおかげで、こんなに楽しく生きてる。昔の私だったら絶対に想像できない、ありえない人生。だから──本当に、ありがとうございました。ゆっくり休んでね」


 立ち上がり、後処理を済ませる。

 ふと横を見ると、そこには随分と大人びた、水色のツインテールの子どもがこちらに近づいていた。



すみれさん……」

「……なに、そんなに私が珍しい?」


 いつもながら冷たい一言を投げかける。

 しかし芽衣は特に気にせず話す。



「──お兄さん、ですか?」

「…………うん。そっちは()()でしょ?」

「はい、今終わりました」


 芽衣は完全に処理を済ませ、菫に一礼してその場を後にする。

 残った菫は、目的の所まで歩き、水をかける。



「お兄ちゃん……って、聞こえてるはずないよね」


 始めの一言。



「──私、罪人取締班の班長になったよ。みんな優しくて、強くて、楽しくて……。きっと、皆と居たらどんなことも乗り越えられる気がするの。お兄ちゃん、それでね──あれ?」


 次の一言を出す前に、目の内側が熱くなっていることに気がついた。



「おかしいな……? 今日は、泣かないって決めたのに──。これは違うの、お兄ちゃん……」


 彼女は気がついた。

 『お兄ちゃん』という言葉を使う度に胸が締め付けられて、涙がこぼれてしまうことに。



「────なんで、勝手に居なくなったの? わたしにこんな悲しい思いさせて……それでもお兄ちゃんなの?」


 菫は合わせる手を離し、乱暴に目を擦る。



「カッコつけてないでさぁ、いいからさっさと戻ってきてよぉ……!」


 本音をこぼした後、しばしの間静寂が訪れる。



「……ほんと、バカみたい」


 菫はすくっと立ち上がり、首を振る。


 面と向かって言えないことを、正直に言えなかったことを──彼の墓石に向かって言うなんて、ずいぶん笑える皮肉だ。



「──聞こえてるはずがないよね」


 震えた声でそう言うと、菫はその場を後にする。


 恥ずかしい言葉が、彼に届かないことを確認してから──。



 ──しょうはちょうど、彼女の声が聞こえるところにいた。

 盗み聞きするつもりは無かったが、あまりにも悲痛で純粋な本音だから、耳を塞ぐこともできなかった。



「っ……僕は、きっとまだまだ未熟だ。だけど──()()()として、彼女を支えなければいけない。彼女が皆に()()()()姿()を守らないといけない。だから──元副班長として、上で見ててください、りんさん」


 そう言い残して、彼も──菫に会わないように──その場を後にした。




   *



「──ねぇ、芽衣ちゃん?」

「はい、なんですか?」


 戸惑う天舞音あまねの前には、ニコニコと笑顔を浮かべる芽衣の姿が──いや、大量のプレゼントボックスがあった。

 インターホンが鳴ったあと、やけに長い時間が流れたのが、この状況の前触れだったようだ。


 天舞音の部屋は、『お礼の品』で溢れかえっていた。



「いや、ボク言ったけどさ。確かに()()()お礼はたっぷり貰うって言ったけどさ。あれは意識が朦朧もうろうとした状態で出した冗談っていうかさ……?」

「でも、もう買っちゃいましたよ。天舞音さんに合う服とかアクセサリーとか、好きなスイーツとか」


 天舞音は、ため息を一つつく。呆れというか、安心感というか──。



「──だから、今日は遅れたの? こんなに沢山買い物したら、そりゃ時間も許してくれないよね」

「待ち合わせに遅れたのはすみませんでした。でも、遅れたのは他にも用事を済ませたかったからですよ。…………あの、お墓参りとか」

「いやほんとに大事な用事じゃん! もっと早く言ってよ!」


 ためらった上で芽衣が言った理由は、たったその一言だけでこの楽しい雰囲気が壊れないと──天舞音は壊さないと思ったからだ。



「もう……ヤバっ、そろそろ行かないと! 映画始まっちゃうよ!?」

「あれ、夕方4時のはずでは──」

「昼の14時! 忘れた頃に出るね! その天然!」


 天舞音は芽衣の手を引っ張って、靴を履いて、勢いよくドアを開ける。

 外に出ると、反抗的な太陽が目をくらませた。



   *



 カツカツと足音を鳴らす。


 檻の中から睨む視線が、彼女に一点集中した。

 そんな視線を向けなかった者が一人いた。彼女は彼の前に止まる。



「調子はどうかな? ボス?」

「……本当に、今日は客人が多い日だ。君は何の用だい、サーシャ?」

「何って──いや、キミの情けない姿を焼き付けるために来たんだよ」


 サーシャは愛想笑いをする。

 ノアも口元を緩ませて話す。



「じゃあ……ボスが命じる。ここから出せ」

「さすがにバカでしょ。てか、キミの能力だったらここから出られるよね? なんで出ないのさ」

「……冗談も交えたいところだけど、さすがに真剣に話そうかな。実は、キミが来る前に芽衣さんがここに来たんだ」

「へぇ……あの子が?」


 サーシャは興味が湧いたように、彼の方に体を向ける。



「彼女はこう言ったよ」


『本当は私が罰したいです。でも──もうあなたの罪になることはしません。なんか、恥ずかしくなってきましたし。……とにかく、私は罰しません。だから──せめて、償ってください。この国の法律に従って』


