165話? 風に抗う者共
「…………は?」
ボロボロの街、それでも見慣れた景色。心は懐かしくも落ち着かない。
──優貴達は、東京の中心地に居た。
あのノアですら、目を見開いて無言で固まっていた。
「あんたたち……? どうしてここにいるんだい?」
反射的に声の方を向く。そこには火照った聖華がいた。
彼女が不審がるのも無理はない。なぜならRDBのボスと共にここに帰ってきてるからだ。
状況を説明するには、互いに時間が足りなすぎる。
まず、状況を説明できるほどの冷静さはない。
こんにちは。それとも、初めまして
どこかから、声が聞こえる。雲よりも軽く、金よりも重い声。
そう、まるで『常識』から逸脱したような──その枠に縛られないような……。
ああ、これが──名も無き風。
上からごめんなさい。礼儀知らずなもので……
「……あれが、名も無き風だよ」
ノアが震える指で指し示した方向には、実態がない──掴めないモノがあった。
風をまとったような、空間そのものがねじ曲がっているような──。
ふふっ、登場人物の皆様、お疲れ様でした。おかげさまで、私好みの小説が完成致しましたよ。
「っ……はぁっ! こんなところにいたのかよ! なんで俺たち東京に居る──」
和也の声だ。声が途切れた所をみるに、彼もアレに目を奪われているようだ。
深呼吸が一つ聞こえる。
「……優貴、アレが最後の敵かい?」
「……はい」
敵……? 私はあなたたちの親とも呼べる存在なのですが──まぁ、親も敵のようなものですか
「へぇ、親なら教えて欲しいんだけど──この物語は完結かい?」
ええ。この物語は『罪人の闘争』ですので。罪人取締班とRDBが闘う理由を無くせば、もうこの世界で闘争は起きないでしょう?
表情の見えないそれは淡々と述べている。
「完結──させに来たんだろう? この世界に」
さあ、どうでしょう。どちらともとれますね
「僕たちが、抵抗しないとでも?」
いえ、どちらかと言えば──抵抗させに来ました。親とは子を大事にするものなので
それは『というよりも』と続けた。
この世界を終わらすにしても、あなたたちは消えないのです
「消えない? 世界と一緒に消えるわけじゃないんスか?」
ええ、この世界の者は、物語を終えても生き続けるのです。しかし、それはとても苦しいものですよ? 形を変えられることもあれば、望まぬ行動を無理やり取らされることもある。それが『創作』の世界ですから
空間の歪みが動く。それに合わせてソレも動いた。
私はそれを許可しています。──ですが、こんな人気のない小説にそんな価値など無いのです。故に私は……この物語を封印します。価値のないものは、『本当の世界』に必要ないのですから……
「全然分からないんだけど……」
サーシャは怯えながら引きつった笑みを浮かべる。
「……人でも、モノでもねぇな。アレは」
「だが……敵は明確だぞ、白虎」
「──あれが元凶、か」
彩と白虎は短くそう会話した。広もゆっくり刀を構える。
名も無き風の存在を知らない者にも、状況は判断できたようだ。
「……お兄様、私……怖いです」
「大丈夫っスよ。……すぐに終わるっス」
震えるアリスの体を、ルドラは優しく包む。
「……殺します、絶対に」
「──うん、頑張ろう」
天舞音を抱える芽衣は殺気を露わにする。
それを指摘することもなく、シャイニは後ろ髪を一束に結う。
「っ……ついにだ。負けてたまるか」
「……勝つしかないか」
「──見てて、お兄ちゃん」
翔、届称、菫は、ソレと覚悟を決めた。
「アイツを殺せばいいのか? はっ、簡単だな」
「バードルード……さん? ……ううん、とにかく闘わないと!」
バードルードとフローリーも、それぞれで立ち上がった。
「本当に闘うの──なんて、もう聞く意味ないかぁ……」
「ま、闘うしかないからねえ」
サーシャと聖華も構える。
「優貴、和也……準備はいいかい?」
「……ああ!」
「おう!」
ノアは優しく、ぎこちなく笑う。
優貴は青いマフラーを脱ぎ捨て、目をつぶる。
和也は軽く三回ジャンプして、足を触る。
気絶者含め、ここにいるのは18人ですか……。はぁ、もう少し減らすべきでしたかね?
名も無き風は──吹き荒れた。
※私はここにいません
ご愛読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。