167話? 追い込むということ
名も無き風は消えた。──それほどまでに素早い動き。
標的は白虎だった。
「ぐっ──!」
見せしめに潰させて頂きます
人型に変形した風は、彼と互いの両手を重ね合わせ鍔迫り合いする。
『傷害罪』と『暴行罪』の同時発動──その身体能力は十五倍になっていた。しかし……
──なぜ、耐えることができるのですか……? 設定では、あなたは十倍までのはず……
「てめぇと比べたら、背負ってるもんが、違ぇからなぁ」
……まあ、関係ありません。どうせ私が勝つのですから
「っ……!?」
風がそう言った瞬間、白虎は大量の血しぶきと共に潰れた。
「何、が──」
私は同時発動ができます。故に『窃盗罪』を発動し、彼の能力を奪いました
「何それ……見えない速度で移動されて、触れられたらアウト……?」
「それにしては不思議だね。ああいや、君の信念を否定する訳じゃないけど──なんで一瞬でケリをつけないの?」
ノアの言葉に、風は首らしきものを傾けた。
というと?
「同時発動ができるなら、全ての能力を使って僕たちを殺せるはず。なんの手間もな無しでね」
風は反論しなかった。
「まるで僕たちにチャンスを与えるように──」
少し黙ってください
「……ありがとう」
風が瞬時にノアに近づく。ノアはそれを踏んで、予め能力を発動しておいた。
「【浮片屍翻】」
っ……?
完全に不意をついた。風が気づく前に、岩の断片がそれの脇腹を貫く。
ノアはその間に離れる。
このような傷、『内乱罪』でどうとでも──
「それって、体内に岩が入っても使えるの?」
っ……!? かはっ──
「確かにこの能力を作ったのは君だ。だけど、設定外のことは分からないよね? それこそ……『自分の周り』に『自分の体内』が含まれないこととかね」
岩が──体の中で──
いくら超元的な存在でも、内蔵を食い潰されるような痛覚には苦しむようだ。
「君を想ったこの百年間──対策を思いついてないわけないでしょ?」
──全員、『外患罪』を30分間発動するな。岩は動かない
「指摘する。『強要罪』は万能じゃない。聞いている全ての者が、その命令を聞かないといけない──つまり、全員が『外患罪』を持ってないと使えないからね」
「ボクの『偽証罪』も、今経験してると思うけど──可能性がないものは発動できないよ。ERRORって出るしね」
いける──優貴はそう思った。
ノアは勝てないと思いつつも対策を考えていたのだ。実際、想像以上に効果がある。これなら──
……いけません、冷静にならなければ。登場人物に振り回されるなど、私らしくない
風はゆっくり立ち上がる。その背中から見覚えのある、思い出したくもないものが見える。
「まさか──『殺人罪』!?」
「圧倒的な力、触れられたら無力化、刺されたら即死──なんでもありだねえ、ほんと」
聖華は苦笑いする。
暴れなさい、『殺人罪』
風は再びノアに近づき、掌底で彼を突き飛ばした。
彼は岩の塀に激突し、気を失った。
背中の毒針も周囲をやたらめったらに掻き回し、破壊を続けている。
一方、風は再び膝を落とした。
ノアの能力は無効化した──はずなのに、なぜまだ岩が動くのですか……?
「私だよ」
声の主は菫だった。
「どうせ創ってもらったチャンスだから、活かさないと損でしょ?」
なるほど──『詐欺罪』で『外患罪』を……
「次は当てるよ──!」
シャイニが機関銃を用意する。そしてそれを放つ。
風は『遺棄罪』を使い、自分の座標を変更した。
しかしその先に、予測したように広が待ち構えていた。
風が腕で受けようとしても、広の振る刀はまるで空気を切るように穏やかに風の腕を分断した。
っ……このっ!
「っ……!」
毒針が広の右脚を貫く。彼が瞬時に毒針を切り離そうとも、彼の脚の細胞は壊された。
私は──負ける訳には──負けるはずが──
風の台詞、行動を見て、本当に『超元的な存在』なのか……優貴は分からなくなっていた。
ここに作者はいません。
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