164話 最終話
εδڡ《ついに、終幕だ》δڡڡ
⋖⋚εθ《私の処女作は、これで……》ڡ₂ง
*…ง《惰性に、時間に縛られない日々が……》⋖δε
「さて、もう時間が無い。今僕が知っていることを手短に話そう」
ノアはその場に座り込む。周囲の者を呼び寄せながら。
彼は血の増量に伴い、左手から血を抜かなければいけない。
そのため、座っていても姿勢がおぼつかない。
「いいかい。僕たちは眼音の能力で、幼い頃の優貴と和也に平和罪の情報を植え付けた」
「平和罪……?」
「本当に端的に言うと、平和罪は無法騒動解消の一連で発生した事象を、まとめてそう名付けただけだよ。言い換えると、学者と少女の過去かな?」
ノア自身も、どうやら言えることに制限がかかっているようだ。
「だから、優貴と和也はまだ赤ん坊だったのにそれを知っている訳だよ。……本当は深層心理まで入らないと思い出せないはずだけど、どうせ希が要らないことしたんだね」
ノアは呆れたようにため息をつく。
「そしてアリスの能力も共有しておくよ。アリスは『内乱罪』──生命の成長を操る能力だ。それで年齢そのものを操作したのは僕、サーシャ、リア──翔なのだけれど、年齢を操作すると言語に影響が出るらしくて、何故か僕はお喋りに、サーシャは余裕そうに、翔は自分の行動を言うようになったんだ」
「なんでそんなことになったのか……ボクたちも分からないんだよね」
サーシャは苦笑いする。
「さて、ここからが本題だよ。名も無き風の力について推測を立てなければならない」
「質問する。ただでさえ未知の存在なのに推測できるの?」
「できなくはないよ。でもその前に、僕の仮説を発表しよう。恐らくあれはこの世界を根底から覆すことはできない。つまり言い換えれば、この世界にある能力しか使えないと思うんだ」
「でも、例えそれでもかなり脅威っスよ? サーシャの未来選択能力、リアムの行動強制能力、眼音の情報改変能力を同時に使われるだけでも……」
ルドラの一言で、全員が黙りこくった。
そんな存在に、果たして勝てるのか──。
「……だから、相殺するしかないんだ。あれがもしサーシャの能力で『全員死ね』と言われたら、サーシャが『全員生きろ』と相殺するしか術は無い」
「それが通用かが問題だけど──」
「大丈夫だろ!」
一方的に暗くなる雰囲気を、底抜けた明るい声が一蹴した。
全員が和也を向く中、当の本人は溌剌な笑顔で話す。
「本当に大事な闘いだから真剣に話し合うのも分かるんだけどよ、戦法出しては否定してっても意味ないだろ? 避けられない一発勝負──勝ったら勝ち、負けたら負けだ!」
和也はゆっくり立ち上がる。
「やるしかねえなら、覚悟決めるしかないだろ?」
彼は論点とはズレたことをためらいなく話すと、そのままどこかに歩き出す。
ノアは戸惑い半分で訊く。
「……和也くん? どこへ行くんだい?」
「準備運動してくる!」
彼はそう言って離れた。
優貴は顔を緩ませながら口を開く。
「多分……あいつ緊張してるな。俺たちを気遣ったんだ」
「──私よりも和也のことをしってるんだな、君は」
届称はそう言って、寂しいような笑顔を見せた。