「実際、この自由を手に入れるのに犠牲が多すぎた。むしろ、これで許されるのなら、それこそ──温情ってやつかもね」

「まあ律儀なことだね。あと、君に伝言だ。『少し整理する時間がほしい、落ち着くまでお前に会わない』って」

「……優貴ゆうきか。その口ぶりだと、希には会うだろうね」


 ノアはサーシャに体を向ける。



「じゃあ優貴に、会うのを楽しみにしてると伝えてくれ」



   *



「私たちは、本当に罪人を恐れるべきなのでしょうか! 罪人とは、罪悪感を持つ者! しかし、殺人事件は罪人が起こしたものばかりではありません!」


 彼女の話に、耳を傾けないものはいなかった。



「では、罪人以外で誰が殺人事件を起こすと思いますか? 答えは明白です、それは『罪悪感を持たぬ者』です! もし罪人を恐れるならば、所謂いわゆるサイコパスなどといった者こそ、さらに恐れなければいけない存在なのです!」



 ──彼女の演説後、関係者室に戻ると、そこには二人の見慣れた顔が居た。



真理奈まりな、すっげえ良かったよ!」

「私、泣きそうになっちゃった!」

菜々子(ななこ)美羽みう!? なんで!? ……もしかして、さっきの聞いてたの……?」


 真理奈は顔をあからめる。

 しかし、目線はしっかり二人を見ている。──高低差のある二人を。


 美羽は脚が永遠に治らない。そのため、あの戦争以降、ずっと車椅子で生活をしている。



「まさか真理奈が小説家デビューするなんてな! 『善人の罪人と悪人の一般人』だっけ? 大ヒットして今日が講演会……すっかり有名人だな!」

「っ……! そ、そういう菜々子だって、短距離走で世界新記録出した有名人じゃん! インタビューの瞬間録画してたけど聞く!?」


 二人の返答を待たずに、真理奈はスマートフォンで菜々子のインタビュー記録を見せる。



『では次に、なぜ陸上を始めたのですか?』

『そうですね──一番のきっかけは、私の過去にあります』

『ほぉ、過去ですか?』 

『……私が小さい頃、ある一人の罪人に助けられたんです。車で轢かれそうなところを、命を賭して守ってくれたんです。だから、車よりも速くなってやろうって思って陸上を始めたんです。……ま、まあ、そんな単純なことじゃないですけどね! 今も、いい友人が居るから頑張ってます』

『な、なるほど……』

『あ、ここカットしないでくださいね! 絶対、ぜぇったいに! カットしないでくださいよ!』



「菜々子、よそよそしすぎて笑っちゃった!」

「だぁっ、やめろっ!」


 今度は菜々子が顔をあからめる。



「すごいなぁ、二人とも。私は罪人取締班だからそんないばれないや」

「そっか、美羽は国語の先生目指すの辞めるんだっけ?」

「いやでも、十分すごいだろ! 警察だぞ!? ……それに、美羽みたいな『いい罪人』が周りにいなかったら、あの時の罪人もなんか企んでたのかー、って疑って、陸上にもやる気出なかったしな!」

「私も、美羽が罪人って知ってから、『罪人ってなんだろ』って考えるようになったし。ある意味で題材になってくれたから」


 二人とも暗に、『美羽がいなかったら今の自分は居ない』と言っていた。

 辛気臭くない、そんな三人だけの固有の雰囲気だ。



「そうだね……じゃあ、私いばりまーす!」

「おっ!? でも一番いばれるのは私だぞ!?」

「じゃあ、こっから誰が一番いばれるか勝負しようよ!」

「──あっ、ごめん! そろそろ行かないと!」


 美羽はそう言って、器用に車椅子を回す。



「そっか、時間だもんな! 頑張れよ!」

「大変だよね──頑張って!」


 二人の声の中、美羽は目的地まで向かうことにした。



   *



「あーっ、美羽遅いよーっ!」

「遅いって……まだ10分前だよ!?」

「じゃあ──今日のスケ教えて!」


 美羽は慌てて手帳を取り出す。



「ええっと……今日はあと30分後に番組出演、収録後は2時間後──」


 美羽はシャイニのお願いのもと、専属マネージャーとなった。

 まだ見習いの域だが、シャイニは今が1番楽しそうだ。



「よし! じゃあ行くよ! 私のこと見ててね! 美羽!」

「うん! しっかり見とくよ!」


 二人はすぐさま出発した。

 もうこれは、私が作ったものではありません。

 そのため、『ご愛読ありがとう』などという言葉も、もう必要ありませんね。

 私が干渉できるのは、あと一話のみです。

 それまで、お別れです。

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