168話? 終末①
「俺は一度離れる。後は頼むぞ……!」
広はそれを言い残して、風と距離をとるように地面を蹴る。右脚は『殺人罪』により破壊されたため、左脚のみでの移動だ。
……っ行きなさい、『殺人罪』
「行かせないよ。《発動》!」
聖華の障壁で、毒針が音を立てて止まる。
こんな障壁など……
「準備は整ったっス。成長させるっスよ!」
風の脚に、無数の寄生体が絡みつく。それは地面と接続し、確実に風の動きを鈍くさせた。
これなら──
風は突然、不敵に笑い出す。
ふふっ、そうですか──。こんなものですね
「何……?」
では、終わりにしましょう。所詮、登場人物に『可能性』などないのですから。……私の求める展開は、ありえないのですから
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風は素早い動きでルドラに近づく。
まずはあなたです。
「っ……なんで、動けてるんスか……?」
風は答えず、ルドラに触れる。すると、みるみるうちにルドラの体が細く変形していく。
「かっ……」
あなたの妹さんの、『内乱罪』を利用しました。今まで生命体として生きてきた分、老いを経験してください
老体となったルドラは、まるでゴミのように地面に捨てられた。地面と衝突する音と同時に、骨の砕ける音が響く。
「……お兄、様?」
次はあなたです、アリスさん
風はアリスの目元を覆うように手を当てる。──それの手のひらから、寄生体と触手が顔を覗かせる。
「なんです、か──あれ、何? っ!? まっ、眩しいっ! やめてっ……いやああぁっ!!」
寄生体で虹彩を無理やり伸ばしました。さらに視神経を限界まで活性化させ、常人の何十倍にも光を取り入れることができます。──良かったですね
風が手を離すと、アリスは目を押えながら地面に倒れ伏した。
彼女は光に抗うかのように、体を捩り、痙攣していた。
風は次なる標的として、菫を選んだ。
彼女が反応するより先に、風は──
*
「……え?」
サミュエルさんの『自殺教唆罪』です。あなたにはピッタリの死に方だと思いました
「私が? 知らないけど」
(ここは精神空間……あれが直接解除するか、無理やりここを破壊するしか出る方法が無さそう)
菫は『殺人罪』を発動した。
「あの能力、プロ・ノービスの黄龍のだよね? 見せてくれてありがと。おかげで発動できる──」
ここから出るおつもりで?
「当然でしょ? なんならあんたを殺してもいいんだけど?」
私を殺す? ふふっ、あなたは一体、何人を殺せば気が済むのですか?
風の言葉に反応するように、菫の眉がピクと動く。
「は? どういうこと?」
忘れたフリをしているなら、私が代わりにご説明しましょう。あなたは、ご家族全員を殺したのですよ?
「バカ言わないで。私は殺してなんか──」
直接は、ですよね? しかし、あなたのご両親はスーパーで殺された。それはなぜか?
「っ……!」
菫は口を噤んだ。風は、彼女が隠した『回答』を言い当てる。
あなたが、殺人犯に両親の居場所を教えたからです。あなたが教えなければ、両親が死ぬこともなかった。あなたが、殺人犯を助長したんだ!
「っ、違う! 私は、あいつが殺人犯なんて知らなかったんだ! 私は──」
それだけじゃない、あなたは兄に『詐欺罪』という強力な能力を押し付け、無理やり戦闘に参加させた! そのまま自分が持っていた方が、兄が戦死することもなかったはずなのに!
「それも……違う! 私は……お兄ちゃんが、持ってた方が、お兄ちゃんの力になれるって……」
結局は、自分が可愛いんでしょう? 家族を犠牲にしてまで生き残ろうなんて、よっぽど自分が大事じゃないとできないのですから!
「っ……!!」
気がついたら、銃が目の前にある。
きっと、これが脱出の鍵だ──もし菫が冷静な心を持っていたら、それに気がつけたかもしれない。
しかし、彼女が見たこれは、鍵なんかではなかった。
──しかし、まだチャンスはあります。手にあるそれで、家族の元に行きなさい。そして、謝るのです。あなたの家族は優しい、だからきっと許してくれるでしょう
菫は震えた手で銃を取る。
ゆっくりとハンマーを起こし、トリガーに指をかける。
銃口から温もりを感じる。
──視界が潤む。死への恐怖から?
いや、これは──孤独ゆえの寂しさからだ。
「……分かってる。ここで死ぬのなんて、お兄ちゃんは望んでないだろうし、きっと怒るんだ。だけど──優しいから、きっと許してくれるんだ。お父さん、お母さん、お兄ちゃん……お願い。こんな私を、もう一度だけ抱きしめて──もう、置いていかないでっ──」
*
少しして風がその場に現れた──頭から血を流す菫を連れて。
全員、抵抗する意志は当然ある。
しかし、あまりに早い展開に脳も体もついていかないのだ。
次は……あなたにしましょう
風が指差す先にはシャイニが居た。
作者はどこですか。
ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。